売掛保証とは、取引先の倒産などで売掛金が回収できなくなったとき、保証会社が代わりに代金を支払ってくれるサービスです。
売掛金が未回収となるリスクを回避できるサービスであり、キャッシュフローの安定化にもつなげることができるのが売掛保証の特徴といえます。
商取引を安心して続けたい事業者向けのサービスといえる売掛保証ですが、利用においては保証を受ける上での手数料が発生することや、手続に手間がかかるといった点に注意が必要です。
また、売掛金の未回収リスクを回避する方法は、売掛保証だけではなく一般的なファクタリングでも可能といえますが、仕組みなど違いを理解した上での選択が重要といえます。
そこで、売掛保証についてその仕組みやファクタリングとの違い、メリットやデメリットを解説していきます。
目次
売掛保証とは
「売掛保証」とは、回収できなくなった売掛金の保証を行うサービスです。
取引先が倒産したために売掛金が入金されず、回収できる見込みがなくなった場合に、保証会社が代わって代金を支払います。
「保証型ファクタリング」と呼ばれることもあるサービスであり、一定の手数料を支払った保証を受けます。
企業間取引では請求書が発行された後、期日に代金が支払われる「掛け」による信用取引が一般的です。
しかしこの後払いによる取引では、商品やサービスを納品後にすぐ代金を受け取らず、一旦は売掛金を発生させ後日回収します。
期日通りに代金が支払われればよいものの、実際には取引先の資金繰り悪化や倒産などで未回収になるケースもありますが、少ない取引先に依存している事業者などは1社が未回収になっただけでも死活問題となり得ます。
このような場合に、売掛保証を利用しておけば、売掛金が未回収となるリスクを回避できるといえるでしょう。
売掛保証について、以下の3つを詳しく説明していきます。
- 仕組み
- ファクタリングとの違い
- 請求代行との違い
仕組み
売掛保証は、法人と屋号のある個人事業主の保有する売掛債権を、以下の事態により回収できなくなったとき保証する仕組みです。
倒産 | 破産 民事再生 不渡り |
支払い遅延(1か月以上の支払い遅延) | 資金不足 夜逃げ 事務所閉鎖 |
反対に保証されないのは、以下の債権です。
- 保証開始日より前に発生している取引の債権
- 既に遅延している債権
- 合意を得ていないなどトラブルにより未入金となった債権
- 一般消費者との取引による債権
取引額が大きい場合、売掛金の回収不能で業績やキャッシュフローが急激に悪化してしまう恐れがあります。
この場合、売掛保証を利用することで、未回収リスクを大幅に軽減できることはメリットといえるでしょう。
ファクタリングとの違い
売掛保証は、別名「保証型ファクタリング」と呼ばれるため、別のサービスとは言い切れません。
ただし一般的な事業者向けの「買取型ファクタリング」とは、サービス内容が大きく異なります。
「買取型ファクタリング」とは、期日が到来していない売掛金をファクタリング会社に売却することで、現金化できる金融サービスです。
そのため売掛債権をファクタリング会社へ譲渡する必要があります。
それに対し売掛保証は、売掛債権を保有したまま、未回収になったときに保証会社から保証金を受け取る仕組みです。
さらに売掛保証の保証金は、取引先の倒産や入金遅延など一定事由が発生したときに受け取りができるため、資金調達目的では活用できません。
しかし買取型ファクタリングなら、最短即日入金などすぐに手元のお金を増やさなければならない状況にも対応できるなど、資金調達目的での活用が可能です。
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請求代行との違い
売掛保証は、一定の事由が発生した場合に未回収となった売掛金を保証します。
これに対し「請求代行」とは、与信管理・審査・請求書発行・請求書送付・入金確認・消込・遅延催促などの請求業務を代行するサービスです。
経理業務を外注で委託するサービスのため、売掛保証とは趣旨が異なります。
なお、請求代行を利用する場合、与信管理や審査なども業務として含まれるため、売掛保証も組み込まれている場合があるようです。
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売掛保証の流れ
売掛保証を利用するときには、以下の流れで手続を進めます。
- 会員登録
- 審査
- 保証開始
- 未払い報告
- 入金
それぞれ説明します。
1.会員登録
売掛保証を利用するときには、保証会社の公式ホームページなどで、会員登録することが必要です。
アカウント登録は無料でできることが多いため、基本情報など入力し、保証プランを選択して完了させておくとよいでしょう。
2.審査
売掛保証を利用するときには、保証会社の審査を受けることが必要です。
保証してほしい債権の取引先情報を入力すると、与信審査が行われます。
このとき、会社の規模や業績以外にも、風評や社内体制なども審査対象です。
保証会社が提携しているリサーチ会社や信用情報機関からの情報をもとに進められることが多いものの、取引内容や決済方法など取引関連の情報提供は必要となります。
3.保証開始
売掛保証を利用において、必要書類を提出後に審査結果が通知され、適格債権と判断されれば保証が開始します。
4.未払い報告
売掛保証を利用において、入金遅延や倒産などの事由で債権が回収できなくなった場合、保証会社の会員サイトから未払いを報告します。
たとえば支払い遅延であれば、発生1か月後に手続できます。
所定の書類と添付資料などを提出し、保証会社に保証金を請求する手続が必要となりますが、必要書類として求められることが多いのは以下の書類です。
取引内容の確認できる書類 | 発注書・納品書・メール履歴など |
入金履歴の確認できる書類 | 取引先元帳・通帳の写しなど |
保証会社や取引内容によって必要書類は異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
5.入金
売掛保証を利用において、保証会社への請求手続が完了すれば、指定の口座へ売掛金相当額の保証金が入金されます。
保証会社によって異なるものの、保証金を請求して最短10日程度で支払われることが多いといえます。
売掛保証のメリット
売掛保証は、売掛金が未回収となっても保証会社が代行して支払ってくれる安心のサービスといえますが、利用においては主に以下の3つのメリットがあるといえます。
- 貸し倒れリスクを回避できる
- 与信審査に活用できる
- 取引先にバレずに利用できる
それぞれのメリットについて説明します。
貸し倒れリスクを回避できる
売掛保証のメリットは、貸し倒れリスクを回避できることです。
「貸し倒れ」とは、取引先が倒産したことなどにより、売掛金や受取手形を回収できなくなることといえます。
売掛金が回収不能になってしまうと、本来入金されるはずのお金を受け取れないため、資金繰りに悪影響を及ぼします。
取引先1社に依存している会社の場合、貸し倒れにより会社の存続危機に陥るリスクも高くなります。
しかし売掛保証では、取引先が倒産したことで売掛金が回収できなくなっても、保証会社から売掛金相当額が支払われるため安心です。
与信審査に活用できる
売掛保証のメリットは、取引先の与信審査に活用できることです。
信用取引を行う上で、取引先の与信調査や審査は欠かせません。
しかし規模の小さな会社では、与信管理業務を専属で行う部署を設けることは難しく、必要な情報を入手することも難しいといえます。
与信管理のスキルがなく、本当に信用取引を続けてよいのか不安という場合でも、売掛保証を活用すれば与信管理業務を外部へ委託できます。
人員も労力も割かずに、専門的な見地から取引先を与信判断できるため、本業に集中することや生産性向上につなげることもできるでしょう。
取引先にバレずに利用できる
売掛保証のメリットは、取引先にバレずに利用できることです。
取引先への連絡や聞き取り調査などは行われないため、信用調査を行っているのではないかなど、不信感を抱かれることはありません。
仮に売掛保証を利用または検討していることを取引先に知られると、信頼されていないと不信感を抱かれてしまい、その後の取引に影響を及ぼす恐れもあります。
長く取引を続けていた取引先などの場合、信頼関係にひびが入る事態は避けるべきといえるため、サービス利用の情報などが相手に漏れることはない売掛保証なら安心です。
売掛保証のデメリット
売掛保証は売掛金が発生する事業者が利用しやすいサービスといえる反面、以下の3つのデメリットを理解した上で活用しましょう。
- コストがかかる
- 手間がかかる
- 審査に通らない場合がある
それぞれのデメリットを説明します。
コストがかかる
売掛保証のデメリットは、与信調査に基づいて判断された未回収リスクにより、手数料などコストが発生することです。
手数料は取引先の信用力などで変わるため、未回収リスクが高いと判定されたときには、想定していたよりコスト負担が大きくなる可能性もあります。
特に事業規模が小さな事業者から受け取る売掛債権の場合、手数料が高額になりやすいと考えられます。
手間がかかる
売掛保証のデメリットは、手間がかかることです。
売掛金が回収できない場合、保証会社の会員サイトやコールセンターなどを利用して手続を行います。
このとき、発注書や取引先元帳など、保証対象の売掛債権を特定できる必要書類を提出することが必要となるため、電話1本で手続が完了するわけではありません。
買取型ファクタリングであれば、最短即日入金されるためスピードが重視されているといえますが、売掛保証では即日入金にはならないため注意してください。
審査に通らない場合がある
売掛保証のデメリットは、審査に通らない場合があることです。
保証会社と契約する前に、必ず保証を希望する売掛債権の取引先について、与信調査が行われます。
審査に通らなければ売掛金を保証してほしくても利用することはできません。
また、保証会社に登録する前に発生した売掛債権は対象ではなく、すでに売掛金の支払いが遅延している取引先も保証対象とすることは難しいといえます。
さらに売掛金の入金サイトが長い場合や取引金額が大きすぎるときも、審査を通ることが厳しくなると留意してください。
売掛保証を利用すべき会社
売掛保証のメリットやデメリットを踏まえた上で、利用するべきなのは以下に該当する会社といえます。
- 入金サイトが長い
- 売掛金を分散できていない
- 自社で与信管理できない
それぞれ説明します。
入金サイトが長い
売掛保証を利用したほうがよいのは、取引先から売掛金を回収するまでの入金サイトが長い会社です。
売掛金が発生しても、回収できなければ手元の現金は増えません。
回収までの期間が長いと、仕入代金や固定費などの支払いが先行し、資金繰りが悪化しやすくなります。
また、入金期日までに取引先が倒産し、売掛金が貸し倒れになる恐れもゼロではありません。
そのため、売掛金の入金サイトが長いことに悩んでいる会社は、売掛保証を利用することで万一の未回収リスクを回避できます。
売掛金を分散できていない
売掛保証を利用したほうがよいのは、少ない取引先に依存している会社です。
取引先が多い会社なら、1社が貸し倒れになってもその他の取引先の売掛金でカバーできるでしょう。
しかし1社のみや数社しか取引先のない会社の場合、1社の売掛金が回収できなくなったことが大きなダメージとなります。
そのため売掛金を分散できていない会社の場合、掛保証を利用して未回収リスクを回避したほうがよいといえます。
自社で与信管理できない
売掛保証を利用したほうがよいのは、自社で取引先の与信管理を行うことが難しい会社です。
人員の関係上、取引先の与信管理部署を設けることができない小規模の会社などは、そもそも与信調査するスキルが乏しいこともめずらしくありません。
売掛金の貸し倒れを防ぐ上で、取引先の与信調査は定期的に行うことが重要といえるため、売掛保証で与信管理業務を外部に任せると安心です。
売掛保証の選び方
売掛保証を利用するときには、以下の3つを確認した上で選択しましょう。
- サービス内容
- 料金体系
- 保証体制
それぞれ説明します。
サービス内容
売掛保証を選ぶきには、保証や範囲などサービス内容を確認しましょう。
入金遅延も保証対象とする保証会社もあれば、倒産に至った場合だけ保証される会社もあるため、保証範囲や金額などニーズに合うサービスを選ぶことが必要です。
手厚い保証であればより安心ですが、その分、手数料などコストは高くなることは理解しておきましょう。
なお、取引金額が少額でありながら、保証金額無制限プランなど選択すると、コストが増えすぎてしまう可能性もあります。
反対に取引額よりも保証が少ないプランを選べば、費用対効果を得ることができない恐れもあるため、保証内容は必ず確認しておくべきです。
料金体系
売掛保証を選ぶきには、料金体系を確認しておきましょう。
たとえば月額制なのか、それとも保証金額に応じて請求額の何割かを支払うのか、またはその両方を組み合わせて支払うのかなど種類があります。
保証対象の売掛債権の総額にも上限が設けられている場合や、登録可能とする取引先数など、保証会社やサービスによって変わります。
ニーズや予算、取引状況に合わせて選ぶべきサービスを見極めることが必要です。
保証体制
売掛保証を選ぶきには、保証体制も確認しましょう。
そもそも保証を依頼する保証会社は信頼できる会社なのか、その運営体制や、保証会社が倒産してしまったときの保証なども確認したほうがよいといえます。
単独で保証を行う保証会社よりは、金融機関や他の保証会社と連携するなど、外部からのバックアップを得ている保証会社のほうが保証体制は手厚く安全と考えられます。
まとめ
売掛保証とは、信用取引により発生した売掛金の未回収リスクを回避できるサービスで、取引先の与信調査を行った上で売掛金が保証されます。
売掛金が入金されるよりも前に取引先が倒産してしまい、回収できなくなったときに保証金が支払われるため、万一の事態に備えることに役立つといえるでしょう。
また、専門的なスキルが求められる与信管理を、外部に委託するといった活用法も可能です。
売掛保証は保証型ファクタリングとも呼ばれることがありますが、事業者向けの一般的な買取型ファクタリングのように、資金調達を目的に利用するサービスではありません。
もしも資金繰り改善や資金調達を目的にファクタリングを活用したいなら、保証型ではなく売掛債権をファクタリング会社に譲渡して現金化する買取型ファクタリングを活用しましょう。