人手不足で悩む業界は少なくありませんが、その背景には日本の少子高齢化などが関係しており、終身雇用制でなくなった現在では転職しやすい環境になったからといえます。
しかし建設業や介護業など、人手不足に悩むのは今後ニーズが高まると考えられる業界が多く、人材確保が急務となっています。
そこで、人手不足の業界・職種について、現状と原因、解消する方法についてわかりやすく紹介していきます。
目次
人手不足の現状
人手不足が進み、現場では限られた人員のみで対応する業界は少なくありません。
しかし業務において必要な人材が足らなければ、業務にも支障が出てしまいます。
人手不足に悩む業界や企業の割合は年々増えており、特にコロナ禍以降はその状況が顕著化しているといえるでしょう。
2023年5月2日に帝国データバンクが公表した「人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)」によると、人手不足に悩みを抱える企業の割合やその業界は以下の結果となっています。
- 正社員の人手不足企業の割合は51.4%であり、業種別で高い割合を示したのは以下のとおり
旅館ホテル75.5%
情報サービス74.2%
メンテナンス・警備・検査67.6%
- 非正社員は30.7%が人手不足であり、小売業やサービス業など個人向け業種の割合が高く、業種別でみると以下のとおり
飲食店85.2%
旅館・ホテル78.0%
今後、ニーズが高まると予想される業界での人手が足りていないため、特に若い世代の人材をどのように確保するかが急務の課題といえるでしょう。
人手不足の原因
人手不足に悩む業界は少なくないといえますが、その背景として、コロナ禍で一時的に悪化していた需要が急回復したことが挙げられます。
多方面で供給が追い付いていない状況が続いているからといえますが、主な人手不足の原因は次の3つに分けることができます。
- 少子高齢化
- 2025年問題
- マッチングミス
それぞれどのような原因で人手不足に陥っているのか説明していきます。
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少子高齢化
日本は急速に少子高齢化が進んでおり、2010年からの出生率が低下し続けています。
若い世代の総数が減っているため、生産年齢人口が今後さらに少なくなると予想されます。
15~64歳を生産年齢人口といいますが、ピークだった年は1995年であり、総人口も2008年をピークとして減り続けています。
総務省では、生産年齢人口比率は2065年に2020年の7割まで減少する推計しているため、今後はさらに人手不足で悩む業界が増加するとも考えられるでしょう。
2025年問題
「2025年問題」とは2025年に800万人程の「団塊の世代」が75歳の後期高齢者になることです。
超高齢化社会を迎えることとなり、国民の4人に1人は後期高齢者となるため、介護・医療費が増大することが懸念されています。
介護や医療のニーズに対応する労働者が不足すると考えられるのに加えて、IT分野では「2025年の崖」と呼ばれるDX化の進まない問題が起こることも想定されています。
既存のITシステムの老朽化や、肥大や複雑になった今、経済が停滞するリスクがあるため、IT人材などを引き起こすかもしれません。
マッチングミス
業界や就労などの構造が変わったことで、社会や職場が選んだ人材とのミスマッチが人手不足を助長させているとも考えられています。
土木・介護・サービスに人手不足が著しいのに対し、一般事務・会計事務・運搬・清掃・包装などは人材が余まっている状態です。
求人を出しても募集が集まらない業界や業種もあれば、やりたい仕事の求人に応募できないと悩む求職者もいます。
人材を求める企業と求職者の間で、求める能力・資格・業務内容・労働条件がマッチングできていない「構造的失業」により、人材不足の慢性化を招いていると考えられるでしょう。
人手不足が深刻化している業界
人手不足が深刻化している業界もあれば、そうでない業界もあります。
業種や職種で人手に偏りがあり、たとえばDX推進を進める企業が増えたことで、専門性の高いエンジニアなどは人手が不足しています。
しかし業務改革やアウトソーシングサービスが充実しており、特に高い専門性を必要としない一般事務職などはむしろ人員削減されており、人手が足りている状況です。
以上のことから、人手不足が深刻化している業界は以下の6つといえます。
- 情報サービス業
- 宿泊業
- 建設業
- 飲食業
- 物流業
- 介護業
上記の業界において、人手不足が顕著化している職種は以下のとおりです。
- 情報サービス業 プログラマーやシステムエンジニア
- 宿泊業 接客スタッフ
- 建設業 とび職や土木作業員
- 飲食業 ホールスタッフ
- 物流業 配送ドライバー
- 介護業 介護職や看護助手
それぞれの業界の人手不足の現状と抱える課題について説明していきます。
情報サービス業
人手不足が深刻化している業界として、DXやマーケティングにかかせない情報処理や情報サービスを扱う「情報業」が挙げられます。
デジタル技術を使った現場のIT化などが必要になっている現状において、様々なデータ分析なども求められています。
その中で情報サービス業は比較的新しい業種であり、人材育成にも時間がかかる業界です。
専門性の高い技術職の人手が足りていない状況の中、DX推進が急務とされているため、IT人材は今後さらに需要が増えていくと考えられています。
宿泊業
人手不足が深刻化している業界は、コロナ禍から回復傾向にあり、旅行需要が増えたことで対応に追われている宿泊業やホテル業です。
2023年7月に日本政府観光局が推計した訪日外客数は、新型コロナウイルス感染症が流行する前の2019年と比べて8割程度回復しました。
さらに2023年5月12日に経済産業省が公表している「アフターコロナの中で、どこまで回復したか-旅行・観光-」によると、宿泊業とホテル業の業績はコロナ禍前の2019年を上回る結果となっています。
利用客が増えて現場が忙しくなったのにも関わらず、従来までの働き方と賃金では見合わないと感じる労働者も少なくないため、労働環境や条件が合わないことによって人手不足に拍車をかけているようです。
建設業
人手不足が深刻化している業界は、慢性的に現場の人材が足りていないともいえる「建設業」です。
技能や知識を保有する人材は定年退職してしまい、現在残っている人材の高齢化も進んでいます。
若年層は力仕事や危険の伴う仕事を避ける傾向があるため、きつい・汚い・危険の「3K」イメージが強い建設業に入職したいと考える層が減っているといえます。
しかし建設業界は生活に欠かせない住宅や公共施設など建築物を造る業界です。
業績は堅調であり、毎年多額の建設投資予算も組み込まれています。
建物の老朽化による改修や災害対策などで今後も需要は伸びると考えられる一方で、人手不足は進んでいるため、ネガティブイメージの払しょくなど対応が求められるといえるでしょう。
飲食業
人手不足が深刻化している業界は、コロナ禍から利用顧客数が回復傾向にある「飲食業」です。
しかし飲食店で働く従業員は長時間労働になりやすいのにもかかわらず、賃金が安いケースが多いため人材が集まりにくいといえます。
さらに競争激化で地域に定着することも難しく、安定して従業員を雇用できないことが少なくありません。
物流業
人手不足が深刻化している業界は、ECサイト需要の拡大でニーズが高まっている「物流業」です。
新型コロナウイルス感染症の影響で宅配利用が拡大・定着したことにより、オンラインによる公売需要が増えたため、仕事は増加傾向にあります。
しかし現場の人員が足らず、新たな人材を確保しなければならないものの、ドライバーの長時間勤務などが問題となり担い手は減少しています。
実際、経済産業省の調査でも、物流・運送業の労働時間は、他の産業より年間300~400時間長いといわれているため、労働環境や条件の見直しが必要となるでしょう。
介護業
人手不足が深刻化している業界は、高齢化に伴い需要が拡大し続けている「介護業」です。
介護を必要とする方は増加傾向にあるのに対し、介護士不足が懸念されています。
介護人材不足は2040年度に280万人となることが見込まれています。
介護人材が集まらないのは、仕事内容がハードである印象が強いからです。
肉体労働で体力を使うことや、常に人と接する仕事であるため精神的にも負担が大きいと考える方が多く、他のサービス業より過酷な業務として若い世代が懸念する傾向が見られます。
人手不足の解消方法
人手不足で悩む業界が、このまま人材を確保できなければ、現場対応に不備が生じ倒産する企業が増えることになります。
人材確保が急務といえる状況である中、業務量に対して従業員が足りていなければ、一人ひとりがキャパオーバーの状態となり業務に支障をきたします。
いくつもの仕事をそれぞれが抱え、稼働不能の状態を作ることで、業務が進まなくなるだけでなく従業員の心身負担も増大し離職率を高めることとなるでしょう。
そのためそれぞれの業界で人手不足の問題を解決することが必要といえますが、具体的な解消方法として考えられるのは次の7つです。
- 人事制度の見直し
- 採用層の拡大
- 業務改革の推進
- 職場環境や制度の整備
- 外国人材の雇用
- デジタル技術の導入
- アウトソーシングの活用
それぞれの解消方法について紹介していきます。
人事制度の見直し
人手不足で悩む業界では、年功序列の人事制度などは見直し、スキルや経験などに応じた評価制度に変えていきましょう。
技能や知識を身につけることで、給与や昇給などに反映される制度に変更すれば、スキルアップを狙い長く勤めたいと考える労働者も増えます。
また、リモートワークやフレックスタイム制など柔軟な働き方を導入して職場環境を改善することで、働きやすいだけでなく能力も正当に評価してもらえる職場として人も集まりやすくなります。
採用層の拡大
人手不足で悩む業界では、一部の層のみを採用しようと限定せず、積極的に女性やシニア人材の採用も検討しましょう。
子育て中の主婦や定年退職したばかりのリタイア層などは、働きたくても雇用されない問題を抱えていることもあります。
短時間での勤務や業務内容を限定すれば、多様な働き方が可能となり、対応できる人材も雇用しやすくなるでしょう。
業務改革の推進
人手不足で悩む業界では、社内リソースの生産性を最大化するなど、業務改革を推進していきましょう。
優秀な人材の募集する以外に、業務推進戦略の見直しも必要です。
たとえばアウトソーシングできる業務など確認し、事務や人事などの業務は委託することにより、従業員のリソースをコア業務へ集中させることができます。
複数の業務を掛け持っている従業員の負担を軽減できれば、定着率向上にもつなげることができるでしょう。
職場環境や制度の整備
人手不足で悩む業界では、現在の業務環境や制度を見直し、多様な働き方を取り入れるなど職場環境や制度を整備しましょう。
これまで通りの戦略で人手不足が解消されないのなら、先にも述べたとおり柔軟な働き方やアウトソーシングの導入なども必要となります。
また、人材紹介サービスなどの採用方法を取り入れることでも、人手不足解消につなげることができます。
外国人材の雇用
人手不足で悩む業界では、外国人材も雇用していきましょう。
特に介護・福祉業界では、現場の担い手確保のために外国人材を積極的に採用しています。
インドネシア・フィリピン・ベトナムなどから看護師や介護士を多く受け入れる傾向は、今後も高まると考えられます。
デジタル技術の導入
人手不足で悩む業界では、業務のIT化などDX推進に向けたデジタル技術を導入しましょう。
DX推進とは、デジタル技術を使って業務やビジネスモデルを変革させ、企業価値を高める取り組みです。
業務効率化におり人の手を介さない作業が増えれば、従業員の負担軽減につながり、生産性向上や人手不足解消につながります。
アウトソーシングの活用
人手不足で悩む業界では、社内業務の一部を外部に委託するアウトソーシングを活用しましょう。
先にも説明したとおり、従業員の負担軽減に向けてアウトソーシングを活用する以外にも、自社に足らないサービスを外部から調達することで生産性向上や競争力強化につながります。
事務業務・受付・コールセンター・営業など多岐に及ぶ部分でアウトソーシングを取り入れれば、自社にない専門知識やノウハウを活用でき、提供する質の向上にもつながるでしょう。
業績アップできれば、従業員の給与等に反映できるため、定着率が上がり人材不足を解消できます。
まとめ
人手不足で悩む業界は今後も増えると考えられますが、解消するためには業務効率化を推進していくことが必要です。
現状を分析し、業務のムリ・ムダ・ムラを省くためのDX化やアウトソーシング導入なども検討してください。
対策を講じる上では資金も必要となりますが、手元の資金が不足している状況では、対応が急務と分かっていても何もできません。
補助金や助成金など活用する方法などもあり、目的や金額によって選ぶ資金調達方法も変わってくるため、一度気軽にご相談いただければと思います。