個人事業主が資金調達する場合、法人とは違って選べる方法が限られます。
社会的な信用力が法人よりも劣ることが原因といえますが、個人事業主でも事業に必要なお金を資金調達できる方法はあります。
資金調達の方法として、すぐに思い浮かぶのはお金を借りる方法といえますが、資本を増やす方法や資産を現金化する方法など種類は様々です。
そこで、個人事業主の資金調達について、頼れる融資制度や借入れ以外の方法をわかりやすく解説していきます。
目次
個人事業主が融資による資金調達
個人事業主がお金を借りて資金調達する場合、活用できる可能性がある融資制度は次の4つです。
- 政府系金融機関の融資制度
- 地方自治体の制度融資
- 信用金庫・民間銀行の貸付制度
- 銀行・消費者金融のビジネスローン
それぞれ説明していきます。
政府系金融機関の融資制度
個人事業主がお金を借りて資金調達するなら、まずは「政府系金融機関」に相談してみましょう。
政府系金融機関とは、預金機能は持たず資金の貸し付けを積極的に行う国の出資・運営する金融機関です。
個人事業主は、複数ある政府系金融機関のうち「日本政策金融公庫」の国民生活事業による借入れが利用できます。
「日本政策金融公庫」の国民生活事業は、個人事業主や小規模事業者をメインターゲットとしており、一般貸付で最大4,800万円の融資限度枠で借入れが可能です。
創業期でも低金利・無担保・無保証で事業資金の融資を受けることができるものの、準備する書類などが多いため、早めに最寄りの窓口に相談してみるとよいでしょう。
地方自治体の制度融資
個人事業主がお金を借りて資金調達するのなら、地方自治体・金融機関・信用保証組合の3つの機関が協力・連携して行う「制度融資」もおすすめです。
窓口となる自治体や、準備している自己資金や事業計画書によって、設定される金利や融資限度額は異なります。
ただ、信用保証組合の保証が付いた上での借入れとなるため、低金利・無担保・無保証で融資を受けることができ、信用保証料や利子の一部を自治体が負担してくれるなどメリットは大きいといえます。
ただし3つの機関を経由し、銀行と信用保証協会のそれぞれの審査に通る必要があるため、資金調達まである程度時間がかかることはデメリットです。
信用金庫・民間銀行の貸付制度
個人事業主がお金を借りて資金調達する場合、地域の信用金庫や民間銀行の貸付制度も利用できます。
通常、民間銀行は都市銀行や地方銀行など種類があるものの、個人事業主であれば信用金庫や地方銀行が取引銀行となるでしょう。
個人事業主の場合、法人よりも信用力が低めであるため、融資を受ける場合には次の2つの制度を利用することが多いといえます。
- 信用保証付き融資
- 不動産担保ローン
それぞれ説明します。
信用保証付き融資
「信用保証付き融資」とは、信用保証協会が保証を引き受けた上で融資が実行される貸付制度です。
返済できなくなったときには信用保証協会が肩代わりしてくれるため、事業資金を貸し付ける銀行は、安心して融資を実行できます。
ただし信用保証協会に信用保証料を支払うことが必要であることと、仮に肩代わりしてもらった場合でも、債権者が銀行から信用保証協会に移るだけなので返済義務を免れることはないと留意しておきましょう。
不動産担保ローン
「不動産担保ローン」とは、所有する土地や建物を担保とした借入れです。
所有中の不動産だけでなく、住宅ローンのように購入予定の不動産も担保にすることができます。
また、融資を受けたい本人だけでなく、その家族などの不動産でも担保にしてお金を借りることは可能です。
審査では申込者の信用力と、担保に差し入れる不動産の価値などを勘案した上で、融資可否が決定されますが、審査に通れば低金利で資金調達できます。
不動産担保ローンとは?メリット・デメリットや審査が通らないときの対処法
銀行・消費者金融のビジネスローン
個人事業主がお金を借りて資金調達するのなら、銀行や消費者金融の「ビジネスローン」を利用することも方法の1つです。
ビジネスローンについては、消費者金融など貸金業者に申し込んだ場合でも、年収の3分の1までしか借入れできないとされる総量規制の対象外となります。
ビジネスローンとは、通常の銀行融資の審査に通りにくい事業者向けの金融商品であり、審査のハードルが低いことがメリットといえます。
最短即日で借入れが可能など、スピーディに資金調達したいときにもおすすめです。
ただし金利が高いことと、融資限度額が低いため、長期利用により資金繰りが悪化するがデメリットには留意が必要といえます。
ビジネスローンとは?銀行融資との違いやメリット・デメリット等について解説
個人事業主の融資審査における要点
個人事業主が銀行などからお金を借りて資金調達する場合、融資審査を通過することが必要です。
銀行などが実施する融資審査では、個人事業主の場合、以下の7点を要点として確認されます。
- 資金を何に使うか
- 実現性のある事業計画か
- 返済能力は高いか
- 信用情報が悪化していないか
- 自己資金を準備しているか
- 融資希望額は妥当か
- 良好な経営状態か
それぞれの要点について説明します。
資金を何に使うか
個人事業主に対する融資審査では、調達した資金を何に使うのか、「資金使途」を明確にしておきましょう。
資金使途は、融資審査で重要なポイントであり、設備資金と運転資金のどちらで必要なのか、どのような事業計画にもと使用されるのか必ず確認されます。
事業計画と資金使途の関連が認められなければ、審査に通る確率は下がります。
実現性のある事業計画か
個人事業主に対する融資審査では、実現できる「事業計画」であることが重視されます。
日本政策金融公庫の融資制度や地方自治体の制度融資では、数年で売上を何十倍にするといった大きな目標よりも、現実的な実現可能性の高い事業計画が求められます。
事業計画に沿って必要な資金を融資希望額として申請しましょう。
返済能力は高いか
個人事業主に対する融資審査では、借りたお金を返すことができるのか、返済能力が重視されます。
事業計画のおける売上や利益の見通しと、返済計画に関して細かく確認されるため、捻出できる返済原資と毎月の返済額など実現できる内容で計画を立てましょう。
信用情報が悪化していないか
個人事業主に対する融資審査では、信用情報が悪化していないか確認されます。
借入れの返済に延滞があれば、個人信用情報機関の管理している信用情報に事故情報として記録されます。
また、税金や公共料金の滞納があると、融資審査には通りにくくなるため注意しましょう。
自己資金を準備しているか
個人事業主に対する融資審査では、自己資金をどのくらい準備しているのか確認されます。
自己資金は、創業に向けてコツコツと貯めたお金であることが必要であり、見せかけの一時的な資金ではみとめられません。
仮に自己資金がない場合でも、事業計画を作成し計画的な返済が可能であれば、融資審査に通ることはあります。
ただし日本政策金融公庫の創業融資においては、自己資金に関する要件もあることや、他の金融機関でも審査のハードルは高くなると考えられるでしょう。
融資希望額は妥当か
個人事業主に対する融資審査では、融資希望額の妥当性も確認されます。
事業計画に沿った綿密に計画を練った上での融資希望額か、審査では厳しくチェックされることになるでしょう。
妥当性のない金額で申請するのではなく、説明ができる範囲で申し込みをしましょう。
良好な経営状態か
個人事業主に対する融資審査では、売上や利益などの経営状態について、良好か確認されます。
売上や利益が順調に推移し、黒字経営が続いていれば融資審査では有利になります。
経営状態が悪化しているときや、赤字経営では審査に通ることは難しくなるでしょう。
個人事業主向けの融資以外の資金調達
個人事業主が融資を受けて資金調達する場合、赤字の場合や信用情報が悪化していることを理由に、審査に通らないこともあります。
しかし次の4つの資金調達方法であれば、個人事業主でも安心して利用できます。
- ファクタリング
- リースバック
- 助成金・補助金
- クラウドファンディング
それぞれの資金調達方法について説明します。
ファクタリング
個人事業主の融資以外の資金調達方法には、売掛金を現金化する「ファクタリング」がおすすめです。
「ファクタリング」とは、事業者の保有する売掛債権をファクタリング会社に売ることで、現金化できる金融サービスです。
売掛債権の範囲で手元のお金を増やすことができるため、借金を増やすことはありません。
審査でも売掛先の信用力が重視されるため、銀行融資に通らなかった個人事業主でも申し込みできます。
個人事業主でもファクタリングは使える?利用時の7つのポイントを解説
リースバック
個人事業主の融資以外の資金調達方法として、
リースバックは、持ち家など不動産をリース会社に売却し、現金化することで資金調達できる方法です。
一般的な不動産売買では、売却後に資金調達するまで時間がかかりますが、リースバックでは買い手が不動産会社であるため時間がかかりにくいことがメリットといえます。
リースバックの最大のメリットは、売った不動産についてリース契約(賃貸借契約)を結ぶことで、引き続き住み続けられることです。
ただし通常の不動産売買よりも売却価格が低くなりやすいことや、家賃負担が必要になる点には注意しましょう。
助成金・補助金
個人事業主の融資以外の資金調達方法として、国や地方自治体の「補助金」や「助成金」も挙げられます。
原則、返済義務のない資金を調達できますが、申請において準備が必要で支援目的や募集要項に沿っていなければ利用できません。
助成金は要件を満たし、所定の様式で申請すれば給付されることがほとんどです。
しかし補助金は、採択件数や予算が決まっており、先着順や抽選などで選ばれるため、必ずしも給付されるとは限りません。
助成金は常時募集しているのに対し、補助金は一定の公募期間に申請しなければならないなど、最新情報の確認も必要です。
どちらもかかった経費などが後払いで支払われるため、一時的な立て替えも必要となることも留意してください。
クラウドファンディング
個人事業主の融資以外の資金調達方法として、インターネット上で少額資金を募る「クラウドファンディング」が挙げられます。
「クラウドファンディング」は、ビジネスプランやアイデアなどをインターネット上に公開し、賛同者から少額資金を投じてもらう仕組みです。
一人ひとりの投じた資金は少額でも、多く賛同者を集めれば多額の資金調達につながります。
独自の魅力や斬新的なアイデアなどを提示することができれば、多くの賛同者を得ることに成功できるでしょう。
クラウドファンディングとは?やり方やメリット・デメリットを簡単に解説
個人事業主の資金調達のポイント
個人事業主の資金調達においては、法人よりも信用力が低いなど様々なデメリットの中で審査に通るなど段階を踏むことが必要となります。
そのため資金調達を成功させるためにも、以下の7つのポイントを押さえておくとよいでしょう。
- 確定申告をする
- 開業届を出す
- 資金使途は明確にする
- 自己資金を用意する
- 必要書類を漏れなく準備する
- 積極的に担当者へ相談する
- 法人化を検討する
それぞれのポイントについて説明します。
確定申告をする
個人事業主が資金調達を成功させたいなら、「確定申告」をしておきましょう。
融資審査においては、利益や納税の有無も確認されます。
黒字で納税しており、資金使途や返済計画を示すことができなければ、融資審査に通る確率は低くなります。
個人事業主は法人よりも信用を得にくいため、仮に審査に通ったとしても融資金額は少額になりやすい傾向が見られます。
できるだけ信用力を挙げるためにも、経営状況を正確に把握してもらえる青色申告での確定申告をおすすめします。
開業届を出す
個人事業主が資金調達を成功させたいなら、税務署で「開業届」を提出しておきましょう。
開業届とは、正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、個人事業を開業したことを税務署へ申告する書類です。
提出していなくても罰則はないものの、フリーランスとして事業を営むよりは信用力も高まるため、提出しておくことをおすすめします。
資金使途は明確にする
個人事業主が資金調達を成功させたいなら、準備したお金を何に使うのか、資金使途を明確にしましょう。
資金が何に使われるのか、どの資金調達方法でも明確にしておくことが必要です。
特に融資審査では、返済原資をどのように捻出するかなども重視されるため、利益を生み出すまでの使い道は必ず確認されます。
また、金融商品によって、資金使途が限定されていることもあるため注意してください。
自己資金を用意する
個人事業主が資金調達を成功させたいなら、自己資金を用意しましょう。
事業に必要な資金を自己資金として用意することが望ましく、たとえば開業であれば3割程度あることが理想です。
必要書類を漏れなく準備する
個人事業主が資金調達を成功させたいなら、必要書類を漏れなく準備しましょう。
多くの資金調達方法で、申込書以外にも、確定申告書・開業届・青色申告の届出書などの書類が必要になると考えられます。
また、納税証明書なども必要になることがあるため、早めに入手するなど余裕のある準備が理想です。
積極的に担当者へ相談する
個人事業主が資金調達を成功させたいなら、積極的に担当者へ相談しましょう。
金融機関などによって、審査の内容・機関・金利など条件は異なります。
融資以外の方法においても、どのような資金調達方法なのか詳しく説明をきき、納得の上で申し込むことが必要です。
ただ、個人事業主は忙しく、資金調達に時間を割きにくいケースも少なくありません。
金融機関や自治体の相談窓口、専門家のサポートを受けつつ、どの方法が適切か相談してみることをおすすめします。
法人化を検討する
個人事業主が資金調達を成功させたいなら、法人化も検討するとよいでしょう。
法人のほうが、個人事業主よりも経費として計上できる項目が多く、分課税所得を圧縮できることも期待できます。
社会的な信用も上がり、自由に決算期を決めることや有限責任で済むことなど、メリットもあるといえ、結果的に資金調達にも有利になると考えられます。
事業拡大の予定があるのなら、個人事業主から法人化することを検討してみるとよいでしょう。
法人登記とは?個人事業主の法人化するメリットをわかりやすく解説
まとめ
個人事業主の資金調達は、事業継続する上で欠かせないことといえます。
ただし法人と違って信用力など高くないため、何のために資金調達しなければならないのか、資金使途や必要額を明確にしておきましょう。
その上で、事業計画書などの作成が必要です。
多岐に渡る書類の準備が面倒なときやスムーズに資金調達したいときには、売掛金を現金化できるファクタリングも検討できるため、まずはご相談ください。