社会保険料とは、健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険の5つの社会保険の保険料です。
勤務先から受け取る給与のひと月分の報酬について、一定範囲ごとで分けた標準月額報酬をもとに計算されます。
会社員や公務員、条件を満たす短時間労働者が加入する保険が社会保険であり、その被保険者が支払うのが社会保険料です。
そこで、社会保険料について、種類や計算方法、免除されるケースをわかりやすく解説していきます。
目次
社会保険料とは
「社会保険料」とは、雇用関係を通じて加入する健康保険等に対し、事業者と折半で支払う保険料です。
ケガや病気による失職・老齢・労働災害など、仕事をする上での色々なリスクに備えるための公的な保険制度ですが、次の2つを詳しく説明します。
- 定義
- 負担割合
定義
社会保険とは、ケガ・病気・出産・障害・老齢・死亡・失業など、生活が困難となる事態に遭遇したとき、一定の給付を行って生活安定を図ることを目的とした保険制度です。
生活の安心と安定化を図るセーフティネットであるといえますが、医療保険と公的年金は日本に住民票のある20歳以上の全員が加入対象となります。
ただし雇用されて勤務先で働いている方は厚生年金保険や健康保険などの社会保険へ加入し、自営業者やフリーランスなどは国民健康保険と国民年金に加入します。
制度を継続するために、加入した被保険者から保険料を徴収し、支援を必要とする方への給付に充てています。
負担割合
社会保険料の負担割合は、以下のとおり社会保険の種類によって異なります。
厚生年金保険料 | 事業者と労働者で折半 |
健康保険料 | 事業者と労働者で折半 |
介護保険料 | 事業者と労働者で折半 |
雇用保険料 | 事業者と労働者がそれぞれ負担(事業者の負担割合のほうが大きい) |
労災保険料 | 全額事業者の負担 |
なお、被保険者が業務外で負ったケガや病気により、医療機関を受診した場合、保険証を提示すれば外来・入院にかかわらず医療費の自己負担割合は3割です。
残り7割は、健康保険組合が負担します。
社会保険料の種類
社会保険料には、社会保険の種類に伴って次の5つに分類できます。
健康保険料 | 従業員とその扶養家族のケガや病気、出産で必要な医療費を補償する健康保険制度に対する保険料 |
介護保険料 | 要支援認定や要介護認定を受けた方が介護サービスを利用できる介護保険制度に対する保険料 |
厚生年金保険料 | 老後の生活を補償する年金制度に対する保険料 |
雇用保険料 | 労働者の雇用や生活の安定を補償するための雇用保険制度に対する保険料 |
労災保険料 | 就業中の事故によるケガや病気を対象とした労働災害保険制度に対する保険料 |
それぞれの保険料について詳しく説明します。
健康保険料
「健康保険料」とは、業務外のケガや病気に対し、相互扶助の精神で医療費負担の大きい方の経済的負担を軽減する医療保険制度の保険料です。
まず健康保険料には、「被用者保険」と「国民健康保険(国保)」の2種類があります。
被用者保険は、適用事業所に雇用されている方や公務員が、組合管掌健康保険(組合健保)や全国健康保険協会(協会けんぽ)、共済組合などを保険者として加入します。
組合健保は大企業の正社員、協会けんぽは中小企業の正社員、共済組合は公務員を対象としています。
事業者と労働者が保険料を折半するため、保険料負担は国民健康保険より軽減されます。
また、被保険者の労働者だけでなく、扶養している家族も補償の対象です。
国民健康保険は、75歳未満の他の健康保険に加入していない方すべてが加入します。
自営業者・フリーランス・学生・無職の方が対象ですが、75歳以上の方は後期高齢者医療制度に加入するため対象に含まれません。
介護保険料
「介護保険料」とは、介護が必要と認定された方が、少ない負担額で介護サービスを受けるため介護保険制度に対する保険料です。
加入対象は40歳以上ですが、介護保険を使って介護保険サービスを利用できるのは、一定の条件を満たし介護が必要と認定された要支援者や要介護者や、老化に起因する特定疾患の40~64歳までの方とされています。
厚生年金保険料
「厚生年金保険料」とは、適用事業所に勤務する会社員や一定要件を満たす短時間労働者、公務員などが加入する年金制度の保険料です。
日本では、20歳以上60歳未満のすべての国民は国民年金に加入することが義務づけられていますが、厚生年金は国民年金の「2階部分」の年金制度です。
厚生年金に加入していると、年金支給の際には国民年金に上乗せした金額を受け取りできるとされています。
また、厚生年金では老後の「老齢年金」だけでなく、ケガや病気で障害が残ったときには「障害年金」、被保険者が亡くなったときには遺族に「遺族年金」が支払われます。
なお、対象は本人であり家族は含まれません。
扶養する配偶者については、所得制限などの条件を満たすことで、国民年金保険料の支払いは免除されます。
雇用保険料
「雇用保険料」とは、失業や休業の際に給付される雇用保険制度の保険料です。
事業者と労働者がそれぞれ保険料を負担しますが、負担割合が大きいのは事業者といえます。
1週間の労働時間が20時間以上の労働者で、31日以上継続雇用される予定があれば雇用保険へ加入します。
失業や退職の際、再就職を支援する目的で支給される保険です。
労災保険料
「労災保険料」とは、業務上または通勤途中の事故などで、ケガ・病気・障害・死亡などの事態が起こった場合に給付される労災制度の保険料です。
一部の事業を除き、法人・個人を問わずに人を雇用するすべての事業が強制適用される保険制度であるため、保険料は事業者が全額負担します。
なお、労働者として含まれるのは、正社員・パート・アルバイトなど雇用形態に左右されないすべての方です。
社会保険料の計算方法
社会保険料は、以下の4つの保険制度ごとに計算方法が異なります。
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
上記のうち、健康保険・介護保険・厚生年金保険は労使折半で保険料を負担します。
一般的な会社の正社員を例に、給与と賞与から控除される社会保険料の計算方法を解説し
ていきます。
健康保険
給与の健康保険料は以下の計算式で算出します。
給与の健康保険料=標準報酬月額×保険料率÷2 |
賞与の健康保険料は以下の計算式で算出します。
賞与の健康保険料=標準賞与額×保険料率÷2 |
最後に2で割るのは、事業者と労働者が保険料を労使折半するからです。
なお、保険料率は加入する健康保険組合・協会けんぽ・共済組合などの保険者によって異なります。
介護保険
介護保険料は、以下の計算式で算出しますが、40歳以上は健康保険料率に介護保険料率がプラスされます。
介護保険料=標準報酬月額(または標準賞与額)×保険料率(健康保険料率+介護保険料率)÷2 |
最後に2で割るのは、健康保険同様に、事業者と労働者が保険料を労使折半するからです。
厚生年金保険
厚生年金保険料は、以下の計算式で算出します。
厚生年金保険料=標準報酬月額(または標準賞与額)×18.3%÷2 |
最後に2で割るのは、健康保険や介護保険と同様に、事業者と労働者が保険料を労使折半するからです。
なお、国民健康保険の保険料については、自治体によって計算方法が異なります。
雇用保険
雇用保険料は、以下の計算式で算出できます。
雇用保険料 = 給与額(または賞与額) × 雇用保険料率 |
雇用保険料は、事業者と従業員で負担しますが、事業内容や年度によって金額は異なります。
標準報酬月額の対象になる賃金
「標準報酬月額」とは、健康保険や厚生年金保険などの社会保険料を決定するときの基準となる金額です。
被保険者である労働者の給与ひと月分の報酬を、一定の範囲ごとに等級として区分し、健康保険50・厚生年金保険32に分けた等級に段階的に割り当てられている金額が標準報酬月額といえます。
標準報酬月額の対象となる賃金と、対象に含まれない賃金は以下のとおりです。
標準報酬月額の対象となる賃金 |
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標準報酬月額の対象に含まれない賃金 |
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標準報酬月額は、基本給および諸手当に適用されるのに対し、一時的な収入は含みません。
社会保険料を改定する時期
2024年度の全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険料率と介護保険料率は、2024年4月に納付する3月分から改定されています。
この見直しの時期以外にも、以下の条件で保険料が改定される場合もあります。
- 定時決定
- 資格取得時決定
- 随時改定
- 産前産後・育児休業終了時改定
それぞれ説明します。
定時決定
「定時決定」とは、毎年1回、7月1日時点で在籍する被保険者(労働者)の4~6月分の給与額をもとにして、標準報酬月額の見直しを行い決定することです。
定時決定で決めた標準報酬月額は、その年の9月から、翌年8月まで適用されます。
資格取得時決定
「資格取得時決定」とは、新たな雇用の際に標準報酬月額を決めることです。
雇用した労働者が被保険者資格を取得した入社日時点の報酬を、月額換算した額を基準とします。
資格取得時決定で決定した標準月額報酬の適用期間は、以下のとおりです。
- 1~5月末までに資格を取得した場合はその年の8月まで
- 6~12月末までに資格を取得した場合は翌年8月まで
その後は定時決定で標準月額を見直します。
随時改定
「随時改定」とは、定時改定を待たずに標準報酬額を改定することです。
たとえば昇給・降給などの際に、年度途中で標準報酬月額を変更します。
昇給(降給)後の3か月の平均報酬に該当する標準報酬月額が、これまでの標準報酬月額と2等級以上の差が生じたときには、定時決定を待たずに標準報酬月額を変更します。
なお、変更した標準報酬月額の適用は、昇給(降給)発生から4か月目以降です。
産前産後・育児休業終了時改定
「育児休業等終了時改定」とは、育児休業から労働者が復職したときに標準報酬月額を見直すことです。
産前産後休業や育児休業から復帰した場合、復帰月を含む3か月の報酬が、従来までの標準報酬月額より1等級以上差が生じていれば、標準報酬月額を変更します。
変更した標準報酬月額は、復帰から4か月目以降に適用されることになります。
産前産後・育児休業終了時で変更された標準報酬月額の適用期間は以下のとおりです。
- 1~5月末までの変更の場合はその年の8月まで
- 6~12月末までの変更の場合は翌年8月まで
社会保険料が控除・免除されるケース
社会保険料は控除対象となる場合と、免除されるケースについてそれぞれ説明します。
- 控除
- 免除
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控除
社会保険料控除とは、1月1日から12月31日までの1年間で支払った社会保険料の全額を、所得金額から差し引ける制度です。
所得税や住民税は年間の課税所得金額をもとに計算するため、支払った社会保険料の額が大きいほど、節税につながります。
社会保険料のうち、控除対象となるのは以下の保険料です。
控除対象となる保険料 |
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控除対象となる年金保険料 |
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厚生年金基金については、公的年金制度の健全性と信頼性の確保のため、厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成25年)によって、平成26年4月1日以降の新規設立は認められていません。
現在は、解散または確定給付企業年金へ移行することが促されています。
控除される社会保険料は、対象年度中に支払ったものが対象です。
納める予定の段階でありつつも、支払っていない場合は控除対象外となります。
その一方で、年金保険料などを2年先まで前納した場合においては、年度中に全額控除するか、年度ごとの保険料相当額を控除するか選択できます。
免除
社会保険料のうち、国民年金保険料は収入減少や失業などで経済的に困難になったときには、免除されるケースもあります。
収入の状況により、全額・4分の3免除・半額免除・4分の1免除のいずれかが適用されます。
免除期間中も年金受給資格期間となるため、将来、年金を受け取ることはできますが、免除額に応じて受取額は減ります。
追納制度を利用すれば、将来受け取りできる年金額を増やすことは可能です。
また、産休・育休中も社会保険料の支払いは、以下の期間において免除されます。
産休 | 産休開始月から終了日の翌日が属する月の前月まで |
育休 | 育休開始月から終了日の翌日が属する月の前月まで |
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まとめ
社会保険料とは、健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険の5つの制度で支払う保険料です。
標準報酬月額をベースとして適宜改定されるため、定時決定・資格取得時決定・随時改定・育児休業等終了時改定など、改定されるタイミングについても理解を深めておきましょう。
なお、社会保険は、健康保険・介護保険・雇用保険・厚生年金保険の保険制度ごとに、適用条件や保険料負担の割合は異なります。
支払った保険料は所得税の控除対象にあるため、多く支払いが必要な場合でも、最終的には税負担を軽減させることにつなげることができます。
なお、社会保険料の納付額は、加入する健康保険組合などで保険料率が変わるため、仮に収入が同じでも納める額に差が生じることもあります。
納付額を計算するときには、適用される保険料率などを確認するようにしましょう。