コーチングとティーチングは、言葉は似ているものの方法や目的が異なります。
どちらも人材を育成するときの手法であるものの、導入するときにはコーチングとティーチングのどちらを取り入れるべきか、使い分け方など理解した上で決めることが必要です。
そこで、コーチングとティーチングの違いやそれぞれのメリットとデメリット、使い分け方など紹介していきます。
コーチングとは
「コーチング」とは、対話を重ねて本人の自発的な行動を促す手法です。
自身のスキル・知識・考え方などに気づいてもらい、目標達成に向けた支援を行う手法といえます。
そのため一方的なアドバイスは行わず、未来に向かってどのように行動するべきかを焦点に当てて、目標達成までのプロセスを支援します。
コーチングについて、以下の3つを説明します。
- 目的
- 使用場面
- 有効なケース
コーチングとは?意味や種類・ビジネスに活かすコツを詳しく解説
目的
コーチングの「目的」は、相手に行動の選択肢に気がついてもらい、自発的行動へと促すことです。
支援型の指導方法であるため、長期的な視野での成長促進が目的といえます。
たとえば部下に行動の選択肢があると想定される場合において、本人がその事実に気がついていないときの手法です。
部下本人が自らで考えて行動を決め、自分自身に合意することを支援します。
使用場面
コーチングの「使用場面」は、相手の成長を促したいときです。
そのため新入社員と先輩社員や上司と部下のように、比較的若手の従業員への指導に限らず、一定の知識やスキルのある管理職育成にも用いる手法といえます。
部下の業務管理に連動させつつ、育成スキームと効果的に紐付けることができる手法です。
有効なケース
コーチングが有効なケースは、明確な答えが存在しない課題を解決したいときや、時間がかかってもやり方を問わず目標を達成したい場合などです。
知識や技術をある程度持つ中堅クラス社員を育成するときや、管理者のマネジメントスキル向上などに適した手法といえるため、売上向上・顧客獲得・チームビルディングなどにおいて有効と考えられます。
また、部下のストレスケアマネジメントにおいても、本人に気づきを与えるメンタルケアの役割を果たします。
コミュニケーションを取る中で互いに体調や精神の変化をつかみ、離職の兆候も早期に察知できるため退職リスクを低減できると考えられます。
ティーチングとは
「ティーチング」とは、身につけてほしい知識や情報を相手に伝え、教えたり指導したりする手法です。
目的達成において必要な知識や技術を教えるため、会社経営では上司から部下へ行う指導の場面で実践することが多いといえます。
先に答えを教え、学んでもらう方法がティーチングといえますが、以下の3つを説明します。
- 目的
- 使用場面
- 有効なケース
目的
ティーチングの「目的」は、行動の選択肢を持たない相手や、選択肢はあっても一定水準を満たすものに絞り込めていないときにおける課題解決や目標達成です。
命令型の指導方法のため、目の前の課題や問題、達成しなければならない目標は把握できていても、何をすればよいかわかっていないときに使われます。
使用場面
ティーチングの「使用場面」は、業務の知識が乏しい相手や技術を持っていない相手に教育を行うときです。
新入社員や若手社員などの育成に使われることが多いと考えられるでしょう。
有効なケース
ティーチングが有効なケースは、業務遂行に必要なスキルレベルが低い場合や、依頼する業務の難易度が高いときなどです。
入社したばかりの新卒社員や、転職したばかりの新人社員などは、ビジネス知識も不十分で右も左もわからないことが多いといえます。
即戦力として活躍してもらうために、実務に即した具体的な業務遂行の方法を教えることで、必要な知識や技術を学んでもらいます。
迅速にノウハウを伝えることができる手法のため、たとえばトラブル対応や人的ミス修正など、緊急性の高い業務にも有効です。
類似する言葉との違い
コーチングとティーチングに類似する言葉として、以下の5つが挙げられます。
- カウンセリング
- メンタリング
- コンサルティング
- トレーニング
- エンパワーメント
それぞれの言葉の意味を説明します。
カウンセリング
「カウンセリング」とは、悩みや不安を解消・克服するために行う心理的なサポートです。
過去や事実と向き合う現状分析からスタートし、どうすれば悩みを解決できるのか、精神的に寄り添って相談を受ける手法といえます。
明確に目標を設定するわけではなく、不安や悩みを抱える方に寄り添うことを前提に、コミュニケーションを取って解決へと導きます。
メンタリング
「メンタリング」とは、成長を促したりメンタルケアをしたりなど、総合的に支援する人材育成の手法です。
指導ではなく、どうすればより良くなるのかを一緒に考え、学ぶ側へ気づきを与えます。
メンタル的なサポートや過去の経験の共有、目標達成までのアプローチに対するアドバイスなどを行います。
1対1の対話形式で実施することが基本であり、年齢やキャリアの近い先輩と後輩間で行うことが多いといえます。
コンサルティング
「コンサルティング」とは、事実やデータに基づいて問題を洗い出し、対策案を提示する方法です。
専門的な知識のあるコンサルタントが、現状分析や課題抽出、解決に向けたビジョンの策定と実施などを担当します。
提示される答えはデータに基づいた仮説や専門的な方法であることが多いため、指導を行うコンサルタントには論理的思考力・調査力・分析力などのスキルや実務経験が求められるといえます。
トレーニング
「トレーニング」とは、知識や技術を身につけるための指導や練習です。
たとえば競技力向上や健康増進を目的に行う訓練などであり、できないことをできるようにするために具体的なやり方を教えます。
指導者が強く引っ張り上げて、能力や技術を向上させるイメージが強い手法といえますが、2人以上のコミュニケーションで成立する技術です。
エンパワーメント
「エンパワーメント」とは、本来持っている力を引き出して取り戻す手法です。
ビジネスにおいては、権限移譲や能力開花、自律性促進などを意味します。
たとえば上司が部下に対し、仕事の権限を移譲するケースなどであり、部下のスキルが向上した後で実践することが多いといえます。
コーチングとティーチングの違い
コーチングとティーチングの違いは、主に以下の4つです。
- 方法
- 目的
- 焦点
- 関係性
それぞれどのような違いがあるのか説明します。
方法
コーチングとティーチングは、「方法」が異なります。
まずコーチングは、すでに答えを持っている相手に対して行います。
答えは持っているのに、本人に自覚がないときや導き出せていないときに、対話や問いかけでサポートし、自らで答えを見つけ出してもらう手法です。
対するティーチングは、本人が明確な答えや解決策を持っていないとき、先に回答を教えたり与えたりすることで成長を促します。
目的
コーチングとティーチングは、「目的」が異なります。
まずコーチングは、受け手側が成長することが目的の支援型手法であり、本人が答えを導き出して新たな考え方ややる気などを引き出してもらうことが目的です。
気がついていなかった視点の発見や、長期的な目線での成長促進を目指します。
対するティーチングは、命令型の指導方法であり、課題解決や目標達成を目的に実施します。
教育や問題解決を目的に、知識や経験の浅い相手へ教え、早期の成長を促す手法といえるでしょう。
焦点
コーチングとティーチングは、「焦点」が異なります。
まずコーチングは、本人に答えを導き出してもらう手法のため、焦点は「人」に当てています。
本人の考え方や視点などに焦点を当てて行う支援です。
対するティーチングは、決まっている答えを教える手法のため、「事柄」に焦点が当たっています。
答えとして存在する事柄を教えることで、効率的に知識を習得してもらえます。
関係性
コーチングとティーチングは、「関係性」が異なります。
まずコーチングは、対等な関係での対話で行います。
たとえ上司と部下という立場の異なる相手でも、コーチングを実施するときには対等な関係性で対話を行えば、遠慮や萎縮などなく答えに気づきやすくなるでしょう。
対するティーチングは明確な答えや方法を教える手法のため、上司と部下など立場の異なる関係上で行われます。
コーチングのメリット・デメリット
コーチングは、相手に自らで考えて行動する自発性を促し、目標達成を支援する技法です。
そのため相手の話に耳を傾けて、質問や提案をして答えを引き出すことが必要ですが、以下の2つを説明します。
- メリット
- デメリット
メリット
コーチングの「メリット」として、たとえば次のことが挙げられます。
- 自立性を育むことができる
- 自責的思考を醸成できる
- 実行力やモチベーションが高まる
- 管理職者の価値観や経験に依存しない
部下に気づきを与えて成長してもらうための手法のため、課題に自主的に向き合い取り組む姿勢が定着すると、目標達成への成果につながる行動が可能となります。
また、すでに能力や知識を持つ相手に、行動や問題解決の方法などを気づいてもらえればよいため、指導する側の価値観や経験に依存しないこともメリットといえます。
デメリット
コーチングの「デメリット」として、以下のことが挙げられます。
- 学ぶ側にある程度の知識や経験が必要である
- 鍛錬が不可欠である
- 時間がかかる
- 1対1での実践が求められる
人材育成ですぐに結果を出したいときには、コーチングは不向きといえます。
また、一度に大勢に対する支援には向かないため、指導する側には丁寧なコミュニケーションへの配慮と根気が求められることとなります。
定期的に1on1でのミーティングの開催が必要になるため、人的コストがかかることこともデメリットといえるでしょう。
ティーチングのメリット・デメリット
ティーチングは、経験が浅い人に対して知識やノウハウを伝える手法です。
1on1または大勢に対する講義形式で実施される手法といえますが、以下の2つを説明します。
- メリット
- デメリット
メリット
ティーチングの「メリット」として、以下のことが挙げられます。
- 短期間での知識習得が可能となる
- 一度に大勢の指導もできる
一度に大勢への指導が可能となるため、スピード重視での人材教育や指導が可能です。
また、端的に業務に必要な知識を伝えることができるため、研修など講義形式での指導にも向いています。
指導する側とサポートを受ける側が一堂に会し、直接指導できることもメリットといえるでしょう。
デメリット
ティーチングの「デメリット」として、以下のことが挙げられます。
- 指導者を超えるスキルを与えることはできない
- 自主性が育ちにくい
指導する側が一方的に知識や技術、答えなどを教えて学んでもらう方法のため、サポートを受ける側は受動的になることがデメリットです。
本人が自らの頭で物事を考える癖が身につかない恐れがあります。
また、指導する側がの知識や能力にも限界があるため、指導者を超える情報やノウハウを与えることはできません。
育成の幅が限定されてしまうこともデメリットと考えられます。
コーチングのポイント
コーチングの効果を高めるためには、実践する上で以下の2つのポイントを押さえておきましょう。
- 自主性を尊重する
- 根気強く質問する
それぞれのポイントを説明します。
自主性を尊重する
コーチングの効果を高めるためには、サポートされる側の自主性を尊重しましょう。
自発的に答えを導き出してもらう手法であるため、対話の中で話されることへ耳を傾け、自主性を尊重することが重要です。
最後まで意見などを聞いた上で、正解ではなく方向性を提示することが必要となります。
根気強く質問する
コーチングの効果を高めるためには、正解にたどりつけるまで根気強く質問を繰り返しましょう。
サポートされる側が行き詰まり、正解へとたどりつくことができない場面でも、気づきを促す質問や疑問を投げかけ続けます。
時間はかかる手法といえますが、自発的に導き出す力を養うことはできます。
ティーチングのポイント
ティーチングの効果を高めるためには、実践する上で以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
- わかりやすく言語化する
- 具体例で手本を示す
- 確認を行う
それぞれのポイントを説明します。
わかりやすく言語化する
ティーチングの効果を高めるためには、指導したい情報をわかりやすく言語化しましょう。
言語化できていない場合、抽象的な概念で伝えることになり、短時間で学んでもらうことは難しくなります。
サポートを受ける側がイメージしやすいように、可能な限り言語化することがポイントです。
具体例で手本を示す
ティーチングの効果を高めるためには、具体例で手本を示しましょう。
わかりやすく伝えるためには具体例を交えることが必要であり、実際にできることであると手本を示すことで、本人のやる気にもつながります。
情報だけを伝えるのではなく、オリエンテーションなどで現場に即した知識や情報を学んでもらうことが必要です。
確認を行う
ティーチングの効果を高めるためには、振り返りを意味する試験などを実施し、理解できているか確認しましょう。
すでに存在する明確な答えを教える手法のため、理解度を確かめることは必須といえます。
振り返りで再度、復習という形式での学びも可能となり、理解度の向上に繋がります。
コーチングとティーチングの使い分け方
コーチングとティーチングは、サポートを受ける側の知識や技術により使い分けることが必要です。
知識が十分といえない新卒社員や転職後の新人社員などは、ティーチングをメインで行っていきます。
まずはティーチングを9割、コーチングを1割などの割合で人材育成をはじめ、ビジネススキル向上のレベルに合わせて比率を変動させていきます。
コーチングの割合を少しずつ増やすことで、自発的に行動する能力を伸ばすことができるでしょう。
中堅社員へ移行するほど、コーチングをメインに育成することが必要です。
まとめ
コーチングとティーチングは、どちらも人材育成における手法であるものの、目的や方法などが異なります。
支援型のサポートで、本人に気づきを与える手法がコーチングであるのに対し、命令型または指示型で教えることを中心に行うのがティーチングです。
サポートを受ける側の能力に応じて、上手く使い分けや組み合わせを行うことにより、効果的な人材育成へとつなげることができるでしょう。
性質の違いを理解し、適切に使い分けられることが望ましいものの、難しいと感じるときには専門家などに相談することをおすすめします。