英文契約書とは?構成や和文契約書との違い・作成における注意点を解説

英文契約書とは、英語が言語の契約書であり、主に国際取引において使用されます。

和文契約書と基本的な構成に大きな違いはないものの、規定内容は細かくボリュームもあるため、作成するときには注意が必要です。

英語を言語とする英文契約書は、書面重視の考えが適用されるため、記載内容に漏れがないかしっかりと確認しましょう。

そこで、英文契約書について、構成や和文契約書との違いや作成における注意点を解説します。

英文契約書とは

英語の書類とバインダ

「英文契約書」とは、英語を言語に締結する契約書です。

国際取引で多く使われる契約書であり、英米法文化の法律英語と書式で作成されます。

欧米では契約を中心にビジネスを行うため、契約書がなければ収益の確保はないものと考えます。

そのため契約書こそが収益の源であり、契約締結や文書作成に向けた交渉で利益が確定していくと考えられています。

以上のことから、英語を言語とした英文契約書を作成する場合、記載内容が取引における収支へ大きく影響すると留意が必要です。

会社の運営全体にも影響を及ぼすと考え、海外取引での英語の契約書の理解は必須と理解しておきましょう。

英文契約書の構成

パソコンを確認する男女

英文契約書を作成するときの基本的な構成は以下のとおりです。

  1. タイトル(表題)
  2. 頭書
  3. 前文
  4. 定義条項
  5. 本文
  6. 一般条項
  7. 後文
  8. 署名
  9. 別紙

それぞれ説明します。

タイトル(表題)

英文契約書の冒頭には、「タイトル(表題)」を記載しましょう。

タイトルが法的効果に直ちに影響することはないといえるものの、内容に即した付け方が好ましいといえます。

そのため、「Agreement(契約書)」をタイトルとすることはできるものの、一目で契約内容が把握できる付け方として以下を参考にしてください。

なお英文契約書では、「契約書」「合意書」を「Agreement」、「覚書」を「Memorandum」と表記します。

  • Manufacturing Agreement(製造委託契約書)
  • Loan Agreement(金銭消費貸借契約書)
  • Sale and purchase Agreement(売買契約書)
  • Non-disclosure Agreement(秘密保持契約書)
  • Service Agreement(業務委託契約書)
  • Memorandum regarding Service Agreement(業務委託契約に関する覚書)

など

頭書

「頭書」とは、文書の上欄に注釈などを書き記すことです。

英文契約書の場合、頭書として以下のことを記載します。

  • 契約締結日
  • 契約当事者
  • 住所
  • 設立準拠法

など

前文

英文契約書の前文として、契約に関する基本的な事項を記載します。

契約締結に至る背景や目的などの記載が必要となりますが、具体的には以下の事項です。

  • 当事者の氏名(名称)
  • 予定する取引内容
  • 契約締結日
  • 本文内容で契約締結する旨

など

また、英米法では契約成立に「対価(consideration)」が必要とされています。

そのため英文契約書では契約に至った経緯を「WHEREAS」「NOW, THEREFORE」として記載することが多いといえます。

上記の表記ではなく、「RECITALS」などの小見出しで記載する場合もあります。

定義条項

英文契約書の作成においては、本文のはじめに契約書内で使う用語の定義といえる「定義条項」を記載します。

本文

英文契約書の「本文」は、当事者合意の内容について漏れのないように明確な文言での記載が求められます。

取引内容やリスク、法令上の規定が求められる条項などを踏まえ、記載しなければならない内容を精査することが必要です。

条文の意義の明確化には、以下の「5W1H」を意識した条文作成が求められます。

  • 主体(Who)「誰が」「誰に」
  • 時期(When)「いつ」
  • 場所(Where)「どこで」
  • 条件(Why)「~した場合には」
  • 行為(What)「何を」
  • 方法(How)「どのような方法で」

また、和文契約書の条文番号は、「条」「項」「号」の順で記載します。

英文契約書でも同様といえるものの、以下の表記となります。

  • 条  「Article」または「Section」
  • 項以下  「数字」
  • 本文中で他条文を引用する場合  項「Paragraph」・号「Item」

一般条項

「一般条項」とは、契約書や法律において色々な場面で用いる標準的な条項や、共通するルールなどです。

契約書における一般条項は、契約の種類を問わずに定められるため、作成やレビューにおいては考慮が必要といえます。

「レビュー」とは、契約書の内容を法的観点から確認し、不備・リスク・不利な内容が含まれていないかチェックする作業です。

英文契約書で締結する内容や紛争が発生したときの対応などを記載しますが、以下のとおりいろいろな種類があります。

通知条項 重要事項の変更など、相手先へ円滑に通知できるように以下を記載

  • 通知先 本社所在地・代表取締役宛など
  • 通知方法 手渡し・FAX・国際宅配便業者など
  • 効力発生の時期 配達記録日など
完全合意条項 契約書を巡る水掛け論を防ぐために「本契約書は最終的な合意内容を示すものであり、それ以外のやり取りで交わした合意による効力は消滅する」という旨を記載
分離/可分性条項 契約時にあえて無効になる条項を記載し、不都合発生時に契約自体が無効化される事態を防ぐため、「契約の一部条項が無効になったとしても、その他条項については有効なまま影響は受けない」という旨を記載
譲渡禁止条項 気がつかない間に契約先が変更されていることや、機密情報が競合に知られるといったトラブルを防ぐために、「相手方の事前承諾なく、契約上の権利義務や地位などを譲渡することを禁止する」という旨を記載
権利非放棄条項 契約不履行を見逃したために一切の解除権行使が不可能になる事態を回避するために、「契約に基づく権利を行使しなかったことを捉えて、当該権利を放棄したとは判断されない」という旨を記載

後文

英文契約書の本文に定める事項をすべて記載した後は、以下の事項を「後文」として記載します。

書面契約の後文に記載する事項
  • 作成の目的
  • 通数
  • 作成者(当事者全員)
  • 契約締結の方法(記名押印・署名捺印など)
  • 保管者(各自1通ずつ保管など)
電子契約の後文に記載する事項
  • 作成の目的(本契約の成立を証するため)
  • 電磁的記録で契約書を作成する旨
  • 作成者(当事者全員)
  • 契約締結の方法(電子署名など)
  • 保管者(各自電磁的記録の保管など)

署名

英文契約書の「署名」は、当事者の名称・住所・代表者を記載します。

その上で当事者全員が以下のいずれかの方式で調印することが必要です。

記名押印方式 前もって印字した当事者の名称(氏名)の箇所に印鑑を押す
署名捺印方式 当事者による自署の箇所に印鑑を押す
サイン方式 当事者が署名欄にサインする

英文契約書の海外の当事者は、サイン方式によって調印することが一般的です。

日本国内の当事者は、和文契約書と同様に記名押印方式または署名捺印方式を用いることもあるといえます。

署名欄に記載する事項は以下のとおりです。

署名(By) 名前を手書きで記載する(漢字・英語のどちらでも可)
名前(Name) 名前をローマ字で名前・名字の順に記載する。手書きでなくても可。なお、以下の注意書きがある場合は内容に則って記載する
「Print Name」「Printed Name」「Please Print」 一文字ずつ明確に記載
「Block Capitals」 大文字で記載
役職(Title)

役職を記載する

代表取締役は「President」など

日付(Date)

署名した日付を記載

アメリカ英語とイギリス英語それぞれの年月日の記載順は以下のとおり
アメリカ英語 月/日/年(例 2024年9月30日 = September/30/2024)
イギリス英語 日/月/年(例 2024年9月30日 = 30/September/2024)

場所(Place)

署名した場所を、「都市名・国名」の順に記載する

例 東京 = Tokyo, Japan

別紙

英文契約書に記載する内容のうち、細かい条件などがあるときには、読みやすさなどを考慮して「別紙」にまとめることもあります。

なお、英文契約書の「別紙」は以下の表記が多いといえます。

  • Appendix
  • Exhibit
  • Annex
    など

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英文契約書と和文契約書の違い

握手するビジネスマン

英文契約書と和文契約書には、以下の2つにおいて特徴が異なるといえます。

  1. 条項の数や内容
  2. 重視する部分

それぞれ説明します。

【契約書の書き方】構成と具体例をテンプレートでわかりやすく解説

条項の数や内容

英文契約書と和文契約書は、条項の数や内容に違いがあります。

和文契約書は、たとえば「規定されていない事項は双方の協議で定める」などの内容を記載し、後で協議するケースも少なくありません。

条項の数も比較的少なく、数ページで完結する場合もめずらしくないといえるでしょう。

その一方で英文契約書の場合、取引条件を詳しく記載することが通常であり、条項の数も多いため数十から数百ページに及ぶことも多いといえます。

さらに多くの英文契約書は、第1条に「定義条項」を設けていることも特徴的といえるでしょう。

合意事項を網羅した記載とすることが重要であるため、細かくルールを記載することによって分量が増えると考えられます。

そのため枚数が多い英文契約書のレビューにおいては、条項ごとの重要度の判断などを確認するようにしましょう。

重視する部分

英文契約書と和文契約書は、重視する部分に違いがあります。

英文契約書における取引は、どのように記載されているかが重要であり、英米法の観点で作成されることがほとんどといえます。

そのため記載される内容も、詳細で網羅的になる傾向が見られます。

異なる国や地域の主体同士で英文契約書を作成するときには、以下の2つの重要度が高くなると考えられるでしょう。

準拠法(Governing Law)

どの国・地域の法律で契約書の内容を解釈し、適用するのかを定める条項

取引を行う国や地域の法律、または当事者のうち交渉力の強い主体の国・地域の法律を選択することが一般的

合意管轄(Jurisdiction)

契約に対する紛争が発生したとき、どこの裁判所で争うか定める条項

当事者のいずれかの属する国や地域の裁判所、または仲裁地や仲裁機関を定めることが一般的

英文契約書の作成と締結においては、取引の実情と利害得失や利便性を考慮し、適切に準拠法と合意管轄を定めることが必要といえます。

英文契約書の作成における注意点

欧米のビジネスマン

英文契約書の作成において、以下の7つに注意しましょう。

  1. 契約違反・債務不履行の取り決め
  2. 合意内容の記載
  3. 表現の方法
  4. 用語への理解
  5. 条項の確認
  6. 過去の契約書との差異
  7. 関連契約との整合性

それぞれ説明します。

契約違反・債務不履行の取り決め

英文契約書の作成において、契約違反や債務不履行の取り決めに注意しましょう。

英米法が適用される英文契約書の場合、たとえ故意や過失のない場合の契約違反でも、「台風の影響で納期が遅れた」などの例では責任が発生する恐れがあります。

そのため英文契約書の作成の際には、不可抗力に該当する事象を前もって取り決めておき、免責する旨の記載が必要といえるでしょう。

また、和文契約書であれば債務不履行の場合、履行請求・損害賠償請求・契約解除のいずれかで対応することが一般的です。

対する英文契約書では、重大違反を除いて損害賠償で対応することが一般的であり、原則として契約解除などはできないとされています。

万一に備えて、契約解除に関する事由の取り決めもしておいたほうが安心です。

合意内容の記載

英文契約書の作成において、互いの合意内容について正確に記載するようにしてください。

英語を語言とする英文契約書では、書面を重視するため、当事者の合意内容は正確に記すことが必要です。

交渉する必要のある重要事項があるときには、前もって書き出して整理しておくなど、記載漏れが発生しないように準備しておきましょう。

表現の方法

英文契約書の作成において、意味が一義的に伝わる表現を使うようにしてください。

たとえば、○○しなければならないとする法的義務を説明するときには、「Shall」「Must」「Will」などの単語から選択することになります。

このうち、「Must」は一般的な義務を示すときに使われることや、「Will」は意味があいまいなため、「Shall」が適切とされています。

用語への理解

英文契約書の作成において、特有の言い回しや専門用語などについて適切な使い方を理解しておくことが必要です。

日常で使うことの少ない専門の法律用語を使用するため、用語への理解ができていないまま記載すると、意図と反する内容になる恐れがあるため注意してください。

条項の確認

英文契約書の作成において、不当に不利な条項はないか確認しましょう。

取引を始めた後でトラブルが発生したときに不利益を被らないようにするためにも、法令・裁判例・実務慣行などと照らし合わせた上で不合理な条項を見逃さず、発見したときには速やかに修正を求める必要があるといえます。

特に英文契約書のドラフトを相手が作成しているときには、相手に有利になる条項が多く盛り込まれている恐れも否定できません。

分量が多いため、レビューに手間や時間がかかることも少ないないといえるものの、隅々までしっかりと内容を確認するようにしてください。

過去の契約書との差異

英文契約書の作成において、過去の契約書との差異に注意しましょう。

過去に同種の契約を結んだことがある場合、作成した英文契約書との差異を確認し、妥当性を検証することが必要です。

特に契約書のドラフトを相手が作成しているときには、過去の契約内容から変更されているケースも少なくありません。

そのため目視で比べるだけでなく、機械的な比較も行い、問題のある変更の有無などを確認しましょう。

関連契約との整合性

英文契約書の作成において、関連契約との整合性に注意しましょう。

過去に作成した英文契約書に関連する契約を締結している場合は、内容を照らし合わせて矛盾点の有無などを確認することが必要です。

過去に本体となる契約を締結している状況において、新しく覚書などを作成し、内容を追加するケースなどで必要といえます。

覚書の内容を確認するときには、原契約の内容を併せて再度チェックするようにしてください。

英文契約書の作成におけるポイント

洋書

英文契約書は英語で記載するため、以下の3つのポイントを押さえた上で作成するとよいでしょう。

  1. 具体的なタイトルにする
  2. 例外表現や留保表現を用いる
  3. 単語に注意する

それぞれのポイントを説明します。

具体的なタイトルにする

英文契約書は、具体的なタイトルを付けることが大切です。

多く使用される英文契約書のタイトルは、「Agreement」や「Memorandum」です。

しかし何の契約か、一目で把握できないことや、同じタイトルの契約書が増えれば管理もしにくくなります。

そのため、以下を参考に取引内容に応じた具体的なタイトルを付けるようにしましょう。

  • Service Agreement サービス契約書
  • Independent Contractor Agreement 請負契約書
  • Outsourcing Agreement 業務委託契約書
  • License Agreement ライセンス契約書
  • Loan Agreement 貸付契約書
  • Share Purchase Agreement 株式譲渡契約書
  • Sales Agreement 売買契約書
  • Distributorship Agreement 販売代理店契約書
  • Employment Agreement 雇用契約書
  • Confidentiality Agreement 秘密保持契約書
  • Joint Venture Agreement 合弁契約書

例外表現や留保表現を用いる

英文契約書は、例外表現や留保表現を用いると便利です。

「ただし、○○のような場合を除く」などの例外規定を盛り込む場合、「ただし~」は「Provided,however,that」を用います。

契約書では「○○の場合には、○○は留保する」などの表現を使用する場合、留保は「without prejudice」を使うため、定番的な言い回しとして覚えておくとよいでしょう。

単語に注意する

英文契約書に使用する単語は、単数形と複数形では意味が変わると理解しておきましょう。

たとえば損害賠償は「damages」ですが、損害賠償を求める内容を英文契約書に記載するなら「claim damages」と表記します。

「damages」の単数形は「damage」で、英文契約書では損害を意味するときに使います。

意味が異なるため、単数形と複数形で間違った使い方をすると意図とは異なる文脈になる恐れがあると留意しておきましょう。

なお、単数形と複数形で意味が異なる単語として以下のことが挙げられます。

  • direction/指示 directions/複数の指示
  • good/利益・福利 goods/物品
  • custom/慣習 customs/関税
  • security/安全性 securities/有価証券
  • need/必要性 needs/必要品

単数形と複数形で意味が大きく異なることを理解しておかなければ、間違った表記で多大な損害を被る恐れもあるため、使用する単語は正確に記載することが重要です。

まとめ

英文契約書は、英語を言語とする契約書であり、主に海外取引などで作成します。

日本語ではなく英語を使うため、適切な単語や表現を使わなければ、相手との解釈に行き違いが生じる恐れがあります。

合意内容を漏れなく盛り込むことが必要であり、定義条項や一般条項は明確に記載しましょう。

また、契約違反や債務不履行などの取り決めも必要といえますが、和文契約書とは署名方法が異なる点などにも注意が必要です。

英文契約書の作成においては、英語力だけでなく適した記載内容か、法的に問題ないかなどを押さえておくことが必要といえます。