融資を受けて資金調達する方法は、中小企業が依存しがちな手段ともいえます。
しかしお金を借りるためには、借入先となる銀行の審査に通らなければならないものの、資金体力や信用力が十分と判断されにくい中小企業では融資を受けて資金調達しにくい環境です。
ただ、融資を受ける資金調達方法は銀行融資に限らず、借入れ以外を選んだほうがよいケースもあります。
そこで、融資を受ける資金調達の方法について、種類やメリット・デメリットを解説していきます。
目次
融資とは
「融資」とは、事業者などが金融機関からお金を借りることです。
事業資金の借入れにおいて、融資を実行する金融機関は、資金を貸し付ける相手に返済能力が認められるか審査を行います。
なぜなら融資を受けた事業者は、借りた元金に加えて利子を支払う必要があるため、返済資金を捻出できなければ銀行の経営に悪影響を及ぼすからです。
事業者が融資を受けて資金調達する場合、その目的は「運転資金」または「設備資金」を準備する必要があるからといえます。
「運転資金」とは事業に必要な経費を支払うために、「継続」して必要となるお金です。
「設備資金」は、新たに設備を導入したり入れ替えたりするときに、「一時的」に必要となる資金といえます。
融資を受けるときには、調達した資金の使い道が運転資金と設備資金のどちらか必ず尋ねられるのは、資金使途によって融資形態や融資期間は異なるからです。
運転資金と設備資金のどちらの事業資金を貸し付けるかによって、銀行が事業者に期待する効果は異なるため、融資審査の可否に影響がでる可能性もあると留意しておきましょう。
融資を受ける資金調達の種類
融資を受ける資金調達の種類は、主に次の7つです。
- 公的融資
- 銀行融資
- 制度融資
- ビジネスローン
- 手形割引
- 社債
- コマーシャルペーパー
それぞれの方法について説明します。
公的融資
融資を受ける資金調達の種類として、まず「公的融資」が挙げられます。
「公的融資」とは、政府系金融機関である日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などから資金を借入れる方法です。
政府系金融機関は、日本の経済発展や中小企業の活動支援などを目的として運営しているため、預金機能はなく主に事業資金などの貸し付けを行っています。
次に説明する民間銀行の融資を受けにくい創業したばかりに時期や、信用力が低めの個人事業者や中小企業も相談しやすいことが特徴です。
銀行融資
融資を受ける資金調達の種類として、「銀行融資」が挙げられます。
「銀行融資」とは、都市銀行・地方銀行・信用金庫など、民間の金融機関から資金を借入れる方法です。
民間銀行のうち、個人事業者や中小企業であれば、都市銀行以外の金融機関を頼ることなり、以下の金融商品から選択するなります。
- プロパー融資(銀行独自の責任による資金の貸し付け)
- 信用保証協会保証付き融資(信用保証協会の保証をつけた上での資金の貸し付け)
- 証書貸付(借用証書を差し入れて契約を締結した上での資金の貸し付け)
- 不動産担保付き融資(不動産を担保に差し入れた上での資金の貸し付け)
プロパー融資は銀行から高い評価を受け、十分な返済能力などが認められなければ利用できません。
まずは保証または担保付きの融資で実績をつくり、信頼を築いた上でプロパー融資等を申し込むことになるでしょう。
制度融資
融資を受ける資金調達の種類として、「制度融資」が挙げられます。
「制度融資」とは、地方自治体・金融機関・信用保証協会の3機関の協力・連携のもとし行われる資金の貸し付けです。
自治体によって利用条件等、異なる部分もあり、利子の一部や保証協会へ支払う保証料など負担してくれるケースもあります。
地方自治体と信用保証協会の協力を得た上で銀行からお金を借りるため、保証のない状態よりも審査には通りやすくなるといえるでしょう。
ビジネスローン
融資を受ける資金調達の種類として、「ビジネスローン」が挙げられます。
「ビジネスローン」とは、通常の銀行融資の審査には通りにくい事業者向けの金融商品であり、必要書類が簡素化されていることや審査の難易度が低いことが特徴です。
個人事業者と法人経営者のみ申し込みできるため、事業者を営んでいない個人は利用できません。
公的融資や銀行融資よりも審査期間は短く、最短で即日、遅くても数日程度で借入れできます。
ただし金利は高めに設定されるため、繰り返し長期利用してしまうと資金繰りを悪化させると留意しておきましょう。
手形割引
融資を受ける資金調達の種類として、「手形割引」が挙げられます。
「手形割引」とは、支払期日到来前の手形を銀行または手形割引業者に売却し、現金化することで資金を調達できる金融サービスです。
本来、手形記載の期日まで入金されることのない手形を、手数料を払って売却することで期日前に現金化できます。
手形割引は手形の買い取りという位置づけであるものの、実際には融資とみなされています。
社債
融資を受ける資金調達の種類として、「社債」が挙げられます。
「社債」とは、債券を発行して投資家から資金を集める方法です。
期間利息を負担しなければならないことや、満期に元本を返さなければならないなど、株式発行と異なり返済義務を負います。
銀行融資を受けたくても担保に差し入れる不動産などがない場合などに選択しやすい方法ですが、主に次の2つに分けることができます。
- 公募債
- 私募債
それぞれ説明していきます。
株式と社債の違いとは?種類やメリット・デメリットをわかりやすく解説
公募債
「公募債」とは、不特定多数に発行した債券を購入してもらうように呼び掛ける社債です。
購入してくれた投資家には、満期までに利子を支払います。
さらに満期が到来したときには、一括で返済しなければなりません。
公開市場50人以上の投資家に向けて新たに有価証券を売り出すため、「有価証券届出書」または「有価証券通知書」を提出することが必要です。
私募債
「私募債」とは、公募手続ではない方法で購入を勧誘する社債です。
50人未満の縁故者や会社関係者など、限定したステークホルダーに投資してもらうため、公募債では提出しなければならない「有価証券届出書」や「有価証券通知書」は必要ありません。
中小企業の場合、金融機関や信用保証協会などが償還保証する「銀行保証付(銀行引受)私募債」や「信用保証協会保証付私募債」が主流ですが、私募債の発行金額は1億円までです。
コマーシャルペーパー
融資を受ける資金調達の種類として、「コマーシャルペーパー」が挙げられます。
「コマーシャルペーパー」は、金融会社や証券会社を通じて公開市場の割引形式で投資家に呼びかけ、担保なしの約束手形を購入してもらう方法です。
償還期間は1年未満など短期であることが多いのに対し、額面金額は1億円以上であることが多いといえます。
発行する会社の信用力や優良性で金利が左右されることや、担保なしであることなど踏まえても、財務良好で信用力の高い企業でなければ発行できないと理解できるでしょう。
融資を受けるメリット
融資を受ければ負債(借金)が増えるため、メリットのある資金調達の方法と感じられない方もいることでしょう。
しかし実際には、融資を受ける資金調達は、次の3つのメリットがあると考えられます。
- 自由に経営できる
- 節税効果が期待できる
- 取引銀行と信頼関係を構築できる
それぞれ説明していきます。
自由に経営できる
融資を受けるメリットとして、銀行などが経営に干渉せず、自由に経営できること挙げられます。
借入先の金融機関などは、企業経営に意見したり干渉したりすることはないため、外部から制限を受けることなく安心して経営にはげむことができます。
節税効果が期待できる
融資を受けるメリットとして、利息を損金計上することによる節税効果が期待できることが挙げられます。
お金を借りれば設定された金利に伴う利子を負担しなければなりません。
しかし支払利息は税務上「損金」として計上できるため、課税所得から支払利息を差し引くことができ、節税につながります。
取引銀行と信頼関係を構築できる
融資を受けるメリットとして、借入先となる取引銀行等と、信頼関係を構築できることが挙げられます。
たとえば銀行からお金を借りた後に、毎月の期日に遅れず返済を続けることができれば、取引実績を積むことができるため信頼関係を構築できます。
金融機関からの評価が上がれば、追加融資の相談などにも応じてくれるようになり、好条件で借入れできる可能性も期待できるでしょう。
融資を受けるデメリット
融資を受けて資金調達することを選べば、誰にも経営に関与されることなく、取引銀行等とも信頼関係を築くことができるでしょう。
しかし融資を受けることは、次の5つのデメリットがあると留意しておく必要があります。
- 負債(借金)が増える
- 審査が厳しい
- 返済義務が発生する
- 利子を支払う必要がある
- 経営の安定性が下がる
それぞれ説明します。
負債(借金)が増える
融資を受けるデメリットとして、お金を借りることにより、負債(借金)が増えることが挙げられます。
借りたお金は貸借対照表上、負債に計上します。
負債が増えれば財務指標に悪影響を及ぼし、「債務超過」に陥らないとも限りません。
資産・負債・資本の財務バランスを意識し、信用力を低下させない程度に留めることも大切です。
審査が厳しい
融資を受けるデメリットとして、銀行など金融機関が行う審査が厳しく、資金調達につながりにくいことが挙げられます。
中小企業は、以下の特徴があるため銀行融資などの審査に通りにくいといえます。
- 経営体制が脆弱である
- 資本金が少なく財務基盤が弱い
- 代表者に経営判断の決定権がある
- 経営者と会社の所有に関する分離があいまいである
また、日本の中小企業の約6~7割は赤字経営ともいわれていることも、銀行融資の審査に通りにくい要因になっていると考えられます。
返済義務が発生する
融資を受けるデメリットとして、借りたお金は返さなければならず、返済義務が発生することが挙げられます。
借りたお金は当然返すことが必要であり、元金だけでなく一定額の利子も支払うことが必要です。
毎月、期日までに返済しなければならない義務が発生するため、無理のない範囲で返すことができるように返済計画を立てた上での借入れが重要といえます。
利子を支払う必要がある
融資を受けるデメリットとして、設定される金利に伴う利子を支払う必要があることが挙げられます。
公的融資・銀行融資・社債など、いずれの方法でお金を借りたとしても、必ず利子は発生します。
損益を圧迫することになりかねないため、ビジネスローンなど金利の高い借入れには注意しましょう。
経営の安定性が下がる
融資を受けるデメリットとして、自己資本比率を低下させるため、経営の安定性が下がることが挙げられます。
「自己資本比率」とは、返済する必要のない自己資本が、全体の資本調達の何割を占めるかを示す数値です。
自己資本比率=自己資本/総資本×100 |
割合が小さいほど、負債など他人資本の影響を受けており、経営が不安定な状態であると判断できます。
融資以外の資金調達の方法
資金調達において融資を受けることは、中小企業が多く利用している方法といえます。
しかし融資に依存し過ぎれば、金融機関の審査に通らなかったとき、手元の資金を枯渇させることになりかねません。
また、赤字や債務超過の状態では審査に通らないため、他の資金調達方法も準備しておいたほうが安心です。
融資以外でも、次の2つの方法で資金を調達することができます。
- 出資による資金調達
- 資産現金化による資金調達
それぞれ説明します。
出資による資金調達
融資以外にも、資金調達の種類として「資本」を増やす方法があります。
株式発行などで自己資本を増やす方法であり、主に次の3つが種類として挙げられます。
- ベンチャーキャピタル
- エンジェル投資家
- クラウドファンディング
それぞれ簡単に説明します。
ベンチャーキャピタル
「ベンチャーキャピタル」とは、未上場の新興企業の将来性を期待し、資金を投じる投資会社です。
未上場の段階で発行株式を購入し、上場後には売ってキャピタルゲインを得ることを目的としています。
ベンチャーキャピタルに出資してもらうことができれば、返済義務のない多額の資金を調達できるものの、上場させることを目的とするため経営に関与されるなど自由な経営はできなくなります。
エンジェル投資家
「エンジェル投資家」とは、スタートアップ企業やベンチャー企業に資金を投じる元実業家や元経営者の個人投資家です。
自身の経験をもとに経営アドバイスをしてくれることや、ビジネスパートナーを紹介してくれるなど様々な支援も期待できます。
ただしベンチャーキャピタルと同じく上場させることを目的とするエンジェル投資家の場合、経営に関与される可能性があるため相性や目的など確認が必要です。
エンジェル投資家とは?出資を受けるメリット・デメリットや探し方を解説
クラウドファンディング
「クラウドファンディング」とは、インターネット上に公開したビジネスやアイデアに賛同した不特定多数の個人に投資してもらう仕組みです。
個人から少額資金を集める方法であるものの、賛同者が増えれば多額の資金調達につながります。
ただしインターネット上に公開したビジネスやアイデアなどを盗用されるリスクがあることや、一定のルールにより目標額を達成できなければ資金調達につながらないケースもあるため注意が必要です。
クラウドファンディングとは?やり方やメリット・デメリットを簡単に解説
資産現金化による資金調達
融資や出資を受ける資金調達の方法は、どちらも資金を提供してくれる相手が納得するだけの信用力を提示することが必要です。
決算書や事業計画書などをもとに、今後、将来的に利益を生み出すことができることを証明していかなければなりません。
赤字決済や債務超過の状態では、お金を借りることも資金を投じてもらうことも難しいといえるでしょう。。
しかし「資産現金化」による資金調達であれば、手元に所有する資産を売却し、お金に換える方法なので厳しい審査は特にありません。
資産現金化による資金調達の方法として、主に次の3つが挙げられます。
- ファクタリング
- 資産現金化
- リースバック
それぞれ説明します。
ファクタリング
「ファクタリング」とは、事業者間の掛け取引で発生した売掛金をファクタリング会社に売り、期日よりも前倒しで現金化する金融サービスです。
売上として計上されたものの、まだ入金されていない売上代金(売掛金)は、商品やサービスの販売から1~2か月経たなければ入金されません。
しかしファクタリングを使えば、期日を待たずに現金化できるため、借入れにより負債を増やさなくても資金調達できます。
なお、ファクタリングで行われる審査では、売掛先の信用力を重視します。
そのため赤字や債務超過で銀行融資の審査に通らなかった事業者でも、最短即日で現金化できるなどスムーズな資金調達が可能です。
ただし手数料は銀行融資の利子よりも高めに設定されるため、前もっていつまで利用するか期間を決めた上での活用が重要といえます。
ファクタリングとは?仕組みやメリット・デメリットをわかりやすく解説
資産現金化
「資産現金化」とは、所有する資産を売ってお金に換えることであり、主に次の資産が現金化の対象です。
- 土地・建物
- 車両
- 設備・備品
- 無形固定資産(権利など)
- 在庫
先に説明したファクタリングでも、売掛債権を売却して現金化するため、資産現金化に含まれます。
使用していないビルや工場、付き合いで購入した有価証券などを売ってお金に換えることで、手元の現金を増やすと同時に固定資産税や管理コストを削減できます。
ただし希望額での買い取りにつながらないケースがあることや、調達額は資産価値の範囲に依存することは留意しておきましょう。
債権流動化とは?種類や選び方・ファクタリングがおすすめの理由を徹底解説
リースバック
「リースバック」とは、家を売却して売却代金を得ると同時に、売却後の家と賃貸借契約を結んで継続して住む手法です。
「売る(Sell)」と「賃貸(Lease)」を合わせた正式名称は「セールアンドリースバック」といいます。
家を買うのは不動産会社やファイナンス会社などのリースバック業者であり、通常の不動産売却よりも時間がかからず、一括で現金により支払ってもらえます。
ただし売却後に結ぶ賃貸借契約は定期借家契約がほとんどであり、一定期間は住み続けることができたとしても、契約更新できなければ退去しなければなりません。
買い戻し可能とする契約の場合もあるため、家を手放したくないときなど、事前に契約内容を確認しておきましょう。
まとめ
融資を受けて資金調達することで、多額の資金を準備することはできるでしょう。
しかし審査が厳しく、赤字や債務超過、税金滞納がある状態では断られる可能性が高いといえます。
中小企業は資金調達の方法を銀行融資に依存しがちといえますが、審査に通らなかったときに備えて方法の多様化が必要といえるでしょう。
もしも銀行融資を受けたくても、審査に通らずお金を借りることができなかったときには、売掛金を現金化するファクタリングも利用できます。
審査では売掛先の信用力を重視するため、銀行融資よりも難易度は低めであるため、検討することをおすすめします。