「貸倒引当金」とは、貸したお金や販売したときの売上代金が支払われないリスクに備え、損失額を予測しあらかじめ計上しておく引当金です。
貸したお金を返してもらえないことを「倒された」といい、「貸倒れ」とは取引先が倒産するなどで売掛金や受取手形など債権が回収できなくなることを意味します。
それらのリスクにより発生する貸倒損失に備えるために計上するのが「貸倒引当金」といえます。
そこで、さらに貸倒引当金とはどのような勘定科目なのか、仕訳や計算方法について解説します。
貸倒引当金とは
「貸倒引当金」とは、将来の支出に備えあらかじめ準備しておく「引当金」のうち、金銭を受け取る権利である金銭債権に対し、設定しておく勘定科目です。
貸付金や売掛債権などの未入金発生の恐れが高い特定の損失や費用に対し、引当金を設定しておくことにより、投資家へ有用な情報提供が可能とも考えられます。
当期以前の事象に起因していることや、設定する金額は合理的に見積もることが必要など、要件はいろいろあります。
ただ、将来の損失の可能性を示すことを目的としているため、必要であれば設定しておきましょう。
貸倒引当金の対象
すべての債権が貸倒引当金を設定できるわけではありません。
そこで、次の2つについてそれぞれ説明していきます。
- 認められる債権
- 認められない債権
認められる債権
貸倒引当金の対象として認められる債権は、以下のとおりです。
- 売掛金
- 貸付金
- 未収金
- 受取手形
具体的には、次の債権が挙げられます。
- 売掛金・貸付金
- 未収の譲渡代金・加工料・請負金・手数料・保管料・地代家賃・貸付金の利子で益金額に算入されたもの
- 他人のために立替払いしたときの立替金
- 益金額に算入されている未収の損害賠償金
- 保証債務を履行した場合の求償権
- 売掛金、貸付金などの債権に対する受取手形
たとえば貸借対照表の流動資産に区分される営業にかかわる売掛債権や、1年以上先の返済で固定資産に区分される貸付金が該当します。
認められない債権
貸倒引当金の対象として認められない債権は、以下のとおりです。
- 預け金
- 差入保証金
- 敷金
- 手付金
- 前払金
- 仮払金
具体的に次の債権が挙げられます。
- 預貯金とその未収利子・公社債の未収利子・未収配当・その他これらに類する債権
- 保証金・敷金・預け金・その他これらに類する債権
- 手付金・前渡金など資産取得の代価または費用の支出に充てるための金額
- 前払給料・概算払旅費・前渡交際費など将来精算される費用の前払いとして一時的に仮払金や立替金で計上した金額
- 雇用保険法・雇用対策法・障害者雇用促進などに関する法律などの法令規定に基づいて交付される給付金などの未収分
- 仕入割戻しの未収分
- 保険会社の代理店貸勘定の金額
貸倒引当金の計算方法
貸倒引当金を計上するには、将来どのくらい損失が発生するのか見積もり、正しく算出することが必要です。
具体的に貸倒引当金の計算方法として次の2つが挙げられます。
- 一括評価
- 個別評価
個別評価が必要なケースは回収不能リスクが高いものが多く、一括評価が可能なケースはそれ以外と判断できます。
以上を踏まえた上で、それぞれの計算方法を説明します。
一括評価
「一括評価」で貸倒引当金を計算し計上する場合、「売掛金」や「貸付金」などの金銭債権が対象となり、個別評価の対象である金銭債権は除きます。
個人事業主の場合、一括評価の対象となるのは事業所得であり、不動産所得や山林所得は対象に含まれません。
また、青色申告者でなければ一括評価は行うことができない点にも注意しておきましょう。
一括評価による貸倒引当金繰入限度額の計算は、次の3つの項目を原則として行います。
- 実績繰入率(貸倒実績率)
- 法定繰入率
- 業種判定
それぞれ説明します。
実績繰入率(貸倒実績率)
貸倒引当金を一括評価で計算し計上する場合、以下の計算式で算出します。
実績繰入率(貸倒実績率) = 期末の債権額 × 繰入率
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「繰入率」は以下の2つです。
- 実績繰入率
- 法定繰入率
繰入率が高いほど引当金額は多くなるため、2つのうちで高いほうを採用することが一般的です。
「実績繰入率」は、過去3年間の貸倒損失発生額に基づき算出しますが、次の計算式を用います。
実質繰入率は次の計算式で算出できます。
実質繰入率 = {(a+b-c-d)×(12÷各事業年度の合計月数)} ÷ e
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繰入限度額の計算式は以下のとおりです。
繰入限度額 = 期末一括評価金銭債権の帳簿価額 × 貸倒実績率
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法定繰入率
本来は実績繰入率に基づく計算が原則ですが、期末資本金が1億円以下の中小法人であれば「法廷繰入率」で計算できます。
繰入限度額は一括評価金銭債権の合計額から、得意先に対する債務合計額を差し引き、業種ごとの法定繰入率を掛けて算出します。
繰入限度額 = {期末一括評価金銭債権の帳簿価額-実質的に債権とみられない金額} × 法廷繰入率
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業種判定
法定繰入率は次のとおり、業種によって異なります。
- 卸売業および小売業 10/1000
- 製造業 8/1000
- 金融業および保険業 3/1000
- 割賦販売小売業ならびに包括信用購入あっせん業および個別信用購入あっせん業 7/1000(令和3年4月1日前に開始した事業年度は13/1000)
- その他 6/1000
なお、2つ以上の事業を営んでる場合には、メインである事業の法定繰入率を採用することになり、事業収入額や事業規模などによって総合的に判定されます。
個別評価
「個別評価」で貸倒引当金を計算し計上する場合は、会社更生法で定めのある更生手続開始申立てや更生計画認可決定などを理由とする場合が対象です。
個人事業主の場合には、次の金銭債権を個別評価により貸倒引当金とすることが認められます。
- 事業所得
- 不動産所得
- 山林所得
貸倒引当金を算出するときにはそれぞれの貸金で計算することが必要となり、回収見込みがない金額や貸金の5割までなど認められる範囲も異なります。
貸倒引当金の仕訳
貸倒引当金を計算した後は、貸倒れの発生などにより次の4つの仕訳処理が必要です。
- 貸倒引当金繰入の仕訳
- 貸倒引当金戻入の仕訳
- 償却債権取立益の仕訳
- 貸倒損失発生の仕訳
それぞれ説明します。
貸倒引当金繰入の仕訳
売掛金などの売掛債権が回収不能となる場合に備えて、貸倒引当金で将来の貸倒れの見積り額を計上します。
貸倒引当金は仕訳の借方勘定であり、当期の費用で「貸倒引当金繰入額」の勘定科目で次の処理を行います。
【一般債権1,000万円に対して2%の貸倒引当金を見積もった場合の仕訳例】 | |
借方 | 貸方 |
貸倒引当金繰入 200,000円 | 貸倒引当金 200,000円 |
貸倒引当金戻入の仕訳
以下のケースにおいては、、「貸倒引当金戻入(または貸倒引当金戻入額・貸倒引当金戻入益など)」の勘定科目で計上した貸倒引当金を調整します。
- すでに見積もった貸倒引当金を変更したことで、過剰に貸倒引当金が計上されることになったとき
- 債務者の業績が好調となり貸倒引当金として見積もる金額が下がったとき
【貸倒引当金30,000円を戻し入れた場合の仕訳例】 | |
借方 | 貸方 |
貸倒引当金 30,000円 | 貸倒引当金戻入 30,000円 |
償却債権取立益の仕訳
前期以前に貸倒れで処理した債権が回収できたときには、収益勘定である「償却債権取立益」で仕訳処理します。
【前期に貸倒れ処理した売掛金50,000円を現金で回収したときの仕訳例】 | |
借方 | 貸方 |
現金 50,000円 | 償却債権取立益 50,000円 |
貸倒損失発生の仕訳
「貸倒損失」とは、債権の回収ができず貸倒れた分を「損失」として計上することです。
そのため貸倒引当金はあくまでも見積額であるのに対し、貸倒損失は当期で回収不能であることが確定していることを示します。
税法上、大企業では貸倒引当金が廃止されたため、貸倒れのリスクがある場合でも確定していなければ損失の認識はできません。
ただし大企業でも、確実に貸倒れとなることが認められたときには、回収不能時期が含まれる事業年度に「貸倒損失」を計上できます。
中小企業や個人事業主も、貸倒損失の計上による損金算入が認められます。
なお、債権が回収不能となり貸倒損失が発生した場合の仕訳処理は、次の2つのケースに分かれます。
- 貸倒引当金を計上していなかったケース
- 貸倒引当金をあらかじめ計上していたケース
それぞれ説明します。
貸倒引当金を計上していなかったケース
あらかじめ貸倒引当金を計上していなかったのに、債権が回収できなくなり貸倒損失が発生した場合、貸倒れ金額をそのまま「貸倒損失」で計上します。
【貸倒引当金未計上で売掛金50,000円が回収できなくなった場合の仕訳例】 | |
借方 | 貸方 |
貸倒損失 50,000円 | 売掛金 50,000円 |
貸倒引当金をあらかじめ計上していたケース
あらかじめ貸倒引当金を計上していた状況で、債権が回収できなかった場合には、引当金を上回った分を「貸倒損失」で計上します。
引当金の範囲におさまる貸倒れが発生したときには、貸倒損失を使った仕訳処理は行いません。
【売掛金20,000円が回収不能となったものの、貸倒引当金10,000円をあらかじめ計上していたときの仕訳例】 | |
借方 | 貸方 |
貸倒損失 10,000円 貸倒引当金 10,000円 |
売掛金 20,000円 |
まとめ
貸倒引当金とは、貸したお金や売掛債権などが回収できなくなったときに備えて、あらかじめ計上しておく引当金です。
貸倒れ発生で債権が回収できなくなった場合に備えるため、事前に計上しておく勘定科目といえます。
受け取り予定の債権が未回収になれば、資金繰りは悪化し、最悪の場合は黒字でも倒産する恐れがあります。
日常から回収漏れを発生させない、適切な管理が求められます。