将来債権をファクタリングに利用した場合のメリット・デメリットを解説

中小企業の新たな資金調達方法としてファクタリングが注目を集めていますが、対象となるのは確定債権だけで将来債権は利用できません。

なぜファクタリングに将来債権が使えないのか、そこには理由があります。

そこで、将来債権とはどのような債権なのか、利用したときのメリット・デメリットについて解説していきます。

将来債権とは

「将来債権」とは将来発生する予定の債権であり、たとえば事業や取引が継続・反復的に行われることにより発生します。

まだ商品納入やサービス提供は行っていないものの、その予定がある場合に発生する債権であり、取引契約の成立時点で発生する債権ともいえます。

将来本当に債権が発生するのどうか、保証されるわけではないものの、売掛先との間で契約時に明確なルールを決めておけば有効性に問題はないともされています。

法律では将来債権の譲渡も認められており、違法ではありません。

ただし主に担保目的で使われることが多く、ファクタリングでは利用できません。

将来債権は譲渡可能

将来債権を第三者に譲渡することは可能であり、その際には将来債権譲渡契約を結びます。

将来債権譲渡契約とは、債権を譲渡する側(譲渡人)が将来有する予定のある債権を、譲渡される側(譲受人)へと譲り渡す契約です。

また、将来債権は主に担保として利用されることが多いですが、この際には将来債権譲渡担保契約を締結します。

将来債権譲渡担保契約とは、債権者が債務者に対し保有する債権を被担保債権として、第三債務者に対し将来有する予定の将来債権を一括で担保にとる契約です。

2017年に民法が改正されたことにより、今後発生する予定のある債権については、譲渡することが認められるようになりました。

【将来債権の譲渡性】

 第466条の6

1.債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。

2.債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。

3.前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第466条第3項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第1項)の規定を適用する。

民法第466条の6(-Wikibooks引用)

この場合、将来債権譲渡における対抗要件について理解しておく必要があります。

対抗要件とは、すでに効力が発生している事実や法律関係を、第三者に主張するための条件といえますが、将来債権譲渡の対抗要件はすでに発生している債権を譲渡するときと同じで次の2つです。

  • 債務者(売掛先)に対する通知
  • 債務者(売掛先)から承諾を得る

そして債務者(売掛先)に対する通知や承諾を得ることが難しい場合には、債権譲渡登記を行うことでも対抗要件を満たすことができます。

将来債権を使ったファクタリングとは

仮に将来債権を使ったファクタリングが可能な場合、次のような流れで資金を調達することになります。

たとえば保有する300万円の売掛債権を利用者とファクタリング会社のみで契約する2社間ファクタリングで現金化する場合、100万円のみファクタリング会社に売却し、残り200万円は将来発生が予定される将来債権から売るといった流れです。

1か月後・2か月後・3か月後にそれぞれ100万円ずつ分割して支払うことになるため、キャッシュフローを負担することができるとも考えられます。

  1. ファクタリング会社に将来債権の買取依頼
  2. 審査後に売掛金から手数料を引いた金額を利用者へ入金
  3. 利用者から売掛先に対し請求書を発行
  4. 利用者が売掛先から売掛金を回収
  5. 利用者からファクタリング会社に回収した売掛金を支払い

ただ、すでに前倒しで現金化した買取代金はまだ発生していない債権分も含まれます。

一時的には手元の資金が潤うこととなり、資金繰りも改善するでしょう。

しかし数か月先の将来債権まで先に受け取ってしまうことになるため、特定の売掛先のみの取引による将来債権を現金化した場合は特に、ファクタリング利用をやめることで入金ゼロの月を発生させてしまいます。

いつまでたっても将来債権を現金化することから抜け出すことができず、ファクタリング会社に支払う売買手数料分、入金予定金額を減少させてしまうこととなるでしょう。

通常のファクタリングでも、長期による利用は資金繰りを悪化させるリスクが高いため、事前に計画を立てた上で利用することが望ましいといえます。

将来債権を仮にファクタリングに活用する場合、長期利用による資金繰り悪化はさらに高くなると考えられるため、より慎重に検討することが必要になると考えられるでしょう。

将来債権をファクタリングで利用するメリット

現在ファクタリングで利用できるは確定債権のみです。

ファクタリング会社も、買取債権を特定することが当然とされていましたが、今後は将来債権も扱う業者が増えてくる可能性はあるかもしれません。

ただし不確定要素が強い将来債権の買い取りは、ファクタリング会社にとっては大きなリスクであるといえるため、利用可能な業者が出てきても売買手数料などが高く設定される可能性は考えられます。

それでも将来債権をファクタリングで利用することで、次の2つのメリットを得ることができるといえるでしょう。

  1. まとまった資金を調達できる
  2. 資金繰りの改善が見込める

それぞれ説明していきます。

①まとまった資金を調達できる

通常のファクタリングの場合には、翌月に売掛金の入金期日を迎える売掛債権を現金化に用いることが多いため、債権の状況によっては希望額に満たないというケースも少なくありません。

しかし将来債権をファクタリングで利用できれば、まだ発生していない債権も対象となるため、まとまった資金を調達しやすくなります。

②資金繰りの改善が見込める

通常のファクタリングの場合、1度限りの買取では入金が得られず、翌月もまたファクタリングを利用することになる場合もあります。

しかし将来債権をファクタリングで利用できれば、将来発生する予定の数か月分の債権を現金化できるため、その場しのぎの一時的な資金問題解消でなく、支払と入金のサイクルを改善させることが見込めます。

まとまった資金は事業の拡大や初期投資などにも使えるため、効率的に資金繰りを行うことができます。

 

③売掛金の貸し倒れリスクを回避できる

ファクタリング契約には、償還請求権の有無があり、利用者(譲渡人)は必ず知っておきたい内容です。

償還請求権あり(リコースファクタリング)の契約は、主に銀行や貸金業者が扱うファクタリングに多く見られ、買い戻し特約が付されています。

買い戻し特約が付されていると、何らかの理由で売掛先から売掛金が回収できなかった際に、利用者(譲渡人)がファクタリング会社に対して、売却した売掛債権を買い戻さなければいけません。

他方、償還請求権なしの(ノンリコースファクタリング)契約は、独立系のファクタリング会社などが取り扱い、買い戻し特約は付されていません。

これは売掛先から売掛金が回収出来なくなった際に、その責任はファクタリング会社が負います。

万が一売掛先が倒産などをしても、既にファクタリング会社に売却している売掛債権であれば、そのリスクを回避することができます。

将来債権をファクタリングで利用するデメリット

将来債権をファクタリングで利用することができるようになれば、様々なメリットを得ることができますが、次の3つのデメリットも留意しておく必要があります。

  1. 売買手数料が割高
  2. 審査が厳しい
  3. 取り扱う業者が少ない

それぞれ説明していきます。

①売買手数料が割高

将来債権とはまだ確定していない債権のため、ファクタリング会社にとってはリスクの高い買い取りとなります。

万一債権が発生しなかったときや未回収リスクなどを考慮した上で売買手数料が設定されると考えれば、一般的なファクタリングよりも割高な売買手数料を支払うことになるでしょう。

②審査が厳しい

将来発生する予定とはいえ、確定していない債権の買い取りにおいては、十分な審査を行うことが必要となるためその難易度は高くなります。

売掛先に対する審査はもちろんのこと、利用者の信用力も一般的なファクタリングより重視されることとなるでしょう。

③取り扱う業者が少ない

ファクタリング会社にとって買い取るリスクの高い将来債権を取り扱う業者は多いとはいえず、将来債権をファクタリングで現金化したくてもできない状況です。

ただ、将来債権を現金化することは利用者にとってもリスクが高く、将来的に入金手段を失う危険性を考慮した上で利用するべきといえるでしょう。

ファクタリングにおける将来債権需要拡大の可能性

ファクタリングは、お金が必要なときすぐに調達できる方法として市場拡大してきましたが、翌月にはまたキャッシュフローがピンチに陥ってしまうというケースもあります。

なるべく資金繰りに窮しないように、将来債権を使ったファクタリングを扱う業者も出てきています。

将来債権を利用する場合、継続・安定した売掛債権を保有することが必要ですが、売買手数料の負担が重くなれば長期利用により資金繰りは悪化してしまいます。

今後は将来債権を扱うファクタリングも増える可能性はありますが、その仕組みやスキームによって活用を検討したほうがよいといえるでしょう。

まとめ

ファクタリングで利用できるのは支払期日や金額が確定した確定債権のみで、基本的には将来債権は利用できません。

中には将来債権の買い取りを可能とするファクタリング会社もありますが、その場合、売買手数料が割高になることは十分留意しておきましょう。

また、まだ発生していない債権を前倒しで受け取ることになるため、ファクタリング利用をやめれば入金がない、または少ない月が数か月続くことになります。

その間に資金繰りを改善させることができればよいですが、割高で設定された売買手数料で本来受け取る予定の売掛金も目減りするため、慎重に利用を検討することが必要です。

通常のファクタリングの場合でも長期利用による資金繰り悪化は避けられませんが、将来債権を利用すればそのリスクはさらに高くなることを認識しておくようにしてください。