財務レバレッジとは、企業の会計または財務を分析するときの指標の1つです。
銀行からの借入や社債発行などの他人資本を含めた総資産が、自己資本の何倍かをあらわします。
負債をどのくらい有効活用しているか示す数値であり、高すぎれば負債過多となるため注意が必要です。
そこで、財務レバレッジについて、計算式や適正値、分析による活用効果などを紹介します。
目次
財務レバレッジとは
「財務レバレッジ」とは、銀行借入や社債発行などの他人資本を含めた総資産が、自己資本の何倍になるかを示す指標です。
自己資本を梃子(テコ)として、どのくらい負債を活用しているか示すため、自己資本比率の逆数をあらわします。
簡単に言えば自己資本の何倍が総資産かを表示するため、倍率が高くなれば負債過多となり、財務リスクが高くなります。
財務レバレッジについて、以下の3つを説明します。
- 計算方法
- 適正値
- 自己資本比率との違い
計算方法
借入資本で資本を拡大・運用し、収益を最大化する手法が財務レバレッジです。
そのため計算方法は、以下の式で三種値できます。
財務レバレッジ(倍) = 総資本(自己資本+他人資本) ÷ 自己資本 |
たとえば自己資本が5千万円で総資本が2億円の会社の財務レバレッジを計算する場合、以下の数値となります。
4(財務レバレッジ(倍)) = 2億円 ÷ 5千万円 |
上記の例では、総資本が自己資本の4倍であり、総資本のうち自己資本が25%を占めていることをあらわします。
倍率が高ければ、自己資本に対する他人資本の割合が高く、倍率が低ければ他人資本の依存度が低いと判断できます。
適正値
優良企業の財務レバレッジは、2倍を超えないことが適正とされています。
2倍以下の場合、過度に銀行融資などの他人資本に依存することなく、適度に自己資本が活用できているからです。
財務リスクは抑えつつ、安定性や持続性を保ち事業を継続できていると判断できるでしょう。
ただし業界や経営形態で適正値には差があります。
たとえば建設業や製造業の平均は約2.5倍であるのに対し、情報通信業は約1.7倍です。
宿泊業・飲食サービス業であれば約7倍が平均値のため、業界によってかなり差があると認識しておきましょう。
自己資本比率との違い
財務レバレッジは自己資本比率の逆数といわれていますが、自己資本比率は以下の計算式で算出できます。
自己資本比率(%) = 自己資本 ÷ (負債+純資産) × 100 |
自己資本とは、株主資本と評価・換算差額等を合わせた会社株主の持分総額です。
そのため総資本に占める資本割合が大きければ安定度は高く、業績が悪化しても債務超過に陥ることと避ける抵抗力を持っていると判断できます。
増資や内部留保で時間をかけて資本を増強することが必要と考えられるでしょう。
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財務レバレッジによる分析方法
財務レバレッジを計算した結果、表示された数値は会社の事情や戦略に合わせて判断することが必要です。
一般的には、以下の2つのケースで分析しましょう。
- 財務レバレッジが低い
- 財務レバレッジが高い
財務レバレッジが低い
財務レバレッジが低い場合、自己資本比率が高いことを示します。
自己資本比率が高ければ、他人資本に依存することなく経営できているため、安定性や健全性を評価できます。
ただし、財務レバレッジが低ければ優良企業と一概に判断はできません。
財務レバレッジが1倍の場合、自己資本のみで経営をしていることを示しますが、積極的な経営を行っていないと捉えることもできます。
会社の成長には、変化する市場に自社の体制・生産性・システムなどを適応させることが必要であり、自己資本のみで対応できるのは資金力が極端に強い一部の企業だけです。
一般的には、銀行から融資を受けたり社債を発行したりなど、他人資本が必要となります。
収益性を見込める会社なら、会社を成長させるためにも他人資本を投入し、財務レバレッジを高める経営判断も必要といえるでしょう。
財務レバレッジが高い
財務レバレッジが高い場合、総資産に対する他人資本の割合が高いことを示します。
そのため借入金や社債などの返済負担が重く、利息の支払いで資金繰りが難航しがちである恐れがあります。
財務レバレッジが高い理由として考えられるのは、主に以下の2つです。
- 会社が成長を目指しているため、銀行融資などによる資金調達を活用し、事業拡大や設備投資を行っているケース
- 借金経営が常態化しており、常に負債を抱えているケース
注意したいのは借金経営が常態化しているケースで、非常に高い財務レバレッジの場合、適切なリスク管理が必要です。
資金の効率性や成長戦略の実現ばかりに注目せず、他の財務指標や業界の動向なども注視することが求められます。
財務レバレッジによる効果
財務レバレッジを活用すれば、経営の安定化や会社の発展につなげることができます。
主に以下の4つの効果があると考えられるでしょう。
- 株主資本利益率(ROE)を把握できる
- 節税効果が期待できる
- ビジネスリスクを低減できる
- 事業拡大の判断材料になる
それぞれの効果を説明します。
株主資本利益率(ROE)を把握できる
財務レバレッジによる効果として、株主資本利益率(ROE)を把握できることが挙げられます。
株主資本利益率(ROE)とは、会社が株主から集めた株主資本を元手に、どのくらい利益を生み出せたかを示す財務指標です。
会社の収益性をあらわす代表的な指標といえますが、以下の計算式で算出できます。
株主資本利益率(ROE) = 売上純利益率 × 総資本回転率 × 財務レバレッジ |
株主資本利益率(ROE)は投資家が投資判断に用いる指標であり、会社が自己資本を有効活用できているか測り、投資価値を判断するときに重視しています。
投資家から見た会社の価値を株主資本利益率(ROE)で判断したいとき、財務レバレッジが必要です。
節税効果が期待できる
財務レバレッジによる効果として、節税効果が期待できることが挙げられます。
他人資本で支払った利息は損益計算書に計上できることがその理由です。
仮に他人資本のない会社の場合、営業利益から差し引かれる費用はなく、そのまま利益を算出します。
他人資本で利息が発生していると、営業利益から利息が差し引かれた金額に税金が課税されます。
利息を負担する必要はあるものの、財務レバレッジが高ければ法人税の負担額を軽減できるとも言い換えることができるでしょう。
ビジネスリスクを低減できる
財務レバレッジによる効果として、ビジネスリスクを低減できることが挙げられます。
投資家から受けた出資による自己資本は、返済や利息負担などは不要です。
しかし発行した株式を株主へ渡すため、発行数と持分割合によっては経営権を脅かされます。
また、業績が良好で利益が多く発生すれば、期待された配当金の支払いなども必要です。
この場合、他人資本を増やすことで株主が会社経営に関与する機会も減り、相対的にビジネスリスクが低減されるとも考えられるでしょう。
事業拡大の判断材料になる
財務レバレッジによる効果として、事業拡大の判断材料になることが挙げられます。
仮に財務レバレッジが低ければ、他人資本を増やす余裕があるため、銀行融資などを頼りつつ事業を拡大できると判断できます。
設備や開発への先行投資で、大きな利益を生み出す可能性もあると考えられるでしょう。
財務レバレッジのデメリット
財務レバレッジを利かせれば、負債が増えてしまいます。
その結果、会社経営における健全性や返済能力が下がるため、財務リスクに関する対策を考えることも必要となります。
適切な財務リスク管理や計画の策定が求められるといえますが、財務レバレッジによるデメリットは主に以下の3つです。
- 負債比率増加で財務リスクが上がる
- 景気変動に対応できない恐れがある
- 決算書の信頼性向上が必要になる
それぞれのデメリットを説明します。
負債比率増加で財務リスクが上がる
財務レバレッジのデメリットとして、負債比率が増加するため財務リスクが上がることが挙げられます。
負債比率が高い場合、元本と利息の負担が増えるため、返済不能状態に陥らないとも限りません。
返済不能状態になれば財務安定性や信用力に影響を及ぼし、倒産してしまう恐れもあります。
負債比率が過度に高い場合は銀行など金融機関からの融資条件も厳しくなるため、負債比率は適切な範囲内に収めることが必要です。
景気変動に対応できない恐れがある
財務レバレッジのデメリットとして、景気変動に対応できない恐れがあることが挙げられます。
他人資本が増えれば景気変動に神経質になりやすいため、景気悪化で利益も急激に減少した中で、負債の元本と利息を継続的に支払うことが必要になります。
景気悪化で利益が急降下し、キャッシュフローや収益に大きな影響を及ぼせば、資金を確保できず倒産リスクも高くなってしまいます。
回避するには、景気悪化を想定した上で、予備資金の準備などが必要となるでしょう。
決算書の信頼性向上が必要になる
財務レバレッジのデメリットとして、決算書の信頼性向上が必要になることが挙げられます。
負債比率が高い場合、銀行など金融機関は財務状況や返済能力を低く評価するため、審査はより慎重に行われることになります。
正確で信頼性のある決算書を提供しなければ、追加融資などの相談には応じてもらうことはできないでしょう。
決算書の信頼性は財務状態の評価で重要な要素であり、銀行など金融機関との信頼関係の構築や、資金調達の成功に大きく影響することを理解しておいてください。
まとめ
財務レバレッジとは、銀行借入や社債発行などをテコとし、利益を上げるためどのくらい効率的に自己資本を活用したかを示す指標です。
他人資本と自己資金のバランスを知った上で経営状況を把握できます。
財務レバレッジが高すぎれば、常に借金など他人資本に頼り続けている状態であるため、債務超過に陥り倒産するリスクも高くなります。
しかし低すぎれば会社の成長に向けた積極的な投資をしていないと判断されるため、バランスよく保つことが必要です。
財務レバレッジをはじめとする財務指標に振り回されることなく、上手に経営指標の1つとして使いこなすことが必要ですが、専門家のアドバイスなども踏まえた経営判断が求められます。
物価や金融環境が変動しやすい環境の中で、財務基盤を安定化させつつ会社を成長させるためにも、適切に経営判断していきましょう。