本社経費の目安とは?配賦の手続と基準・判断方法をわかりやすく解説

本部経費とは、収益を生み出さない管理部門の維持・管理における経費であり、ある程度の目安を知っておく必要があります。

たとえば経営陣や総務・経理担当者の給料などが具体的な例として挙げられますが、中小企業の場合はできるだけ本部経費を抑えたほうがよいといえます。

そこで、本社経費はどのくらいの目安で考えるべきなのか、重要ともいえる配賦の手続と基準・判断方法についてわかりやすく解説していきます。

本社経費とは

「本部経費」とは、収益を生み出すことのない間接部門(管理部門)から発生する経費で、以下の費用が含まれます。

  • 役員の人件費
  • 総務や経理などの経費
  • 開発部門の経費

上記の本社経費は、営業部門が最終的に「配賦」によって負担します。

「配賦」とは、複数の部門・部署でまたがる人件費や光熱費などの間接費を、一定基準で割り当てる処理です。

合理的で公平な方法で行うことが必要であり、基準や方法は毎回一定でなければなりません。

仮に配賦の基準や方法が一定でなければ、営業部門の損益を公平に判定・評価できず、正しい損益を把握できなくなります

適切な経営判断ができず、会社衰退リスクを高めてしまうことになりかねないため注意してください。

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本社経費の目安

中小企業の本部経費の目安は「粗利高本部経費率」を参考にしましょう。

「粗利高本部経費率」とは、売上総利益に占める本部経費の構成比率です。

会社の収益に対する本部経費の割合であり、以下の計算式で算出できます。

粗利高本部経費率=(本部経費÷粗利高)×100%

上記の計算において、「本部経費」に含まれるのは、以下の費用です。

  • 管理部門の総人件費
  • 管理部門の変動費(光熱費など)
  • 管理部門の固定費(家賃・減価償却費用など)

中小企業の粗利高本部経費率の標準は10%以下が水準であるため、10%を超える場合には経費削減を検討することが必要といえます。

仮に10%以下の場合でも、営業担当者を兼任させることで本社経費を削減できます。

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本社経費の配賦とは

本社経費の「配賦」とは、複数の部門にまたがる共通した賃料や光熱費などの費用について、一定の基準でそれぞれの部門に振り分ける処理です。

特に光熱費などは会社全体に対する費用であるため、部門ごとの経費として割り出すことは簡単なことではありません。

そこで活用されるのが配賦の考え方であり、一定基準を設けて間接費を振り分けます

配賦の目的は、企業の人材・資材・時間などを効果的に活用し、最大限まで業務を効率化したり生産性を向上したりすることです。

企業の資源を適切に配分すれば、それぞれの部門でどのくらいの経費が発生しているのか把握でき、生産性や利益率の向上につながるため売上目標を達成できます。

なお、配賦に似た考え方として「割賦」や「按分」が挙げられますが、それぞれの違いを次の2つに分けて説明します。

  1. 割賦との違い
  2. 按分との違い

割賦との違い

「割賦」とは、第三者に対して支払い義務のある商品代金や税金を分割払いすることです。

第三者に対する支払い義務が存在することが配賦との違いといえるでしょう。

按分との違い

「按分」とは、一定の基準に従って分けることです。

配賦と似た意味ではあるものの、按分は分けた後の部門ごとへの割り当て処理は含まないため意味が異なります。

本社経費の配賦額の計算方法

中小企業の本社経費の配賦額は、主に次の3つの計算方法で算出できます。

  1. 粗利構成比率
  2. 社員比率
  3. 床面積比率

それぞれの計算方法について説明します。

粗利構成比率

「粗利」とは売上総利益のことですが、「粗利構成比率」による本社経費の配賦は最も一般的な計算方法といえます。

たとえば営業部門が4つあり、本社経費が100万円の場合には、以下の割合などでの配賦となります。

部門 A B C D
粗利構成比率 40% 15% 20% 25%
本部経費配賦 40万円 15万円 20万円 25万円

社員比率

所属している「社員数」の構成比率をもとにした本社経費の配賦は、上記の例を参考にすると以下の表のとおりです。

なお、社員比率が大きければ、本社のサポート貢献度も高いといえるため、社員比率による本社経費の配賦は公正で合理的な基準であるといえるでしょう。

部門 A B C D
社員構成比率 40人 15人 20人 25人
本部経費配賦 40万円 15万円 20万円 25万円

床面積比率

床面積の構成比率をもとにした本社経費の配賦は、上記の例を参考にすると以下のとおりです。

部門 A B C D
床面積比率 40坪 15坪 20坪 25坪
本部経費配賦 40万円 15万円 20万円 25万円

営業部門がそれぞれ同一地域であれば不公平感は出ないものの、たとえば都市部と地方で分かれている場合などは坪単価に差があり公平さを失います。

また、同一地域での小売業などであれば床面積を基準とした配賦でも問題ないのに対し、営業エリアが広範囲の場合には公平な配賦基準といえなくなるため注意しましょう。

本社経費の配賦基準

本社経費の「配賦基準」は、会社ごとに自由に決めることができます。

重要なのは「客観性」であり、部門ごとの責任者が納得できる配賦が求められます。

そこで、配賦のシミュレーションを実施した上で複数の基準を設定し、納得できる方法を選択しなければならないため、次の基準を参考にしましょう。

  1. 会計数値による基準
  2. 会計数値以外の基準

それぞれの基準について説明します。

会計数値による基準

「会計数値」による基準とは、たとえば以下の項目を目安とします。

  • 売上
  • 売上総利益
  • 営業利益
  • 販売管理費総額
  • 限界利益

仮に売上を基準とした配賦を選ぶ場合、売上が上がるほど配賦される本社経費も増えることを留意しておく必要があります。

なぜなら部門ごとの責任者や現場に不満が生まれる可能性も考えられるからです。

売上向上よりも部門の経費を下げたほうが、本社経費の配賦を抑えることができると考え、部門責任者も経費削減の行動を起こす可能性もあると留意しておきましょう。

会計数値以外の基準

「会計数値以外」の基準とは、たとえば以下の項目を目安にする方法です。

  • 人員数
  • 機械稼働時間
  • 機械電力量
  • 専有床面積
  • 工数
  • 総固定資産額

この中で人員数を基準とした配賦を選択すると、配賦を抑えるために人員削減に走る可能性も否定できません。

人員が減った結果、一人ひとりの業務負担が重くなり、過度な残業や作業効率の低下といった傾向が見られるリスクも考えられます。

それぞれの部門などにしわ寄せが発生する可能性もあるため、意図しない部門責任者の行動は社内の利益の底上げにつながらないと理解しておきましょう。

本社経費の配賦で使用するツール

本社経費の配賦は、以下のツールや最新技術を活用して取り組むと効果的です。

  1. エクセル
  2. ERP
  3. AI・ビッグデータ

それぞれのツールまたは技術について説明していきます。

エクセル

「エクセル」は、マイクロソフト社が開発・販売している「表計算ソフト」です。

入力した数値データから、表やグラフを作成したり計算したりできます。

通常、エクセルは社内のパソコンに導入されていることが多いため、配賦においても活用すれば利用環境を整備する手間を省けます。

部門や取り扱い製品の数などがそれほど多くない場合、エクセルを使った配賦率や配賦額の計算が手軽で使いやすいでしょう。

ERP

「ERP」とは、企業経営の基本といえる資源要素(ヒト・モノ・カネ・情報)の適切な分配と活用における計画です。

「Enterprise(企業)」「Resource(資源)」「Planning(計画)」のそれぞれの頭文字を取って省略した名称であり、経営資源を一元管理して最適化を実現する経営手法といえます。

部門や取り扱い製品の数が多い場合にはエクセルによる配賦は限界があります。

このような場合においてERPを活用することで、部門ごとの売上高や作業工数などを一元的に集約・管理でき、効率的に配賦できます。

AI・ビッグデータ

「AI」とは、「Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)」の略称であり、「人工知能」のことです。

過去のデータから資源の変動や需要を予測し、今の資源を使った最大限利益を生み出す配分を即提案・計算できます。

配賦方法の検討は手間や時間がかかる作業であるものの、AIの活用によって負担を最小限に抑え、方法の立案などが可能となります。

また、AIだけでなくビッグデータも併用することで、データに基づいた予測による高度な配賦を実現できます。

「ビッグデータ」とは、典型的なデータベースソフトウェアが把握・蓄積・運用・分析できる能力を超えたデータです。

人が全体を把握できない巨大なデータ群を活用することで戦略的・効果的な配賦が実現できれば、競争優位性の確保にもつながります。

配賦の判断方法

配賦は、必ず実施しなければならないわけではなく、行わないという判断も存在します。

会社ごとに公平な配賦基準の設定ができなければ、あえて配賦しない選択も重要だからです。

本社経費の営業部門への配賦については、正確に事業損益を把握する上では欠かせません。

しかし営業部門が赤字で黒字化まで時間がかかる場合や、一定期間経過後に赤字部門の閉鎖を検討しているケースにおいては、配賦しない選択も経営判断として十分にあり得ます。

ただし、これまで続けていた配賦をやめた場合には、過去データとの比較において整合性が崩れてしまいます。

1年経過後には発生したズレも解消されるといえますが、留意しておく必要はあるでしょう。

また、それぞれの部門との収益の比較が公平でなくなることも踏まえた上での選択が必要です。

配賦の問題点

配賦を行う場合、以下の問題点に留意しておきましょう。

  • 事業規模などを踏まえた配賦の効果を見定めなければならないこと
  • 社内で合意形成を図る必要があること

配賦は強制される処理ではないため、実施の判断は裁量次第といえます。

部門や取り扱い製品の数などを考慮しつつ、配賦の必要性を検討して判断するべきです。

そのため社内関係者で配賦基準について十分に検討し、合意形成しておきましょう。

配賦の基準はすべての部門に都合よいものとはいえず、これまで黒字だった部門が赤字転落するリスクもある処理といえます。

会社全体を最適化できるのか、それぞれの部門から理解を得ることができるかなどを踏まえて、丁寧に説明することも必要です。

まとめ

本社経費を正確に集計し、公平な配賦を行うことは、部門ごとの損益を把握する上で欠かせないことといえます。

配賦とは、複数部門で横断的に発生する光熱費などの経費を、一定基準に従ってそれぞれの部門へ振り分ける処理です。

メリットとしては、原価を正確に把握できることや、費用や利益管理に対する意識を高めることができることといえます。

実施する際には、必要性を判断した上でどの基準や方法を選択するべきか見極めることが必要であり、特定部門から不満が漏れることのないように会社全体で配賦基準に関する合意形成を図ることも必要です。

配賦基準の設定した後は、部門ごとの配賦率や配賦額を計算していきますが、簡易的な計算ならエクセルを使うこともできます。

ツールを導入する手間などが省けるため、まずはエクセルを使った配賦を実施し、事業規模が大きい場合などはERPの活用を検討するとよいでしょう。