事業承継税制とは?適用の条件や手続の流れ・メリットとデメリットを解説

事業承継税制とは、円滑な事業承継の妨げとなりやすい自社株式の引き継ぎ問題を解決するための制度です。

先代経営者から後継者へと相続または贈与で未上場の株式が受け継がれ、一定条件を満たした上で会社経営を継続する場合は、株式にかかる相続税または贈与税の納税が猶予もしくは免除されます。

さらに平成30年1月から10年間の特例措置が設けられており、特例承継計画を提出すると猶予割合等が拡充されるなど、活用したい制度です。

そこで、事業承継税制について、適用の条件や手続の流れ、メリットとデメリットを解説していきます。

事業承継とは

「事業承継」とは、会社の資産・経営資源・経営権などが先代経営者から後継者へと引き継がれることです。

後継者は先代経営者から経営権だけでなく、いろいろな経営資源を引き継ぐことによって、経営者交代後も円滑に事業を進めることができるでしょう。

事業承継の方法は、たとえば親から子などに引き継ぐ親族内承継の他、役員または従業員などの従業員や M&A(合併・買収)で承継する親族外承継などがあります。

中小企業の事業承継は親族内承継が一般的であったものの、後継者候補が不足している現状から、親族外承継が増えつつあります。

中小企業の事業承継を円滑に進めるために欠かせない10のフローとはその手続方法

事業承継税制とは

継承する

「事業承継税制」とは、株式の承継に伴い生じる相続税と贈与税の納税義務が、一時的に猶予または免除される制度です。

事業承継税制が制定された理由は、多額の相続税や贈与税が生じると、予想外の支出で経営が圧迫されてしまい、円滑な事業承継につながらなくなるからといえます。

先代経営者から後継者への自社株式について、一定の要件を満たした引き継ぎであれば、相続税または贈与税の納税が猶予されます。

さらに後継者(2代目)からさらに次の後継者(3代目)へ自社株式が承継されたときには、猶予されていた税金が免除される仕組みです。

事業承継税制には、会社の株式等を対象とした「法人版事業承継税制」と、個人事業者の事業用資産が対象の「個人版事業承継税制」があります。

さらに詳しく知りたい方は、国税庁の公式ホームページの「個人版事業承継税制」または「法人版事業承継税制」を参考にしてください。

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特例事業承継税制とは

「特例事業承継税制」とは、2018年(平成30年)度税制改正で創設された事業承継税制の特例措置です。

特例承継計画を提出することにより、対象株数が全株式となり、猶予割合も贈与と相続のどちらも100%となります。(一般の事業承継税制は、対象株数は総株式数の最大3分の2まで、納税猶予割合は贈与100%・相続80%)

そのため特例事業承継税制を適用することで、税負担を実質ゼロにすることができます。

特例事業承継税制は、2018年(平成30年)1月1日から、2027年12月31日までの10年間に限定された制度です。

特例承継計画の提出期限は、2022年度と2024年度改正の2度に渡り延長されており、2026年3月31日までとなっています。

相続税と贈与税が免除される流れについて、以下の2つに分けて説明します。

  1. 相続税免除の流れ
  2. 贈与税免除の流れ

相続税免除の流れ

特例事業承継税制で相続税が免除される流れは以下のとおりです。

① 先代経営者の死亡で後継者へ自社株式が相続される
② 特例事業承継税制の適用で相続税が猶予される
③ 後継者の死亡で相続税が免除となる(次の後継者に特例事業承継税制で株式が贈与された場合も免除)

贈与税免除の流れ

特例事業承継税制で贈与税が免除される流れは以下のとおりです。

  1. 先代経営者から後継者へ自社株式が贈与される。
  2. 特例事業承継税制の適用で贈与税が猶予される
  3. 先代経営者の死亡で贈与税が免除される
  4. 自社株式が相続で取得したものとされるため、贈与時の評価額で他の相続財産と合算後、相続税が課税される
  5. 特例事業承継税制の相続税の納税猶予に切替え、相続税が猶予される
  6. 後継者の死亡、または次の後継者へ特例事業承継税制の贈与税の納税猶予を適用させ、自社株式を贈与して贈与税が免除される

事業承継税制の条件

持続する

事業承継税制を適用させるには、以下の3者のそれぞれの立場の条件を満たすことが必要です。

  1. 先代経営者
  2. 後継者
  3. 法人

それぞれの条件を説明します。

先代経営者

事業承継税制を適用させる上で、先代経営者が満たすべき条件は以下のとおりです。

  • 会社の代表者
  • 相続開始または贈与の直前に親族間で総議決権数の過半数を保有しており、筆頭株主である
  • 贈与の場合は贈与時に代表者を退任している

後継者

事業承継税制を適用させる上で、後継者が満たすべき条件は以下のとおりです。

  • 相続開始または贈与時に後継者と後継者親族などで総議決権数の過半数を保有する
  • 後継者が1人なら最も多い議決権数、後継者が2人または3人の場合は総議決権数の10%以上の議決権数を保有する(特別の関係がある者の中で最も多い議決権数を保有)
  • 贈与の場合は贈与時には18歳以上であり、贈与直前には3年以上に渡り役員・代表者である
  • 相続の場合は相続開始直前には役員であり、相続開始から5か月後には代表者である

法人

事業承継税制を適用させる上で、法人が満たすべき条件は以下のとおりです。

  • 中小企業者
  • 従業員1人以上
  • 風俗営業会社・資産管理会社等ではない

また、事業承継税制をスタートさせた後の5年間は、以下の条件を満たすことも必要となります。

  • 後継者が代表者で筆頭株主であること
  • 後継者が猶予対象株式を継続保有していること
  • 雇用の8割以上を5年間平均で維持すること

5年経過した後は、以下の条件も満たすことが必要です。

  • 後継者が猶予対象株式を継続して保有していること

なお特例事業承継税制の適用において雇用を維持できない場合には、認定支援機関の指導または助言の意見が記載されている報告書を都道府県へ提出することにより、納税猶予は継続されます。

事業承継税制の申請の流れ

先代から後継者への引き継ぎ

事業承継税制は、相続税または贈与税に関して手続を行い、申請します。

  1. 相続税の手続
  2. 贈与税の手続

それぞれの流れを説明します。

相続税の手続

相続税に関する事業承継税制の申請は、以下の流れで手続を行います。

  1. 特例事業承継税制を適用させるときは特例承認計画を都道府県へ提出する
  2. 相続開始後8か月目までに都道府県へ事業承継税制を申請する
  3. 都道府県から認定書が交付される
  4. 相続税を申告する(都道府県発行の認定書の写しを添付)
  5. 納税猶予税額および利子税に見合う担保(特例対象の非上場株式すべてなど)を提供し申告

上記手続で納税猶予が開始された後は、以下の手続も必要です。

猶予開始から5年間
  • 都道府県へ年次報告書を提出する(年1回)
  • 税務署へ継続届出書を提出する(年1回)
猶予開始から5年経過後
  • 税務署へ継続届出書を提出する(3年に1回)

また、5年経過後に、後継者から次の後継者へ贈与する猶予継続贈与により、相続税は免除されます。

さらに以下に該当する場合は、相続税免除の対象です。

  • 5年経過前にやむを得ない事情などで後継者が代表権を失い、猶予継続贈与をしたとき
  • 5年経過後に破産や清算などの手続を行ったとき
  • 後継者が死亡したとき

贈与税の手続

贈与税に関する事業承継税制の申請は、相続税の手続とほぼ同じ流れです。

都道府県に事業承継税制に関する申請を行う期限は、贈与発生年の翌年1月15日までとなっています。

納税猶予期間が開始されてからの手続と、贈与税免除の条件についても相続税の場合と同じす。

ただし、贈与税の納税猶予期間中に先代経営者が死亡したときは、贈与税は免除されるものの相続税の納税義務が発生すると考えられます。

そのため一定の手続を経て、相続税の納税猶予へ切り替えることが必要です。

事業承継税制のメリット

事業承継税制を適用させるメリットは、主に以下の2つです。

  1. 税負担を軽減できる
  2. 後継者候補の争いを回避できる

それぞれのメリットを説明します。

税負担を軽減できる

事業承継税制を適用させるメリットは、後継者(2代目)からさらに次の後継者(3代目)へと自社株式を承継したとき、税額が免除されることです。

本来なら、先代経営者(1代目)から後継者(2代目)へと自社株式を承継したときには、相続税または贈与税を納めます。

さらに後継者(2代目)から次の後継者(3代目)へ自社株式が引き継がれるときには、再び相続税や贈与税の納税義務が発生します。

事業承継するごとに相続税や贈与税を納めなければならず、納税負担でスムーズな事業の引き継ぎに至りにくくなります。

しかし事業承継税制を適用することで、事業承継により発生する相続税や贈与税の納税が猶予または免除されることは大きなメリットです。

後継者候補の争いを回避できる

事業承継税制を適用させるメリットは、後継者候補の争いを回避できることです。

特例事業承継税制では、最大3人までの後継者へ事業を承継するケースが想定されています。

そのため事業承継後に共同経営を選択することも可能となり、誰が事業を引き継ぐのかなど、後継者候補同士で争いが起こることを防げます。

事業承継税制のデメリット

事業承継税制を適用させるデメリットは、主に以下の2つです。

  1. 手間や時間がかかる
  2. 利子の負担が必要

それぞれのデメリットを説明します。

手間や時間がかかる

事業承継税制を適用させるデメリットは、手間や時間がかかることです。

納税が免除されるまでの期間が長く、決定までの期間は定期的に都道府県や税務署に報告が必要であり、手間がかかります。

利子の負担が必要

事業承継税制を適用させるデメリットは、利子負担が必要であることです。

納税猶予期間中に規定が取り消される事由が発生した場合、猶予されていた税額に利子を加算し、納税しなければなりません。

取り消し事由とは、主に以下のケースなどです。

  • 後継者が代表者を退任した場合(精神障害・身体障害・要介護などやむを得ない状況は除く)
  • 同族の議決権数が過半数以下になった場合
  • 後継者の同族関係者が後継者より多く議決権数を保有する場合
  • 納税猶予対象株式を譲渡した場合
  • 総収入金額がゼロになった場合
  • 資本金や準備金が減少した場合

など

事業承継税制を適用させたほうが良い会社

後継者と工場

事業承継税制を適用させると良いのは、以下の2つに該当する会社です。

  1. 3代目の見込みを立てやすい会社
  2. 経営体力を減らしたくない会社

それぞれ説明します。

3代目の見込みを立てやすい会社

事業承継税制を適用させると良いのは、3代目後継者の見込みを立てやすい会社です。

猶予された税金が免除されるのは、2代目後継者から3代目後継者へ株式が贈与され、3代目後継者が事業承継税制の適用を受けたときです。

仮にM&Aなどで株式譲渡があると、猶予された税額だけでなく、利子税の負担が発生します。

そのためすでに2代目後継者から3代目後継者へと事業が引き継がれる見込みがある場合に、適用しやすい制度といえるでしょう。

経営体力を減らしたくない会社

事業承継税制を適用させると良いのは、経営体力を減らしたくない会社です。

自社株式の承継方法は、相続や贈与以外にも、売買という方法があります。

売買では、後継者が持株会社を設立し、持株会社で自社株式を買い取ることで移転されます。

そのため売買による自社株式の移転では、会社の利益や配当などの純資産を原資として買取資金を返さなければならず、会社の経営体力は損なわれると考えられます。

また、先代経営者の財産は自社株式が現預金へと変わるだけであり、相続税の負担額に影響はありません。

会社の経営体力を減らしたくない場合は、持株会社を活用した事業承継を選ぶよりも、事業承継税制の適用を選択したほうがよいでしょう。

事業承継税制のポイント

事業承継税制を適用させると、自社株式の引き継ぎによる相続税または贈与税が猶予対象となるため、仮に自社株式評価額は関係しないとも考えられます。

しかし相続税の場合、財産総額が多いほど税率は上がるため、自社株式評価額が高ければ、株式以外の財産に対する相続税額も高まる恐れがあります。

事業承継税制の適用後に納税事由に該当するリスクも踏まえれば、自社株式評価額が低いときに引き継ぐことが望ましいといえるでしょう。

相続はいつ発生するかわからないため、自社株式の株価が高いタイミングで移転しなければならない可能性もあります。

退職金を支給したために株価が低下したケースなどに、贈与で自社株式を引き継ぐといった方法も選択できるでしょう。

事業承継税制における猶予税額は、後継者が特例措置を適用させる自社株式のみを取得したとき、猶予税額は最大化されます。

そのため先代経営者が保有する自社株式を含む財産については、いつ・誰に引き継ぐのか、しっかりと検討しておくことが必要です。

まとめ

事業承継で先代経営者から後継者へと自社株式を引き継いだとき、相続税または贈与税など、後継者には大きな税負担が生じます。

この税負担を軽減させ、スムーズな事業承継を進めることを促すために創設された制度が事業承継税制です。

ただし非常に複雑な制度であるため、税額への影響の大きさなどを踏まえた上で、税理士やコンサルタントなどの専門家のサポートを活用することをおすすめします。