エクイティとは、「株式」や「株主資本」を意味する言葉金融用語です。
そのためエクイティファイナンスとは、株主資本を増やして資金を調達することといえます。
ビジネスにおける資金調達方法は、銀行融資が一般的といえますが、株式を発行するエクイティファイナンスでは返済不要のお金を調達できます。
そこで、エクイティについて、種類やメリット・デメリット、資金調達するときに導入する流れを解説します。
エクイティファイナンスとは?デッドファイナンスとの違いやメリット・デメリットを解説
目次
エクイティとは
「エクイティ」とは、「株式」「株主資本」「企業価値」を意味する言葉金融用語です。
日本語では「公平」「公明正大」「衡平法」「純資産の部」と訳されます。
近年では、株主視点のガバナンス(統治)であるエクイティガバナンスなど、経営を監視することなどが注目されています。
投資家にとっては返済期限の定めがない資金の供与となるため、資金が利益拡大に貢献する投資へと充当されるのか、監視が必要になると考えられるからです。
エクイティによる資金は、新株や新株予約権付社債の発行などの方法で調達できます。
また、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)として、企業の採用や人事など、ビジネスの様々な面でエクイティという用語が使われています。
エクイティファイナンスの意味
「エクイティファイナンス」とは、新株発行による資金調達の方法です。
株式資本や自己資本を意味するエクイティによる資金調達のため、「エクイティファイナンス」といいます。
返済義務のない資金を調達できるため、財務体質を強固にできます。
ただし投資家の保有する株式の価値は薄まるため、合理的な説明をして納得を得ることも必要です。
エクイティファイナンスの他にも、デットファイナンスやアセットファイナンスなど資金を調達する方法には種類があります。
そこで、以下のファイナンスとの違いに分けて、それぞれ説明します。
- デットファイナンスとの違い
- アセットファイナンスとの違い
デットファイナンスとの違い
「デットファイナンス」とは、銀行融資など借入れによる資金調達で、「他人資本」を増やす資金調達の方法です。
「デット」とは英語で「負債」や「借金」を意味するため、負債を増やす方法であるため「デットファイナンス」と呼ばれます。
借りた元金だけでなく、設定された金利に基づく利子の支払いも必要となる資金調達方法ですが、資金調達先が多いことはメリットです。
ただし金融機関によって融資条件は異なるため、事情やニーズに合う選択が重要といえます。
エクイティファイナンスとデットファイナンスの違いは、主に以下の3つです。
- バランスシート上での計上の違い
- 調達先からの影響の違い
- リスクの違い
それぞれ説明します。
バランスシート上での計上の違い
エクイティファイナンスとデットファイナンスは、バランスシート上での計上に違いがあります。
株式発行による自己資金と異なり、融資を受けたり社債を発行したりすることによる資金は「他人資本」です。
バランスシート上においては、自己資本は「資本の部」へ、他人資本は「負債の部」に計上されるといった違いがあります。
また、デットファイナンスは負債のため、返済義務を負い利子を負担することも必要です。
調達先からの影響の違い
エクイティファイナンスとデットファイナンスは、調達先からの影響に違いがあります。
まずエクイティファイナンスの場合、株式を発行すれば投資家へ影響を与えることになり、会社が資金を調達した後は企業が投資家から影響を受けます。
これに対してデットファイナンスは、資金調達後に融資先である銀行などから影響を受けることはありません。
リスクの違い
エクイティファイナンスとデットファイナンスは、投資家が抱えるリスクに違いがあります。
たとえば不動産を証券化する場合、物件の価値を担保として資金を調達します。
そのとき、エクイティファイナンスとデットファイナンスをどのように組み合わせるかが重要といえますが、一般的にはエクイティファイナンスのほうがハイリスク・ハイリターンと言われています。
アセットファイナンスとの違い
「アセットファイナンス」とは、資産の生み出すキャッシュフローを返済原資にする資金調達方法です。
資産の担保価値による資金調達の方法であり、たとえば不動産・売掛債権・知的財産などを流動化することで資金を調達できます。
返済義務を負わない資金調達の方法であることはエクイティファイナンスと共通していますが、調達できる金額は資産価値に依存することが違いといえます。
エクイティファイナンスの種類
エクイティファイナンスによる資金調達方法は、主に以下の4つです。
- 株主割当増資
- 第三者割当増資
- 公募(時価発行増資)
- 転換社債型新株予約権付社債
それぞれの方法を説明します。
株主割当増資
「株主割当増資」とは、新株を発行するときに既存の株主へ保有株数に応じた割り当ての権利を付与するエクイティファイナンスです。
割り当ての権利を与えられた株主は、申し込みしなければ出資する義務も負いません。
ただし出資しなければ割り当てられた株主を得る権利を失い、相対的に自身が保有する株式の保有割合などを低下させます。
保有割合がほぼ変わらないため、株主構成に大きな変化はなく、既存株主と調整しやすい方法ともいえるでしょう。
第三者割当増資
「第三者割当増資」とは、株主か否かに関係はなく、特定の第三者に新株を引き受ける権利を付与するエクイティファイナンスです。
未上場会社の資金調達方法として活用されるエクイティファイナンスであり、株式を引き受ける申し込みをすれば新株もしくは会社が処分する自己株式が割り当てられます。
出資意欲の高い出資者を特定できる方法であり、株主資本を充実させ、財務内容を健全化させることにつながります。
公募(時価発行増資)
「公募(時価発行増資)」とは、発行価格を時価に近い市場価格に設定し、増資するエクイティファイナンスです。
そのため資金調達する際に、時価が高いほど発行株式の数を少なく抑えることができます。
既存株主かどうかに関わらず、不特定多数の出資者に投資を勧誘し出資を募ることができるため、多額の資金調達につながりやすい方法といえます。
転換社債型新株予約権付社債
「転換社債型新株予約権付社債」とは、以前は「転換社債」の名称で広く認知されていた方法であり、株式に転換する権利(転換権)を持つ社債です。
あらかじめ決められた価格で、一定期間内に株式へ転換する権利を持った債券といえます。
そのため転換社債型新株予約権付社債は、新株予約権を行使した上で株式に転換し、機関投資家の手に渡るため、株価への影響を抑えつつ資金調達できるエクイティファイナンスといえます。
エクイティファイナンスのメリット
エクイティファイナンスで資金調達することには、以下の4つのメリットがあります。
- 返済義務を負わない
- 自己資本が増える
- 赤字でも資金調達できる
- 財務面を強化できる
それぞれのメリットを説明します。
返済義務を負わない
エクイティファイナンスは、原則、返済義務を負わない資金調達であることがメリットです。
事業が成功すれば株主へ配当金を分配することは必要となるものの、得た資金を返済する義務はありません。
融資を受けて資金調達すれば、返済負担に苦しむ恐れがあるものの、返済期限に追われず自由に調達したお金を使えることがメリットといえます。
自己資本が増える
エクイティファイナンスで得た資金は、貸借対照表上の自己資本を増やすことがメリットです。
自己資本を増やすことで、経済力の高い会社と認められます。
会社の成長を促すためにも、利益を生む経営を促し、自己資本を増やしていくことが必要です。
赤字でも資金調達できる
エクイティファイナンスは、収益状況の悪化などで赤字のときにも資金調達に活用できることがメリットです。
資金を投じるか否かの判断を下すのは投資家であるため、赤字経営で収益状況が良好でない企業でも、将来性を感じてもらえれば資金調達できます。
財務面を強化できる
エクイティファイナンスは、自己資本に加えられるお金を増やすため、自己資本比率が高まり財務面が強化されることがメリットです。
財務体質が強化されれば、金融機関からの評価も上がり、投資家にも注目されやすくなるでしょう。
大きなビジネスへの投資や、キャッシュ不足のリスクを抑えることにつながります。
エクイティファイナンスのデメリット
エクイティファイナンスは、メリットの大きな資金調達方法といえるものの、以下の5つのデメリットには留意してください。
- 株式価値が下がる
- 経営の自由度が弱まる
- 株主の理解が必要である
- 配当政策を見直す必要がある
- 法的手続が必要である
それぞれのデメリットについて説明します。
株式価値が下がる
エクイティファイナンスのデメリットは、新株を発行することで全体の株数が増えてしまい、保有株式の価値が下がってしまうことです。
新しく株式を発行すると、1株あたりの株価は下がります。
そのため株主が大きな損害を被る恐れもあるため、歓迎されないこともあるといえます。
経営権の自由度が弱まる
エクイティファイナンスのデメリットは、株式の譲渡先によって経営権の自由度が弱まることです。
新たに発行した株式を投資家1人が独占すれば、最終的には経営権を握られる恐れがあります。
株主の意向を無視することはできなくなり、経営の自由度が弱まることは避けられないでしょう。
株主の理解が必要である
エクイティファイナンスのデメリットは、既存の株主から理解を得ることが必要であることです。
新株発行により、持株比率が変動すれば、投資家の影響力も変化します。
保有する株式の価値も下がるため、既存の株主から理解を得るための説明が必要となります。
配当政策を見直す必要がある
エクイティファイナンスのデメリットは、配当政策を見直す必要性が発生することです。
配当政策を見直すことなくエクイティファイナンスを実施すると、配当金の負担が重くなりすぎてしまい、経営を圧迫してしまいます。
法的手続が必要である
エクイティファイナンスのデメリットは、法的手続が必要になることです。
増資するためには、株主総会を開催することや定款の変更、法務局への登録申請など様々な手続が必要となります。
さらに増資した後も、投資の契約締結事項の遵守において、手続が必要になると理解しておきましょう。
エクイティファイナンス導入の流れ
エクイティファイナンスは企業側のメリットの大きいな資金調達方法といえますが、本格的に導入するときには以下の5つの流れで手続を行います。
- 出資者を探す
- 新株発行方法の決定
- 発行株数と株価の検討
- 株主総会の開催
- 新株発行の手続
それぞれの流れを説明します。
1.出資者を探す
エクイティファイナンスの導入においては、まず発行した株式を購入してくれる出資者を探すことが必要です。
非上場企業の場合、一般の投資家から資金を募ることは難しいため、取引のある金融機関・経営者親族・友人・知人などが出資者になり得ると考えられます。
出資者をスムーズに見つけられるように、実施前に人脈を広げておくことも必要といえるでしょう。
2.新株発行方法の決定
エクイティファイナンスの導入においては、新株を発行する方法を決めることが必要です。
新株発行の方法は、公募増資・株主割当増資・第三者割当増資・転換社債型新株予約権付社債などですが、非上場の中小企業では「株主割当増資」や「第三者割当増資」を選ぶことになります。
発行方法ごとの手続の流れは、以下のとおりです。
新株発行の方法 | 必要な手続 |
公募増資 |
|
株主割当増資 |
|
第三者割当増資 |
|
3.発行株数と株価の検討
エクイティファイナンスの導入においては、調達金額により株式の発行数と株価を検討することが必要です。
公募増資の場合、投資家の需要を見極めた上での株価の調整が求められます。
4.株主総会の開催
エクイティファイナンスの導入においては、経営者が独自判断で決めることはできないため、株主総会を開催することが必要となります。
株主総会で決議が必要になる事項は、主に以下の4つです。
- 発行株式の種類・数
- 払込金額
- 増資金額
- 払込期日・期間
持ち株比率が大きく変動する場合には、株主への事前説明も必要になります。
株式の希薄化が起こる可能性がある場合、株主総会前に既存株主から納得を得ることのできる説明の機会を設けましょう。
5.新株発行の手続
エクイティファイナンスの導入においては、株主総会の決議後、新株発行に向けた事務的な手続が必要です。
具体的には、以下の手続が挙げられます。
- 取締役会における割当決議
- 出資金の払い込み
- 法務局への登記申請
また、株主名簿やホームページなどの情報を更新することも忘れず行いましょう。
エクイティファイナンスの注意点
エクイティファイナンス導入における注意点は、主に次の3つです。
- 既存株主に丁寧な説明が必要であること
- 税制措置の対象範囲を確認すること
- 株価下落に注意すること
新株発行により、既存株主への影響は避けられないため、理解が得ることが必要です。
理解を得ずに強行すれば、1株上がりの価値が下がったという理由で、株式を手放す投資家があらわれる恐れもあります。
また、中小企業対象の税制措置が適用されている場合、増資が適用対象から外れる原因になる恐れもあるため、事前の確認が必要です。
エクイティファイナンス以外の資金調達方法
非上場企業では、エクイティファイナンスによる資金調達は容易とはいえません。
この場合、「日本政策金融公庫」であれば、中小企業の融資相談にも積極的に応じてもらえます。
ただし申し込みから融資実行まで1~2か月など、時間がかかります。
資金繰りがひっ迫した状態で申し込んでも、必要なタイミングに資金調達できない恐れもあるため、早めに申し込むことが必要です。
スピード感を重視したいなら、保有する売掛金を現金化する「ファクタリング」を活用することもできます。
「ファクタリング」とは、売掛金をファクタリング会社に売却し、現金化する金融サービスです。
売掛金は商品やサービスを販売後、翌月や翌々月に振り込み入金されることが多いため、現金化まで時間がかかります。
先行する仕入代金や固定費などの支払いが困難になる要因となるため、売掛金入金の期日を待たずに手元の資金を増やせる方法として、中小企業などに多く利用されています。
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まとめ
エクイティとは、株主資本のことであり、エクイティファイナンスで調達した資金は、自己資本として扱われます。
エクイティファイナンスには、公募増資・株主割当増資・第三者割当増資・転換社債型新株予約権付社債など種類がありますが、自社に合った方法を選ぶことが必要です。
なお、非上場企業がエクイティファイナンスを導入することは容易とはいえないため、資金が必要なときには売掛金を現金化できるファクタリングなど活用することをおすすめします。