ファクタリングと電子記録債権(でんさい)は、どちらも売掛債権を譲渡するサービスといえますが、共通する部分や違いがよくわからないという方もいることでしょう。
そもそも電子記録債権とは、従来使用されていた紙の手形に代わる決済手段として2008年12月1日に電子記録債権法が施行されたことが始まりです。
資金調達をスムーズに、そしてニーズに合った形で成功させるために、ファクタリングと電子記録債権のどちらを選ぶべきか、2つの違いがわからなければ選ぶことができません。
そこで、ファクタリングと電子記録債権の違いとは何なのか、それぞれのメリットやデメリット、また利用に向いているケースについても解説していきます。
目次
ファクタリングと電子記録債権の違い
「ファクタリング」と「電子記録債権」は、どちらも売掛債権を譲渡することにより、期日よりも前に現金化できることは共通しています。
また、早期に資金調達が可能であることも共通していますが、2つには次の3つの違いがあるといえるでしょう。
- ネットワークの違い
- 審査で重視する項目の違い
- 未回収リスクに対する責任の違い
それぞれどのような違いがあるのか説明していきます。
ネットワークの違い
ファクタリングと電子記録債権は、ネットワークに違いがあります。
まず「電子記録債権」は、「株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)」が記録機関となり運営しています。
「でんさいネット」は全国銀行協会が出資・設立した記録機関であり、金融業界全体での取り組みとして1,300を超える金融機関が加盟していることが特徴です。
債権の支払いや受け取りは、従来までの銀行システムから「でんさいネット」にアクセスし、銀行間決済を通じて行われます。
口座を開設している金融機関がでんさいネットに加盟していれば、新しく口座を開設することなく利用することができます。
また、どの金融機関で手続しても書式が統一されていることも、安心感や利便性につながっているといえるでしょう。
もう一方の「ファクタリング」は、ファクタリング会社を通じて売掛債権の売買を行います。
そのため売掛先が増えれば都度、契約を結んで現金化する必要があるといえるでしょう。
ただ、でんさいネットにように加盟する必要はなく、売掛先に対する請求書をファクタリング会社に売却すれば資金調達できるなど、手軽な方法といえます。
審査で重視する項目の違い
ファクタリングと電子記録債権は、審査で重視される項目に違いがあります。
まず「電子記録債権」をサービスとして提供するのは銀行などの金融機関のため、債権の信用性以外に「利用者」の財務状況など、資金の貸し付け同様の審査を行います。
ただし「銀行」で電子記録債権を利用するときには、利用者の信用に基づいた信用枠の設定や割引料の決定となり、「貸金業者」で割引を申し込むときには債権の信用力を重視した審査となるという違いもあります。
いずれにしても利用者の信用力も関係するため、財務状況が悪化している場合には資金調達に活用できない場合もあるといえるでしょう。
しかし「ファクタリング」の審査では、利用者ではなく「売掛先」の信用力を重視するため、利用者が赤字決算や債務超過で悩んでいても資金調達に活用できます。
未回収リスクに対する責任の違い
ファクタリングと電子記録債権は、未回収にリスクに対する「責任」に違いがあります。
「電子記録債権」で債権を譲渡した後、支払企業が決済できず不履行となった場合、「利用者」がその責任を負うことになります。
しかし「ファクタリング」では、売掛債権をファクタリング会社に譲渡したと同時に貸し倒れとなるリスクも移転されます。
そのため売掛先が倒産し、期日に売掛金を回収できなかったとしても、その責任を負うのは「ファクタリング会社」です。
ただし、未回収リスクの責任を利用者が負う電子記録債権のほうが、ファクタリングよりも手数料は割安に設定されます。
ファクタリング利用の流れ
「ファクタリング」と「電子記録債権」は、似ているようで異なるサービスです。
この2つのサービスのうち「ファクタリング」で資金を調達するときには、以下の利用の流れとなります。
- ファクタリング利用を申し込む
- 必要書類提出など情報を提示する
- 契約締結
- 買取代金を受け取る
それぞれの流れについて説明していきます。
①ファクタリング利用を申し込む
ファクタリングで資金を調達したいときには、ファクタリング会社に申し込みを行いましょう。
公式サイトの申し込みフォームやメール、電話など様々な方法がありますが、ファクタリング会社によって異なります。
②必要書類提出など情報を提示する
ファクタリング利用を申し込むときには、必要書類の提出など情報提示も必要となります。
何の書類を求められるかはファクタリング会社により異なる場合もありますが、一般的な必要書類は以下のとおりです。
- 2~3期分の決算書(個人事業主なら確定申告書)
- 売掛先との基本契約書
- 取引履歴の確認できる銀行口座の通帳の写し
- 売掛金の存在の有無が確認できる請求書など
必要書類として提出するのは契約のときですが、審査に必要な情報を事前にファクタリング会社に伝えることが必要となります。
③契約締結
ファクタリング会社による審査が終わり、買取金額や売買手数料など条件が提示され、内容に双方が納得すればファクタリング契約が締結します。
また、見積書を提示してくれない、契約書の控えを渡さないファクタリング会社は悪徳業者の可能性が高いので契約時には十分注意するようにしてください。
④買取代金を受け取る
契約締結後、ファクタリング会社が売掛金を買い取り、利用者が指定した口座に買取代金が支払われます。
⑤集金代行日にファクタリング会社へ支払いを行う
2社間ファクタリングでは、利用者が売掛債権の期日に売掛先から入金があったら、速やかにファクタリング会社に支払いをする必要があります。
故意でなくても、売掛先から入金があった際に別の支払で口座から自動的に引き落とされてしまったり、他の支払いに充ててしまうと横領罪が成立する可能性があります。十分に気を付けましょう。
ファクタリングのメリット
売掛債権を現金化する「ファクタリング」と「電子記録債権」のうち、「ファクタリング」のメリットとして挙げられることは次の4つです。
- 売掛債権があれば申し込みできる
- 資金調達まで時間がかからない
- 審査の難易度が低い
- 利用者が未回収責任を負う必要はない
それぞれのメリットについて説明していきます。
①売掛債権があれば申し込みできる
ファクタリングは、保有する売掛金(売掛債権)をファクタリング会社に売却し、期日より先に現金を受け取るサービスです。
ファクタリングの利用条件は、売掛先に商品やサービスの販売(提供)が完了しており、入金額や入金日が確定している「確定債権」としての売掛金が発生していることのため、売掛先に対する「請求書」などで売掛金が存在することを証明できれば利用できます。
売掛金を保有していれば、ファクタリング会社によるものの中小企業に限らず個人事業主でも利用できることもメリットといえるでしょう。
②資金調達まで時間がかからない
ファクタリングのメリットと、資金調達まで時間がかからないことが挙げられます。
銀行から融資を受けようとすれば、申し込みから融資実行まで月単位の時間がかかる場合もめずらしくありません。
今すぐお金が必要なタイミングに資金を調達できなければ、倒産危機を回避できなくなる可能性もあります。
しかしファクタリングなら、申し込みから売掛金の現金化まで「最短即日」という場合もあるなど、スピーディな対応が大きなメリットです。
③審査の難易度が低い
ファクタリングは、利用者が赤字決算や債務超過など、財務状況や経営難で悩んでいるときでも利用できることがメリットです。
その理由は審査の難易度が低いからといえますが、利用者ではなく「売掛先」の信用力が重視されることが関係しています。
自社の信用力に自信がないものの、大手や業績が安定している売掛先の売掛金を保有していれば、ファクタリングで資金を調達しやすいといえるでしょう。
ただし自社の信用力はそれほど悪くないのに、売掛先の信用力が悪化していれば、ファクタリング会社に買い取りを断られる場合もあります。
ファクタリングで資金を調達するときには、できる限り信用力の高い売掛先の債権を売却するとよいでしょう。
④利用者が未回収責任を負う必要はない
ファクタリングは、償還請求権がない契約(ノンリコース)のため、売掛先が倒産したなどの理由で支払不能となり売掛金の回収ができなくなっても、その責任を利用者が負う必要はありません。
※銀行免許や貸金業登録を有している金融機関が取り扱うファクタリングには償還請求権が付いている(リコース)契約もあります。
ただしファクタリング会社が未回収リスクを負う分、売買手数料は高めに設定されます。
ファクタリングのデメリット
様々なメリットがある「ファクタリング」による資金調達ですが、利用する上で次の3つのデメリットには注意しておきましょう。
- 売買手数料がかかる
- 売掛先との取引に影響する場合がある
- 悪徳業者が横行している
それぞれのデメリットについて説明していきます。
①売買手数料がかかる
ファクタリングで資金を調達するときには、ファクタリング会社に「売買手数料」を支払うことが必要です。
売買手数料はファクタリング会社によって幅があるものの、2社間ファクタリングなら10~20%、3社間ファクタリングで1~9%が相場となっています。
売掛金の貸し倒れリスクをファクタリング会社が引き受けることになるため、電子記録債権よりも高くなりやすいと留意しておきましょう。
②売掛先との取引に影響する場合がある
ファクタリングで資金を調達することにより、売掛先との取引に影響する場合があることは注意しておきましょう。
3社間ファクタリングでは、利用者とファクタリング会社だけでなく、売掛先も契約に加わります。
そのため売掛先に対し、債権がファクタリング会社に譲渡されることを「通知」し、「承諾」を得ることが必要です。
売掛先にファクタリング利用の説明や、協力してもらうための説得を行うことが必要となりますが、その際、必ずしも納得してもらえるとは限りません。
協力を得ることができないだけでなく、売掛債権を資金調達に使わなければならないほど資金繰りが悪化している企業と認識されてしまい、その後の「取引」を打ち切られたり取引量を減らされたりなど影響が出る可能性も否定できないといえます。
長年付き合いがあり何でも相談できる売掛先などがなければ、3社間ファクタリングを利用することは厳しいともいえるでしょう。
③悪徳業者が横行している
ファクタリング業界は、法整備が十分といえないため、「悪徳業者」が横行していることもデメリットといえます。
ファクタリング会社に支払う売買手数料は、法律などで上限が決められているわけではなく、貸金業のように登録制度が設けられているわけでもありません。
そのため中には悪質な取引を持ち掛ける業者も存在し、表向きはファクタリングを装い資金を貸し付けようとするケースや、「法外」な売買手数料を請求するケースなども見られます。
正規のファクタリング会社なら、たとえ法律で売買手数料上限の決まりなどがなくても、相場に見合う範囲で売買手数料を設定するはずです。
そのため、ファクタリング利用の際には、「実績」が十分ある信頼できるファクタリング会社を選ぶことが重要といえます。
ファクタリング利用に向いているケース
売掛債権を現金化するサービスのうち、「電子記録債権」ではなく「ファクタリング」を選んだほうがよいケースとして挙げられるのは次の3つです。
- 自社の信用情報に自信がない
- 売掛債権を資金調達に利用することを売掛先に隠しておきたい
- 「電子記録債権」の利用ができない
電子記録債権のほうがコストも安く便利ですが、インターネット環境になければ利用できず、ネットバンキング契約なども必須となるため普及していないのが実情といえます。
しかしファクタリングはまだ回収していない売掛金さえ保有していれば利用でき、2社間ファクタリングであれば売掛先にも知られず資金を調達できるため、中小企業が活用しやすい方法ともいえます。
また、中小企業の7割以上が赤字経営といわれているため、電子記録債権の審査に通らず利用できない場合でもファクタリングなら資金調達できます。
電子記録債権利用の流れ
売掛債権を現金化するサービスのうち、「ファクタリング」ではなく「電子記録債権」を利用する場合には、以下の4つの流れとなります。
- 電子記録債権利用を申し込む
- 電子債権を発生させる
- 電子債権を譲渡する
- 電子債権を支払う
それぞれの流れについて説明していきます。
①電子記録債権利用を申し込む
電子記録債権利用の申し込みは金融機関の窓口で行います。
その後、金融機関で審査が行われ、通過すれば利用契約締結により利用をスタートできます。
②電子債権を発生させる
電子記録債権ではまず「電子債権」を発生させることが必要です。
銀行の窓口を通じ、でんさいネットの記録原簿に「発生記録」を行うことで、譲渡できる「電子債権」を発生させることが可能となります。
③電子債権を譲渡する
電子債権を発生後は譲渡することになりますが、月の締日がそのタイミングです。
でんさいネットの記録原簿に「譲渡記録」することで譲渡可能となります。
また、分割による譲渡も可能です。
④電子債権を支払う
支払期日に、銀行口座から自動的にお金が引き落されます。
電子記録債権のメリット
売掛債権を現金化するサービスのうち、「電子記録債権」のメリットとして挙げられることは主に次の3つです。
- 事務負担を軽減できる
- 手続きが簡単
- コストカットにつながる
- 債権の紛失・盗難を防ぐことができる
それぞれのメリットについて説明していきます。
①事務負担を軽減できる
でんさいを使うことで、事務負担を軽減できることはメリットといえます。
一般的な手形取引では、紙媒体による発行や搬送、振込準備など様々な業務が発生します。
しかし「でんさいネット」による電子記録債権を使うことで、どの銀行を通じて手続しても全国で統一された書式を使うこととなり、前もって譲渡記録しておけば支払期日に自動的に支払いが行われるなど手間がかかりません。
②手続きが簡単
売掛先が保有する口座の金融機関で「でんさいネット」に登録することにより、新しく手続する必要はなく簡単です。
仮に売掛先が増えたとしても、「でんさいネット」に登録していれば契約を結び直す必要もなく「電子記録債権」利用が可能となります。
③コストカットにつながる
電子記録債権のメリットは、「印紙税」がかからないためコストカットにつながることです。
手形取引の場合、手形の振り出しには手形発行の手数料の支払い以外にも、「収入印紙」を貼ることが必要です。
しかし、電子記録債権なら収入印紙を貼る必要はなく、取引が多い場合には大きなコストカットにつながるといえます。
④債権の紛失・盗難を防ぐことができる
紙媒体の手形であれば、手形の管理・作成・振出・郵送など様々な手間やコストがかかるだけでなく、盗難や紛失のリスクも否定できません。
「現物」として管理することになれば、紛失や盗難のリスクは避けられないでしょう。
また、ファクタリングでは債権自体が存在しない架空債権の売却や、既に売却済みの債権を別のファクタリング会社へ売却する二重譲渡が発生するリスクもありましたが、電子記録債権ではこういった事態を避けることが出来ます。
電子記録債権なら電子記録のため現物は存在せず、紛失・盗難などのリスクはありません。
電子記録債権のデメリット
「電子記録債権」による資金調達は、単に手元の現金を増やせる以外にもいろいろなメリットがあるといえますが、次の4つのデメリットには注意しておきましょう。
- 相手も電子記録債権利用者であることが必要
- 審査の難易度が高め
- 手数料がかかる
- 利用者が未回収責任を負う
それぞれどのようなデメリットか説明していきます。
①相手も電子記録債権利用者であることが必要
電子記録債権を利用するときには、債務者(利用者)だけでなく債権者(売掛先)も「でんさいネット」に加盟していなければなりません。
一方的な利用登録で取引が可能となるわけではないため、相手にも登録してもらうことが必要です。
中小企業の場合、経営者の高齢化が進んでいるためインターネットでの取引を避けたがる傾向も見られるなど、普及があまり進んでいません。
②審査の難易度が高め
電子記録債権は、ファクタリングよりも審査の難易度が高めであることもデメリットです。
融資を受けるときと同じような審査となるため、債権の信用力だけでなく、「利用者」の財務状況や経営状態なども審査の対象です。
信用力に自信がないものの電子記録債権を利用したいという場合には、手数料は銀行より高くなるものの債権の信用を重視した審査を行う「貸金業者」や「手形割引業者」へ申し込むとよいでしょう。
③手数料がかかる
手形を発行するときにも「手数料」がかかりますが、電子記録債権も同じく手数料がかかり、1.5~5%程度が相場です。
ファクタリングよりは低めの手数料と感じるかもしれませんが、保有している債権すべてをでんさいに切り替えず、一部のみでんさい利用とした場合には支払手段の複数化による管理コストが増えます。
④利用者が未回収責任を負う
電子記録債権では、万一手形が不渡りとなり決済されなかったときは、手形の裏書人と同じように未回収責任を「利用者」が負うことになります。
ファクタリングであれば、売掛先が倒産して売掛金の回収ができなくなっても、未回収責任は「ファクタリング会社」が負うため安心して利用できます。
しかし、電子記録債権は未回収リスクを残した状態で資金を調達することになるため、決済までは安心できない取引と理解しておきましょう。
電子記録債権利用に向いているケース
売掛債権を現金化するサービスである「ファクタリング」と「電子記録債権」のうち、「電子記録債権」を選んだほうがよいケースとして挙げられるのは次の3つです。
- 資金調達にかかる手数料をできるだけ抑えたい
- 高い信頼性の運営元で資金を調達したい
- 売掛先に売掛債権を使って資金調達することを知られても問題ない
「電子記録債権」による資金調達なら、信頼性の高い運営元で手続ができ、手数料も安く抑えることができます。
ただし売掛先も「電子記録債権」利用が可能な環境でなければならないため、自社のみで決めることはできないと理解しておきましょう。
まとめ
「ファクタリング」と「電子記録債権」は、どちらも売掛債権を支払期日よりも前に現金化できるサービスであり、迅速な資金調達が可能となることが共通しています。
ただし違いとして、
・「ファクタリング」は売買手数料が高めに設定されがちだが「電子記録債権」は費用が安い
・「ファクタリング」は審査の難易度が低いが「電子記録債権」は高め
・「ファクタリング」は売掛金を保有で利用できるが「電子記録債権」は売掛先の「でんさいネット」加盟が必須
・「ファクタリング」は売掛債権の未回収責任を負わないが「電子記録債権」は未回収責任を負う
などが挙げられます。
どちらのサービスを利用するか、それぞれのメリットやデメリットを踏まえて検討するとよいでしょう。