離職率とは、一定期間のうちに従業員がどのくらい退職したのか示す割合であり、高い場合には改善が必要です。
少子高齢化が進む日本で人手不足の業界も数多く存在しますが、生産年齢人口が減少している中で離職率が高いと、さらに人手が足らなくなる可能性があります。
労働力不足を防ぐためにも改善が必要といえますが、人材を雇用した後に退職してしまう状況を回避するには、定着率を上げるための施策を実行することが必要です。
そこで、離職率を改善する方法について、定着率向上に向けた8つの施策を徹底解説していきます。
目次
離職率とは
「離職率」とは、従業員全体の数に対し、一定期間内に退職した従業員の割合です。
一年間を目安に算出するケースが多いといえますが、職場の働きやすさを示す指標として使われています。
離職率が高い場合には、職場環境を改善させるなど対策を講じ、引き下げることが必要です。
そこで、離職率に関する次の2つを説明していきます。
- 計算式
- 平均割合
計算式
離職率は、一定期間に退職した従業員の割合であるため、厚生労働省では離職率または入職率を以下の計算式で算出するとしています。
入(離)職率=入(離)職者数/1月1日現在の常用労働者数×100% |
なお、上記の計算式の「常用労働者」は、期間を定めない労働者、または1か月超の期間で雇われている労働者です。
平均割合
離職率の平均割合は、令和3年の厚生労働省の雇用動向調査で確認できます。
この調査によると、業種によって差はあるものの、全体と新卒の離職率は以下のとおりです。
全体(日本の平均離職率) | 2020年14.2% 2021年13.9% |
新卒(新卒社員の平均離職率) ※2019年3月に大学卒業の新卒社員 |
1年目11.8% 2年目9.7% 3年目10.0% |
離職率が上がっている背景
離職率が上がっている背景には、次の3つが関係しています。
- キャリアに関する考え方の変化
- 労働環境への考え方の変化
- 経済とマーケットの変化
それぞれ説明します。
キャリアに関する考え方の変化
離職率が上がっている背景には、従来までのように長期雇用を求める従業員が減り、キャリアや働き方を重視する傾向が高まったことが関係しています。
安定した収入や長期雇用を求める労働者が多数だった時代は終わり、キャリア形成や柔軟な働き方など、仕事とプライベートを充実させることを重視する傾向が強くなっています。
ワークライフバランスを重視する傾向が強くなるほど、職場に対して満足感やロイヤリティを感じにくくなるため、離職率は上がります。
働きがいを感じる要素は、給与や昇進などの制度だけでなく、人間関係やスキルアップの機会なども重視されるようになっています。
労働環境への考え方の変化
離職率が上がっている背景には、一昔前であれば仕方がないと我慢してきたことについて耐え続けるのではなく、改善されなければ離職するといった労働環境に対する考え方が変わったことが関係しています。
過労や人間関係へのストレス、労働条件に関する不満など、雇用してもらっている立場である以上は耐えるしかないと我慢する労働者も少なくありませんでした。
職を失い、収入が途絶えることへの恐怖などもあり、簡単に不満を漏らすことはできなかったといえます。
しかし転職活動が当たり前になり、人手不足の業界も増えたことで、1つの企業にしがみつく必要はなくなりました。
我慢するのではなく不満に対して積極的に声をあげ、訴えても改善されなければ転職すればよいと考える方が増えたといえます。
不満を声にせず、離職という形で無言の抗議をすることについても、肯定的に捉えられる時代へと変化しています。
経済とマーケットの変化
離職率が上がっている背景には、経済やマーケットの縮小など、従来と異なる状況への変化が関係しています。
日本は少子高齢化が進み人口も減少傾向にあります。
その結果、経済規模の縮小が予想されているといえますが、労働市場でも若い労働力が不足し、企業間の獲得競争が激化してきました。
優秀な人材確保に向けて、就活生を対象としたアピール合戦が繰り広げられているといえますが、企業よりも労働者の立場のほうが優勢となりつつあるため離職率を高める一因になっています。
離職率が高い会社の特徴
離職率が高い会社は、従業員が働き続けることができないと感じる職場環境であるといえます。
そのため次の特徴が見られることが多いといえるでしょう。
- 労働時間が長い
- 評価が正当でない
- 休暇が取れない
- 教育・フォロー体制が整備されていない
- ハラスメントが横行している
- 業務内容が明確でない
- 働き方に柔軟性がない
それぞれどのような特徴か説明します。
労働時間が長い
離職率が高い会社は、労働基準法を超える長時間労働が当たり前になっているなど、労働時間が長いことが特徴として挙げられます。
深夜残業や休日出勤などで対応しなければ仕事をさばききれない状況では、労働者一人ひとりに対する負担が大きくなり、離職率を上げてしまうことになるでしょう。
評価が正当でない
離職率が高い会社は、労働や成果に対する正当な評価が与えられていないという特徴が見られます。
働いても低賃金のままであることや、営業による成果を残しても評価に反映されないなど、モチベーションを低下させ離職を加速させます。
休暇が取れない
離職率が高い会社は、週休二日制度が導入されていない上に、有給休暇を取得しにくい環境であることが特徴として挙げられます。
必要なときに休みを取れない環境では、無理をして仕事をすることになり、身体的にも精神的にもストレスを与えます。
現場の生産性も低下し、その結果、労働者の負担も増すことで離職率を引き上げてしまうことになるでしょう。
教育・フォロー体制が整備されていない
離職率が高い会社は、従業員に対する教育やフォローの体制が整備されていないといった特徴が見られます。
適切な教育がされないことや、ミスをしたときのフォローがなされないままでは、仕事への自信をなくします。
業務に慣れればスムーズに作業を進めることができ、ミスもなくなるでしょう。
しかしその前に離職を選ぶ人が増えれば、若い世代が定着せず、現場の生産性や士気を低下させます。
ハラスメントが横行している
離職率が高い会社は、身体的・精神的な攻撃で他者に不利益やダメージを与え、不愉快にさせることです。
「嫌がらせ」ともいえるハラスメントが職場で横行していれば、離職率も当然高くなります。
ハラスメントには次のような種類があります。
パワーハラスメント | 優越的な立場を利用した労働者に対する言動 |
モラルハラスメント | 精神的な嫌がらせ全般 |
セクシュアルハラスメント | 性的な労働者に対する言動 |
ジェンダーハラスメント | 性別による役割の違いといった固定観念に基づく嫌がらせや差別 |
マタニティハラスメント | 妊娠・出産・育児に関する労働者に対する言動 |
アルコールハラスメント | 飲酒に関する嫌がらせや迷惑行為全般 |
上記の行為において、不利益・ダメージを与えることや不愉快にさせることは、ハラスメントに該当すると留意しておきましょう。
業務内容が明確でない
離職率が高い会社は、入社前の想像と大きく異なる仕事であるなど、業務内容が明確でないことが特徴として挙げられます。
職務や勤務地を限定せず、新卒を一括採用する雇用システムが一般化しています。
そのため選考段階では業務内容が明確にされておらず、入社後に想像と異なる業務や仕事を担当することになり、そのギャップが大きすぎたために離職してしまうケースも見られます。
働き方に柔軟性がない
離職率が高い会社は、オフィス以外での就業が認められなかったり就業時間が一定化されていたりなど、柔軟性のない働き方であることがほとんどです。
テレワークやフレックスタイム制などで働く時間や場所を自由に選べるケースも増えつつある中で、決まった業務時間とオフィス以外の就業は不可とする企業も多いといえます。
仕事内容によって時間や働く場所を選択できるか異なるといえますが、ワークライフバランスを重視する傾向が高まりつつあるため、ある程度の柔軟性も必要といえるでしょう。
離職率を下げて定着率を上げる施策
どの業界でも、今後は人手が足らず、人材獲得が急務となることが予想されます。
優秀な人材を少しでも多く確保するためにも、離職率を下げて定着率を上げるための次の施策を実行していくことが必要となるでしょう。
- 長時間労働をなくす
- 多様な働き方を導入する
- メンタルヘルスへ配慮する
- 教育体制を整備する
- 福利厚生を充実させる
- 公平で正当な評価制度等を導入する
- キャリア制度を導入する
- 従業員の意見に耳を傾ける
それぞれの施策について説明していきます。
1.長時間労働をなくす
離職率を改善するために、労働時間を適切に管理し、長時間労働はなくしましょう。
労働時間が長くなれば、過労や疲労によるストレスが溜まり、離職率を高めてしまいます。
労働時間のルールを明確にして、残業が必要であるときも上限を決めることや、ノー残業デーを設定するなどにより、離職率を改善させていきましょう。
2.多様な働き方を導入する
離職率を改善するために、多様で柔軟な働き方を導入しましょう。
仕事とプライベートが充実しやすくなれば、従業員のストレスも溜まりにくくなり、生産性を向上させることができます。
ただしテレワークやフレックスタイムにより、事業所が営業時間としている時間以外で働く場合には、顧客対応について徹底しておく必要があります。
いつ連絡しても担当者が不在であることや、対応または返信の遅れなどは、顧客ニーズに対応できていない会社として信用を失います。
仮に多様な働き方の導入で離職率を改善できたとしても、残った従業員が能力や信頼性の低い人材ばかりでは、生産性や社会的信用を低下させ業績を悪化させてしまいます。
3.メンタルヘルスへ配慮する
離職率を改善するために、従業員のストレスなどメンタルヘルスにも配慮しましょう。
メンタルヘルスのサポートプログラムの提供や、カウンセリングを受けることのできる機会提供などで対応できます。
従業員を大切にする企業というイメージも広がれば、社内外で安心感を醸成でき、雇用促進にもつなげることができるでしょう。
4.教育体制を整備する
離職率を改善するために、従業員がスキルアップできる機会を提供するなど、教育体制を整備していきましょう。
社内研修以外にも、外部研修やオンライン講座など、積極的に学ぶ場を提供することで、能力向上に向けた取り組みを検討しやすくなります。
スキルアップが賃金などに反映されれば、能力向上に向けてより取り組む姿勢が強まり、質の高い商品やサービスを提供できる環境も整備され、離職率改善だけでなく業績アップにもつながります。
5.福利厚生を充実させる
離職率を改善するために、従業員の満足度を高める取り組みとして、福利厚生を充実させましょう。
各種手当の導入や、社内持株制度・退職金制度・バースデイ休暇など、安心して働ける制度や環境を整えることが重要です。
他にも社内でのイベントやレクリエーション開催など、従業員同士がコミュニケーションを取り、つながりを深めやすい場も提供するとよいでしょう。
人件費率の理想は何パーセント?適正値の目安と計算・改善方法を解説
6.公平で正当な評価制度等を導入する
離職率を改善するために、従業員の努力や成果を正当に評価できる制度を導入しましょう。
正当な評価における報酬への反映も忘れてはいけません。
結果を出せば収入が上がる仕組みをつくれば、仕事への姿勢やモチベーションを変えることができ、離職率を改善させることができます。
公平性の高い評価を行った上で、昇給・賞与・インセンティブの付与などを実施し、働きがいを感じられる仕組みを作ってきましょう。
7.キャリア制度を導入する
離職率を改善するために、キャリアの将来像に希望を持てる環境を整備しましょう。
経験と実績で次のステージを目指すことができる制度を導入することで、長く働きたいと感じてもらうことができます。
能力が高い人材にはふさわしいポストを用意し、実績によって次のポジションへチャレンジできる制度も導入しましょう。
8.従業員の意見に耳を傾ける
離職率を改善するために、従業員が自由な意見を述べることのできる環境を整備し、その声に耳を傾けることが大切です。
定期的に面談やチームミーティングを実施し、フィードバックやアイデアを共有できる環境を整備しましょう。
まとめ
離職率を下げるためには、従業員が働きやすいと感じられる職場づくりが必要であり、改善や見直しが求められます。
現在では今働いている職場を辞めて転職するといった選択肢が一般的になっているため、従業員から見放されないためにも定着率を引き上げる施策を実践する必要があります。
フレキシブルな働き方を導入し、従業員のメンタルヘルスへ配慮するなど、一昔前にはなかった工夫や職場環境の整備が求められるでしょう。