運転資金の目安は?種類ごとの計算方法や不足を防ぐ方法をわかりやすく解説

会社経営における運転資金の目安は、おおまかに月商の3~6か月程度といわれています。

ただしあくまでも目安であり、業種や会社の成長段階によって必要額は異なるため、運転資金の種類やそれぞれの計算方法により算出した金額を準備しましょう。

日々の資金繰りに頭を悩ませる状態が続けば、本業に専念できず、売上や業績に影響を及ぼすことになりかねません。

そこで、資金繰りに大きくかかわる運転資金の目安について、種類ごとの計算方法や、資金不足に陥らない方法について解説していきます。

運転資金とは

「運転資金」とは、会社経営において発生するさまざまな費用を支払うためのお金です。

会社経営を維持・成長させるために欠かせない資金であり、仕入れ代金や固定費、借入金返済を賄うために必要なお金といえます。

運転資金とは?考え方や種類・計算方法についてわかりやすく解説

運転資金の内訳は、「変動費」と「固定費」の2つに分けることができます。

2つに分ける理由は、売上高に対する利益である「限界利益」や、会社存続において最低限必要といえる「損益分岐点売上高」の目安を知ることも必要だからです。

そこで、次の4つについてそれぞれ説明していきます。

  1. 変動費
  2. 固定費
  3. 限界利益
  4. 損益分岐点売上高

変動費

「変動費」とは、売上の増減によって変動する費用です。

たとえば次のような費用が変動費として挙げられます。

  • 原材料費
  • 仕入原価
  • 外注費
  • 派遣・契約社員の給与
  • 販売手数料
  • 運搬代

変動費は、売上が伸びて利益が上がれば、さらに売上上昇に向けた製造や仕入れに資金を費やすことになります。

投下しなければならないお金が増えれば、変動費として調達しなければならない金額も大きくなるでしょう。

固定費

「固定費」とは、売上の増減に左右されることなく、一定でかかる費用です。

次の費用が固定費として挙げられます。

  • 事務所の家賃
  • 従業員の給与
  • 光熱費
  • リース料

固定費は、多少の変動はあったとしても、それほど大きな変化はなく、一定の金額を負担し続けることになります。

たとえ売上がゼロである場合でも、支払いが必要になり続ける費用です。

限界利益

売上高から変動費を差し引くと「限界利益」を算出できます。

この限界利益は、売上高によってどのくらいの利益が手元に残ったのか表示する数値です。

限界利益=売上高-変動費

売上高に対する限界利益の割合が「限界利益率」であり、売上高により何割の利益が手元に残るか示します。

限界利益率=限界利益÷売上高×100(%)

 

損益分岐点売上高

コスト回収の観点から見た場合に、どのくらいの売上高があれば固定費を賄うことができるか確認できる指標が「損益分岐点売上高」です。

損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率

かかった費用を収益でカバーし、損益がゼロとなる売上高が損益分岐点売上高であり、会社が存続するために最低限必要である売上高ともいえます。

運転資金の目安

運転資金の目安は、一般的に月商の3か月分以上といわれています。

この月商3か月分とはあくまでも最低限必要とされる金額の目安であり、必要とする運転資金が月商の何か月分なのか、その判断は経営状態や成長段階などによって異なります。

ただ、手元に月商の何か月分の資金を保有しているかによって、資金繰りの状況は以下のとおり変わると考えられます。

月商1か月分程度の資金がある場合 資金繰りが厳しい状態である場合が多く、早めの資金調達が必要
月商3か月分程度の資金がある場合 通常の水準であるものの、余裕が十分とはいえないため、資金繰りの見通しに注意しつつ資金調達の準備が必要
月商6か月分以上の資金がある場合 運転資金に余裕がある状態

たとえば新規事業をスタートさせる場合には、最低でも月商6か月分を目安に、運転資金として確保しておくべきです。

開業時の運転資金の借入れでは、売上3か月分程度が目安となるため、自己資金の準備もあわせて必要となるでしょう。

日本政策金融公庫の創業融資でも、運転資金の融資限度額は月商3~6か月分までとされていることからも、無制限に借入れできるわけではないことが確認できます。

事業がスタートした後に、売掛金の回収が遅れたり不良債権化したりなど、万一のトラブルが発生したときにも事業継続できる体制を整えておくべきです。

仮に月商1か月分程度の運転資金では、売掛金の回収遅れで資金ショートする可能性も高くなるため、安定経営に向けて3~6か月分を目安に準備しておきましょう。

運転資金の計算方法とは?必要資金の目安や調達方法をわかりやすく解説

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運転資金の種類

事業運営において必要な運転資金は、成長段階などに応じて次の5つの種類に分けることができます。

  1. 経常運転資金
  2. 増加運転資金
  3. 減少運転資金
  4. 季節性運転資金
  5. その他運転資金

それぞれの運転資金について説明していきます。

経常運転資金

「経常運転資金」とは、事業を運営する上で常時必要となる資金です。

会社経営における一般的な「運転資金」とは、この「経常運転資金」を指しています。

経常運転資金に含まれるのは、毎月支払いが必要になる以下の費用などです。

  • 事務所の賃料
  • 仕入れ代金
  • 従業員の給与
  • 広告宣伝費

どのくらいの経常運転資金が必要になるのか、その目安は次の計算式で知ることができます。

運転資金=売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産-仕入債務(買掛金・支払手形)

増加運転資金

「増加運転資金」とは、事業を拡大したことで増えた売上に対する運転資金です。

売上が大きくなれば、その分、新規取引先を開拓したり販売数を増したり、それに伴う仕入れや従業員の増加で資金が必要になります。

会社や事業が成長することで増える運転資金といえるため、十分な増加運転資金が準備できなかった場合、利益が出ているのに倒産してしまう「黒字倒産」のリスクを高めることになるでしょう。

黒字倒産を避けるためにも、どのくらいの増加運転資金が必要なのか把握しておき、不足しないための資金調達が重要です。

増加運転資金の目安を知りたいときには、たとえば通常必要である運転資金が以下のケースで考えてみましょう。

  • 売上債権200万円
  • 棚卸資産200万円
  • 仕入債務150万円

この場合の経常運転資金は、先に説明した計算式にあてはめると以下のとおりです。

  • 運転資金250万円=売上債権200万円+棚卸資産200万円-仕入債務150万円

しかし業績が上がったことにより、以下のとおりすべてが2倍になれば、運転資金も倍必要となります。

  • 売上債権400万円
  • 棚卸資産400万円
  • 仕入債務300万円

 

  • 運転資金500万円=売上債権400万円+棚卸資産400万円-仕入債務300万円

通常時の250万円の運転資金に加え、別途250万円の増加運転資金が必要になると考えることができます。

また、人手を増やすことも必要となり、固定費を考慮した上での増加運転資金が必要となるでしょう。

減少運転資金

「減少運転資金」とは、売上が減少したことで負担が重くなった固定費支払いに充てるための運転資金です。

たとえ売上がゼロになったとしても、事務所の家賃や従業員の給与などは継続して支払うことが必要となります。

そのため売上が上がっていないことにより手元の資金が不足していれば、別途、固定費等の支払い分を減少運転資金として調達し補うことが必要です。

季節性運転資金

「季節性運転資金」とは、通常時には必要ではなく、特定の季節や時期に必要となる運転資金です。

たとえば次の時期などの準備することが多いといえます。

  • 従業員の賞与月
  • 季節商品で利用率が低下する月
  • クリスマスや正月などイベント商品を大量仕入れする月

対象となる月や何に使うお金なのかが明確であり、どのくらいの金額が必要か把握しやすいため、慌てて資金調達することのないように前もって準備をしておきましょう。

その他運転資金

「その他運転資金」とは、取引先との契約内容変更などにより、一時的に資金が不足するケースなどで必要となる運転資金です。

一時的に売掛金の入金が遅れることとなり、現金化できない売掛債権が増えたときにも運転資金を調達しなければなりません。

仕入れ代金の支払サイトに関して、取引先から現在よりも短くしてほしいと交渉されたときや、掛けではなく現金決済に変えられてしまった場合なども運転資金が必要となります。

想定していなかった事態により発生する運転資金であり、状況が改善されるまでは調達して補うことが必要となるでしょう。

正確な運転資金の目安

どのくらいの運転資金を調達するべきか、おおよその目安は先に説明したとおり、経常運転資金の計算式で算出できます。

(経常)運転資金=売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産-仕入債務(買掛金・支払手形)

ただ、上記の計算式は、常時必要となる経常運転資金の目安です。

さらに正確な運転資金の調達額を知りたいなら、次の計算方法で算出した金額を目安にしてください。

  1. 手元に保有しておくべき金額の目安
  2. 必要日数あたりの金額の目安

それぞれの金額の目安について説明していきます。

手元に保有しておくべき金額の目安

上記で算出した経常運転資金に利益と借入金の返済を加減することで、どのくらいの金額を手元に保有しておくべきか、その目安を知ることができます。

最低限保有するべき現預金の目安=経常運転資金-利益(売上-経費)+借入返済

手元の資金がこの金額を下回った場合、かなり資金繰りが厳しくなる可能性があるため、資金調達が急務となることを認識しておきましょう。

必要日数あたりの金額の目安

何日間でどのくらいの運転資金を準備するべきか、その金額の目安は以下の計算式で算出できます。

運転資金=平均月商 ×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間)

それぞれの回転期間は、次のような意味を示します。

売上債権回転期間 売上による債権発生から回収されるまでの期間
棚卸資産回転期間 販売した在庫商品の代金を回収するまでの期間
買入債務回転期間 仕入れによる債務発生から代金を支払うまでの期間

売上債権を回収するまでの期間と、仕入による債務支払いまでの期間のタイムラグを埋めるために運転資金が必要です。

そのため、タイムラグの大きさを知ることで、どのくらいの運転資金が必要なのか、その目安を正確に知ることができます。

また、毎月の資金繰りを適正に把握するために、資金繰り表を作成して管理していきましょう。

運転資金不足を防ぐ方法

運転資金が足らなくなれば、銀行融資など外部から調達すればよいと安易に考えるのではなく、そもそもなぜ不足してしまうのか、その原因を洗い出し改善しましょう。

手元の運転資金が不足することを防ぐために、次の2つを実行していくことをおすすめします。

  1. 入金サイト・支払サイトを見直す
  2. 棚卸資産の回転率を見直す

入金サイト・支払サイトを見直す

資金化のサイクルが長ければ長いほど、売上が発生しても入金される時期が遅いため、それまで手元の資金で事業を経営し続けなければいけません。

ただ、手元の資金には限りがあるため、必然的に運転資金が不足しやすくなります。

反対に信用取引の決済タイミングが早い場合も、運転資金が不足しやすい傾向にあります。

信用取引の決済タイミングが早かったら、早いうちに資金を払わなければいけないため、入金があるまで手元の資金で何とか事業運営をしていかなければいく必要があるでしょう。

また、信用取引の場合は確実に元金が戻ってくる保証もありません。これを機に、信用取引の利用方法について考え直した方がよいです。

棚卸資産の回転率を見直す

棚卸資産は、回転率が悪ければ運転資金が不足しやすくなります。

回転率とは、在庫の1年間での入れ替わりを示します。

まず、年間で棚卸資産が何回転しているのか、次の計算式で確認してみましょう。

棚卸資産回転率=売上高÷棚卸資産

たとえば棚卸資産回転率が13回だった場合、1年間で棚卸資産が13回転したことになり、365日÷13回転=28日となるため、28日間かけて1回販売していることを意味します。

棚卸資産回転率は業種ごとに目安は異なるものの、たとえば流通業なら20回転以上、製造業なら12回転を基準として在庫を管理しましょう。

また、在庫1回転にかかる日数は、次の棚卸資産期間を算出することで確認できます。

棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(売上高÷365日)

棚卸資産回転期間はできるだけ短いほうが望ましいといえますが、自社の棚卸資産回転率と棚卸資産回転期間を把握した上で仕入数など再検討するとよいでしょう。

まとめ

運転資金の目安は、通常であれば月商の3~6か月分といわれています。

ただし会社の成長ステージや、経営状況や資金使途などによっても、どのくらいの金額を調達するべきか変わります。

新規開業の際や、急激に売上が成長しているとき、反対に落ち込んでいるときには、想定していたよりも多くの運転資金が必要になることもあります。

急激な売上の変化などに耐えることのできる資金が手元になければ、たとえ利益が出ていても黒字倒産するリスクを高めるため、最低でも月商3か月程度の資金は手元に置いておくようにしましょう。