運転資金は企業経営に欠かせないお金ですが、必要額が増加することもあるため、その要因を理解しておく必要があります。
特に売上拡大を要因に必要となる増加運転資金については、事業成長の過程で必要となる資金であるため、不足するリスクや発生要因を分析する方法など理解しておくことが大切です。
そこで、増加運転資金が足らずに黒字倒産してしまうことを防ぐためにも、運転資金が増加する要因や増加運転資金について、発生要因の分析方法を解説していきます。
目次
増加運転資金とは
「運転資金」とは、事業運営で必要となるお金です。
たとえば次の費用を支払うために、準備しておかなければならない資金といえます。
- 材料費など仕入代金
- 事務所の家賃
- 水道光熱費
- 通信費
- 従業員に対する給与
- 広告宣伝
- 外注費
- 保険料
- 税金
増加運転資金について、次の2つを理解しておくことが必要です。
- 不足する要因
- その他運転資金との違い
それぞれ説明していきます。
不足する要因
「増加運転資金」とは、売上拡大を要因として必要となる運転資金です。
現状維持にとどまらず、売上が増えているなど事業の成長段階において必要になる運転資金であり、仕入れ増加や人員増員などの費用に充てる資金といえます。
売上が伸びて利益が出ていたとしても、増加運転資金が足らなければ「黒字倒産」するリスクが高くなります。
計上する売上と売掛金が増えたことで仕入れも増やせば、当然、買掛金も増加します。
売掛債権を回収する前に買掛金の支払いに充てる増加運転資金が必要であることを留意しておきましょう。
その他運転資金との違い
増加運転資金と、次の3つの運転資金との違いを説明します。
- 経常運転資金
- 減少運転資金
- 季節運転資金
経常運転資金
「経常運転資金」とは、事業を維持・継続するため、恒常的に必要である運転資金です。
一般的に、「運転資金」とはこの経常運転資金のことを指しており、会社運営において欠かせない資金といえます。
先に例として挙げた仕入代金や人件費などは経常運転資金に含まれます。
減少運転資金
「減少運転資金」とは、事業縮小のためにかかる運転資金です。
売上が低迷した場合など、経営不振によりそれまで負担が大きく感じることのなかった仕入れ代金や人件費、固定費の支払いに充てる資金といえます。
季節運転資金
「季節運転資金」とは、イベントシーズンなど、特定の季節のみ必要となる運転資金です。
クリスマスやお正月などのイベントに向けた仕入れでまとまったお金が必要になることもあれば、従業員に対する夏・冬のボーナスの支払いに充てる資金が必要になることもあります。
毎年決まった時期に必要となる運転資金であるため、いつまでに準備しなければならないのか、タイミングを把握しつつ早めに対応しておきましょう。
増加運転資金が不足するリスク
増加運転資金は、売上が増加することを要因として必要になる運転資金です。
基本的に売上増加に比例して、仕入量や人件費なども増えることになるため、売上増加した分は増加運転資金も多く必要といえます。
本来、売上が増えることは喜ばしいことであるものの、既存取引先との販売数または販売量が増えることや、新規取引先との契約などで通常の運転資金では不足する可能性があります。
その結果、利益は出ていて黒字であるのにも関わらず、手元の資金不足でショートし、黒字倒産してしまいます。
通常の事業活動を維持するための運転資金は、以下の計算式で算出されます。
運転資金=売上債権+棚卸資産-買入債務
しかし売上増加が見込まれる場合には、上記で算出した以上の運転資金が必要であることを認識しておき、運転資金の調達を図るようにしましょう。
増加運転資金の考え方
増加運転資金が足らなくあれば、黒字倒産してしまうリスクを高めます。
そのため増加運転資金がどのくらい必要なのか、不足分の資金を捉えておくことが必要です。
たとえば、売上債権の入金は2か月後で、買掛金の支払いは1か月後の支払いサイトで取引をしているとします。
毎月おおよそ100万円の売上がある事業において、売上向上により100万円から200万円へと増加したとしましょう。
この場合、通常の2倍の運転資金が必要となりますが、売上代金が入金されるまで立て替えるお金が増えることになります。
そのため今よりも資金繰りは苦しくなり、通常よりも多くのお金が必要となるといえます。
手元に余裕資金があれば、増えた運転資金に充てることができるでしょう。
しかし余裕資金がない場合には、取引先と支払日を交渉したり資金調達したりなど、資金繰りに頭を悩ますことになりかねません。
また、増加運転資金を必要とするほどの大口受注の案件に関しては、取引先の与信管理も重要です。
一般的な運転資金の計算方法
運転資金は一般的に、月商の3~6か月分が目安といわれています。
具体的な金額については、以下の計算資金で算出できます。
運転資金=売掛債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産-買入債務(買掛金・支払手形) |
また、以下の計算式でも算出することができます。
運転資金=(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間)×月商 |
上記の計算資金をもとに、次の4つについて説明していきます。
- 売上債権回転期間
- 棚卸資産回転期間
- 買入債務回転期間
- 月商
売上債権回転期間
「売上債権回転期間」とは、売掛金や受取手形などの売上債権を回収するまでにかかる長さです。
売上債権回転期間=売上債権÷売上高×365日 |
数値が小さいほど、短期間で回収できていることを示します。
棚卸資産回転期間
「棚卸資産回転期間」は、在庫を出荷するまでの長さを示します。
棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(売上高÷365) |
仕入れた商品や製品は、できるだけ効率的に販売し、在庫として残さないほうが望ましいといえます。
買入債務回転期間
「買入債務回転期間」は、仕入れ代金などの買掛金や支払手形を支払うまでの月数です。
買入債務回転期間=買入債務÷(売上原価÷12) |
支払うまでの期間が空いていれば、売掛金の回収分を充てることもできるでしょう。
しかし支払いまでの期間が短い場合、手元の資金が不足しやすくなるため、足らなくなる前に運転資金を調達しなければなりません。
月商
「月商」とは、事業における月の総売上です。
月商=年商(売上高)÷12 |
季節性の変動が生じやすい業種においては、月の売上が一定ではないことを考慮した上での資金調達が必要となります。
増加運転資金の計算方法
増加運転資金は、売上増加を要因として必要となる資金ですが、以下の計算式で算出できます。
増加運転資金=(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間−買入債務回転期間)×売上増加後の1日あたりの売上高 |
たとえば、以下のケースでの増加運転資金を計算してみましょう。
売上債権回転期間20日 棚卸資産回転期間20日 買入債務回転期間10日 従来の1日あたりの売上高10万円 増加した1日あたりの売上高20万円 |
この場合、従来の運転資金は以下のとおりとなります。
300万円=(20日+20日−10日)×10万円 |
これに対し、売上増加後の運転資金は以下に変化します。
600万円=(20日+20日−10万円)×20万円 |
1日あたりの売上が倍になったことで、運転資金も倍になり、300万円増加しています。
現状の運転資金と売上が増えた後の運転資金は、総額どのくらい必要なのかを把握しておくことが大切です。
増加運転資金の発生要因と確認方法
増加運転資金は、基本的に売上が増えたことを要因として必要になる運転資金です。
ただ、具体的な発生の要因を知りたいのなら、次の3つについて確認しましょう。
- 売上債権回転期間の長期化
- 棚卸資産回転期間の長期化
- 買入債務回転期間の短期化
それぞれの確認方法について説明していきます。
売上債権回転期間の長期化
増加運転資金の要因が、売上債権回転期間の長期化に伴うものか確認する際には、以下の計算式を参考にしましょう。
売上債権回転期間=売上債権の金額÷1日当たりの売上高 |
従来よりも回転期間が長期化している場合には、売掛金や受取手形などを回収するまでの期間が、増加運転資金の要因になっていると考えられます。
棚卸資産回転期間の長期化
増加運転資金の要因が、棚卸資産回転期間の長期化に伴うものか確認する際には、以下の計算資金を参考にしましょう。
棚卸資産回転期間=棚卸資産の金額÷1日当たりの売上高 |
棚卸資産回転期間は、在庫などを出荷できるまでの期間ですが、従来よりも長期化していれば不良在庫が増加運転資金の要因になっていると考えらえます。
買入債務回転期間の短期化
増加運転資金の要因が、買入債務回転期間の短縮化に伴うものか確認する際には、以下の計算資金を参考にしましょう。
買掛債務回転期間=買掛金の金額÷1日当たりの売上高 |
回転期間が通常よりも短い場合には、仕入れ代金などの買掛金や支払手形の支払いサイトが短くなっていることが、増加運転資金の容認になっていると考えられます。
増加運転資金の調達方法
増加運転資金が必要な場合において、その調達方法を銀行融資などで頼る際には、売上増加という前向きな理由による借入れのため、金融機関側も積極的に対応してもらいやすいといえます。
ただ、売掛金が多く発生しているため、オフバランス化などで決算書の見た目にもこだわったほうがよいでしょう。
そのため、増加運転資金の調達方法として、次の4つが候補として考えられます。
- 日本政策金融公庫の融資
- 地方自治体の制度融資
- 民間銀行の融資
- ファクタリング
それぞれの調達方法について説明していきます。
日本政策金融公庫の融資
日本政策金融公庫は「政府系金融機関」の1つであり、国が100%出資・運営しています。
そのため営利目的ではなく、経済発展や中小企業の活動支援などを積極的に行っており、事業目的などに応じた融資制度を複数設けています。
たとえば「新創業融資制度」などであれば、融資限度額1,500万円の運転資金を、無担保・無保証で借りることができます。
ただし提出書類が多いため、準備には手間や手間がかかることを踏まえ、余裕を持って申し込むことが必要です。
地方自治体の制度融資
「制度融資」とは、自治体・金融機関・信用保証組合が連携した融資です。
中小企業や小規模事業者の資金支援を目的としているため、低金利での借入れが可能であることや、保証料や利子の一部を負担してくれる自治体もあります。
上限や金利は自治体によって異なり、自己資金や事業計画によっても変わってきます。
一般的には上限3千万円程度の借入れが可能であることが多いといえますが、審査や手続に関わる組織が多いため融資実行まで時間を要することに注意してください。
民間銀行の融資
増加運転資金の調達先として、一般的ともいえるのが民間銀行から融資を受けることです。
中小企業の場合、大企業が主な対象である都市銀行(メガバンク)よりも、地域密着型の運営をしている地方銀行・信用金庫・信用組合のほうが頼りやすいでしょう。
銀行では一般企業の格付けにより、融資可否や金利などの条件を決定します。
できるだけ有利な条件で融資を受けたいのであれば、返済能力を示すことのできる資料を準備しておくことも必要です。
銀行が前向きな姿勢で検討できるように、経営者自身が増加運転資金について理解し、説明できることが重要といえます。
ファクタリング
ファクタリングは、売掛債権を現金化する資金調達のサービスです。
売上が大きく伸びれば売掛金も増え、仕入も増えるため増加運転資金の需要も高まります。
この際、金融機関から融資を受けて増加運転資金を調達することを選べば、融資実行まで最低でも1か月は待たなければなりません。
しかしファクタリングであれば、最短即日で売掛金を現金化できるため、すぐに増加運転資金が必要という場合にも対応できます。
また、銀行から融資を受ける際に、決算書の見た目を気にするのなら、ファクタリングによるオフバランス化はおすすめです。
売掛金を多く抱えていると不良債権の混在について懸念されることもありますが、ファクタリングで売掛債権を前倒しすることによりその懸念を払しょくできるでしょう。
まとめ
運転資金が増加する要因は、売上が上がることで仕入れや人員も増やすことになるからです。
この増加運転資金が不足した場合、利益が出ていても黒字倒産することになります。
そのため手元の資金が不足する前に資金調達することが必要ですが、増加運転資金に関しては金融機関でも前向きに検討してもらいやすいでしょう。
ただし、過去の財務状況や取引状況によるため、必ず増加運転資金を借入れできるわけではありません。
そのくらいの金額を何のために必要なのか、根拠を示すことができる裏付けの資料などを添えて申し込むことをおすすめします。