協調融資とは、複数の金融機関により資金を貸し付けることであり、金融機関同士が情報交換をしつつ協調し合うことが特徴です。
中小企業の場合、政府系金融機関である日本政策金融公庫と、民間銀行の協調融資を受けることが多いといえるでしょう。
そこで、協調融資とはどのような資金の貸し付けなのか、活用のメリット・デメリットや注意点についてわかりやすく解説していきます。
目次
協調融資とは
「協調融資」とは、1つの金融機関が単独で資金を貸し付けるのではなく、複数の金融機関で協調し、貸し付けを行うことです。
もともとは、中堅・大企業などが大型資金を調達する際に、複数の金融機関が協調することで事業資金を貸し付ける手法として行われていました。
最近では中小企業が資金を調達する際に、政府系金融機関である日本政策金融公庫と民間金融機関による協調融資を受けるケースが多くなったといえます。
たとえば主取引銀行などが幹事金融機関となって、貸出金額や分担割合などの条件を協定します。
事業資金を貸し付けるのはそれぞれの銀行ごとであるため、資金を借りる企業は、多額の資金を調達することができます。
また、債権者となる金融機関も、万一貸し倒れが発生したときのリスクヘッジが可能です。
協調融資について、次の3つを詳しく説明していきます。
- 協調融資の例
- 協調融資の流れ
- 協調融資の目的
協調融資の例
協調融資は、主に次の4つのパターンに分けることができます。
- 日本政策金融公庫と民間銀行
- 商工組合中央金庫と民間銀行
- 信用保証協会と民間銀行
- 民間銀行同士
中小企業の場合、日本政策金融公庫と民間銀行の協調融資を利用することが多いといえますが、それぞれの協調融資について説明していきます。
日本政策金融公庫と民間銀行
1つ目のパターンは、中小企業が最も利用することの多い、日本政策金融公庫と民間銀行の協調融資です。
主に創業時や事業再生、事業承継や成長戦略分野など、多岐に渡る制度が利用されています。
たとえば創業・新事業支援では、次の機関が連携して事業資金を貸し付けます。
- 地方銀行
- よろず支援拠点
- 商工会議所
- 日本政策金融公庫
など
商工組合中央金庫と民間銀行
日本政策金融公庫以外の政府系金融機関である商工組合中央金庫も、民間銀行と協調融資を実施しています。
事業再生や経営改善、事業承継や海外展開支援など、資金調達に活用される分野も様々です。
事業規模が拡大したときなどは、商工組合中央金庫と民間銀行の協調融資を選択肢として検討するとよいでしょう。
詳しくは、商工中金「地域金融機関の皆さま」を参考にしてください。
信用保証協会と民間銀行
信用保証協会に保証してもらった上で、民間銀行から融資を受ける信用保証付融資も、信用保証協会と民間銀行の協調融資です。
民間銀行独自の責任で資金を貸し付けるプロパー融資と、信用保証協会の保証を組み合わせた融資スタイルが信用保証付融資であり、多額の資金調達では提案されることが多いといえます。
民間銀行にとっては、信用保証協会の保証により、不良債権となることはない保全された貸し付けとなります。
万一のリスクが軽減された状態で貸し付けができるため、金額の大きな融資実行が可能であるといえます。
民間銀行同士
政府系金融機関や信用保証協会などの公的機関が介入せずに、民間の銀行同士が協力して資金を貸し付ける協調融資もあります。
たとえば主要取引のあるメインバンクとサブバンクとの協調融資などがその例であり、メガバンクなど大手金融機関のスキームとして、数十億円から数百億円の融資額で利用されるケースがほとんどです。
そのため基本的に民間銀行同士の協調融資は、中小企業の利用はないと考えられます。
協調融資の流れ
協調融資は複数の金融機関で連携して資金を貸し付けるため、単独融資とは違った流れにより融資が実行されます。
一般的には、次の流れで手続が進みます。
- 取りまとめるメインバンクが、連携する金融機関と案件を共有する
- 金融機関ごとに貸出条件を決めて、情報共有の上で融資を実行する
- 取りまとめるメインバンクに手数料を支払う
最初に取りまとめるのはメインバンクで、金額や担保の割り振りなどを主導して行います。
協調融資の目的
協調融資の目的は、民間銀行などの一般の金融機関の金融を補完することです。
政策金融機関などは、民間銀行と連携することで、創業・事業再生・事業承継などいろいろな分野での支援を行っています。
必要なタイミングで必要額の融資を受けることができるように、ニーズに沿った融資制度で支援することが目的といえるでしょう。
協調融資のメリット
協調融資は、単独融資と比べると次の3つのメリットが大きいといえます。
- 創業時でも融資を受けやすい
- 多額の資金を調達できる
- 事務負担が軽減される
それぞれのメリットについて説明していきます。
創業時でも融資を受けやすい
協調融資であれば、創業時でも融資を受けやすいことがメリットです。
たとえば民間銀行などでは、創業時や事業再生などにおける資金の貸し付けには慎重です。
その理由は、創業時や再生前は、貸し付けた資金が貸し倒れるリスクが高いからといえます。
しかし、日本政策金融公庫では、預金機能を持たず、創業や事業再生などの資金を必要とする中小企業などにも積極的に貸し付けを行っています。
その日本政策金融公庫との協調融資や、信用保証協会の保証付き融資であれば、民間銀行も貸し倒れリスクを軽減させた上での融資実行が可能となるでしょう。
その結果、創業時に融資を受けたいスタートアップ企業なども、安心して融資を受けることができるといえます。
多額の資金を調達できる
協調融資では、多額の資金を調達することができます。
一行のみで融資を実行するのではなく、複数行で協力した協調融資だからこそ、希望する融資額での借入れが可能となるでしょう。
複数の金融機関が融資に参加することで、万一貸したお金が返済されなくなった場合でも、貸し倒れリスクが軽減されるからです。
単独融資であれば、二の足を踏まれる可能性がある融資額でも協調融資なら可能となり、事業拡大などにも活用できます。
事務負担が軽減される
協調融資であれば、事務負担が軽減されることがメリットです。
複数の金融機関が協力して資金を貸し付けるため、それぞれの金融機関に対し、個別の申請が必要になると手続が複雑化します。
しかし協調融資では、提出書類も統一されており、申請手続も簡素化されています。
取りまとめ役となる主要銀行が窓口となり、一行への必要書類提出や手数料支払いなどで完了させることができるため、手間がかからないことがメリットといえます。
協調融資のデメリット
協調融資は、単独融資よりもメリットが大きいと感じる反面、次の3つのデメリットには注意が必要です。
- 審査に時間がかかる
- 融資につながらない場合がある
- 金融機関同士が左右されやすい
それぞれのデメリットについて説明していきます。
審査に時間がかかる
協調融資のデメリットとして、審査に時間がかかることが挙げられます。
審査に時間がかかってしまうのは、単独融資のように一行のみではなく、複数行が契約に関係するからです。
たとえば日本政策金融公庫のみから融資を受ける場合、利用する制度によるものの、融資実行まで1か月程度が目安といえます。
しかし協調融資では、2~3か月程度が融資実行までの目安となります。
協調融資による資金調達を希望するのなら、資金を必要とするタイミングに間に合わなくなるリスクを考慮し、余裕を持って申し込むようにしましょう。
融資につながらない場合がある
協調融資は、融資につながらない場合があることもデメリットといえます。
融資を希望しても、契約が成立しなければお金を借りることはできません。
複数の金融機関が協力して資金を貸し付けるため、参加するいずれかの金融機関の審査に通らなければ、成立しないと考えられます。
資金の貸し付け自体断られることもあれば、融資額を減額される場合もあるなど、成立しない状況はいろいろです。
また、創業前に政府系金融機関と民間銀行の協調融資で資金を借入れた後、創業早々に追加融資を受けたくても、返済が進んでいない状況であるため審査に通らない可能性があります。
ただし創業前が日本政策金融公庫のみの単独融資による借入れで、創業後は民間銀行からの単独融資を希望するのであれば、借入れできる可能性はあると考えられます。
金融機関同士が左右されやすい
協調融資では、金融機関同士が左右されやすいことがデメリットです。
複数の金融機関が協調して行う融資制度であるため、他方の金融機関の融資実行が可能であれば、貸し付け可能と判断されてしまいます。
たとえば日本政策金融公庫と民間銀行の協調融資では、日本政策金融公庫では審査に通ったとしても民間銀行の審査に通らなければ、どちらも融資不可と判断されます。
協調融資の性質上、想定している事業計画の必要資金の借入れであることが前提となるため、一方の金融機関で貸し付けしないのであれば資金不足となり、事業計画や返済計画を実行できないからです。
協調融資では、一方の金融機関の判断が、もう一方の金融機関に影響してしまうことは、デメリットとして留意しておきましょう。
協調融資の注意点
協調融資で事業資金を調達するのなら、成功させるために注意しておきたいことがあります。
押さえておきたいのは次の4つです。
- 金融機関と信頼関係を築く
- 実現できる事業計画書を作成する
- 決算書を汚さない
- 信用情報を悪化させない
それぞれの注意点について説明していきます。
創業融資の審査通過のコツ|落ちる原因と審査基準をわかりやすく解説
金融機関と信頼関係を築く
協調融資での資金調達を成功させるためには、金融機関と信頼関係を築くことが必要です。
複数の金融機関とかかわることになるものの、特に窓口となる主要銀行との足並みが揃わなければ、融資を受けることはできません。
融資を受けたいときのみ頼るのではなく、普段から銀行担当者とコミュニケーションを取り、信頼関係を築いておくことは大切です。
銀行担当者と良好な関係を築くためには、経営や事業に何らかの変化があったときにはすぐに伝えておくこと、資料や報告書など抜かりなく提出することなどが求められます。
実現できる事業計画書を作成する
協調融資を成功させるためには、実現できる事業計画書を作成するようにしましょう。
事業の継続・成長に向けた方針などを記載する事業計画書は、会社の将来性を伝える資料です。
成長するために必要となる設備や機材の購入や、資金の運用などを示す書類でもあるため、市場・競合他社・ターゲット層などの調査結果に収支計画を組み込んで作成することが必要といえます。
記載した数値の根拠を示す資料なども添付しておくと、より説得力のある計画書と認めてもらいやすくなります。
また、返済計画書は借りたお金を本当に返済できるのか、金融機関の疑問を解消するためにも大切な書類です。
単に毎月の返済額を記載するのではなく、どこから、どのくらいの返済資金を捻出し、毎月いくらであれば返済できるのか、リスクを加味しつつ現実的な数値を記載することが必要といえます。
事業計画書の作り方|作成する上で絶対に押さえておきたいポイントとは
決算書を汚さない
協調融資を成功させるためには、決算書を汚さないように注意してください。
金融機関の融資審査では、必ず決算書を確認します。
賃借対照表上の負債が資産を上回る債務超過の状態では、融資を受けることは不可能です。
損益計算書では、売上総利益・営業利益・経常利益の3つを重視されますが、特に利息を支払っても利益が出ていることを示す経常利益は重要といえます。
損益計算書の読み方|把握しておきたい5つの利益とその意味とは
信用情報を悪化させない
協調融資を受けたいなら、借入金返済や税金・公共料金の滞納などで、信用情報を悪化させないことが大切です。
支払期限までに返済や支払いができていれば、信用情報は悪化しません。
しかし借入金の返済が遅れると、個人信用情報機関に金融事故情報として登録されてしまいます。
税金や公共料金なども、最低限の支払いとみなされるため、滞納していれば返済能力がないと判断されます。
金融機関の融資審査では、信用情報機関に信用情報を照会されるだけでなく、公共料金・納税証明・借入金の支払明細書・預金通帳などの確認もされます。
滞納が発覚すれば審査に大きな影響を及ぼすと考えられるため、借入金返済や公共料金の支払いなどは遅れないようにし、信用情報を悪化させないように注意してください。
まとめ
協調融資であれば、中小企業の成長過程でも、多額の融資が可能となるでしょう。
特に中小企業では、日本政策金融公庫と民間銀行の協調融資を利用することが多いといえます。
単独融資では実現できない多額の融資でも、協調融資であれば可能となる場合もあるため、事業拡大などの場面においては検討したい制度といえるでしょう。
しかし申し込めば審査に通るわけではなく、金融機関同士がそれぞれの審査や判断に左右されがちであることも協調融資の特徴です。
一行が審査で否決と判断すれば、もう一行も融資できないと判断する傾向が高いため、審査に通過できる状況を維持しておくように注意してください。
協調融資で借入れが可能と判断されれば、大きな融資額を調達できる可能性も広がるため、成長過程にある企業などは検討してみるとよいでしょう。