組織開発とは、組織内の人間関係を良好に保つことで、健全化を図る施策です。
特に決められたやり方があるわけではなく、抱える課題によってアプローチ方法は異なるといえますが、組織開発を行う目的や流れは理解しておくとよいでしょう。
そこで、組織開発について、目的や流れ、代表的な手法をわかりやすく解説していきます。
目次
組織開発とは
「組織開発」とは、組織内または部署間の人間関係を円滑化・活性化することにより、全体の生産性を底上げするための取り組みです。
市場の変化や働き方の見直しなど、物事に対する価値観は日々変わり、多様化へと対応することが必要といえます。
多様化を取り入れつつ、組織内や部署間の繋がりも強化することで、組織全体の関係性が深まり生産性向上へとつなげていくことができるでしょう。
組織全体の人と人との関係性が強化され、パフォーマンス向上の効果が期待できる取り組みが組織開発といえますが、以下の2つを説明します。
- 目的
- 人材開発との違い
組織とは?役割や目的・理想の集団作りと強固化で必要なことを解説
目的
組織開発の「目的」は、組織のパフォーマンス最大化を図ることです。
全体のパフォーマンスを向上させるためには、組織の抱える問題をまずは洗い出し、改善するために何が必要か模索することが必要といえます。
問題点が改善できれば、従業員の主体性やモチベーションも上がり、パフォーマンス向上にも繋がるでしょう。
以上のことから、組織開発は以下の2つを目的に行う必要があるといえます。
- 健全性・生産性の向上
- 外部環境への適応
健全性・生産性の向上
組織開発に取り組み、健全性を高めて生産性を向上させます。
持続的に会社が成長し、競合との競争で優位な位置を維持することにも繋がるでしょう。
社員一人ひとりや、部署やチーム単位でのパフォーマンスを最大化できる状態をつくることで、全体の生産性を向上させることを目的として行います。
外部環境への適応
組織開発に取り組み、事業・労働などの環境や、法律などの関係において外部環境へも適応していきます。
健全性や生産性が最大化されたとしても、外部環境に適応できていなければ組織として発展しないからです。
ITやコミュニケーションツールを使った迅速な意思決定を求められる場面においても、素早く適応できる環境を作ることが組織開発の目的です。
人材開発との違い
組織開発と間違いやすい言葉である「人材開発」とは、従業員を対象に行う能力開発であり、組織力を高めることに重きを置いています。
人材開発と組織開発の違いとして、以下の3つが挙げられます。
- 対象
- 目標
- 方法
対象
人材開発と組織開発の違いとして、何を「対象」とするかが挙げられます。
組織開発と人材開発は、課題を解決する対象が異なります。組織開発では対象が「人と人の繋がり」、人材開発では「人」であることがポイントです。
組織開発では、組織内の人と人との結びつきであり、チーム内における「関係性」や「相互作用」を対象とします。
対する人材開発は、「人」を対象に研修やOJTなどを行い、知識や技術を身につけさせて課題を解決させることが違いです。
目標
人材開発と組織開発の違いとして、取り組む「目標」が挙げられます。
組織開発は、組織全体の生産性を向上することが目標です。
組織全体の機能・仕組み・文化・人間関係を改善することが目的であり、組織のパフォーマンスを最大化させてモチベーション向上へつなげ、業績を向上させます。
対する人材開発では、個人の成長を目標に、スキルや能力を伸ばしていきます。
ビジネススキルや仕事へのモチベーションを向上させ、仕事の質を高めて業績向上へつなげることが組織開発との違いです。
方法
人材開発と組織開発の違いとして、実施するときのアプローチの「方法」が挙げられます。
組織開発は、コミュニケーションや業務を見直すことで組織改善を図ります。
そのため組織の抱える問題を洗い出し、改善方法を模索して従業員の主体性やモチベーションを高め、業績向上につなげます。
対する人材開発は、研修やOJTを通じて、個人の知識や技術を伸ばしていきます。
従業員それぞれが自らでゴールを設定し、必要なアプローチを選択してスキル向上を目指すことが組織開発との違いです。
組織開発のメリット
組織開発に取り組むメリットは、主に次の2つです。
- 生産性が向上する
- 働き方の多様化に繋がる
それぞれ説明します。
生産性が向上する
組織開発に取り組めば、生産性が向上します。
課題や問題を解決すれば、従業員の負担も軽減されるためパフォーマンスは自然と向上すると考えられます。
その結果、全体の生産性向上につながります。
業績に強く影響する要素であり、生産性を上げるためにも組織開発に積極的に取り組みましょう。
働き方の多様化に繋がる
組織開発に取り組めば、働き方の多様化に繋がります。
働き方はいろいろな分野で多様化が進んでおり、在宅勤務やリモートワークを取り入れる企業も増えました。
また、終身雇用制度の廃止や実力主義の台頭などで、多様な価値観を受け入れる企業文化の醸成にも役立ちます。
組織開発のデメリット
組織開発に取り組むデメリットは、主に次の2つです。
- 手段が目的になりやすい
- 効果を得られないことがある
それぞれ説明します。
手段が目的になりやすい
組織開発に取り組むデメリットは、手段が目的になりやすいことです。
目的を見失った状態で組織開発に取り組んでも、実践していること自体が目的になっているため意味がありません。
また、従業員同士の繋がりが強くなりすぎてしまうこともあるため、組織内の問題解決や目標達成の手段であることを再認識し、改善や強化を目指しましょう。
あくまでも会社経営における最終的な目的は利益追及です。
本来の目的を見失わないようにしてください。
効果を得られないことがある
組織開発に取り組むデメリットは、効果を得られないことがあることです。
実際に想定していた効果が短期間で出るとは限らず、組織開発を先導する経営陣と現場の従業員とでは考え方にも大きなギャップがあるケースもあります。
この場合、改善も進まず期待していたとおりの効果も出ないと考えられます。
失敗は悪いことではないため、トライアンドエラーを繰り返すことを前提に、長期での改善を目指すことが必要です。
組織開発の流れ
組織開発は、次の6つの流れで進めていきます。
- 現状の把握
- 目標の明確化
- 課題の洗い出し
- 改善方法の運用
- 効果の検証
- 振り返りと見直し
それぞれの段階を説明します。
1.現状の把握
組織開発に取り組む場合、まずは現状を把握することが必要です。
社内における従業員同士の関係性や組織構造を見直すことが必要ではあるものの、評価を数値や指標で測ることは困難といえます。
風通しが良くない雰囲気や、活気がないなどの「印象」による評価に留まることが多いため、情報を管理職や従業員へのアンケートやヒアリングなどで収集し、できるだけ詳細で正確な現状を把握していきましょう。
2.目標の明確化
組織開発は、健全性や生産性を向上させ、外部環境への適応することが必要となるため、いつまでに何を行ってどのような状態に仕上げるのか明確にしましょう。
目標を明確化すれば、組織内で何の情報を共有し、取り組みとして何を進めていくべきか判断しやすくなります。
組織開発自体を目的にしないためにも必要なことといえます。
3.課題の洗い出し
明確にした目標に対し、今の組織に足らないものは何か洗い出しましょう。
組織全体で不足する者は何か、ヒアリングなどを通じて定量的・客観的に問題点を洗い出します。
洗い出した課題について、何をすれば解決できるのか方法を検討することも必要です。
いつまでに何を行い、どのような状態にするのか明確にすれば、次の行動に移りやすくなります。
次に、全体の課題を掘り下げ、部門やチームなどの細かい単位の課題を可視化し、改善方法を検討します。
4.改善方法の運用
課題への解決策をまとめたら、部門やチーム単位で改善方法を運用します。
最初から全体で運用してしまうと、浸透するまでに時間がかかってしまいます。
そのためまずは部門やチーム単位など小規模で実践し、効果検証を行って改善と実施を繰り返しましょう。
なお、行動計画については、以下の5W2Hにあてはめて具体化します。
- Why(なぜ)
- Where(どこで)
- Who(誰が)
- What(何を)
- When(いつ)
- How(どのように)
- How much(いくらで)
スモールスタートで効果が見らえた方法を、範囲を広げて実践していくと効果が出やすいといえます。
5.効果の検証
小規模による運用で得られた効果を検証し、期待した成果を得ることができてれば、再現性を得た要因を明確にしましょう。
反対に成果を得ることができなかったときには、改善に向けた原因を究明することが必要です。
検証結果をふまえて、組織を構成する従業員それぞれが当事者意識を持ち、展開内容に応じた説明会の実施や実行マニュアル提供なども実施していきましょう。
6.振り返りと見直し
設定した目標を達成できたのか、まだ途中段階ではあるものの達成に近づいているのかなど、定期的に振り返りましょう。
効果検証とフィードバックを行った上での見直しを図りますが、新たな問題などが発生していないかなども確認します。
PDCAサイクルは、以下の4つで回し、仮設と検証を繰り返すことが必要です。
計画
実行
測定・評価
対策・改善
繰り返すことで取り組みの品質が高まり、データ蓄積により問題をより深く掘り下げ、見えなかった課題についても炙り出すことにつながるでしょう。
運用することで他の課題などが見つかったときにも、トライアンドエラーを繰り返して仮設と検証を進めます。
最適化された組織開発へ繋がれば、スムーズに運用や展開が可能となるはずです。
組織開発の手法
組織開発の手法として挙げられる代表的なフレームワークは、次の8つです。
- OKR
- マッキンゼーの7S
- ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)
- タックマンモデル
- ワールドカフェ
- フューチャーサーチ
- アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)
- コーチング
それぞれの手法を説明します。
OKR
「OKR(Objectives and Key Results)」とは、組織全体・部署(チーム)・個人に対し、以下を設定して進捗管理や評価を行う手法です。
O(objectives)目標
KR(key results)成果指標
目標管理手法の1つであり、それぞれが階層ごとに目標設定や達成度を把握することにより、企業全体で同じ課題へ取り組むことが目的といえます。
業務の優先順位を把握しやすくなることや、関係性が強化しやすいことがメリットです。
マッキンゼーの7S
「マッキンゼーの7S」とは、以下の3つのハードな経営資源と、4つのソフトな経営資源をもとに、最適な事業戦略を考えるフレームワークです。
ハード面(3S) | 戦略(Strategy) | 目標達成に向けて行う具体的な取り組み |
組織構造(Structure) | 組織活動の円滑化に向けて役割や指示系統を整える | |
システム(System) | 人事評価制度や目標管理制度などの組織内ルールや仕組み | |
ソフト面(4S) | スキル(Skill) | 販売力・技術力・商品開発力などの強み |
人材(Staff) | 育成・教育など採用活動 | |
スタイル(Style) | 企業風土 | |
共通の価値観(Shared Value) | 使命や理想を達成するための行動指針・基準 |
取り組むことにより、現状の把握と分析、課題の明確化が可能であることがメリットといえます。
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)
「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」とは、実現を目指すことや方向性、価値観や行動指針をまとめた経営方針です。
存在意義(ミッション)・目指す姿(ビジョン)・価値観・行動指針(バリュー)の3つの要素で構成し、組織の存在を表現する概念といえます。
持続的な成長に向けて、意思決定の基軸になることがメリットです。
タックマンモデル
「タックマンモデル」とは、組織の成長段階を以下の5つのステージに分けて、過程を体系化したモデルです。
- 形成期
- 混乱期
- 統一気
- 機能期
- 散会期
段階ごとに適切な対策をとり、理想の組織を目指します。
組織の団結力を高めるための環境整備の手法として、現在組織がどの段階にいるか理解し、経営者やリーダーが適切な対策を打ち出すときの手法としています。
ワールドカフェ
「ワールドカフェ」とは、カフェのようなくつろげる雰囲気で、自由に対話を行う手法です。
自由に創造的なアイデアを生み出すための話し合いの手法であり、リラックスした雰囲気で会議を行います。
少人数で意見交換できるため、相手の意見を聞いて発言もしやすいことがメリットです。従業員の意欲を引き出すことや、連携を強化する上でも有効なフレームワークといえます。
フューチャーサーチ
「フューチャーサーチ」とは、複雑な状況下で行う民主的な話し合いにより、望ましい未来の探究や共創を生み出す手法です。
難易度の高い課題について、関係者で議論を行い、解決策を見出すミーティングを行います。
外部関係者も含めて議論を行い、どうあるべきかの軸を確立して翻弄されない組織づくりができるといったメリットがあります。
アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)
「アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)」とは、問いや探求により、個人の価値や強み・組織の真価を最大限に生かして問題を解決する手法です。
AIは、以下の2つの頭文字を省略しています。
- Appreciative(価値を見出す)
- Inquiry(探求・質問)
肯定的な質問から個人や組織の価値を見出し、可能性を広げるフレームワークといえます。
成功要因に価値を見出してポジティブに課題を解決していきます。
互いの成功ポイントなどを共有し、前向きな組織文化を醸成して成功事例を蓄積できることがメリットです。
コーチング
「コーチング」とは、対話を通じて対象者が本来持つ能力を引き出し、成長や自発的な行動を促すためのマネジメント手法です。
自主性や内発的動機付けを重視するため、指導やアドバイスをするのではなく、本人に気がついてもらい自主的に行動してもらいます。
自立して行動することで、組織発展に向けた強力な推進力となることが期待できます。
コーチングとティーチングの違いとは?メリット・デメリットや使い分け方
組織開発のポイント
組織開発を成功させるためのポイントとして、以下の4つが挙げられます。
- わかりやすい目標を設定する
- 上層部も積極的にかかわる
- 進捗や課題を共有する
- 適切に運用する
それぞれ説明します。
わかりやすい目標を設定する
組織開発を成功させるためには、従業員がイメージしやすいなど、わかりやすい目標を設定しましょう。
単に業績を上げることが目標と伝えられても、漠然としすぎることや解釈に幅があるため混乱を招きます。
この場合、月単位での売上目標を数値で表すなど、具体的な目標数値を決定すれば何を目指すべきか判断しやすくなります。
上層部も積極的にかかわる
組織開発を成功させるためには、上層部も積極的に取り組みへ参加しましょう。
取り決めた目標などが、会社の理念や上層部の認識と合致していることが必要だからです。
上層部が関与せずに組織開発をはじめると、方向性にズレが生じたときに軌道修正しにくくなります。
そのため上層部やマネジメント層も組織開発へ参加し、現状を常に確認することが必要といえますが、意見を押し通すのではなく現場の声をとりまとめて臨機応変に立ち回ることを心がけましょう。
進捗や課題を共有する
組織開発を成功させるためには、話し合いの場を定期的に設けて、進捗や課題は全体で共有しましょう。
業務分業化や在宅勤務などで、個業主義が進んでいる傾向です。
そのため組織開発を円滑に進めるには、組織内で話し合う場を定期的に設け、進捗や課題を共有する必要があります。
仮に発生した問題に単独で対処すれば、他のメンバーが同じ問題に直面したとき、同じ労力をまたかけることになってしまいます。
情報共有は密に行い、できるだけコストをかけずに課題を解決していきましょう。
適切に運用する
組織開発を成功させるためには、適切な運用が必要です。
運用における効果を測定し、もしもうまくいっていないときには原因究明と改善策を検討しましょう。
なお、問題発見から改善するまでの経緯は、記録として残すことも大切です。
組織開発を実施すること自体を目的にせず、決めた目標へ立ち返り、運用方法や結果に意図せぬものはないか確認し見直していきましょう。
まとめ
組織開発とは、組織の健全性・効果性・自己革新力を高めるための取り組みであり、組織内での人と人との関係性を強化していきます。
働き方の多様化で、組織内や部署間の繋がりが薄くなっているケースもありますが、組織開発により強化できれば全体の関係性が深まり生産性向上へもつながります。
また、組織全体の人同士の関係性が強化されれば、現場のモチベーションやパフォーマンスも向上し、質向上にもつながるでしょう。
ただし組織開発は短期で期待した効果を出すことは難しいといえるため、長期に渡り試運転と検証を繰り返し、見直しを重ねていくなど根気強さも必要です。