資金使途とは?融資で違反を疑われるケースと申し込みのポイントを解説

銀行から融資を受ける際に重要視される項目の1つが「資金使途」であり、貸し付けられたお金がどのように使われるのか、その使い道のことです。

銀行融資の審査ではもう1つ「返済財源」についても重要視されますが、貸したお金に対する返済資金をどのように捻出するのか、その元手を知りたいと思うことは当然といえるでしょう。

そして資金使途についても、事前に何のために使うお金を借りたいと考えているのか確認しておかなければ、返済資金を捻出できない状況でお金を借入れようとしている可能性があるからといえます。

どちらも銀行が貸したお金を確実に返してもらうために重視する項目といえますが、その中で資金使途について、融資で違反を疑われるケースと申し込みのポイントを解説していきます。

資金使途とは

「資金使途」とは、お金を借入れた後に何に使用するのか、今後の使い道のことです。

銀行から融資を受けて調達した資金の使用目的ともいえますが、事業用資金の融資における資金使途は次の2つに分類されます。

  1. 設備資金
  2. 運転資金

それぞれの資金使途について説明します。

設備資金

「設備資金」とは、事業に必要な資金を購入するためのお金です。

機械・車両などの購入資金や、工場・店舗・事務所を増改築するための資金などが該当します。

なお、工場や営業所などの賃貸借契約を結ぶときに支払う敷金・保証金・権利金は設備資金に含まれるのに対し、賃料・礼金は運転資金に該当します。

高額で長期の借入れになれば、資金を貸し付ける側の貸し倒れリスクは高くなります。

そのため設備資金の融資を申し込む際には、導入で収益を上げ返済資金を捻出できる状況になることを認めてもらえるように、設備の必要性などを説明できる準備が必要といえます。

運転資金

「運転資金」とは、事業を営む上で必要である費用の支払いに充てるためのお金です。

日々、事業運営のために必要なお金であり、たとえば事務所家賃・仕入れ代金・従業員の給与などが該当します。

運転資金を借入れる場合、設備を購入するほどの大きな額は必要ではありません。

しかし設備資金のように収益向上などを狙う前向きな借入れではないため、たとえ少額で短期的なニーズであっても、銀行担当者が難色を示す可能性もあります。

そのため融資を受ける際の運転資金に関する説明には十分に注意が必要といえるでしょう。

なお、運転資金は次の5つの種類に分けることができます。

  • 経常運転資金(営業活動のための運転資金)
  • 増加運転資金(売上増加による追加の運転資金)
  • 減少運転資金(売上減少による固定費の不足分を補てんするつなぎ資金)
  • 季節性運転資金(賞与の支払いやイベント開催など特定時期に発生する運転資金)
  • 設備未払金決済運転資金(既存の設備の支払いに充てる資金)

運転資金の融資とは?受けられる金融機関と成功のポイントについて解説

運転資金の計算方法

運転資金は事業運営において毎月必要になるお金であるため、借入れなどで不足分を賄うのであれば、必要な資金額を把握しておくことが必要です。

必要な運転資金の計算方法は、次の2つに分けることができます。

  1. 在高方式
  2. 回転期間方式

それぞれの計算方法について説明していきます。

運転資金の計算方法とは?必要資金の目安や調達方法をわかりやすく解説

在高方式

「在高方式」とは、手元にあるお金の総量(在高)により、運転資金として必要となるおおよその額を計算する方法です。

資産や負債から経常運転資金を計算する方法であり、以下の計算式を使えばすぐに算出できます。

運転資金=売掛債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買入債務(買掛金+支払手形)

売掛債権や棚卸資産は、まだ現金化されていないものの、将来的に現金へと変わる予定の資産です。

そこで、まだ現金化されていない資産からまだ支払っていない負債を差し引いて、未回収の売掛債権などが入金されるまでのタイムラグに充てる運転資金がどのくらい必要なのか判断できます。

回転期間方式

「回転期間方式」とは、何日間でどのくらいのお金が必要なのか算出することができる方法です。

詳細な必要額を計算したいときに用いる方法であり、以下の計算式で運転資金を計算できます。

運転資金=平均月商×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間)

入金と出金のタイムラグの長さを算出できるため、その期間を埋める運転資金を計算したいときに使用するとよいでしょう。

「回転期間」とは資産が1回転してもとの状態に戻るまでの期間です。

「売上」の場合は、売上計上による売掛債権が発生し、その代金を回収されるまでの期間が該当します。

「仕入」の場合は、仕入れ後に在庫として抱えた商品をすべて販売し、その代金を回収するまでの期間を回転期間とします。

上記を踏まえて、回転期間方式の計算式に含まれる以下の回転期間について説明していきます。

  1. 売上債権回転期間
  2. 棚卸資産回転期間
  3. 買入債務回転期間

売上債権回転期間

売上債権回転期間は、仕入れた商品を掛取引で販売後、その代金を回収するまでの期間です。

売上債権回転期間=(売掛金+受取手形)÷(年間売上高÷12か月)

棚卸資産回転期間

棚卸資産回転期間は、在庫として保管している商品や材料を販売するまでの期間です。

棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(年間売上原価÷12か月)

買入債務回転期間

買入債務回転期間は、商品を掛取引で仕入れ後、その代金を支払うまでの期間です。

買入債務回転期間=(買掛金+支払手形+受取手形の譲渡高)÷(年間売上原価÷12か月)

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融資を受けやすい資金使途

金融機関から融資を受けやすい資金使途は、一般的に前向きな使い道といわれています。

前向きな使い道の借入れとは、たとえば次のような資金使途で融資を受けることです。

  • 設備購入を目的とする資金の借入れ
  • 長期運転資金の折り返し融資(既存の融資の返済済み範囲内で再度融資を受ける)
  • 一時的な仕入れ増加に対応するつなぎ資金の借入れ
  • 従業員に賞与を支払うための資金の借入れ
  • 法人税など税金支払いのための資金の借入れ
  • 新規事業開拓で人材を雇用するための資金の借入れ

しかし赤字補填など、返済原資を捻出することが厳しいと判断できる借入れは、融資審査に通らない可能性があります。

この場合、不動産を担保として差し入れることや、信用保証協会の保証が付くことを条件とした融資制度の利用を求められるでしょう。

他にも事業計画書で、赤字補填後の黒字化への転換に向けた計画や、納得させることのできる説明などが求められます。

以上のことから、銀行から融資をスムーズに受けたいときには、設備資金など前向きな資金使途であることが必要です。

設備を導入する予定もないのにもかかわらず、お金を借りることを目的に嘘の資金使途を申告することは危険な行為と認識しておいてください。

本来の目的ではない資金使途で融資を受けた後、仮に虚偽の申告が発覚すれば金融機関からの信用を失うことになるため、今後は融資を受けることは難しくなり、貸したお金を一括で返済するように求められる場合もあります。

銀行の資金使途違反の確認方法

「資金使途違反」とは、銀行に対する資金の借入れの申し込みにおいて、申告した資金の使い道を守らずに別の使い道に充ててしまうことです。

銀行融資において資金使途違反があった場合、一括返済を求められたり追加融資を受けられなくなったりといったデメリットしかありません。

また、信用保証協会が保証した上での借入れだった場合には、資金使途違反の事実が記録されてしまうため、その後は信用保証協会保証付融資の審査に通らなくなるでしょう。

銀行は申告された以下の資金使途の融資について、資金使途違反に該当しないか確認しています。

  1. 設備資金の融資
  2. 運転資金の融資

どのように資金使途違反に該当しないか確認しているのか、それぞれ説明していきます。

設備資金の融資

設備資金の場合、融資実行後に実際に購入した設備を銀行が確認することもあれば、設備導入資金として支払ったときの領収書を提出するように求められることもあります。

この確認作業において、申し込みのときに申告していた内容と異なる資金使途での使用が発覚すれば、資金使途違反と判断されるでしょう。

また、融資後の固定資産台帳に、購入目的とされていた設備が記載されているか確認されることもあります。

運転資金の融資

運転資金のうち、たとえば賞与や納税を目的とした資金調達での申し込みであれば、実際に従業員に支払う賞与や納税資金として借入金を使ったのか確認されます。

商品の仕入れを資金使途としている場合にも、対象となる商品を本当に仕入れたのか確認されるでしょう。

ただし資金使途が特定取引の支払いに限定せず、たとえば「商品仕入の資金」や「買掛債務の支払いに充てる資金」などあやふやな内容だった場合、借入金を資金使途どおりに使用したのか確認されないことも少なくありません。

資金使途違反を疑われるケース

資金使途違反をするつもりはなくても、次の3つの行為については、資金使途違反を疑われることがあるため注意してください。

  1. 借入金の入金前に代金を支払った
  2. 必要とする額が減った
  3. 購入先から返金があった

それぞれ説明していきます。

借入金の入金前に代金を支払った

資金使途違反をするつもりはなくても、借入金が入金されるよりも前に設備導入資金を支払うと、違反行為と疑われる可能性があります。

銀行から審査に通った連絡が入ったため、預金から設備購入資金を先に支払い、その後で融資が実行されるというケースです。

設備購入にかかる資金全額を先に支払うのではなく、頭金など一部のみ支払う場合も資金使途違反と疑われるため注意しましょう。

必要とする額が減った

資金使途違反をするつもりはなくても、借入金額よりも支払った金額が少なかった場合、違反と疑われる可能性があります。

たとえば設備導入のための資金500万円の融資を受け、実際に代金を支払う段階で100万円の値引きがあった場合には、購入先に支払う金額は400万円です。

このとき、残った100万円を運転資金に充ててしまうと、本来の資金使途と異なる使い道となるため、資金使途違反とみなされます。

そのため設備の見積もりから値引きなどがあったときなど、当初の額よりも必要な額が少なくなったときには、融資実行前に銀行に相談するようにしましょう。

運転資金の目安は?種類ごとの計算方法や不足を防ぐ方法をわかりやすく解説

購入先から返金があった

資金使途違反をするつもりはなくても、購入先から代金の返金があったときには、違反と疑われる可能性があります。

たとえば購入先と結託して見積書を水増し作成し、設備資金として融資を受けて、購入先に代金として送金した後、一部を返金してもらい運転資金に充てるといった行為です。

申告していた資金使途と異なる使い道であるため、資金使途違反とみなされます。

融資申し込みのポイント

銀行からスムーズに融資を受けたいときには、たとえ資金使途が運転資金であったとしても、次に3つのポイントを押さえた上で申し込むとよいでしょう。

  1. 前向きな理由を伝える
  2. 資金繰り表を添付する
  3. 資金使途違反に注意する

それぞれ説明します。

前向きな理由を伝える

銀行からスムーズに融資を受けたいときには、できる限り前向きな理由を伝えましょう。

新規顧客の開拓や人材雇用、販促活動を目的とした資金など、運転資金であっても前向きな理由はいろいろあります。

前向きな理由にこだわり過ぎてしまい、嘘の資金使途を伝えることは禁物であるものの、売上低下による別の借入金の返済資金など後ろ向きといえる資金使途では審査に通りません。

仮に設備資金ではなく運転資金の融資であっても、たとえば売上増加で一時的に必要となる増加運転資金などであれば、将来の収益につながる前向きな理由として積極的に検討してもらいやすいといえます。

資金繰り表を添付する

銀行からスムーズに融資を受けたいときには、申し込みの際に資金繰り表を添付しましょう。

運転資金の場合、返済資金をどのように捻出するのか示すことが重要となるため、資金繰り表を添付していなければ審査に通らないとも考えられます。

仮に前向きな理由をアピールした場合でも、信憑性を高めるには数字に落とし込み、説明することが必要です。

資金繰り表を使って前向きな説明をすることにより、融資審査に通過する確率を上げることができます。

資金使途違反に注意する

銀行からスムーズに融資を受けたいときには、資金使途違反に注意しましょう。

嘘の資金使途を伝え申し込み、実際に融資が実行された後に伝えていた内容と異なる使い道に借入金を充てることは、資金使途違反に該当します。

資金使途違反が発覚すると、その後、同じ銀行で追加融資を受けることは難しくなります。

悪質だと判断された場合には、即時、全額を一括で返済するように要求される可能性もゼロではありません。

バレなければよいと考えるのではなく、申告した資金使途で借入金を使うようにしましょう。

まとめ

資金使途は、銀行融資の審査で重視される項目の1つです。

借りたお金の使い道を示す資金使途は、事業資金の融資の場合、設備資金と運転資金に分けることができます。

設備資金は機械や設備などの導入に使用する目的のお金であり、運転資金は事業を運営するために必要な資金です。

設備資金の融資は、収益向上や業務効率化など前向きな資金使途と捉えてもらいやすいのに対し、運転資金は支払いに充てる資金の不足分を補う目的など、後ろ向きな資金使途と懸念されやすいといえます。

そのため運転資金の融資では、できるだけ前向きな説明を心掛け、申し込みでは資金繰り表を添えるようにしましょう。

なお、前向きな資金使途にこだわり過ぎて嘘の使い道を伝えてしまうと、資金使途違反として扱われ、追加融資はされなくなるだけでなく即時全額返済を求められることもあるため注意してください。