運送業は人手不足が深刻化していると言われています。
日本は少子高齢化が進んでいるため、他業界でも人手不足に悩むケースはめずらしくありませんが、特に運送業では死活問題として取り上げられることも少なくありません。
今後、必要な人材を確保するためにも、人手不足解消が急務とされる運送業ですが、そもそもなぜ人手が足らない状況が続いているのでしょう。
そこで、運送業の人手不足の原因について、解消するべき理由と方法をわかりやすく解説していきます。
目次
運送業が人手不足の原因
運送業で働くトラックドライバーは、1995年(平成7年)をピークに右肩下がりを推移しています。
また、トラックドライバーとして働く方の平均年齢は40~59歳の割合が全体の約6割を占めており、高齢化も進んでいる状況です。
業界全体と比べても運送業の若年層の人材不足は否めないといえますが、人手不足が深刻化している原因は主に次の6つといえます。
- 少子高齢化が進んでいる
- 労働条件が悪い
- ネガティブなイメージが強い
- 女性進出が遅れている
- 宅配需要が急増している
- 運転免許制度が改正された
それぞれの原因について説明します。
少子高齢化が進んでいる
日本は少子高齢化が進んでおり、運送業に限らず人手不足に悩む業界は少なくありません。
労働者数の減少で生産活動の中心といえる15歳~65歳までの生産年齢人口も減っています。
運送業の人手不足に拍車をかけているのは、少子高齢化に伴う以下の2つが関係していると考えられます。
- 若い世代の入職者不足
- 既存ドライバーの高齢化
それぞれ何が関係するのか説明していきます。
若い世代の入職者不足
運送業の人手不足に拍車をかけている少子化高齢化により、若い世代の入職者が減少し、足りていない状態となっています。
近年、自動車を所有しなくても、カーシェアリングなどを使えば必要なときに車を確保できるようになりました。
また、公共の交通機関も発達しており、自動車を使った移動方法のほうが不便なケースも少なくありません。
車を所有すれば、車検や定期点検、税金など維持費もかかるため、若者の自動車離れが進んでいます。
運転免許を取得していてもペーパードライバーであるなど、自動車への興味が薄れている状況であるため、運動業でドライバーとして働くという発想にはなりにくいと考えられます。
既存ドライバーの高齢化
運送業の人手不足に拍車をかけている少子化高齢化により、現在ドライバーとして活躍している方の高齢化も進んでいます。
物流業の主な労働力は、ほとんどが高い年齢層に頼っていると言われている状況です。
労働力のボリュームゾーンといえる40~50代が独立開業したり10~20年後に引退したりなどにより、運送業の現場はさらに人手不足に陥ることになるでしょう。
労働条件が悪い
運送業の人手不足の原因として、トラックドライバーの労働条件が悪いことが挙げられます。
長距離を夜間に運転するイメージなどが強く、就労時間が不規則であることや拘束時間が長いことなどで、体力面での負担が大きいと感じるケースもめずらしくありません。
効率的に仕事を行い、プライベートとの時間を分けたいと考える若い世代が希望する働き方に合わず、運送業が就職先として選ばれにくい状況です。
そのため運送業のトラックドライバーの労働条件が悪いと印象付けられている理由として、以下の2つが挙げられるでしょう。
- 賃金が低い
- 労働時間が長い
それぞれ説明していきます。
賃金が低い
運送業のトラックドライバーの労働条件が悪いと印象付けられている理由として、労働に対する対価といえる賃金が低いことが挙げられます。
基本給に長時間のみなし残業が含まれているケースや、昇給までの道のりが長いなど、肉体労働で大変な仕事である割に賃金が見合わないといったマイナスイメージを持たれがちです。
労働時間が長い
運送業のトラックドライバーの労働条件が悪いと印象付けられている理由として、労働時間が長いことが挙げられます。
長距離を夜通し運転するなど、労働時間が長く、過酷な労働環境に置かれるイメージが強いようです。
ECサイトの需要の高まりで仕事は増えていても、現場の人手が足りておらず、さらに労働負荷が重くなっているとも考えられます。
ドライバー1人に対する負担が重くなれば、採用してもすぐに辞めてしまい、さらに人手不足が深刻化する悪循環が起こる恐れもあります。
ネガティブなイメージが強い
運送業の人手不足の原因として、肉体労働であることだけでなく、交通事故に巻き込まれるリスクがあるなどネガティブなイメージが強いことが挙げられます。
ドライバーは常にトラックを走らせることが必要であるため、追突事故などを起こすリスクや、巻き込まれる恐れなどもゼロではありません。
女性進出が遅れている
運送業の人手不足の原因として、男性の仕事といったイメージが強く、女性進出が遅れている業界であることが挙げられます。
女性ドライバーの進出が遅れている理由として、以下が関係していると考えられるでしょう。
- 妊娠や出産に伴う育児休業や再雇用制度の整備が不十分である
- 長時間労働や重量物の扱いなど身体的な負担が重い
- 勤務先や納品先で女性用の更衣室やトイレが整備されていない
労働環境が女性向けに整備されていないことで、ドライバーとして働きたくても選びにくい状況を作っていると考えられます。
宅配需要が急増している
運送業の人手不足の原因として、ECサイトの利用者が増えたことで、宅配需要が急増していることが挙げられます。
アマゾンや楽天など、EC市場は毎年10%以上成長を続けています。
2020年に新型コロナウイルス感染症が流行したことで、ステイホームが推奨されるようになり、宅配取扱個数も増えました。
ECサイトの需要の伸びはまだまだ上がっている状況であるのに対し、現場で働くドライバーは増えていないため、依頼はあるのに配送できないといった運送業者も少なくありません。
運転免許制度が改正された
運送業の人手不足の原因として、平成29年に運転免許制度が改正されたことが挙げられます。
運転免許制度の改正により、普通自動車運転免許があれば従来まで可能とされていた2トントラックの運転ができなくなりました。
準中型以上の免許を取得していなければ選択肢を広げることができず、わざわざ免許を取得することに面倒さを感じ、就職先の選択肢から外すといったケースもあるようです。
運送業の人手不足解消の方法
運送業の人手不足解消は急務とされており、このまま何の対策もせず放置すれば、既存ドライバーが引退した後さらなる人手不足に悩まされる恐れがあります。
そのため人手不足解消に向けて、以下の6つから今できる対策を早急に行っていきましょう。
- 最新技術を導入する
- 労働環境を改善する
- 個人配送網を利用する
- 教育体制を整備する
- 採用活動を見直す
- 女性ドライバーを採用する
それぞれの対策について説明します。
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最新技術を導入する
運送業の人手不足解消の方法として、AIやloTなどの最新技術を導入することが挙げられます。
AIやloTなどの最新技術で配送を最適化・自動化すれば、少ない人員でも現場に作業は効率的に進むため、以下の設備導入を検討するとよいでしょう。
- 物流システム
- 物流ロボット
それぞれどのような設備か説明します。
物流システム
運送業の人手不足解消で導入したい最新技術として、物流システムが挙げられます。
物流システムは、荷物の保管・荷役・包装・流通加工・輸送などの物流の基本活動を包括的に管理するシステムです。
従来まで手作業だった業務をシステム化することで、時間や手間を削減することが可能となります。
物流ロボット
運送業の人手不足解消で導入したい最新技術として、物流ロボットが挙げられます。
物流ロボットとは、ピッキングや仕分けなどを自動で行う技術です。
人による手作業よりも何倍ものスピードで業務を行うことができるため、現場の人員が少なくても多くの荷物量へ対応することが可能となります。
ただし導入の際には費用がかかることや、配送先によっては商材変更など個別配送の対応が求められる場合もあるため、ロボットによる完全自動化は難しいと留意した上で導入しましょう。
労働環境を改善する
運送業の人手不足解消の方法として、職場の労働環境を改善することが挙げられます。
長い勤務時間に身体的な負担が重い作業が多い中、賃金が低く見合わないと感じれば、長く働き続けることはできないと辞めてしまう可能性が高くなります。
既存のドライバーや求職者にとって、魅力ある労働環境を整備しなければ、安心して仕事に専念してもらうことはできません。
そこで、長時間労働を是正するガイドラインを作成することや、宅配ボックスの普及促進、IT点呼などを取り入れて業務を効率化していきましょう。
さらに、住宅補助や特別休暇制度など、福利厚生を充実させることも労働環境を改善する一環として取り組むことで、働きやすさを感じてもらいやすくなります。
個人配送網を利用する
運送業の人手不足解消の方法として、軽貨物運送業の届出をしている個人事業者と業務委託契約を結ぶなど、個人配送網を利用することが挙げられます。
近年では、配送マッチングサービスなどを使って、空いた時間を活用した配送業務なども可能となっています。
複数の個人配送網を活用することにより、繁忙期などはドライバー不足解消に貢献しやすくなると考えられます。
教育体制を整備する
運送業の人手不足解消の方法として、未経験者を採用して戦力へと育てるための教育体制を整備することが挙げられます。
たとえば未経験者を採用し、会社負担で免許取得を目指す制度を活用してもらうことで、戦力として活躍できるドライバーへと育てることができます。
経験や免許がないけれど、運送業で働いてみたいといった未経験者の採用を増やすことで、現場の人手不足解消につながることが期待できるでしょう。
採用活動を見直す
運送業の人手不足解消の方法として、採用における方法の種類を増やすなど、採用活動の見直しが挙げられます。
ハローワークなどに求人を出しても、想定していたほど応募や反応がないと感じるときには、他の方法も併用することをおすすめします。
たとえば、自社でリクルートサイトを作成し、従業員のインタビューなどを掲載すれば、社風や現場の雰囲気などを感じてもらいやすくなります。
SNSで発信して自社のホームページへつなげることで、インターネットを通じて会社の目指すことや実際の仕事内容などを知ってもらうこともできます。
1つの採用活動に固執するのではなく、従業員などの紹介で採用活動を行うリファラル採用なども取り入れつつ、多くの人材を確保できるように工夫することが必要です。
女性ドライバーを採用する
運送業の人手不足解消の方法として、男性だけにこだわらず女性ドライバーを採用することが挙げられます。
インターネット通販の注文商品などは、個人宅への配送であり、小型の商品なども少なくありません。
普通免許で運転する配送車で十分配送が可能であるため、女性でも無理なく運送ドライバーとして働くことができるでしょう。
なお、女性ドライバーの採用においては、育児休暇の取得や両立支援整備に向けて、両立支援等助成金など活用できます。
女性でも働きやすい柔軟な労働環境を整備することで、たとえば結婚や妊娠、出産などライフスタイルに変化があっても、離職せずに長く活躍してもらえます。
家庭と仕事を両立できる環境が整備されることは今後どの業界でも必要なことであり、ワークライフバランスの整備による従業員全体の満足度向上に繋げることができるため、検討するとよいでしょう。
まとめ
運送業の人手不足は、今後さらに深刻化する恐れがあり、現場の人員確保が急務とされています。
人手不足が加速している原因は、他の業界と比較したときの労働環境や待遇が劣ることや、女性進出が遅れていることなどが挙げられるでしょう。
日本は少子高齢化が進んでいるため、今後はさらに若い世代の人員を確保することが困難になってきます。
労働環境や待遇などを見直し、若い世代が就職先として選びたくなるような就労環境を整備し、慢性的な人手不足を解消していきましょう。
なお、人手不足解消に向けた設備投資や労働環境整備に向けた取り組みに関し、資金の調達方法など不安があるときには専門知識の豊富なコンサルタントに相談することをおすすめします。