運転資金を金融機関から融資を受けて調達する理由は、事業運営において必要となる資金が足らなくなるからといえます。
毎月発生する固定費や、一時的に増えた売上に対する仕入れ代金など、必要とする運転資金の種類も色々です。
どの運転資金を借りる場合でも、金融機関から返済能力などが十分と判断されなければ融資を受けることはできません。
そこで、スムーズに運転資金の融資を受けるためにも、申し込み先となる金融機関や資金調達に成功するためのポイントなどについて解説していきます。
目次
運転資金を必要とするケース
運転資金とは、事業を行うために必要な資金です。
事業運営においては色々な費用を支払うことになるため、運転資金を必要とするケースも、何に充てるお金なのかによって様々です。
主に運転資金を必要とするのは、以下の要因により足らなくなった資金を補うためといえます。
- 掛取引による資金不足
- 仕入れ・固定費の増加による資金不足
- 特定時期の費用負担増加による資金不足
- 売上低迷による資金不足
- 状況悪化による資金不足
それぞれどのようなケースか解説していきます。
掛取引による資金不足
事業運営を維持・継続するための「経常運転資金」は、掛取引により不足しがちな運転資金です。
日本の商取引では、商品やサービスの販売と引き換えに代金を支払わず、後日請求された分をまとめて支払う掛取引が用いられています。
掛取引では、代金が入金されるまで一定期間空いてしまうため、その間に仕入れ代金や固定費の支払いが発生することにより経常運転資金が不足します。
まだ売掛金は入金されていないのに支払いが必要になるなど、入金と出金のタイムラグを埋めるための経常運転資金が必要になります。
仕入れ・固定費の増加による資金不足
事業が成長することにより売上を伸ばしておくと、仕入れや固定費などの負担が大きくなるため、増加運転資金が必要になります。
増加運転資金は、以下のケースで多く必要になると考えられます。
- 生産数増加により材料や商品仕入れが増えた場合
- 新規取引先や新規顧客の増加により負担する諸経費が増えた場合
- 従業員増員により人件費が増えた場合
売上が伸び、利益が増えていたとしても、手元に十分な増加運転資金が用意されていなければ「黒字倒産」するリスクも大きくなります。
そのため売上が伸びているときこそ、運転資金を調達することが必要になると認識しておきましょう。
特定時期の費用負担増加による資金不足
特定月のみ発生する通常月にはない支払いや、特定時期の繁忙期や閑散期で増える費用負担について、「季節運転資金」が必要になります。
たとえば次のような時期や支払い目的で、季節運転資金が必要になると考えられます。
- 夏季と冬季の賞与月(従業員へボーナスを支給するために増える人件費)
- 季節商品を扱っている場合の該当外の月(ウインタースポーツ用品の取り扱う業者の夏場の固定費支払いや、冬季の仕入れ代金)
- イベント時期(お盆・クリスマス・年末年始などのイベントに関連する業種の仕入れ代金)
毎年決まった月や時期に、いつもよりも多くお金が必要になる場合は、不足する季節運転資金を調達することが必要になります。
売上低迷による資金不足
事業が不調で売上が低迷している場合でも、毎月発生する固定費は支払いが必要となるため、「減少運転資金」を調達することが必要です。
売上が減少していると、仕入れも減るためその負担は軽減されますが、売掛金が発生しないため入金予定もありません。
ただ、毎月発生する事務所家賃や水道光熱費、従業員給与などの固定費は、売上の変動に関係なく支払い続けることが必要です。
入金予定のない状態で、少ない手元の資金を使って固定費を支払うと、たちまち資金不足に陥ることになるでしょう。
不足分を補うためのつなぎ資金として、減少運転資金が必要になると考えられます。
状況悪化による資金不足
イベント開催による諸経費の発生や、仕入先との取引条件が掛取引から現金決済に変更されたなど、状況が悪化することでも資金は足らなくなります。
この場合、状況が改善されるまでの間、一時的に追加運転資金が必要となるでしょう。
運転資金の調達額の目安
融資を受けて運転資金を調達する場合、どのくらいの金額が必要になるかは、事業の業種・形態や資金使途によって変わります。
仕入れから入金までの回収期間が比較的短い飲食店や小売店などの業種は、手元の現金が少なくても特に問題はありません。
しかしメーカーや不動産開発業などの場合、投じた資金の回収まで、年単位など長く時間がかかります。
そのため回収までの間で不足する金額を想定しつつ、資金を調達することが必要です。
一般的には、月商3~6か月分の運転資金を調達額の目安とするとよいでしょう。
運転資金の調達額が判断しにくいときには、以下の計算式のいずれかを参考にしてください。
おおよその運転資金=売掛債権+棚卸資産-買入債務 |
正確な運転資金=平均月商×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間) |
運転資金の融資を受けられる金融機関
運転資金を借入れで調達する場合、融資を受けられるのは主に次の4つの金融機関です。
- 民間銀行
- 信用金庫・信用組合
- 政府系金融機関
- 消費者金融(ノンバンク)
それぞれ説明していきます。
民間銀行
運転資金は、「民間銀行」から融資を受けて調達することもできますが、中小企業などの場合は銀行の種類に注意が必要です。
たとえばメガバンクと呼ばれる都市銀行は、たとえ中小企業でも実績が十分でそれなりの知名度などもあれば融資を受けることもできるでしょう。
しかし一般的には厳しいため、地域に密着して運営する地方銀行などのほうが安心です。
ただ、中小企業が民間銀行から融資を受けるときには、不動産などを担保として差し入れることや、経営者が連帯保証人になることを求められがちです。
この場合、銀行・信用保証協会・地方自治体が連携して資金を貸し付ける「制度融資」など活用することで、信用保証協会に保証してもらった上で低金利による融資が実現します。
地方自治体によっては発生する保証料などの費用の一部を補助してくれる場合もあるため、事前に確認してみましょう。
信用金庫・信用組合
運転資金は、地域の中小企業や小規模事業者を支える「信用金庫」や「信用組合」から融資を受けて調達することもできます。
信用金庫と信用組合は、どちらも地域の中小企業や小規模事業者などが抱える資金面での不安を解消し、地域活性化に貢献することを目的としています。
地域が繁栄するための相互扶助の精神での運営を行っているため、主な取引先は中小企業や小規模事業者です。
利益第一主義ではなく、会員や地位社会の利益が優先されるため、地方銀行よりも審査のハードルが低くより親身に対応してもらいやすいといえます。
なお、信用金庫などを経由して信用保証協会の保証を申し込むときには、手続をすべて行内で行うことができるため、融資申し込みから着金までの時間が短くなります。
ただし利用できる信用保証協会のエリアが決められているため、地域の信用保証協会を利用できるか事前に確認しておくことをおすすめします。
政府系金融機関
運転資金は、「政府系金融機関」である日本政策金融公庫から融資を受けて調達することもできます。
政府系金融機関とは、経済発展や中小企業の活動支援などを目的とした非営利の金融機関です。
100%「国」が出資し、運営しているため、中小企業や小規模事業者でも安心して融資を受けることができます。
無担保・無保証で低金利の借入れが可能となることがメリットですが、書類準備に手間や時間がかかることはデメリットです。
政府系金融機関の1つである「日本政策金融公庫」では目的に応じた融資制度を複数設けていますが、創業時期なら「新創業融資制度」や「新規開業資金」など活用できます。
他にも商工会議所や商工会などから経営指導を受けている小規模事業者なら、「マル経融資」により経営改善の資金の借入れが可能です。
商工会議所からの推薦が必要となることや、1年以上の事業実績が必要となるものの、低金利での借入れや借り換えができます。
消費者金融(ノンバンク)
運転資金は、消費者金融(ノンバンク)から融資を受けて調達することもできます。
消費者金融からの事業資金の借入れは、主に「ビジネスローン」を利用することになるでしょう。
ビジネスローンとは、一般的な銀行融資を受けにくい中小企業や小規模事業者向けの金融商品です。
民間銀行でも金融商品として準備されているものの、消費者金融であれば最短即日で借入れできます。
必要書類も少なく、審査のスコアリング方式採用により、時間がかかりにくいといえます。
ただし金利は高めに設定されるため、繰り返しの利用や長期の借入れで、資金繰りは悪化してしまうでしょう。
ビジネスローンを利用する場合には、一時的な資金調達に留めておくことが大切です。
運転資金で融資を受けるポイント
融資による運転資金の調達において、希望する条件・金額での借入れを成功させるために、次の5つをポイントと押さえた上で申し込みましょう。
- 資金使途を明確にする
- 実現できる事業計画書を作成する
- 必要書類を前もって準備する
- 自己資金を多めに準備する
- 事業拡大の段階で申し込む
それぞれのポイントについて説明していきます。
資金使途を明確にする
運転資金で融資を受けるときには、具体的に何のために必要なお金なのか、資金使途を明確にしておくことが必要です。
資金使途を明確に示すことができなければ、資金を貸し付ける金融機関も不信感を抱くことになり、返済されなくなるリスクを懸念するようになります。
また、設備投資で借りたお金を運転資金には使うことができません。
審査でも厳しく判断されることになるため、資金使途は必ず明確にしておきましょう。
実現できる事業計画書を作成する
運転資金で融資を受けるときには、過去の経営状況・収支予測・今後の見通しなどを落とし込んだ上で、実現できる事業計画書を作成しましょう。
事業計画書に矛盾点や希望的観測が盛り込まれていると、金融機関は実現できない夢物語に対しお金を貸すべきではないと判断してしまいます。
現実的であることに加え、記載している数値などの根拠を示すことのできる資料なども添付し、説得力のある事業計画書を作ることが必要です。
必要書類を前もって準備する
運転資金で融資を受けるときには、金融機関から指定された必要書類を前もって準備しておいたほうが安心です。
必要書類に不備や漏れがあれば審査は進まなくなるため、必要なタイミングでの資金調達は実現しません。
金融機関の心証を悪くすることも予想されます。
申し込む前には、必要書類が揃っているか確認し、スムーズに審査を進めてもらえるように事前準備を心がけましょう。
自己資金を多めに準備する
運転資金で融資を受けるときには、金融機関側の抱える貸し倒れリスクに対する不安を解消できるように、できるだけ多く自己資金を準備しましょう。
特に自己資金に基準額などはないものの、ある程度の保有がなければ、万一返済が厳しくなったときに対処できないと判断される可能性があります。
日本政策金融公庫の「新創業融資」で借入れする場合には、創業資金総額の10分の1以上の自己資金を保有していることが求められます。
できるだけ多くの自己資金を準備した上で、融資を受ける申し込みをしたほうが安心です。
事業拡大の段階で申し込む
運転資金で融資を受けるときには、できるだけ事業拡大の段階で申し込むようにしましょう。
事業が低迷しているときよりは、好調である状況のほうが、返済能力は高いと判断されます。
金融機関に安心して資金を貸し付けてもらうためにも、事業拡大の時期など順調なときに融資を申し込むことをおすすめします。
まとめ
運転資金で融資を受けるときには、民間銀行や日本政策金融公庫、消費者金融などいろいろな借入先を候補として挙げられます。
ただ、中小企業や小規模事業者の場合、大手企業とは異なり信用力が低いため、民間銀行でも都市銀行以外を選択することになるでしょう。
また、審査を通過して融資を受けることができる場合でも、実行されるまでの間にお金が足らなくなり、資金ショートしてしまうことのないように注意しなければなりません。
融資実行までの間の資金不足を補える方法もあわせて検討するようにしてください。