ファクタリングと手形割引はどちらも売掛債権を流動化し期日よりも早く現金化できる資金調達手段です。
ファクタリングでは売掛債権を、手形割引では受取手形を現金化することが大きな違いです。
その他に利用方法や仕組みに違いがあります。
ファクタリングと手形割引の違いをはじめ、それぞれを資金調達に活用するメリット・デメリットについて徹底解説していきます。
目次
ファクタリングと手形割引の違いとは
ファクタリングと手形割引で現金化するのはどちらも売掛債権ですが、主に次の8つの違いがあります。
- 扱う売掛債権の種類
- 貸金業法の適用範囲
- 償還請求権の有無
- 売買手数料・金利
- 審査で重視されるポイント
- 現金化までのスピード
- 取引先に知られるか否か
- 決算書への影響
それぞれの違いについて説明していきます。
扱う売掛債権の種類
ファクタリングは原則、発生した売掛金の全てが現金化の対象となりますが、手形割引は、売掛金の支払いとして受け取った「約束手形」(受取手形)のみが現金化の対象となる点が大きな違いです。
よって、手形割引と比較し、ファクタリングの方が現金化できる範囲が圧倒的に広いといえます。
また、売掛金は企業間取引で代金を将来支払う約束といえますが、期限内に支払うことが制度的に保証されているわけではありません。
仮に売掛先の勝手な都合で支払いがされなくても、未払いの情報は公開されず、また「強制執行(差押え)する」には裁判による確定判決等の債務名義が必要になります。
もう一方の約束手形(受取手形)の場合は、制度として保証されていることも違いといえます。
手形振出人が手形を決済ができず、不渡りをだせば企業調査会社等から、不渡り情報は世間一般に広まり社会的信用を失いますし、
銀行取引も停止され借入金の一括請求を受け、企業の存続が危ぶまれるほどの制裁を受けることになるため、売掛金のように安易に支払いを遅らせるとか、一部しか払わないといったようなことが発生しにくい制度となっております。
売掛金よりも、約束手形の方が支払いに関する意識が高くなりやす[1]いため、未回収リスクを抑えやすいといえるでしょう。
[1] ただし、政府は2026年までの約束手形の利用廃止、小切手の全面的な電子化の方針を示しており、紙の約束手形・小切手による支払いは徐々になくなり、電子的決済サービスに移行することになります。
貸金業法の適用範囲
貸金業法とは、消費者金融などの貸金業者や、貸金業者からの借入について定めている法律です。
ファクタリングは貸金業に含まれていないため、貸金業法は適用されません。
よって貸金業法に影響されることなくサービスの提供が可能となっています。
ファクタリングは売掛債権の売買行為であり、売買手数料の上限を規制する法律もないため、提示されている売買手数料が過度に高くないか、相見積もりを取って確認することが非常に重要といえます。
他方、手形割引は貸金業に含まれており貸金業法が適用されるため、契約書面の作成交付義務や説明義務、取立規制など様々な法規制があり、依頼人が手厚く保護されております。
また、金利については利息制限法が適用されることとなり、上限金利は15~20%[1]と定められています。
[1] 利息制限法第1条では、元本の額が10万円未満の場合は年20%、10万円以上100万円未満の場合は年18%、100万円以上の場合は年15%を上限金利として規定しております。
手形割引を行う金融機関には、様々な法律の規制が課せられており、利用者保護のための法整備が確立されているため、依頼人からしますと安心して利用できるといえます。
逆に、ファクタリングは法律上の規制がないため、取引するファクタリング会社が悪質な会社ではないかなど、利用者自らが調べ、判断しなければなりません。
償還請求権の有無
償還請求権とは、売掛先の倒産などにより売掛債権が回収出来なくなった場合(手形の場合は、不渡りとなった場合)に、売掛債権を売却した人(手形の場合は手形割引を依頼した人)へ売掛金の支払いを請求できる権利です。
ファクタリングは、「償還請求権付き」と「償還請求権なし」の2つの取引方法があります。
償還請求権なしのファクタリングの場合は、売掛債権の売買取引であるため、譲渡した売掛債権が回収不能となっても、譲渡人はファクタリング会社に対して支払義務を負いません。
償還請求権なしのファクタリングは、売掛先の倒産リスクはファクタリング会社が負う契約となります。
なお、償還請求権付きのファクタリングの場合は、売掛先の倒産リスクは譲渡人が負うことになり、売掛債権が回収不能の場合、譲渡人はファクタリング会社に対して、譲渡した債権を買い戻さなければなりません。
手形割引の場合は、償還請求権が付いておりますので、手形振出人が不渡りを発生させた場合、手形割引を依頼した金融機関から手形の買戻請求を受けることになります。
ですので、手形割引と償還請求権付きのファクタリングは、倒産リスクは譲渡人(又は手形割引依頼人)が負うため、非常に類似した取引[1]であると言えます。
償還請求権なしのファクタリングは、倒産リスクはファクタリング会社が負うことになるため、手形割引とは比較した場合、この点は大きな違いといえます。
[1] 償還請求権付きファクタリングは、売掛先が倒産した場合、金融機関は譲渡人のみに請求できるのに対し、手形割引は、手形振出人が倒産した場合、手形割引依頼人のほか、手形裏書人が存在する場合は、手形裏書人にも請求できる点に違いがあります。
売買手数料・金利
ファクタリングでは売買手数料が発生します。
契約内容によって売買手数料が異なり、3社間ファクタリングでは債権額面の1%から9%(支払期間1ヵ月の場合、年率換算すると年利12%から108%)程度であるのに対し、
2社間ファクタリングでは10%から20%程度(支払期間1ヵ月の場合、年率換算すると年利120%から240%)が相場です。
3社間ファクタリングよりも2社間ファクタリングのほうの売買手数料が高い背景には、ファクタリング会社が売掛先から直接売掛金を回収できないことが関係します。
利用者に回収業務を代行してもらうことが必要になるため、回収した売掛金を使い込まれたり持ち逃げされたりする「リスク」が売買手数料に加味されています。
また、売掛先に直接、債権の存在確認ができないため、二重譲渡や架空・水増し債権などの「リスク」もあるため、この点も売買手数料に加味されています。
手形割引は貸金業法により貸付けとみなされ[1]、利息制限法の範囲内で、支払期日までの期間の割引料(利息)が差し引かれます。
銀行で手形割引を利用したときは、年利約1.5~5.5%[2]の割引料がかかります。
賃金業者を利用した場合は年利5%から15%程度[3]の割引料がかかります。
このように、売買手数料や金利については、手形割引よりも、ファクタリングの売買手数料のほうが高いといえます。
[1] 銀行等が行う手形割引(その他の貸付けも含め)には貸金業法は適用されず、銀行法や信用金庫法が適用されます。
[2] 日本のバブル経済期は金利が総じて高かった為、銀行の行う手形割引でも年7~9%程度の割引料がかかる時代もありました。
[3] 貸金業者が行う手形割引は貸金業法により「貸付け」とみなされ、割引料は利息として計算することになり、利息制限法が適用されますので、上限金利規制を超えた手数料(利息)がかかることはありません。
審査で重視されるポイント
ファクタリングと手形割引はどちらも審査が行われます。
金融機関による融資の審査ほど、厳しい審査があるわけではありませんが、それぞれ重視されるポイントが異なります。
ファクタリングで重視されるのは売掛先の信用力であるため、依頼人が赤字決算や債務超過の場合でも利用できる可能性があるのです。
ただし売掛先の経営状態が悪いなど、信用力が低い場合は倒産のリスクも考えられるとして売買手数料が高くなる可能性があります。
他方の手形割引は融資という扱いであり、裏書した手形を担保に額面から割引率を差し引いて資金を貸し付ける金融取引です。
そのため審査では手形の振出人だけでなく、依頼人の信用力も重視されることになります。
銀行で換金する場合依頼人の信用度、割引業者で換金する場合手形振出人の信用度が重視されるでしょう。
現金化までのスピード
ファクタリングでは利用する会社にもよりますが、一般的な目安として2社間ファクタリングの場合では最短で即日、3社間ファクタリングの場合では最短で2日程度で現金化できます。
手形割引では銀行の場合1週間程度、貸金業者の場合では最短で即日とされています。
緊急でお金が必要となり、今日明日にでも資金調達しなければならない場面では、手形があるなら、まずは手数料の低い手形割引を優先し、手形がない場合は、2社間ファクタリングを選択することが良いでしょう。
取引先に知られるか否か
3社間ファクタリングでは利用者と売掛先とファクタリング会社の3社間で取引を行うため、売掛先に了解を得る必要[1]
[1] 債権譲渡の法律上の対抗要件としては、ア)売掛先へ確定日付のある債権譲渡通知、イ)債権譲渡登記の設定と売掛先への登記事項証明書の送付、ウ)売掛先の承諾(それを証する書面の確定日付取得)の3つの方法があり、ウ)以外は売掛先の事前の了解は不要です。ただし、売掛先の事前の了解を得ておかないと、取引上の信用不安が発生するリスクがあるため、実務的には売掛先の事前の了解を得ておく必要があります。
があり、売掛債権の譲渡が知られるのは避けられません。
売掛先にファクタリングを利用することが知られると資金繰りが苦しいと悟られ、信用を損なう場合もあるので売掛先との関係性も重要となってくるでしょう。
しかし、2社間ファクタリングでは利用者とファクタリング会社の2社間で取引が完結するため、売掛債権の譲渡が取引先に知られることはほとんどありません。
同じく手形割引でも依頼人と貸金業者の間で手形を売却するため、取引先に知られる恐れはありません。
審査は取引先に接触をしたり、問い合わせをしたりすることなく、一般的には手形振出人の信用情報を基に行われることになります。
3社間ファクタリングは、取引先に知られることで信用不安が発生するリスクがあるため、そのリスクを避けたいという場合は、2社間ファクタリングや手形割引を選んだ方がいいでしょう。
決算書への影響
ファクタリングの場合、「売上債権売却損」を計上し、手形割引の場合「手形売却損」又は「支払利息割引料」が計上されます。
銀行融資を受ける場合、手形割引の方が影響は少なく、ファクタリングの方が影響が大きいのが事実です。
依頼人が決算書に正しく計上していないケースが多いのは事実ですが、銀行融資の可能性を前提とするのであれば、おすすめはファクタリングではなく手形割引になります。
ファクタリングと手形割引に共通するメリットとは
ファクタリングと手形割引は、それぞれ売掛債権を現金化する方法ではあるものの、契約形態そのものに違いがあります。
ただ、共通するメリットとして、以下3点が挙げられます。
メリット
- 売掛債権を流動化できる
- 資金不足を回避できる
- 一般的な融資より早く資金調達できる
それぞれ説明していきます。
売掛債権を流動化できる
1つ目はファクタリングと手形割引は、どちらも自社の「売掛債権」を流動化することで資金を調達できる方法です。
経済産業省中小企業庁も、中小企業が銀行融資などに依存することなく、売掛債権を流動化させることを推奨しています。
また、売掛債権を流動化することについて、売掛先から資金繰りが厳しいのかといった懸念を抱かれるなど、利用による風評被害を発生させないように協力も要請されています。
従来までは、売掛債権の譲渡を禁止する「債権譲渡禁止特約」が付された契約の債権は譲渡できませんでしたが、民法の改正により活用できるようになったことも、国が流動化に積極的な姿勢を見せているあらわれと考えられるでしょう。
資金不足を回避できる
2つ目はファクタリングと手形割引は、どちらも新たに不動産担保融資などを利用しなくても、保有する売掛債権を使って資金を調達できます。
そのため手元の資金が不足しているときでも、売掛債権を現金化し、資金不足解消につなげることが可能です。
一般的な融資より早く資金調達できる
3つ目はファクタリングと手形割引は、一般的な銀行融資などと比べれば、どちらも資金調達までのスピードがはやいといえます。
特にファクタリングは、最短で即日対応してもらえるなど、素早い資金調達が可能な方法です。
ファクタリングと手形割引に共通するデメリットとは
ファクタリングと手形割引に共通するメリットはいろいろあるといえますが、その一方で次の1点のデメリットには注意が必要です。
デメリット
- 費用がかかる
それぞれのデメリットについて説明していきます。
費用がかかる
ファクタリングと手形割引は、利用する際に所定の費用がかかります。
この費用のことをファクタリングでは売買手数料、手形割引では割引料と呼び方は異なります。
利用しない場合売掛債権の支払期日まで待てば満額入金されますが、サービスを利用した場合には業者に費用を支払う分手元に残る現金は少なくなります。
まとめ
毎月、受取手形がある場合、まずは売掛先に手形ではなく、現金での支払を交渉すべきです。
また、手形は割引せずとも、支払いにも利用できますので、支払先と交渉のうえ、手形は支払手段として活用するよう努力すべきです。
支払先が手形での支払いを拒否する場合は、ファクタリングよりも手数料が低い手形割引を検討し、手形割引ができない場合や、それでも資金が不足する場合はファクタリングの利用を検討するのが良いと思います。
特に、2者間ファクタリングは、規制する法律がなく、依頼する会社によっても売買手数料率が違うので、できるだけ売買手数料が低く、良心的で、安心できるファクタリング会社を選択することが重要と言えます。