法人の消費税免除の要件とは?税金の納税義務から免れるケースを解説

法人として活動するには会社を設立しますが、起業後2年間は消費税が免除されることがあります。

ただ、どのような場合でも消費税が免除されるわけではなく、一定の要件を満たすことが必要です。

そこで、法人の消費税免除の要件や、納税義務から免れるケースについて解説していきます。

消費税とは

「消費税」とは、商品販売やサービス提供の際に課税される間接税です。

事業者が税負担をするわけではなく、販売する商品やサービスの価格に含まれるため、購入する消費者が負担します。

消費者が支払った商品税を事業者が一旦預かり、申告・納税するという流れです。

消費税を納める事業者が、課税売上にかかる消費税額から課税仕入などにかかる消費税額を差し引いた残りを納めます。

消費税の納税義務者

消費税の「納税義務者」とは、消費税を納める義務のある「事業者」です。

事業者でなければ消費税を納税する義務はありません。

「事業者」とは、製造・卸・小売・サービスなどの各段階で事業を行う個人と法人です。

法人格が株式会社に限らず、公共法人や公益法人なども法人に含まれます。

また、事業者が国内で事業として対価を得て行う資産譲渡・資産貸付け・役務提供は消費税の課税対象となります。

対価を得て行う取引の事業者は、ほぼ消費税を納めなければならないと考えられるでしょう。

ただ、一定の要件を満たすことで消費税の納税義務を免除される事業者もあるため、主に次の2つの事業者に分けることができます。

  1. 消費税の課税事業者
  2. 消費税の免税事業者

それぞれの事業者について説明していきます。

消費税の課税事業者

消費税の「課税事業者」とは、消費税を納める義務を負った事業者です。

そもそも消費税を支払っているのは、商品やサービスを購入した消費者ですが、直接、納付するわけではありません。

事業者が販売する商品やサービスの代金に上乗せし、消費者が支払った消費税を事業者が預かります。

その後、事業者が売上で預かった消費税から仕入れなどで支払った消費税を差し引いて税額を計算し、申告・納税します。

そして、すべての事業者が消費税を納めているのではなく、納付義務を免除された免税事業者以外の課税事業者のみです。

消費税の免税事業者

消費税の「免税事業者」とは、消費税の納税義務を免除された事業者です。

免税事業者も課税事業者と同じように、消費税のかかる商品やサービスを販売するときには、代金に消費税額を上乗せして請求します。

消費税法で課税対象となる取引が以下のとおり定められているため、免税事業者と課税事業者に関係なく、請求することが必要だからです。

  • 日本国内で事業者が事業として行う取引
  • 対価を得て行う取引
  • 資産譲渡・資産貸付け・役務提供である取引

ただし免税事業者の場合、消費税を納める必要がないため、消費者から受け取った消費税は「仮受消費税」として計上せず、「売上」に含めます。

免税事業者か課税事業者かの判定は、一定期間の課税売上高または給与等支払額、資本金額で行われます。

法人であれば、前々事業年度の課税売上高が1,000万円以下なら免税事業者として、消費税の納税義務が免除されることが一般的です。

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消費税の計算方法

課税事業者の場合、次の計算方法で納める税金を計算します。

  1. 一般課税方式
  2. 簡易課税方式

一般課税方式はどなたでも選択できる計算方法であり、簡易課税方式は法人であれば前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下の事業者(事前の届出が必要)が選択できる計算方法です。

選択する計算方法によって納税額が変わることもあるため、どちらが有利か確認しておきましょう。

一般課税方式

「一般課税」では、商品やサービスの売上により受け取った消費税から、仕入れなどで支払った消費税を差し引いて計算します。

納付税額=売上にかかる消費税額(課税期間の課税売上高×10%)-仕入れ等にかかる消費税額(課税期間の課税仕入高×10%)

上記の計算の際には、課税売上と非課税売上への区分と、仕入れに関する課税売上と非課税売上に対応する分類が必要です。

なお、仕入等にかかる消費税額は、課税売上割合が95%以上の場合には、全額控除することができます。

簡易課税方式

「簡易課税方式」では、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を用いて消費税額を計算します。

消費者から預かった消費税額が把握できれば計算できるため、手間がかからない方法といえるでしょう。

納付税額=売上にかかる消費税額(課税期間の課税売上高×10%)-売上にかかる消費税額×みなし仕入れ率

みなし仕入れ率は、業種ごとに以下のとおり割合が異なります。

事業区分 業種 みなし仕入率
第1種事業 卸売業 90%
第2種事業 小売業・農林水産業(食用) 80%
第3種事業 農林水産業(食用以外)・鉱業・建設業・製造業・電気業・ガス業・熱供給業・水道業 70%
第4種事業 第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業、第6種事業以外の事業 60%
第5種事業 運輸通信業・金融業および保険業・サービス業(飲食店業以外) 50%
第6種事業 不動産業 40%

簡易課税方式のほうが簡単に計算しやすいといえるものの、一度選択すれば2年間は適用を変更できないことは留意しておいてください。

消費税が免除される法人

法人であれば、必ず消費税の納税義務があるわけではなく、次に該当する法人かによって課税事業者か免税事業者か分かれます。

資本金が1,000万円以下の新規設立法人
基準期間の課税売上高が1,000万円以下の法人

それぞれどのような法人なら消費税が免除されるのか説明していきます。

資本金が1,000万円未満の新規設立法人

設立して2期以内の新設法人の場合、基準期間の課税売上高が存在しません。

基準期間とは、納税義務の判定基準である期間であり、法人であれば前々事業年度のことです。

そのため資本金による判定が用いられることになり、資本金1,000万円未満であれば、設立当初2年間は免税事業者となります。

なお、一定要件を満たす新規設立法人については、消費税の納税義務が免除されない「特定新規設立法人の納税義務免除の特例」があるため、注意が必要です。

「特定新規設立法人の納税義務免除の特例」とは

「特定新規設立法人の納税義務免除の特例」とは、新規設立法人である場合でも、親会社や親会社の特殊関係法人などの基準期間における課税売上高が5億円を超えるときには、課税事業者に該当するという特例です。

次の2つの要件を満たす新規設立法人であれば、特定新規設立法人となるため課税事業者に該当し、消費税は免除されません。

  • 新規設立法人の基準期間がない事業年度開始日において、他の者により新設法人の株式等の50%超を直接または間接に保有されるなど、他の者に支配される一定の特定要件に該当する場合
  • 上記の特定要件に該当するか判定の基礎となった他の者および他の者と特殊な関係にある特殊関係法人のうち、いずれかの事業年度の基準期間に相当する期間における課税売上高が5億円を超えている場合

詳しくは、国税庁の公式サイトの「特定新規設立法人の納税義務免除の特例」を参考にしてください。

2期目の消費税免除の要件

新設法人の場合、法人設立後の1期と2期は基準期間がないため、原則、消費税の納税義務は免除されます。

平成25年1月1日以後に開始する事業年度からは、上記の要件に加えて、「特定期間」の課税売上高(または給与等支払額の合計)が1,000万円を超えれば課税事業者になるという要件が追加されています。

ただし1期の事業年度が7か月以下の場合は、その期間は特定期間に該当しないため消費税の納税義務はありません。

特定期間については、後述している「特定期間の課税売上高または給与等支払額が1,000万円以下の法人」で詳しく説明します。

基準期間の課税売上高が1,000万円以下の法人

基準期間における課税売上高が1,000万円以下の法人なら、消費税の納税義務が免除されます。

なお、基準期間は、法人であれば2期前の事業年度ですが、個人事業者であれば2年前の1月から12月までの期間です。

特定期間の課税売上高または給与等支払額が1,000万円以下の法人

基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者で、「消費税課税事業者選択届出書」を提出していない場合には、「特定期間」の課税売上高または給与支払額で納税義務の判定を行います。

「特定期間」とは、法人では前事業年度開始から6か月間、個人事業者は前年の1月1日から6月30日までです。

特定期間における課税売上高または給与等支払額の合計が1,000万円を超えている場合には、消費税の納税義務がある課税事業者と判定されます。

給与等支払額とは、所得税の課税対象とされる給与・賞与などが該当します。

所得税が非課税となる通勤手当や旅費などは該当せず、未払額も含まれません。

インボイス制度導入の影響

消費税の免税事業者は、消費税の納税義務がないため、申告などの手間を省くことができます。

ただし、消費税が免除される免税事業者に該当する場合でも、2023年10月1日から導入の「インボイス制度」によって、課税事業者にならざるをえない可能性も考えられます。

なぜなら、インボイス制度導入後に仕入税額控除を受けるためには、適格請求書発行事業者の交付する「適格請求書」が必要になるからです。

適格請求書を発行できるのは消費税の課税事業者であり、適格請求書発行事業者の登録申請を済ませている事業者だけとされています。

インボイス制度導入により、免税事業者は適格請求書を発行できないため、課税事業者と免税事業者の取引それぞれに影響が及ぶことが考えられます。

  1. 課税事業者に対する影響
  2. 免税事業者に対する影響

それぞれの立場でどのような影響が考えられるか説明していきます。

課税事業者に対する影響

課税事業者の場合、「適格請求書発行事業者」の登録申請を行って「登録事業者番号(インボイス登録番号)」を取得することにより、「適格請求書(インボイス)」を発行できます。

取引先が免税事業者の場合には適格請求書が発行されないため、取引による消費税相当額は仕入税額控除の対象には含まれません。

ただし、インボイス制度導入後の事業者負担を軽減するため、一定の経過措置や負担軽減措置が設けられています。

適格請求書発行事業者以外との取引による適格請求書以外の請求書でも、2029年9月30日までは一定割合の仕入税額控除を受けることができます。

控除の割合は、次のように段階的に設定されています。

  • 2023年10月1日~2026年9月30日まで…80%控除
  • 2026年10月1日~2029年9月30日まで…50%控除

100%控除ではないため税負担が増えると考えられるものの、仕入税額控除がゼロになるわけではないため、状況に応じた対応が必要です。

免税事業者に対する影響

免税事業者の場合、インボイス制度が導入されることによって、課税事業者として「適格請求書発行事業者」になることを求められる可能性があります。

課税事業者にならなかった場合、既存の取引を打ち切られることや、新規取引を獲得することが難しくなるといったリスクも考えられます。

仮に課税事業者になった場合、適格請求書発行事業者の登録申請を行うことで「適格請求書(インボイス)」は発行することができるものの、免除されていた消費税は納めなければなりません。

これまでのように受け取った消費税をそのまま売上に計上することはできず、消費税の計算や申告などの余計な事務負担も増えることになります。

ただ、免税事業者がインボイス制度導入に対応するために課税事業者かつ適格請求書発行事業者になった場合には、2026年9月30日までの課税期間において消費税納税額を売上税額の2割にすることはできます。

特に事前の届出などは行う必要はなく適用を受けることができるため、取引先との関係なども踏まえた検討が必要といえるでしょう。

まとめ

法人として活動するために新規で会社を設立し、起業した後2年間は消費税が免除されることが多いですが、どのような場合でも免除されるわけではないため一定の要件など確認しておきましょう。

2023年10月1日からは、ついにインボイス制度が導入され、課税事業者と免税事業者それぞれに影響が及ぶと考えられます。

課税事業者と免税事業者それぞれに設けられている経過措置なども踏まえた上で、過度な業務負荷や不利益など被ることのない適切な対処が求められます。