契約書の書き方を理解しておかなければ、当事者同士が契約を結んだことを証明する文書として使えない恐れがあります。
実際、契約は必ずしも契約書を作成しなければならないとされているわけではなく、口約束でも成立します。
そのため契約書作成は義務ではないものの、どのような内容で契約を結んだのか証明するためにも、正しい書き方で作成しておくべきといえるでしょう。
そこで、契約書の書き方について、構成と具体例をテンプレートでわかりやすく解説していきます。
目次
契約書とは
「契約書」とは、当事者間で契約を結んだことを証明する文書です。
契約内容を当事者で確認をし、合意した内容を文書化したものが契約書といえますが、以下の3つを説明します
- 種類
- 作成者
- 覚書・誓約書との違い
契約書とは?法的な効力や流れ・書き方とポイントをわかりやすく解説
種類
契約書には、「法人契約」や「個人契約」などの種類があると言われているものの、商取引における基本契約書や個別契約書の作成に大きなルールの違いはありません。
会社と個人事業主では、当事者が異なるケースは確かにあります。
しかし個人契約書と法人契約書は、口頭・書面・電子のいずれの契約方式でも取引できます。
業務委託契約書とは?種類や記載事項・注意点をわかりやすく解説
作成者
契約書の作成者は、当事者であれば作成できます。
たとえば売主と買主がいる場合、どちらが作成しなければならないといった決まりは特になく、効力も変わりません。
一方が作成した契約書の内容を精査し、気になる条項などは修正依頼をして、双方納得のもとで契約を結ぶとトラブルを防ぎやすくなります。
覚書・誓約書との違い
契約書と、「覚書」や「誓約書」は別の文書です。
「覚書」とは、契約書を作成する前段階での合意内容を取りまとめたり契約内容を補足したりするための文書です。
性質は契約書に近いため、仮に書面の表題が「覚書」と記載されていても、法的に「契約書」とみなされる場合はあります。
「誓約書」とは、一方が他方へ差し入れる文書であり、合意を示す書面ではありません。
契約書は当事者の合意で作成する文書であるのに対し、誓約書は一方の署名・押印で作成し、他方へ差し出す文書です。
契約書の構成
契約書を作成する場合、当事者間での取引内容や契約事項に別途定めておくべきことはないか確認しておきましょう。
まずは文書の構成を決め、以下の①~⑥の項目について原案を作成します。
①業務委託契約書 ②株式会社○○(以下「甲」という。)と○○(以下「乙」という。)は、以下のとおり○○契約(以下「本契約」という。)を締結する。 ③ 第 1 条(業務委託の内容) 第 3 条(業務委託料) ④本契約締結の証として本書 2 通を作成し、記名押印のうえ甲・乙各 1 通を保有 ⑤令和〇年○○月○○日 ⑥甲 株式会社○○ |
文書内の以下の項目をそれぞれ説明します。
- タイトル
- 前文
- 本文
- 後文
- 契約日
- 署名・捺印
①タイトル
何の契約に関する文書なのか、「タイトル(表題)」を決めます。
「売買契約書」「業務委託契約書」「賃貸借契約書」「雇用契約書」など |
できる限り契約内容を端的に表現して記載しますが、複数契約を含む契約書はメインの契約を表題とし、末尾に「等」と記すとよいでしょう。
「業務委託契約書等」など |
②前文
どのような契約を結ぶのか、権利義務の発生する当事者を「前文」として端的に記載します。
株式会社○○(以下「甲」という。)と○○(以下「乙」という。)は、以下のとおり○○契約(以下「本契約」という。)を締結する。 |
契約内容の「甲」と「乙」を決めますが、当事者が3名以上存在する場合には「丙」「丁」を定義します。
③本文
契約の具体的な内容を「本文」として記載します。
第 1 条(業務委託の内容) 第 3 条(業務委託料) |
規定を複数設定するときは、「条」ごとの内容を括弧書きで端的に記しましょう。
また、「項」や「号」で細かく分類し、規定内容を記載します。
④後文
契約書を何通作成し、誰が何を所持するのか「後文」で記載します。
本契約締結の証として本書 2 通を作成し、記名押印のうえ甲・乙各 1 通を保有するものとする。 |
後文は法的効果に影響する内容ではないものの、契約書が何通作成されて原本は誰が所持するのか把握できるため、偽造作成などのトラブルを防ぐことができます。
⑤契約日
いつ契約書を作成し、締結したのか「契約日」を記載します。
令和〇年○○月○○日 |
契約は口頭のみでも成立するため、口約束した日と契約書作成日が合うように、同日で作成します。
⑥署名・捺印
契約を結ぶ当事者間の署名・捺印をします。
甲 株式会社○○ 代表取締役○○ (印) 乙 株式会社○○ 代表取締役○○ (印) |
ただし法人は、代表者や委任担当者の署名・捺印が必要です。
代表者は「代表取締役〇〇」と記載します。
連帯保証人・媒介業者・立会人など、複数の当事者が関与する場合は、それぞれの立場を記載しておいてください。
契約書の書き方のポイント
契約書の書き方には、厳格なルールなどはありませんが、以下のポイントを押さえた上で作成しましょう。
- 内容を明確に記載する
- 言葉を省略しない
- 簡潔にまとめる
- 曖昧な表現は避ける
- 数値は具体化する
- 法律に沿って作成する
- ひな形のまま流用しない
- 割印を忘れない
- 収入印紙の必要性を確認する
それぞれのポイントを説明します。
内容を明確に記載する
契約書の書き方のポイントとして、内容を明確に記載することを意識することが必要です。
また、妥当な内容か確認しておけば、契約交渉もスピーディに進めることができます。
業界や取り扱う商品やサービスの種別などで契約締結までのスピードは異なるものの、いずれにしても多くのビジネスでスムーズな決断や交渉が求められます。
ビジネスチャンスを失いたくないと考えて急いで契約を結んでしまい、後で契約内容に不備があったために不利な条件で取引することにならないためにも、必ず内容は明確に記載するようにしてください。
言葉を省略しない
契約書の書き方のポイントとして、業界用語や社内用語など一部の関係者のみが理解できる用語を使うことや、言葉を省略することは避けることが必要です。
誰が見ても理解できる正式名称で記載しておかなければ、言葉を省略したことで正しく意図が伝わらず、異なる意味で捉えられてしまう恐れもあります。
万一訴訟になったときの証拠書類として使える契約書を作成しましょう。
簡潔にまとめる
契約書の書き方のポイントとして、第三者にわかる言葉や表現で簡潔にまとめることを意識することが必要です。
たとえば業界用語や暗黙の了解で使用している言葉などを契約書に記載してしまうと、裁判の証拠書類として機能しない恐れがあります。
誰が見ても内容を理解できる言葉や表現で簡潔にまとめることが必要です。
曖昧な表現は避ける
契約書の書き方のポイントとして、明確に内容を記載することを意識し、曖昧な表現は避けることが必要です。
複数の意味に解釈できる表現や、色々な意味で捉えることのできる言葉は、トラブルのもとといえます。
仮に共通の認識だった文言でも、実際に裁判になったときには異なる解釈をしていたと主張される恐れもあります。
曖昧な表現は取引にも支障をきたすため、明確な内容を記載してください。
数値は具体化する
契約書の書き方のポイントとして、数値はできる限り具体的に記載することが必要です。
日付や数量、重さ、報酬などすべて数値であらわすため、情報は明確に記載しておくことで後のトラブルを防ぐことができます。
法律に沿って作成する
契約書の書き方のポイントとして、法律に沿った作成を心掛けましょう。
法律は誰にでも適用されるルールであるため、契約書内に記載する法律用語は、法的な定義による意味で使うことが必要です。
たとえば個人情報のやり取りは個人情報保護に配慮することが必要であるため、個人情報保護法で定義された用語を用います。
一般用語の個人情報と混同しないことや、独自の定義で記載することは避けることが必要です。
ひな形のまま流用しない
契約書の書き方のポイントとして、ネット上の検索で見つけたひな形のまま流用しないことも意識してください。
ひな形が契約の内容に適しているとは限らないため、合わないものを流用すれば、不利な取引につながるリスクを高めます。
必ずそれぞれの条項を見直し、必要に応じた編集が必要です。
割印を忘れない
契約書の書き方のポイントとして、割印を忘れないようにしてください。
後で契約書が書き換えることのないように、複数枚に渡るときには印影がページを跨ぐように割印を押します。
控えを作成する場合も同様に、割印で偽造や改ざんのリスクを防ぎましょう。
契約書の割印とは?ルールや適した印章の種類・訂正したいときの対処法を紹介
収入印紙の必要性を確認する
契約書の書き方のポイントとして、収入印紙の必要性を確認することが必要です。
経済取引に伴って作成する契約書等の文書には、取引における記載金額に応じた印紙税が課されます。
そのため収入印紙が必要な契約書なのか確認し、適切な額の収入印紙を貼付することと、消印を忘れないようにしてください。
収入印紙が必要な契約書とは?種類や金額・貼る上でのルールを解説
法律に抵触する契約書の有効性
法律に抵触する契約書を作成した場合、その有効に関して以下の3つを説明します。
- 強行規定
- 任意規定
- 取締規定
強行規定
「強行規定」とは、当事者の意思により、異なる法律効果を発生させないための規定です。
契約書に記載されたある条項が強行規定の場合は、当事者が条項と異なる契約を結んでもその契約は無効となります。
主に公の秩序に関する法規などが強行規定とされており、個々の規定の趣旨などに照らして判断されます。
仮に契約書で強行規定に反する条項があっても、法律が強制的に適用されるため、立場の弱い当事者を追い込む契約は結ぶことはできません。
任意規定
「任意規定」とは、当事者の意思により、異なる法律効果を発生させられる規定です。
仮に任意規定の当事者が規定と異なる内容の契約を結んだ場合、無効とならずに当該法規定より優先されます。
たとえば民法上の請負契約は、目的物の引き渡しと報酬支払いは同時と定められています。
しかし実際には後払いや分割払いが可能とされていますが、これは任意規定によるからといえるでしょう。
取締規定
「取締規定」とは、行政上の目的により、一定行為を禁止または制限する規定です。
たとえば営業免許を取得していないタクシーの営業は、道路運送法で禁止されていますが、これは取締規定です。
行政上の目的に基づくため、取締規定に違反した場合は罰則の対象になるものの、契約の効力まで否定されることはありません。
そのため契約が無効になることはないといえるものの、そもそも行政法規に違反するべきではないため、従うことが必要です。
まとめ
契約書の書き方を知っておかなければ、不利な取引につながる恐れがあるため、必ず理解した上で作成しましょう。
口頭でも契約は成立しますが、契約書を作成しておけば、当事者間で契約が結ばれたことを証明できます。
契約書は必ずしも作成が義務付けられているわけではありませんが、万一トラブルが起こったときの契約内容を証明する文書として使えます。
裁判になったときに使える契約書を作るためには、言葉を省略せずに曖昧な表現を避けることや、法令に抵触しない内容で表現する書き方を意識するようにしてください。