資金繰り悪化により、従業員の給料が払えないことに危機感のある経営者も少なくありません。
物価の上昇で原材料費などが高騰している中、毎月必ず支払う必要がある従業員の給料ですが、払えない場合には罰則の対象になります。
そこで、給料を払えない場合の違法性や罰則、解決するための対処法について解説していきます。
目次
給料を払えないのは違法
労働基準法では、使用者の義務として従業員に給料を支払うことが定められています。
義務である以上は、違反すると30万円以下の罰金刑や書類送検など罰則の対象となる可能性もあります。
また、刑事罰の対象であるため使用者が逮捕される可能性もあるため注意してください。
業績が想定していたように伸びず、赤字経営続きや自然災害に遭うといった事情もあるでしょう。
しかしこのような場合でも、従業員に対する給料の支払いは必要であり、労働基準法に則った運営が必要です。
仮に違法でなかったとしても、給料の支払いがなければ従業員に不信感を抱かれることになり、業務に支障が出るリスクを高めます。
なお、従業員に対する給料の不払いは、次の3つの規定に抵触する可能性があります。
- 給料支払いの原則に抵触するケース
- 最低賃金制度における規定に抵触するケース
- 割増賃金の規定に抵触するケース
それぞれ詳しく説明していきます。
給料支払いの原則に抵触するケース
従業員に対する給料が支払えないと、給料支払いの原則に抵触する可能性があります。
給料の支払いについては、労働基準法で次の4つの原則が定められています。
- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上の定期払いの原則
この4つの原則に違反すると、30万円以下の罰金刑の対象となるため注意してください。
それぞれの原則について説明していきます。
通貨払いの原則
給料は、現金で支払わなければならず、金銭以外の現物支給は禁止されています。
従業員の同意を得ている場合には、直接手渡しせずに、預貯金口座に振り込むこともできます。
直接払いの原則
給料は、従業員本人に直接支払うことが必要です。
従業員の家族や法定代理人などに支払うことはできず、仮に未成年のアルバイト労働者の給料でも、親権者である親に支払うことはできません。
全額払いの原則
給料は、全額を支払うことが必要です。
ただし所得税や社会保険料などは、給料から天引きすることが認められています。
また、労使協定で、所得税や社会保険料、社宅料や積立金など控除することを取り決めていれば、これらを差し引いた上で支払うことができます。
毎月1回以上の定期払いの原則
給料は、少なくても毎月1回以上、期日を特定した上で支払うことが必要となります。
たとえば月給制の場合は、毎月25日などを給料日に指定して支払うなどです。
週給制ではたとえば毎週金曜日を給料日にすることは問題ないものの、月給制のときには毎月第3金曜日を給料日するなど、月7日の範囲で変動する決め方は認められません。
仮に資金繰りが苦しい状況においても、次月に2か月分をまとめて支払うといったことは認められないと留意しておきましょう。
なお、臨時で支払う賃金や賞与は、例外として不定期の支払いが可能です。
最低賃金制度における規定に抵触するケース
従業員に対する給料が払えないと、最低賃金制度の規定に抵触する可能性があります。
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づいた賃金の最低限度額(時間額)に対する定めであり、この額を下回る給料の支払いはできません。
事業場で働くすべての労働者とその使用者が対象となる制度であるため、正規雇用や非正規雇用に関係なく守らなければならない法律です。
仮に労働契約で最低賃金を下回る給料で合意していても無効となり、最低賃金と同様の定めをしたとみなされます。
最低賃金額との差額の支払いが必要となるため、差額の不払いが発生すれば使用者は罰則を受けることになるでしょう。
最低賃金には次の2種類があるため、それぞれの内容を理解しておきましょう。
- 地域別最低賃金
- 特定(産業別)最低賃金
地域別最低賃金
地域別最低賃金とは、一定地域ごとで設定されている最低賃金です。
対象地域の労働者の生計費・賃金・通常の事業の賃金支払い能力などを考慮した上で決められます。
地域別最低賃金の定めに違反し、不足する分を支払わなかった場合には最低賃金法違反となり、50万円以下の罰金の対象となります。
特定(産業別)最低賃金
特定(産業別)最低賃金とは、地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金が必要と認めた産業に設定されます。
違反して不足分を支払わなかった場合には労働基準法違反となり、30万円以下の罰金に処せられます。
割増賃金の規定に抵触するケース
従業員に対する給料が払えないと、割増賃金の規定に抵触する可能性があります。
法定時間を超えた労働や休日・深夜に労働をさせる場合、所定の割増し率により賃金を増額することが必要です。
そのため割増賃金や残業代などが支払われていなかった場合、使用者に罰則が課せられます。
まず残業代を支払わなかった場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象です。
代表者や経営者が処罰を受けることとなり、場合によっては直接指揮命令していた責任者がその対象になる場合もあるため注意してください。
次に法定労働時間である1日8時間・1週間40時間を超えた労働については、労使間で36協定を結んでおくことが必要です。
協定を結ばずに残業させた場合は、割増賃金を支払わなかったときと同じく、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が適用されるため注意しましょう。
給料が払えない場合の整理解雇の条件
経営難により、従業員の給料が払えないことを理由に、整理解雇を検討するケースもあるかもしれません。
ただし整理解雇は、経営悪化で給料が払えない状況であれば認められるわけではなく、次の条件を満たすことが必要です。
- 人員整理の必要性(経営上相当の必要性が認められることが必要)
- 解雇回避努力義務の履行(従業員解雇の前に回避する努力を尽くしてもなお解雇せざるを得ないと判断されることが必要)
- 被解雇者選定の合理性(解雇対象となる従業員の選定が公平で合理的であることが必要)
- 解雇手続の妥当性(従業員に対する説明や話し合いを尽くし、納得してもらえる適切な手順を踏むことが必要)
なお、次の2つの期間は整理解雇が禁止されている解雇制限期間です。
- 労働者が業務または通勤を起因としたケガや病気の療養で休業する期間とその後30日間
- 女性で産前産後休業を取得している期間とその後30日間
上記2つの期間中に整理解雇はできないとされているものの、会社側が打切補償を支払う場合や、天災事変などやむを得ない事情で事業継続ができない場合は例外として可能です。
また、整理解雇の対象となる従業員を選ぶときは、たとえば女性のみを対象とするなど性別を理由とすることや、対象年齢に性別の差を設けるといった差別的な扱いは禁止されています。
給料を払えない場合の対処法
従業員の給料を支払えない場合でも、支払いに充てる資金を捻出することが必要です。
そのため対処法として、次の6つを検討しましょう。
- 役員報酬の減額
- 役員借入金の活用
- 資金の調達
- 取引先との交渉
- 従業員への説明
- 未払賃金立替払制度の活用
それぞれの対処法について説明していきます。
役員報酬の減額
従業員の給料を払えない場合の対処法として、役員報酬を減額することが挙げられます。
役員報酬を減額する場合、事業年度開始日から3か月以内に、株主総会で決めなければなりません。
ただし業績悪化など、やむを得ない事情があるケースにおいては、期の途中で減額することが認められます。
取締役会の決議や役員に対する詳細な説明などで、賛同を得ておくとトラブル防止につながります。
役員報酬を減額した分を従業員の給料に充てることにより、給料が支払えない事態を回避できる可能性は広がります。
役員借入金の活用
従業員の給料を払えない場合の対処法として、役員借入金を活用することが挙げられます。
役員借入金とは、役員が会社に対して貸し付けているお金です。
中小企業の場合、資金繰り悪化を理由に、経営者などの資産を会社に貸し付けることはめずらしいことではありません。
経営者に十分な資産がある場合は現状を乗り切るためにできることであり、貸し付け分を従業員の給料の支払いに充てるとよいでしょう。
資金の調達
従業員の給料を払えない場合の対処法として、資金を調達することが挙げられます。
資金調達する方法はいろいろありますが、たとえば銀行融資やファクタリングがその方法です。
ただし銀行から融資を受けたくても、給料が払えない状況であるということは、赤字で利益が出ていなかったり業績が悪化していたりなど、審査に通らない可能性があります。
この場合、ファクタリングであれば、保有する売掛金をファクタリング会社に売って現金化する方法のため、期日を待たずに資金調達できます。
ファクタリング会社によるものの、最短即日資金を調達できる場合もあることや、赤字決算や債務超過でも申し込み可能です。
資金繰りが厳しい状況では銀行融資の審査に通らず、資金調達先に悩むこともあるかもしれません。
しかしファクタリングなら、売掛先の信用力が審査で重視されるため、資金調達に活用しやすいことがメリットです。
ファクタリングと貸付の違いとは?資金調達先の使い分けについて解説
取引先との交渉
従業員の給料を払えない場合の対処法として、取引先と交渉することが挙げられます。
仕入代金などの支払いが多く、従業員の給料が不足するという場合には、取引先に支払いを待ってもらえないか相談してみましょう。
私情に訴え掛けるのでなく、相手の事情にも配慮しつつ、筋道の通った説明が必要となります。
また、支払分の半分は通常どおり支払い、残りの半分は次月にまとめて支払うといった提案なども有効です。
取引先が支払いを待ってもらった分を、従業員の給料の支払いに充てることで給料不払いを回避できます。
従業員への説明
従業員の給料を払えない場合の対処法として、従業員へ説明することが挙げられます。
給料日に支払いができない理由を、従業員に誠心誠意、隠さずに説明することが必要です。
唐突に説明すると大きな混乱を招く可能性はあるため、役員などにまずは話を通して対処法を検討したほうがよいでしょう。
対処法など考えがまとまった後は、従業員全体にその内容を伝えましょう。
未払賃金立替払制度の活用
従業員の給料を払えない場合の対処法として、未払賃金立替払制度を活用することが挙げられます。
従業員に給料を支払えないまま、会社が倒産してしまう可能性があるとき活用できるのが未払賃金立替払制度です。
未払賃金立替払制度は、会社の倒産で退職した従業員の未払い給料の一部を国が立て替えて支払う制度です。
従業員の退職日の6か月前から立替払請求日前日まで、支払期日が到来している給料と退職手当の未払い分を立て替えてもらうことができます。
ただし立て替えてもらえるのは、未払い分の8割までです。
さらに退職時の年齢によって、88〜296万円の上限が設けられています。
全国の労働基準監督署および独立行政法人労働者健康安全機構が実施している制度であるため、立て替え分は労働者健康福祉機構に返済することが必要です。
まとめ
従業員の給料を支払えない場合、使用者は大きなリスクを負うことになります。
労働基準法では、従業員に給料を支払うことを使用者の義務としているため、違反すると30万円以下の罰金刑や書類送検など罰則の対象です。
刑事罰の対象となるため、使用者が逮捕される可能性もあることを十分留意しておきましょう。
給料を支払えない場合には、役員報酬減額や役員借入金、未払賃金立替払制度の活用など方法はあります。
取引先に相談して支払いを遅らせる方法もあるものの、交渉することで資金繰り悪化を勘繰られてしまい、その後の取引に影響するリスクもあるといえます。
資金調達により、従業員の給料支払いに充てる資金を拡充できれば問題ありませんが、銀行融資では審査に通らない可能性もあります。
ファクタリングであれば、取引先に了承を得る必要はなく、誰にも知られずに売掛金を現金化できます。
最短即日資金を調達できる場合もあるため、従業員の給料日間近ですぐにお金が必要という場合など、活用してみてはいかがでしょう。