「原価率」とは、売上に対する原価の割合です。
材料の原価に人件費を加えた割合であり、企業分析の場面でも「原価率」を理解しておくことが必要です。
そこで、原価率とは何なのか、計算方法や目安、業種別の平均値について解説していきます。
原価率とは
「原価率」とは、売上高を100%とした場合の「売上原価」の割合です。
「売上原価」とは、売れた商品の仕入れや製造にかかった費用のことで、たとえば製造業なら製品を作る活動から発生した原価といえます。
仮に販売業なら、仕入れ活動から発生した費用となります。
ただ、製造業ではいろいろな材料や加工などが必要になるのに対し、販売業は仕入れ代金に付随費用を足した金額が原価となるため、同じではありません。
さらに原価率は業種により差があるため、同業他社と比較した上で判断することが必要となります。
原価率の計算方法
「原価率」を求めるときには以下の計算式を使えば算出できます。
原価率(%) = 売上原価(製造原価・仕入原価) ÷ 売上高 × 100
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たとえば製造業なら材料費をなど集計し、製品を作っているとき加工なども含めることがあるため、どこまでを売上原価にするか決めておくことが必要です。
小売業や販売業などの場合には、仕入高を基準として在庫を考慮しながら計算していきます。
「売上原価」を求めるときには、以下の計算式を使って算出します。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期仕入高 - 期末商品棚卸高
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棚卸しで差異が発生したときの「減耗分」や、在庫として残った商品の価値が低下したときの「評価損」も踏まえた検討が必要となります。
棚卸しの減耗分は原価性があれば売上原価の内訳に含める、または「販売費及び一般管理費」に計上します。
商品の評価損は、災害などが発生したことによる特別損失でなければ、売上原価の内訳に含めます。
なお、製造業では次の計算式で売上原価を算出します。
売上原価 = 期首製品棚卸高 + 当期製品製造原価 - 期末製品棚卸高
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業種ごとの原価率の平均値
原価率は業種により異なりますが、たとえば2020年度実績として公表されている「2021年 経済産業省企業活動基本調査」では主要産業の原価率は80.5%でした。
産業ごとでは、次のような原価率となっています。
- 製造業80.8%
- 卸売業87.6%
- 小売業71.2%
さらに経済産業省の「商工業実態基本調査」では、飲食業の売上総利益の平均は55.9%で、原価率の平均は44.1%で低めといえます。
原価率が低ければ利益率も高いことを意味しますが、飲食業の場合には原価率以外に食材費や人件費などのコストにも注意が必要です。
通常、原価率を計算するときには売上高に直接関係のない人件費まで含めません。
ただし飲食業の場合は、労働生産性が低く人件費比率が高いため、食材費や人件費なども確認しておくことが必要となります。
原価率が高くなるのは、業種・業態・社会情勢などいろいろな理由が複雑に絡み合っているからといえます。
平準化したときに考えられるのは、特に次の2つです。
- ロスが多いため
- 原価率の低い商品で売上確保ができていないため
ロスを抑え、原価率の低い商品で売上を確保することが必要といえますが、原価率の分析においてはロス率についても理解を深めておきましょう。
ロス率とは
原価率を計算するときに覚えておきたいのが「ロス率」です。
ロス率とは、売上原価のうち売上に貢献しなかった部分の割合であり、次のようなケースが該当します。
- 仕入れた商品が売れず値下げをして販売したとき
- 飲食業などの場合の食材の廃棄
ロス率は以下の計算式で算出できます。
ロス率 = ロス高 ÷ 売上高 × 100
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「ロス高」とは、次の2つの求め方のうち状況に応じていずれかで計算しますが、ロスをした金額の合計です。
- 値引きした場合のロス高=値引き額×値引きした個数
- 廃棄した場合のロス高=販売額×廃棄した個数
高いロス率が向上かしていると、原価率が高いことにさえ気がつかない状態を作ってしまうこともあるため注意してください。
原価率が高い場合のリスク
原価率が目安や業界の平均よりも高かった場合、「売上総利益」やその後の「営業利益」や「経常利益」が小さくなることを留意しておきましょう。
事業の新規開拓や継続させることは大切なことですが、売上原価を抑えつつ売上総利益を高めながら利益を確保することも必要です。
実際、日本の企業は欧米よりも原価率が高めで、「粗利」と呼ばれる売上総利益の幅は小さいといえます。
売上総利益は以下の計算式で算出できます。
売上総利益(粗利) = 売上高 - 売上原価
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「営業利益」は、売上総利益(粗利)から「販売費及び一般管理費」を差し引いて求めるため、営業利益も小さくなってしまいます。
次に計算する「経常利益」「当期純利益」も連動して小さくなるため、利益確保のためにはできるだけ原価率を抑える努力が必要といえます。
原価を下げるために必要な見直し
原価率が高いままでいると、利益をうまく生み出すことができません。
原価を削減するよりも販売管理費の削減を検討するべきともいえますが、同業他社と比較した原価率が明らかに高いときには原価を見直しましょう。
売上原価を下げるためには仕入価格や材料費の引き下げだけでなく、「ロス」を防ぐことが大切です。
ロスが多いことが原価率の上昇につながっている可能性があるため、次の つを見直すようにしてください。
- 在庫管理の見直し
- 仕入れの見直し
- 販売価格の見直し
- 販売方法の見直し
それぞれ説明していきます。
在庫管理の見直し
在庫管理がうまくできていなければ、倉庫などに商品が放置されることとなり、市場のニーズの低下で価値が下がり、結果として原価率を高めます。
年度末のみ棚卸しを行っている場合には、毎月1度は実施するようにし、在庫の状況を確認できる体制を作っておきましょう。
できるだけ在庫ロスを発生させないためにも、次のことを見直した管理を行うようにしてください。
- 製造業の場合には不良品を出さない
- どの商品が売れているか市場を確認する
- 古いものから販売する
- 適切な保管場所か確認する
在庫管理は徹底して行うようにし、人為的なミスでロスを発生させないためのマニュアル完備なども検討が必要となります。
また、製造業など生産全般で投入した原料や素材の量に対し、実際に得ることができた生産数量の割合を「歩留まり」といいます。
ある品目を製造した中に含まれる良品の割合のことで、製品を製造する過程で含まれる一定割合の不良品を取り除き、出荷できる製品の割合です。
歩留り = 良品数 ÷ 製造数
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歩留まりは限りなく「1」に近い、または「100%」が良いといえます。
不良品をゼロにすることは困難なため、できるだけ改善できるような業務フロー改善なども必要です。
仕入れの見直し
仕入れの見直しとして仕入単価を下げることが必要です。
たとえば仕入先を集約すれば仕入れ量に応じて単価を引き下げもらうことができます。
反対に仕入先を分散することでリスクを軽減させ、新たに単価の安い仕入先を開拓するといった方法も考えられます。
過剰な仕入れがあれば在庫ロスを発生させるリスクを高めることとなり、長期保管することになれば価値は劣化していきます。
常に売れる商品なら、ある程度在庫を抱えていても問題ないと考えられます。
しかし繁忙期が限定される季節モノの商品などは、過剰に仕入れれば利益に大きく影響します。
仕入量は前年の売上などを参考にしながら今年度の予算を立て、一度に大量を仕入れるのではなく小ロットによる量の調整などが望ましいといえます。
販売価格の見直し
原材料価格が高騰している状態で販売価格を据え置いていると原価率は上がります。
そのため原材料の価格と見合わない販売価格で売っているときには、価格の見直しも検討しなければばりません。
原価を下げるためには、1個当たりの単価を引き下げる検討が必要です。
たとえば製造業なら、製造原価にかかる製造経費ごとに削減できる部分はないか確認します。
小売業なら、仕入単価・仕入数量の調整で売上原価・原価率を削減できないか検討します。
売上高が下がれば売上総利益も低下することが通常ですが、原価率を改善させれば売上総利益は増えるため、企業に残る資金も増加するはずです。
顧客ニーズなどを踏まえつつ、市場価格とかけ離れすぎない範囲で価格を設定することが望ましいでしょう。
販売方法の見直し
販売する商品すべての原価率が同じではなく、それぞれ異なることがほとんどです。
原価率が高い商品より原価率が低い商品を売ったほうが、利益につながりやすいと考えられます。
たとえば広告やチラシなどでおすすめ商品として紹介するなど販売方法を見直してみてください。
また、商品によっては売れにくいものもあるため、原価率が高い商品と原価率が低い商品をセット販売するといった方法も検討してみましょう。
まとめ
会社経営の目的は利益を出すことです。
利益を出せなければ会社はいずれ倒産してしまうため、最悪の事態を避けるためにも利益を出すことが必要といえます。
そのためにも現在の事業の運営方法で間違いはないか、分析を行うことが必要です。
企業分析の場面で使われるのが売上に対する原価の割合である原価率ですが、その計算方法や目安、業種別の平均値など知っておくとよいでしょう。
原価率はロスをなくすことで改善されますが、そのためにも在庫管理を徹底するなど、何に問題があるか客観的に分析することが必要です。
そして会社を続けるためには資金を枯渇させないことも重要となるため、見直し段階で資金がショートしそうな場合は、ファクタリングの活用も検討してください。