創業者向けの助成金とは?制度の種類や活用するメリット・デメリットを解説

創業者向けの助成金は、新規事業の立ち上げにおいて、新たな需要や雇用の創出に活用できる制度です。

革新的なアイデアや発想で進めるビジネスをスタートする上で、必要になった経費の一部に関して補助してくれる補助金制度とは異なり、従業員の雇用や職業訓練に関連する費用を支援することが多いといえます。

創業時は十分な実績もないため、銀行融資による資金調達は期待できないため、助成金をうまく活用することも必要といえるでしょう。

そこで、創業者向けの助成金について、制度の種類や活用するメリット・デメリットを解説していきます。

助成金とは

助成金を受け取るビジネスマン

「助成金」とは、主に厚生労働省による制度であり、雇用の促進や人材育成を目的としています。

返還不要の資金が支給される点は補助金と共通していますが、助成金の申請は通年可能となっており、条件を満たせば難易度も比較的低めといえます。

また、厚生労働省管轄の助成金の支援対象は、従業員を雇用している雇用保険適用事業者です。

財源は事業者負担の雇用保険の保険料と税金の一部であるため、事業運営の経費ではなく、人材雇用や能力開発で必要な経費を支援する制度になっています。

支給金額は数十万円から100万円程度にとどまるため、同時に研究開発型の補助金などを活用できれば、経営環境がより整いやすくなるでしょう。

助成金について、以下の2つを説明します。

  1. 補助金との違い
  2. 給付金との違い

補助金との違い

「補助金」とは、新規事業立ち上げや事業拡大、研究開発などでかかった費用を負担してくれる制度です。

事業者の経済的な負担を大きく軽減できるため、申請や報告などの手続は複雑であり、受給要件を満たしていれば必ず受け取れるお金でもありません。

助成金との違いは以下のとおりです。

助成金 補助金
管轄の省庁 厚生労働省 経済産業省
目的 労働環境改善や雇用対策・人材育成の支援など 新規事業等の支援・地域振興・公益につながる事業促進など
財源 雇用保険の保険料と税金 税金
条件 受給要件を満たすこと 受給要件を満たし採択されること
申請時期 年間 決められた公募期間

補助金は、助成金よりも上限額は高いケースが多いものの、予算や採択件数が決まっていることが多いため、申し込み期限内であっても応募数が多ければ募集を打ち切られることもあります。

また、申請できた場合でも高い競争倍率をクリアし、採択されなければ補助金を受け取ることはできません。

給付金との違い

「給付金」とは、使途が限定されていない返済不要のお金であり、主に国や自治体から支給されます。

国や自治体による返済不要のお金であることは、助成金と補助金と共通していますが、一定の対象者へ一定の取り組みを求めずに金銭を給付する制度が給付金です。

新型コロナウイルス感染症で売上高が減少した事業者へ支給された「持続化給付金」や、すべての国民に無条件で給付された「特別定額給付金」などが代表的な例といえます。

創業者向けの助成金

 

申請のイメージ

助成金は、一定要件を満たせば支給される制度であるため、創業した間もない会社でも申請しやすいといえます。

主に新規事業をスタートさせたときにも活用できる創業者向けの助成金は、以下の7つです。

  1. キャリアアップ助成金
  2. トライアル雇用助成金
  3. 人材確保等支援助成金
  4. 人材開発支援助成金
  5. 両立支援等助成金
  6. 地域雇用開発助成金
  7. 創業助成金(東京都)

それぞれの制度を説明していきます。

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キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金(令和6年度版)」は、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者などの非正規雇用の労働者(有期雇用労働者等)の企業内でのキャリアアップを促進するために、正社員化や処遇改善の取り組みを行った事業主を助成する制度です。

コースは複数あり、その1つである「正社員化コース」は就業規則または労働協約その他これに準ずるものに規定した制度に基づいて、有期雇用労働者等を正社員へ移行したときに助成金が支給されます。

1人あたりの助成額は以下のとおりです。(1年度1事業所あたりの支給申請上限人数20名)

企業規模 有期雇用労働者 無期雇用労働者
中小企業 80万円(40万円×2期) 40万円(20万円×2期 )
大企業 60万円(30万円×2期) 30万円(15万円×円×2期)

1人あたりの加算額は以下のとおりです

措置内容 有期雇用労働者 無期雇用労働者
① 派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合 28万5,000円 28万5,000円
② 対象者が母子家庭の母等または父子家庭の父の場合 95,000円 47,500円
③人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合 (自発的職業能力開発訓練または定額制訓練以外の訓練修了後)95,000円 (自発的職業能力開発訓練または定額制訓練以外の訓練修了後)47,500円
(自発的職業能力開発訓練または定額制訓練修了後) 11万円 (自発的職業能力開発訓練または定額制訓練修了後)55,000円

④正社員転換制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合(1事業所あたり1回のみ)

20万円(大企業15万円) 20万円(大企業15万円)

⑤多様な正社員制度(※)を新たに規定して当該雇用区分に転換等した場合(1事業所あたり1回のみ)

※ 勤務地限定・職務限定・短時間正社員いずれか1つ以上の制度

40万円(大企業30万円) 40万円(大企業30万円)

トライアル雇用助成金

「トライアル雇用」とは、職業経験が不足しているために就職が困難な求職者などを原則3か月間試行雇用で、適性や能力を見極めて期間の定めのない雇用への移行を促進するための制度です。

雇用された労働者と企業の互いが納得し、理解した上で無期雇用へと移行できるため、正社員雇用後のミスマッチを防ぐことができます。

求職者の早期就職を実現することや、雇用機会の創出を図ることが主な目的であり、求職対象者に応じて次の2つのコースを申請できます。

一般トライアルコース 支給対象者1人につき月額4万円(対象労働者が母子家庭の母等または父子家庭の父の場合は5万円)
障害者トライアルコース 支給対象者1人につき以下のとおり。
①対象労働者が精神障害者の場合、月額最大8万円を3か月、月額最大4万円を3か月(最長6か月間)
②①以外の場合、月額最大4万円(最長3か月間)

人材確保等支援助成金

人材確保等支援助成金」とは、魅力ある職場づくりに向けて労働環境向上等を図る事業主や事業協同組合等へ助成する制度です。

魅力ある雇用創出を図ることで、人材の確保・定着へつなげることを目的としています。

人材確保等支援助成金は、以下のとおり複数のコースが設けられています。

(a)雇用管理制度助成コース
(b)中小企業団体助成コース
(c)人事評価改善等助成コース
(d)建設キャリアアップシステム等普及促進コース
(e)若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)
(f)作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)
(g)外国人労働者就労環境整備助成コース
(h)テレワークコース
(i)派遣元特例コース

複数のコースのうち、たとえば中小企業団体助成コースでは改善計画の認定を受けた中小企業団体などが、構成中小企業者のために人材の確保や職場定着を支援する事業を行ったときが支援の対象です。

助成金額は、中小企業団体が構成中小企業者に労働環境向上事業を実施する上でかかった費用の3分の2が支給されます。

ただし団体の規模に応じて、600万円から1,000万円の範囲が上限です。

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金」とは、事業主等が労働者に職務関連の専門的な知識・技能を習得させる職業訓練等を計画に実施したときに、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。

コースは以下の4つであり、それぞれ特徴が異なります。

  1. 人材育成支援コース
  2. 教育訓練休暇等付与コース
  3. 人への投資促進コース
  4. 事業展開等リスキリング支援コース

4つのコースのうち、人材育成支援コースでは以下の訓練を実施したとき、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。

  • 職務関連の知識・技能を習得させる訓練
  • 厚生労働大臣認定のOJT付き訓練
  • 非正規雇用労働者対象の正社員化を目指す訓練

助成金額は以下のとおりです。

賃金助成1人1時間あたり 760円
経費助成(中小企業) 45%~70%
OJT実施助成(中小企業)1人1コースあたり 認定実習併用職業訓練20万円・有期実習型訓練10万円

両立支援等助成金

両立支援等助成金」とは、仕事・育児・介護を両立するための制度を導入した事業者や、女性が活躍できる取り組みを行った事業者への制度です。

優秀な人材確保や定着につなげるための制度であり、以下のコースに分かれています。

  1. 出生時両立支援コース
  2. 介護離職防止支援コース
  3. 育児休業等支援コース
  4. 育児中等業務代替支援コース
  5. 柔軟な働き方選択制度等支援コー
  6. 不妊治療両立支援コース

6つのコースのうち、たとえば出生時両立支援コースは中小事業者のみを対象する制度です。

男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境整備や業務体制整備を行い、育児休業を取得した男性労働者が発生した事業主へ助成金が支給されます。

第1種 1人目:20万円 ※雇用環境整備措置を4つ以上実施の場合 30万円
2人目・3人目:10万円
第2種 1事業年度以内に30ポイント以上上昇した場合:60万円
2事業年度以内に30ポイント以上上昇した(または連続70%以上)場合:40万円
3事業年度以内に30ポイント以上上昇した(または連続70%以上

※第2種(男性の育児休業取得率の上昇等)は1事業主につき1回限りの支給。
※第1種(男性労働者の育児休業取得)種の対象となった同一の育児休業取得者の同一の育児休業について、育児休業等支援コース(育休取得時等)との併給は不可

地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)

地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)」とは、雇用機会が不足している地域の事業者が、事業所を設置・整備することに併せて地域の求職者を雇用するときにかかった設置整備費用を対象労働者増加数に応じて支援する制度です。

計画日から完了日までの間でかかった事業所の設置・整備費用と、増加した対象労働者数に応じた額が、1年ごとに最大3回までの支給となります。

たとえば創業における設備・整備費用が300万円以上の場合、対象労働者の増加人数が2~4人であれば50万円支給され、1000万円以上であれば60万円支給されます。

また、中小企業事業者の場合は、1回目で支給額の1.5倍が支給され、創業と認められる場合は1回目で支給額の2倍が支給される制度となっています。

創業助成金(東京都)

創業助成事業」とは、都内で創業予定の個人または創業から5年未満の中小企業者等へ、賃借料・広告費・人件費・調査分析費・初期経費の一部を助成する制度です。

令和6年度の第2回公募の申請期間は、令和6年9月25日から令和6年10月4日までであり、必着となっていますので遅れず申請しましょう。

助成対象者 都内での創業を具体的に計画している個人又は創業後5年未満の中小企業者等のうち、一定の要件を満たす方
助成対象期間 交付決定日から6か月以上最長2年
助成対象経費 事業費:賃借料、広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費、 専門家指導費
人件費:従業員人件費
委託費:市場調査・分析費
助成限度額 上限400万円(下限100万円)
※事業費及び人件費を助成対象とする助成金の助成限度額:上限300万円
委託費を助成対象とする助成金の助成限度額:上限100万円
※事業費を助成対象経費として申請する必要があります。
助成率 3分の2以内

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創業者が助成金を活用するメリット

OKマークをするビジネスマン

創業者が助成金を活用するメリットは、主に以下の3つです。

  1. 返還不要の資金を調達できる
  2. 人材を確保しやすくなる
  3. 社会的な信用が向上する

それぞれのメリットを説明します。

返還不要の資金を調達できる

創業者が助成金を活用するメリットとして、返還不要の資金を調達できることが挙げられます。

申請要件を満たせば採択などは不要であり、ほぼ支給される難易度は低めの制度でありながら、返還する必要もありません。

事業を続ける上で毎月の返済資金の捻出に悩まなくてもよいのはメリットです。

人材を確保しやすくなる

創業者が助成金を活用するメリットとして、人材確保や定着率向上につなげやすくなることが挙げられます。

従業員が働きやすい環境整備に向けて制度を導入するなど取り組みを続ければ、満足度も向上するため離職率は低下します。

研修制度やメンター制度などを整備すれば、新入社員として入社した後も安心して必要な技術や知識を身につけることができる職場と認識され、応募も増えるでしょう。

従業員に対する教育が充実している会社と認知されることで、優秀な人材を獲得しやすくなると考えられます。

社会的な信用が向上する

創業者が助成金を活用するメリットとして、社会的な信用が向上することが挙げられます。

厚生労働省などが定めた要件を満たさなければ支給されないお金であるため、助成金を受給できることは国の審査に通る会社でああり、社会的な信用も高いと判断されるでしょう。

創業者が助成金を活用するデメリット

デメリットのイメージ

創業者が助成金を活用するデメリットは、主に以下の3つです。

  1. 要件が厳しい場合がある
  2. 準備に手間がかかる
  3. すぐに支給されない

それぞれのデメリットを説明します。

要件が厳しい場合がある

創業者が助成金を活用するデメリットとして、厳しい要件をクリアしなければならない場合もあることが挙げられます。

制度の種類が多いことや、提出書類も多岐に渡るため申請前の準備は容易ではありません。

助成金は申請要件を満たせばほぼ支給されるお金のため、不正受給を防ぐためにも審査は年々厳しくなっていることは理解しておきましょう。

準備に手間がかかる

創業者が助成金を活用するデメリットとして、準備に手間がかかることが挙げられます。

雇用創出に向けた助成金などは、労働局やハローワークなどの審査や確認を受けるなどの手間はかかります。

初回の申請の場合、実際には条件を満たしていないケースや、書類不備で申請できない場合などで手間がかかってしまうこともあるようです。

すぐに支給されない

創業者が助成金を活用するデメリットとして、すぐに支給されないことが挙げられます。

申請から支給決定までは、半年から1年近くかかるケースもあるため、すぐに手元のお金を増やしたいというニーズには対応できません。

不正受給を防ぐ上でも、審査は厳格に実施されます。

さらに助成金は、かかった費用が後払いで支給されるため、一時的に立て替えが必要になると留意しておきましょう。

まとめ

創業向けといわれる助成金には種類がありますが、補助金と違って通年申請ができることや、条件を満たせば支給対象になるなど難易度も比較的低めです。

ただしすべての助成金が通年申請を可能とするわけではなく、厳しい要件を満たさなければならないケースもあるため、最新情報を確認するようにしてください。

返還不要の資金を調達できる反面、期限内で申請手続を行うことが必要です。

さらに、前払いで支給されるのではなく、かかった費用を後払いで受給できる制度のため、立て替えることのできる資金の準備も必要となることは理解しておきましょう。