建設業は税務調査が入りやすい理由とは?確認ポイントや対策を徹底解説

建設業は税務調査が入りやすいといわれていますが、業界特有の事情が関係していることが理由です。

そのため建設業で会社経営を続ける場合などは、税務調査では何を確認されるのか理解した上で、対策を立てておくことが必要といえます。

そこで、建設業は税務調査が入りやすいといわれる理由や、確認ポイントや対策について徹底解説していきます。

税務調査とは

「税務調査」とは、申告・納税の公平・適正さを維持するために国税庁が実施する調査です。

国税庁管轄の税務署などが法人の法人税や個人の所得税の申告に対して、売上計上額や必要経費の疑念部分など、正しく税務申告しているか確かめるために実施します。

なお、税務調査は法人税や所得税以外にも、相続税や贈与税などの税金に対しても行われます。

調査対象である法人や個人に直接確認する調査だけでなく、市町村役場から住民票や戸籍関係書類を取り寄せたり法務局で登記簿情報を確認したり、金融機関の口座情報を調べるといったことも実施されます。

税務調査の多い業種

建設業は、税務調査が入ることの多い業種といわれています。

その理由は、国税庁が公表している「令和2事務年度 法人税等の調査実績の概要」で、以下の準備になっていたからです。

  • 6位 一般土木建築工事
  • 7位 職別土木建築工事
  • 10位 土木工事

さらに1件あたりの不正所得金額も、一般・職別土木建築工事1,800万円以上、土木工事1,300万円以上となっています。

一度の税務調査で発覚する不正所得金額が大きいことも、税務調査の対象になりやすい理由と考えられます。

また、税務調査は、対象として選定する基準が設けられています。

基準に適合する法人や個人が、以下のケースに該当する場合、税務調査の対象になりやすいといえます

  • 所得率が低い
  • 勘定科目に大きな変化がある
  • 不正発見割合が高い業種である(バーなどの飲食店・美容・医療・生鮮魚介そう卸売・一般土木建築工事・職別土木建築工事など)
  • 所得をごまかして赤字にしている疑いがある

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建設業は税務調査が入りやすい理由

建設業は税務調査が入りやすいといわれていますが、その背景には不正が発覚しやすい以下の理由が関係しています。

  1. 完成まで長い
  2. 工事金額が大きい
  3. 間接工事費の振り分けが問題
  4. 人件費と外注費の線引きがあいまい

それぞれどのような理由なのか説明していきます。

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完成まで長い

建設業は税務調査が入りやすい理由として、着工から完成まで数年かかるなど、工事の期間が長いことが挙げられます。

工事の進み具合に応じた計上額を見積もることが必要といえますが、計上時期が本来と異なる場合も多く、前倒しや後ろ倒しなど「期ズレ」が発生しやすいといえます。

期中の売上や入金などの取引を翌年度に計上すれば、売上計上漏れや棚卸計上漏れなどを指摘されることになるでしょう。

この期ズレは建設業では特に発生しやすいため、税務調査で必ず確認される部分として留意しておく必要があります。

工事金額が大きい

建設業は税務調査が入りやすい理由として、1件数百万円や数千万円など、工事金額が大きいことが挙げられます。

1件あたりの建設工事の請負金額が大きいと、売上も増加するため納めなければならない税金の額も増えます。

税負担を逃れようと不正な経理で売上や必要経費をごまかされると、公平性が保たれなくなります。

建設業の請負契約は国の税収に与える影響も大きいため、税務調査が入りやすいといえるでしょう。

間接工事費の振り分けが問題

建設業は税務調査が入りやすい理由として、直接工事費の中で按分して振り分けが必要となる間接工事費に問題が発生しやすいことが挙げられます。

建設工事にかかる費用は、次の2つに分けることができます。

  • 直接工事費(材料費・職人の労務費・機械費・水道光熱費など建築に直接関わる工事費)
  • 間接工事費(共通仮設費・現場管理費・一般管理費など建築に直接関わりのない工事費)

間接工事費は、直接工事費の中で按分して振り分けていくことが必要です。

しかし建設業では、按分が規則的でないケースや、意図的に相殺や赤字計上することを目的にしていると疑われるケースが多いため、税務調査が入りやすいといえます。

人件費と外注費の線引きがあいまい

建設業は税務調査が入りやすい理由として、人件費と外注費の線引きがあいまいであることが挙げられます。

たとえば塗装などを個人事業者に外注したとき、雇用して給与で支払うべきではないかと判断されやすいことがあります。

仮に給与として支払う場合、労働保険や社会保険への加入や保険料負担が発生するため、外注費のほうがよいと考えがちです。

しかし本来人件費にするべき費用を外注費としていると、税務調査で指摘されやすくなります。

建設業では人件費と外注費の線引きがあいまいになりやすいため、税務調査では注意が必要です。

建設業の税務調査で確認されるポイント

建設業で税務調査が入ったときのために、どのようなことを確認されるのか事前に把握しておくと安心です。

主に建設業の税務調査では、以下の6つのポイントを確認されることが多いといえます。

  1. 売上の流れ
  2. 期ズレの有無
  3. 棚卸計上漏れの有無
  4. 現金の有高と帳簿残高
  5. 外注費に含まれる人件費の有無
  6. 私的な支出の有無

それぞれ何を確認されるのか説明していきます。

売上の流れ

建設業の税務調査では、売上を計上するまでの流れが正しいか確認されやすいといえます。

お金の動きを正しく記録しているか、不正な動きはないか確認するためといえますが、建設業が売上計上するまでの流れは以下のとおりです。

  1. 見積書の発行
  2. 注文書の受領
  3. 注文請負書の発行
  4. 工事請負契約の締結
  5. 工事の開始
  6. 引き渡し
  7. 請求書の発行
  8. 工事代金の受領

一般的に売上計上は、上記6の工事が完了し、引き渡しが行われるタイミングです。

このとき、注意しなければならないのは、まだ完成していない工事にかかった材料費や外注費などの未成工事支出金です。

工事を請け負ったものの年度内に工事が完了しないこともあるため、会計年度前に完了していない場合の工事費用は、未成工事支出金として次年度に繰り越します。

工事原価は、工事完了後、引き渡してから損金計上します。

仮に未成工事支出金を工事開始の事業年度内に計上すれば、売上から差し引くことのできる経費が増えて、利益を操作できます。

そのため建設業の税務調査では、工事が終わっていない場合の工事原価を、年度内の損金に計上していないか確認されます。

期ズレの有無

建設業の税務調査では、売上や経費を対象年度に計上しているか、期ズレ発生の有無を確認されやすいといえます。

本来、年度中に計上しなければならない売上や経費を、前年度または翌年度に計上していることを「期ズレ」といいます。

故意ではなく、会計処理上のミスなどでも期ズレがあれば、課税逃れとみなされて重加算税が課されることもあります。

税務調査で指摘された場合、修正申告もしくは追加納税が必要になるため、特に長期間の工事請け負いについては、税務調査で売上の期ズレを重点的に確認されると留意しておきましょう。

棚卸計上漏れの有無

建設業の税務調査では、棚卸計上に漏れが発生していないか確認されやすいといえます。

資材は現場へ投入されて形状が変わるため、棚卸の計上に漏れが生じやすくなります。

決算日時点で完成していない工事の工事原価である未成工事支出金は、完成していない状態で損金に計上できません。

そのため税務調査では、工事原価が未成工事支出金に計上されず、損金に計上されている場合に棚卸計上漏れを指摘されます。

また、工事ごとの材料なら未成工事支出金に計上することが多いでしょう。

しかしどの工事に使用するわけではなく、たとえば事務所に残っている材料も在庫であれば棚卸に計上しなければならないため注意してください。

現金の有高と帳簿残高

建設業の税務調査では、実際に会社で管理している現金の有高と、帳簿残高が合致しているか確認されやすいといえます。

小規模な建設業者の場合、現金管理をしていないことも少なくありません。

そのため帳簿上の現金と有高が合致していないケースも見られます。

しかし税務調査では、どんぶり勘定による計上と判断され、特に帳簿上の現金残高が多すぎると経費入力漏れや私的流用を疑われるため、注意しましょう。

外注費に含まれる人件費の有無

建設業の税務調査では、外注費に含まれる人件費の有無を確認されやすいといえます。

外注費とは、社外の法人や個人と業務請負契約を結び、依頼した業務の対価として支払う報酬です。

しかし、建設業の中には、雇用契約を締結した従業員に対する給与を、外注費として計上しているケースもあります。

外注費として計上する理由は、消費税額を抑えるためです。

給与として支払った場合には消費税はかからないのに対し、外注費には消費税がかかります。

外注費と一緒に支払った消費税は、申告で納める消費税額から差し引くことができるため、納税額を低減できます。

しかし本来は給与で計上するべき費用を外注費で計上していれば、税務調査で消費税を追徴課税されることになり、所得税の源泉徴収漏れも指摘されます。

私的な支出の有無

建設業の税務調査では、経営者がプライベートで使った費用など、私的な支出を経費としていないか確認されやすいといえます。

経営者のプライベートで使用した飲食代やゴルフ費用などは、会社の経費として計上できません。

これは、個人事業主であっても同様です。

経費として扱うことのできる費用は事業に関連する費用だけであるため、私的な物品購入や遊興費を計上していれば、税務調査で指摘されます。

家族経営の建設業の場合、経営者や役員の私的な費用を経費として計上しているケースもあるため注意してください。

建設業の税務調査への対策方法

建設業に税務調査が入ったときに備えて、考えられる対策は次の2つです。

  1. 書類の保管・管理を徹底する
  2. 税理士を味方につける

それぞれの対策について説明していきます。

書類の保管・管理を徹底する

建設業に税務調査が入ったときに備えて、書類の保管や管理を徹底しましょう。

外注業者への用具提供や、指揮監督の元での業務でも外注費になるケースなど、契約書を作成し保管しておくことが必要です。

また、間接工事費の按分に関しても、明文化により説明できるようにしておきましょう。

特に税務調査では、多額の建設工事費が発生する案件や、長期に渡る工事請け負いについて詳しく調査されるため、契約書や台帳関連は徹底した管理が求められます。

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税理士を味方につける

建設業に税務調査が入ったときに備えて、税務調査に対応してくれる税理士を味方につけましょう。

本来、正しい会計処理をしているはずが、説明や反論がうまくできなかったために、多額の追徴課税を納めなければならなくなることは避けるべきです。

税理士と顧問契約を結んでおくと、万一、調査が入ったときでも同席して交渉や説明をしてもらえます。

また、工事の契約書や台帳などを作成する際にも、税務調査が入った場合に備えた書類作成をサポートしてもらえるでしょう。

まとめ

建設業は税務調査の多い業種といえますが、その理由は1件あたりの建設工事費が多額になりやすく、不正があれば国の税収への影響が大きいからです。

建設工事は長期に渡ることが多く、期ズレや間接工事費の按分、人件費と外注費のルールなどにおいて故意ではなくても正しい会計処理が行われていない場合も見られます。

実際に建設業に対する税務調査では、様々な指摘や指導が発生しているため、業界全体で正しい処理を徹底しなければ調査対象になりやすい状況は変わらないといえます。

建設業の税務調査への対策としては、毎年適切申告を行うことと、各種帳簿を徹底して管理・整備することが挙げられます。

指摘された場合にも、正しい会計処理であることを証明できる請求書や領収証などの証拠書類を保存しておけば安心です。

そもそも税務調査に怯えてしまうのは、税金を取られるのではないかと感じるからであり、脱税をしていなければそれほど恐れる必要はありません。

ただし実際に税務調査で確認されるポイントについて準備することも必要といえるため、調査の立ち会いや説明に対応してくれる税理士を味方につけることも検討することをおすすめします。