法人登記とは、会社概要を法務局に登録し、法人として公的に認めてもらう制度です。
個人事業主から法人化するときにも法人登記が必要であるものの、それによるメリットやデメリットが理解できていなければ無駄な手続になる恐れもあります。
そこで、法人登記について、個人事業主が法人化するメリットやデメリットをわかりやすく解説します。
法人登記とは
「法人登記」とは、会社以外の法人の商号・名称・所在地・役員氏名などを一般の方たちに発表して示すための制度です。
会社を立ち上げるときの登記が「法人設立登記」であり、設立登記の申請日が法人設立日となります。
基本的な会社の情報が登記により法務局の公開された帳簿に記載されるため、誰でもその情報を確認できます。
会社を設立するときには登記が必須となり、法人として登記されているからこそ信用を獲得できるといえます。
法務局で発行される登記事項証明書は登記簿謄本であり、法人であることの証明として使用できます。
法人登記と商業登記の違い
法人登記と商業登記は、一般的に同じ意味で使用されることがあるものの、厳密には異なる制度です。
まず「商業登記」は、株式会社・合名会社・合資会社・合同会社などの「会社」についての商号・名称・所在地・役員氏名などを公示するための登記制度です。
もう一方の「法人登記」は、一般社団法人・一般財団法人、NPO法人、社会福祉法人などの「法人」について商号・名称・所在地・役員氏名などを公示するために行います。
商業登記は商法の規定で商業登記簿に記載する登記であり、商人に関する取引上の重要事項を公示するための制度とされています。
法人登記は会社以外の「法人」が対象であるものの、制度として設けられている目的は同じです。
ただ、特に上記のような分別はなく、商業登記と法人登記を同じ意味として使用されることが多いといえます。
会社や法人に対する登記を「会社登記」と呼ぶことも多いといえるでしょう。
個人事業主と法人の違い
個人事業主が会社を設立し、法人として経営することを「法人成り」といいます。
そもそも個人事業主と法人の違いは、事業に対する責任を誰が負うかです。
個人事業主として事業を営んでいれば、当然、その事業主が事業に対するすべての責任を負います。
事業用として借入れたお金を事業用の財産から返済できなければ、事業主のプライベートの財産から返すことも必要です。
しかし法人化している場合、事業の責任は代表者ではなく法人が負います。
法人として事務所を賃貸するときや銀行から融資を受ける場合は、法人名義で契約を結びます。
そのため賃貸料を支払う義務や借入れの返済責任は法人にあり、代表者が支払い義務等を負うことはありません。
なお、中小企業が銀行からお金を借りるとき、代表者を連帯保証人にする人的保証を求められることが多いといえます。
しかし法人と代表者個人はあくまでも別人格であると理解しておきましょう。
法人登記の流れ
法人登記や商業登記など、会社登記を行うときには次の5つの流れで手続が進みます。
- STEP1:会社概要の決定
- STEP2:法人の印鑑作成
- STEP3:設立方法の選択
- STEP4:定款認証を受ける
- STEP5:出資金の払い込み
それぞれ段階ごとに説明していきます。
STEP1:会社概要の決定
会社の商号・本店所在地・事業目的・資本金など、設立する上で必要な事項を決めます。
なお、商号に関しては同一や類似の名称が使われていないか、調査することも必要です。
STEP2:法人の印鑑作成
会社を設立するときには、会社専用の印鑑を実印として登録するため、印鑑を注文しましょう。
実印は丸印が使われることが多く、実印以外にも認印として使用される角印や、銀行印、ゴム印なども作成します。
STEP3:設立方法の選択
会社設立は、発起設立と募集設立の2つの種類があります。
発起設立は、発行株式の全部を発起人が引き受けます。
募集設立では発行株式の一部を発起人が引き受け、残りの株式は引受人を募ります。
一般的には発起設立で登記されることが多いといえます。
STEP4:定款認証を受ける
定款は設立事項をもとに作成されますが、次の3つの事項があります。
- 絶対的記載事項(必ず記載することが必要な事項)
- 相対的記載事項(定めるときに記載しなければ効力がなくなる事項)
- 任意的記載事項(記載に関係なく効力は変わらない事項)
定款作成後は、公証役場で認証してもらうことが必要です。
持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)を設立する場合は、定款認証は必要ありません。
STEP5:出資金の払い込み
定款認証手続後は、出資金を払い込むことが必要です。
出資金とは資本金のことであり、払い込みは次の3つを流れとして押さえておきましょう。
- 払い込み預金口座を決定する
- 出資金の振り込みをする
- 払い込みがあったことを証する書面を作成する
それぞれ説明します。
①払い込み預金口座を決定する
出資金の払い込み預金口座は、会社としてまだ成立する前のため、発起人の個人口座を使います。
会社を成立した後は、発起人の個人口座から法人口座へ振り替えることが必要です。
成立後も取引を継続する金融機関の口座を使ったほうがスムーズといえます。
②出資金の振り込みをする
出資金の払い込みは「振り込み」による方法を使います。
すでに残高が資本金額に足りていた場合でも、一旦は引き出し振り込んだ形跡が確認できるようにしましょう。
③払い込みがあったことを証する書面を作成する
振込完了後は、通帳履歴を出資金の払い込み証明に使用します。
入金履歴が確認できる部分の写しを「払い込みがあったことを証する書面」として作成し、登記申請に添付しましょう。
STEP6:登記申請手続
STEP1~5までの段階をすべて終えると、いよいよ法務局で登記申請の手続を行います。
登記を申請した日が会社の設立年月日になるため、吉日や記念日などを設立日にしたいときには、申請する日に注意してください。
登記申請手続は、次の3つの流れで行います。
- 必要書類の準備
- 登記申請書の作成・提出
- 登記完了
それぞれ説明します。
①必要書類の準備
登記申請に必要な書類は以下のとおりです。
登記申請書 | 定められた書式で作成した登記申請書(書式は法務局のホームページからダウンロード可能) |
定款 | 法人の組織・活動について定めた規則を記した書面 |
資本金払込証明書 | 発起人の代表者口座に資本金を払い込んだ証明書(通帳の写し) |
発起人の決定書 | 定款で本店所在地を番地まで定めていない場合、発起人全員で決定した決定書の作成が必要 |
就任承諾書 | 会社の役員に就任することを承諾したことを証明する書面で、取締役・代表取締役・監査役の就任承諾書が必要 |
印鑑証明書 | 取締役の印鑑証明書(発行から3か月以内のもの) |
印鑑届書 | 会社の実印登録のために必要 |
②登記申請書の作成・提出
法務局のホームページから、ダウンロードできる書式を参考にし、登記申請書を作成します。
本店所在地を管轄する法務局へ、登記申請書と添付書類を提出しましょう。
③登記完了
申請後、登記官の審査を経て特に問題がなければ1週間から10日程度で登記は完了します。
登記完了後は登記事項証明書を取得しておきましょう。
法人成りのメリット
商業登記や法人登記などの会社登記により、個人事業主が法人成りすることには次の2つのメリットがあります。
- 信用力が上がる
- 税制面で優遇される
それぞれのメリットを説明します。
信用力が上がる
個人として事業を営むよりも、法人として会社を経営したほうが信用力は上がります。
個人事業主と異なり、法人は登記されなければ会社として運営できず、基本的な情報も法務局で誰でも取得できます。
銀行など金融機関で融資を受けるときや新規取引先との契約においても、個人事業主としてではなく法人の方が有利です。
税制面で優遇される
個人事業主として事業を営み、だんだんと利益が増えてくれば、所得税の負担が重くなります。
所得税の税率は最大45%で、累進課税制のため所得が増えれば増えるほど、税率は上がる仕組みです。
しかし法人が納める法人税は、法人規模により固定され、最大でも税率は23%程度に抑えられます。
そのため利益が増えているのなら、法人なりで節税効果を見込めます。
たとえば課税所得金額が900万円の場合、個人事業主の所得税率は33%であるのに対し、法人税率は23.9%なので約10%の差があります。
法人成りのデメリット
個人事業主が法人成りすると、信用力や税優遇などのおけるメリットはあります。
しかし個人事業主の法人なりには、会社設立に関する費用が発生します。
法律上は、資本金を1円に設定して会社を設立することも可能です。
ただし資本金平均額は約300万円であり、会社設立の準備金は平均500万円程度です。
資本金の300万円を差し引けば、その他の創立費と開業費で200万円程度必要と計算できます。
仮に資本金1円で法人成りする場合でも、定款認証手続には認証手数料・謄本作成・収入印紙代などで約6万円を負担しなければなりません。
さらに登記の際にも、次の登録免許税を納めます。
- 合同会社6万円
- 株式会社15万円
登記申請手続を司法書士など専門家に依頼した場合、専門家への報酬も発生します。
会社用の印鑑作成費用や、印鑑証明書と登記事項証明書の取得費用などもあわせれば、最低でも20万円程度の費用の準備が必要です。
会社設立後は、社会保険への加入や日々の記帳に税務申告なども必要となることも踏まえ、色々な費用が発生すると理解しておきましょう。
まとめ
法人登記は会社を設立するときの登記であり、会社経営をしている証拠となるため、社会的な信用は上がります。
個人事業主で利益が増えてきた場合、法人成りを検討することはめずらしいことではありません。
司法書士などの専門家に登記手続を依頼することが多いものの、代表者本人で申請することもできます。
法人として事業を営むメリットとデメリットを踏まえた上で、法務局の担当者に相談しながら準備を進め、ミスの内容に手続をするとよいでしょう。