中小企業の事業承継を円滑に進めるために欠かせない10のフローとはその手続方法

現経営者から会社など事業を新たな経営者に承継させることを「事業承継」といいます。

長年、経営者として活躍してきた方が引退することになれば、次の経営者へと事業を引き継ぐことが必要ですが、承継するときのフローを理解しておく必要があります。

フローが理解できていなければ、スムーズに引き継ぎができず、状況によっては廃業するといった選択を選ばなければならなくなることもあるからです。

そこで、スムーズな事業の引き継ぎに向けて、現経営者から後継者へ事業承継するときのためのフローについて説明していきます。

 

目次

そもそも「事業承継」とは何をすることか

「事業承継」では、個人事業主なら有形事業用財産や事業を営むためのノウハウなどの無形財産を後継者に引き継ぎます。

株式会社など法人の場合には、たとえば株式なども事業承継するものに含まれることになります。

日本の法人の9割以上は中小企業ですが、会社の強みや存立基盤になっているのは経営者の手腕です。

そのため中小企業の場合、事業承継においては後継者を誰にするかが大変重要であり、どのように事業を引き継ぐか慎重に検討しなければなりません。

さらに雇用確保と技術・技能の伝承、後継者育成などについても十分な検討が必要であり、株式譲渡に発生する税金の問題なども踏まえた事業承継計画が重要となります。

事業承継は現経営者の最後の大仕事と考え、後世に今の事業を伝え続けるためにもそのフローにミスのないよう計画を立てましょう。

現経営者や経営層が交代することはどの企業でも必ず訪れる問題であるため、早い段階から十分に準備をしておくことで後々トラブルなどを防ぐことにもつながります。

 

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事業を承継する目的と後継者に引き継ぐことになる2つのもの

中小企業は日本の法人全体の9割以上といわれており、雇用面では約7割を占めているといわれています。

多くの中小企業が独自の優れた技術やノウハウで事業活動をしているため、事業承継がスムーズにできなければせっかく培った技術などを途絶えさせてしまうことになります。

優れた技術や独自のノウハウなどをさらに向上させていくためにもスムーズな事業承継が欠かせませんが、それにより日本経済が継続して発展することにもつながります。

なお、現経営者が後継者に事業承継するものとして、おもに次の2つが挙げられます。

  1. 「無形財産」の承継
  2. 「有形資産」の承継

それぞれどのようなものを引き継いでもらうことになるのか説明します。

「無形財産」の承継

「無形財産」に含まれるものとは、

  • 事業継続で欠かせない知識・経験などノウハウ
  • 人脈
  • リーダーシップ
  • 経営に対する信条・価値観

などです。

現経営者の資質・能力・マインドなどを後継者に承継することといえるでしょう。

 

「有形資産」の承継

「有形資産」とは、自社株式や事業用動産・不動産などで、これらを後継者が引き継ぐことで経営権や支配権を確立させることになります。

ただ、現経営者が大半の自社株式を所有しているケースや、個人資産を事業用に活用している場合には、事業承継で財産の所有権と経営権を分離させることがまずは大きな課題になるでしょう。

そして親族間における贈与や相続、自社株式を分散させるといった問題などについても検討しておくことが必要となります。

 

中小企業で事業承継のフローが円滑に進まない3つの理由

中小企業にとって、円滑な事業承継を行うことは事業を継続させ会社を存続させ続ける上で欠かせないことですが、実際には後継者に対する引き継ぎができていないケースが少なくありません。

事業承継のフローとして、

  • 後継者の選定・育成
  • 自社株式や事業用資産の買い取り
  • 税務対策

など、様々な準備を前もって行うことが必要ですが、十分でないことを理由に紛争などが起きてしまうケースがあるからです。

事業承継を巡る親族間の争いや、多額の税金が課されるといったことはできる限り避けたいものですが、そのためにも納税や資金繰りなどに配慮した準備が必要といえます。

特に現経営者が会社の借入金で個人保証している場合、事業承継で後継者の大きな負担になることも多いため、その点も踏まえたフローを検討することが必要です。

これらのことから、中小企業の事業承継のフローがスムーズに進まない理由として、次の3つが関係していると考えられるでしょう。

  1. 現経営者の平均年齢がすでに高い
  2. 中小企業の多くが同族会社
  3. 事業承継に積極的な取り組みを始めるきっかけがない

それぞれの理由について説明していきます。

現経営者の平均年齢がすでに高い

日本は少子高齢化が進んでおり、中小企業の経営者の年齢も高齢化しています。

経営者の平均年齢60歳ともいわれているため、すでに後継者を見つけ育てることに注力しなければならないときが訪れているといえるでしょう。

しかし実際には、後継者をすでに決めている中小企業の現経営者は半数を満たしておらず、自身の子などに事業を承継している企業は20年前の約半分で全体の約4割程度です。

従来までの中小企業では、創業者である自身のつくった会社を親族に承継するといったケースがほとんどでしたが、現在は他のフローをたどった事業承継も進むようになっています。

現経営者の引退予想年齢の平均は約67歳という調査結果もあるため、早めの事業承継対策が必要といえるでしょう。

中小企業の多くが同族会社

中小企業のほとんどが「同族会社」であるといわれています。

「同族会社」とは、一定の株主とその同族関係者が、自社株式の50%を超えて所有している会社です。

中小企業の多くが同族会社である背景には、経営者の個人財産が事業用に使われていることなどが関係しています。

しかし経営者一族の財産が企業経営に使われていることにより、後継者候補を探すときも親族内にとどまるといった問題も起きやすくなっています。

事業承継に積極的な取り組みを始めるきっかけがない

事業承継が進まなければ会社を存続させることはできなくなりますが、多くの経営者が事業承継に対する危機感を抱いておらず、計画的な準備が進んでいないことも問題です。

また、日々の営業活動などが忙しく、自発的に事業承継に取り組みにくいといったことも関係しているでしょう。

特に同族会社では、「事業承継=経営者の他界」といった認識が強く、積極的に事業承継に取り組みにくいといった環境も関係しています。

 

事業承継を進めるフローの種類は主に3つ

中小企業が事業承継を進めていくことには様々な問題があるといえますが、後継者への引継ぎができないままでは会社を続けることはできなくなります。

これまで培ったノウハウや技術を途絶えさせないためにも、スムーズに事業承継を進めるために欠かせないフローについて考えていきましょう。

現経営者から後継者に事業を引き継ぐ方法は、たとえば親である現経営者から子である後継者という「親族内承継」だけではありません。

親族に事業を引き継いでくれる後継者候補がいなければ、会社の役員や従業員などもその候補として検討していくことになるでしょう。

そこで事業承継を進める方法として、

  1. 親から子などに事業を引き継ぐ「親族内承継」
  2. 従業員などに事業を引き継ぐ「親族外承継」
  3. 事業売却などを含む「M&A」による事業承継

の3つについて説明していきます。

まずはどのような事業承継方法があるのか確認しておきましょう。

親から子などに事業を引き継ぐ「親族内承継」

中小企業の事業承継で最も多く見られるのが、現経営者の子など親族に事業を引き継いでもらう「親族内承継」です。

従来までの中小企業の事業承継といえば親族内承継が一般的ですが、近年では親族で事業を引き継ぐ後継者が見つからないといったケースも増えています。

これは、少子高齢化などの社会的要因に加えて、会社の将来性や成長に不安を抱える後継者が増えたことが関係しているようです。

親族内承継では、現経営者と後継者の意思疎通が最も重要なため、親族の間での引き継ぎだからと安心せず様々な対策が必要となります。

親族内承継のメリット

  • 内外の関係者から後継者を受け入れてもらいやすい
  • 後継者を早期に決めることができる
  • 後継者育成に向けた準備期間を確保しやすい
  • 財産と経営の分離を回避できる

親族内承継のデメリット

  • 親族内に経営者になりたい後継者がいるとは限らない
  • 子が複数いる場合など誰を後継者にするか決めにくい
  • 後継者以外親族に対する財産分配など配慮が難しい

従業員などに事業を引き継ぐ「親族外承継」

親族内に後継者候補が見つからない場合、たとえば血縁・親族関係以外の社内役員や従業員などから後継者候補を見つけて事業を承継する「親族外承継」の検討が必要になることもあります。

親族外承継の場合、

  • 取締役の交代のみ行う
  • 自社株式も後継者へ移転させる

といった方法が検討できます。

取締役の交代のみの場合、現経営者が株式を引き続き保有することになるものの、代表取締役から退き代わって新たな代表者に据えます。

自社株式も後継者に移転する場合には譲渡することになるため、現経営者は完全に引退することになり、会社経営から手を引くことになります。

「親族外承継」のメリット

  • 会社内外から広く後継者候補者を探すことができる
  • 長期間勤務している従業員などは会社の文化を理解しているため経営方針の一貫性を保つことが容易になる

「親族外承継」のデメリット

  • 後継候補者として適任者がいるとは限らない
  • 後継候補者に株式を取得するための資金力がなければ譲渡は不可
  • 現経営者の個人保証などを引き継ぐ問題を解決しなければならない
  • 現経営者の意向を汲むことになれば大きな改革は困難となる

事業売却などを含む「M&A」による事業承継

「M&A」とは「Merger And Acquisition(合併と買収)」の頭文字を省略した名称で、直訳すれば企業の合併と買収を意味します。

従来までであれば中小企業とM&Aはそれほど馴染みが深いとはいえませんでしたが、近年では未上場企業もM&Aが増えているため、事業承継方法として広く浸透しつつあるといえます。

さらにM&Aをインターネット内で進めていくマッチングサービスなども登場しており、事業を売りたい相手と買いたい相手を結びつける仕組みなども増えたといえるでしょう。

「M&A」による事業承継のメリット

  • 後継者として適任者がいないときに幅広く後継者候補を探すことができる
  • 会社売却利益の獲得が可能

「M&A」による事業承継のデメリット

  • 希望する条件を満たす買い手を見つけることができない場合もある
  • 経営の一体性を保つことが難しい

 

事業承継をスムーズに進めるための10のフロー

事業承継を進めていく方法は主に3つですが、どの方法でも実際に後継者に事業を引き継ぐまでのフローが重要です。

フローの中にミスがあれば、事業を引き継ぐことができず最悪の場合、廃業するしかないという選択を強いられることも考えられるでしょう。

そこで、事業承継をスムーズに進めていくために欠かせない次の10のフローについて説明していきます。

  1. 後継者が引き継ぐ経営支配権の維持・確立
  2. 後継者候補の獲得と育成
  3. 相続対策の検討
  4. 任意後見制度活用の検討
  5. 自社株の引き継ぎ方法の検討
  6. 遺留分対策の検討
  7. 会社法活用の検討
  8. 後継者の資金負担軽減と制度活用の検討
  9. 相続税など納税対策の検討
  10. 事業承継計画の作成

それぞれのフローについて詳しく説明していきます。

1.後継者が引き継ぐ経営支配権の維持・確立

事業承継した後で安定した会社経営を望むのなら、

  • 後継者に自社株式を集中させ経営権を確立させる
  • 後継者が事業用資産を自由に利用・処分できるようにする

という2つが重要です。

自社株式を集中させることにより、3分の2以上の議決権を保有することができ、会社が買収されるリスクに備えることもできるでしょう。

また、現経営者自身の所有する不動産などを事業用資産として使っているときには、所有と経営権が一致していることが多いため、親族内での事業承継であればスムーズな引き継ぎがしやすくなります。

ただし相続による事業承継で資産が分散してしまうことを防ぐ対策は必要であり、税金対策も課題として挙げられます。

中小企業の場合、譲渡制限付株式であることが多く、第三者など他人が株主になることはそれほど多くありません。

しかし相続を繰り返すことで株式が親族内分散することも考えられ、仮に親族から株式を譲渡された競合などが株式の名義書換えを要求してくるといったリスクも発生します。

経営陣の退陣を迫られることや、株式買い取りを要求されるといったリスクを防ぐためにも、株式を集中させておくようにしましょう。

2.後継者候補の獲得と育成

事業承継の後継者で、後継者候補を獲得することはもちろんのこと、その後、経営者として事業に携わるための育成も重要です。

そこで、

  1. 親族内承継の場合
  2. 親族外承継の場合

の2つにおいて、どのようなフローが重要になるのか説明していきます。

親族内承継の場合

事業を引き継いでほしい親族が複数人いるときには、誰を後継者候補として育成していくのか明確に決めなければ、親族内での紛争が起きる可能性もあります。

後継者候補として考えられる親族の保有する能力・適性・意欲・経験・ステークホルダーなどを見極めながら、早めに決定したほうがよいでしょう。

親族内承継の場合、経営をスムーズに行うための環境を整備することも重要です。

社内の既存役員や従業員、取引先や金融機関などから理解を得るため、事業承継計画を公表し事前に説明することをおススメします。

さらに後継者に対する教育は、経営者として現場を取り仕切る能力・知識を習得してもらうために行います。

自社の営業・財務・労務などの分野を経験させ、現場での必要な知識を習得してもらい、ある程度の地位に就いてもらうことで権限を委譲し、意思決定やリーダーシップなど発揮できる機会を与えていきましょう。

また、他社での勤務経験がない後継者候補については、人脈の形成や経営手法習得のためにも社外教育を実施したほうがよい場合もあります。

自社枠にとらわれない新しく斬新なアイデアを獲得するためにも、社内だけにとらわれない教育方法を実践していくことを検討してみてください。

親族外承継の場合

親族外承継の場合、親族内承継と比べて様々な関係者から理解を得るまで時間がかかることがほとんどです。

たとえば現経営者の子が後継者として事業を引き継ぐのなら、関係者も納得しやすいでしょう。

しかし社内役員や従業員など、現経営者と血縁・親族関係にない他人が会社を引き継ぐ場合、親族や他の社内関係者が納得しないといったケースもめずらしくありません。

反発などが発生することも考えられるため、後継者の経営環境を整備することがより重要となるでしょう。

まずは後継者候補をどのように選ぶか考えることが必要ですが、社内役員や従業員などから選定する場合、次の4つのケースが多いといえます。

  • 共同創業者を後継者とする
  • 専務など役員を後継者とする
  • 経営者としての能力の高い若手経営陣を後継者とする
  • 工場長などリーダーシップのある従業員を後継者とする

いずれの場合でも必要に応じて社内ローテーションや経営参画・他社勤務・セミナー参加などによる育成が必要になると考えられます。

3.相続対策の検討

事業の承継を親族間で行う場合、気になるのはスムーズに「相続」という形で後継者に対する引き継ぎができるかということでしょう。

主に事業承継の相続対策として考えられるのは次の2つです。

  1. 生前贈与による事業承継
  2. 遺言を利用した事業承継

それぞれどのような相続対策になるのか説明していきます。

生前贈与による事業承継

「生前贈与」とは、現経営者が生きている間に財産を譲ることですが、経営者生存中に権利移転させる方法です。

ただし自社株式や事業用資産を後継者に集中する場合、推定相続人の権利を侵害することのないよう配慮も必要となります。

実際に現経営者が他界した後で相続をめぐる紛争が起きるリスクも考えられるため、遺産分割の方針を見据えた検討が重要です。

遺言を利用した事業承継

「遺言」とは、財産について最終意思を死後に遺すものですが、誰に何を遺したいのか意思表示をするために使われます。

ただ、遺言により財産の相続を指定されなかった他の相続人にも「遺留分」があります。遺留分は、遺言によって奪うことのできない財産の一定割合の留保分であるため、この遺留分に留意しておけば相続争いを避けることができるでしょう。

ただし遺言に記載された内容は、場合によっていつでも撤回できることや、内容を変える予定が不測の事態などで変更できないまま経営者が他界するケースもあります。

その場合、生前贈与と比べると後継者の獲得できる財産や地位が不安定になることも考えられるため、早期の対応が必要です。

4.任意後見制度活用の検討

日本の65歳以上の高齢者のうち、4人に1人は認知症予備軍ともいわれています。

もしも現経営者が高齢や認知症などで判断能力に支障をきたした場合、法律行為ができなくなって事業承継もスムーズに進まなくなるでしょう。

このような場合、十分に判断能力がある間に「任意後見制度」などの利用を検討したほうがよいでしょう。

「任意後見制度」とは、本人に十分な判断能力があるときに、事前に「任意後見人」となる方や委任する事務内容などを公正証書で契約しておくことです。

実際に現経営者の判断能力が不十分になった後は、任意後見人が委任された事務を本人に代わって行うこととなります。

5.自社株の引き継ぎ方法の検討

事業承継を行う時点で、社内役員や従業員などに株式が分散しているときには、可能な限り株式を買い取り経営者に集約させましょう。

それにより、後継者が事業を引き継ぐ上での経営支配権を確保につながり、後継者に反発する従業員などとのトラブルを防ぐことができます。

後継者または会社が自社株式を買い取るのか、新株を発行し後継者にのみ割り当て保有割合を下げるといった方法が考えられます。

本来であれば新株発行より後継者が買い取る方法が望ましいといえますが、後継者個人が株式買い取りの資金を準備できないときには、会社が買い取るようにしましょう。

6.遺留分対策の検討

後継者が一定の要件を満たすときには、現経営者が生きている間に遺留分のあるすべての相続人との間で、事業承継の対象となる事業用財産・株式を遺留分から除く「除外合意」が可能です。

この場合、経済産業大臣の確認と家庭裁判所から許可を得ることが必要となりますが、除外合意の手続を行っておくことで後継者の引き継ぐ事業用財産・株式を後で遺留分として請求されることはなくなります。

7.会社法活用の検討

経営支配権を確保するために株式を集中させることは重要ですが、株式が分散してしまうことを阻止するための対策も必要です。

後継者に株式を集中させるために考えられるのが、「会社法」を活用する方法とえいます。

定款変更により株式譲渡制限規定を設け、今以上に株式を分散させないといった方法になります。

後継者でない株主に「議決権制限株式」を与え、後継者の経営権を安定させることもできます。

また、「拒否権付株式」が発行されている場合、株主総会や取締役会の決議には、拒否権付種類株式の株主で構成する種類株主総会の決議が必要です。

そこで、拒否権付株式を後継者に承継することにより、経営権を確実に後継者が獲得しやすくなるでしょう。

ただし、1人の種類株主が1株を所有するだけでも十分効力がある株式のため、後継者以外に渡ってしまわないように遺言などを活用し、確実に後継者に相続させる対策なども合わせて必要です。

8.後継者の資金負担軽減と制度活用の検討

後継者に自社株式や事業用資産を集中させるためには多額の資金を確保することが必要となりますが、「経営承継円滑化法」など活用する方法を検討しましょう。

「経営承継円滑法」では、所定の手続をフローとして経ることにより、非上場株式に係る相続税・贈与税などの税金を納めることが猶予されます。

先に説明した「除外合意」や、生前贈与された自社株式の評価額を固定させる「固定合意」などの制度も活用することにより、後継者の資金負担軽減を図ることができるでしょう。

9.相続税など納税対策の検討

後継者に事業を引き継ぐ方法が、「相続」と「贈与」のどちらによるものかによって、課税される税金の種類も異なります。

事業承継においても税金は発生しますが、次のような節税措置をフローに組み込むことにより、後継者の納税負担を軽減させることができます。

  • 相続時精算課税制度の選択
  • 非上場株式等の納税猶予制度の活用
  • 小規模宅地等課税の特例措置適用
  • 生命保険の非課税枠の活用

それぞれのフローについて説明していきます。

相続時精算課税制度の選択

「暦年贈与」1年間ごとの贈与金額から贈与税を納める制度であり、1年間110万円までは基礎控除で税金が非課税という扱いです。

それに対し「相続時精算課制度」は、60歳以上の親から20歳以上の子または孫に贈与する場合、2,500万円までは非課税になります。

ただし贈与者が亡くなり相続が発生したときには、贈与した財産と相続財産を合わせて相続税の対象とするため、贈与で発生する高い税率の贈与税を避け、税率の低い相続税に転換させることができる制度ともいえるでしょう。

どちらを選ぶべきかはケースバイケースですが、現経営者が他界し相続が発生するまでは暦年贈与を選び、相続税実行税率より低い贈与税率金額を計画しつつ贈与していくほうがよい場合もあります。

非上場株式等の納税猶予制度の活用

後継者が贈与により財産を譲り受けたとき、非上場株式に対応する贈与税全額が猶予され、非上場株式課税価額の80%相当の相続税が納税猶予されます。

小規模宅地等課税の特例措置適用

特定事業用宅地等を相続人である後継者が引き継ぎ事業継続するときには、相続税評価額の計算で400㎡までの評価額を80%減額するという制度です。

生命保険の非課税枠の活用

現経営者が亡くなったことで生命保険による死亡保険金が支払われるときには、その保険金も「みなし相続財産」として扱われることになります。

そもそも保険金は受取人固有の財産なので、民法上は相続財産ではありませんが、相続税法上では課税の対象です。

ただし「法定相続人の数×500万円」非課税枠とされているため、たとえば法定相続人が3人いる場合であれば1,500万円分までは非課税となります。

この生命保険の非課税枠を活用して保険金を相続することで、相続税の負担を軽減することができるでしょう。

10.事業承継計画の作成

事業承継を行うためには、そのフローを十分に検討した上で「事業承継計画」を立てておくことが必要です。

しかし現経営者のみで事業承継計画を立てようと考えてしまうと、独自の目線ばかりにとらわれたり情に流されたりなど、本来事業を継続させる上で適切といえる計画を立てることが難しい場合もあります。

そのため客観的目線で適切な事業承継計画を立てるため、専門家など第三者にアドバイスを受けることも方法の1つです。

会社の収支や財産状態、自社株評価なども必要となり、事業承継と並行し起きる可能性のある贈与や相続などの納税対策なども必要となります。

スムーズな事業承継に向けて、必要なときには専門的なアドバイスをしてくれる機関を頼りましょう。

たとえば近年中小企業で増えつつあるM&Aのマッチングなどは、次のような機関が支援しています。

国(中小企業基盤整備機構)

中小企業基盤整備機構では、後継者の排出問題に悩んでいる中小企業に向けて、各都道府県に「事業引継ぎ支援センター」を各都道府県に設置しています。

後継者を求める企業と人をマッチングさせ、専門家が具体的に支援していきます。

商工会議所

各都道府県・市町村にある商工会議所でも、後継者を探す企業と人をマッチングさせることや、事業譲渡を希望する企業と譲り受けたい企業のマッチングなどを行っています。

 

まとめ

中小企業にとって事業承継を円滑に進めていくことはとても重要なことですが、後継者に事業を引き継ぐまでのフローがとても大切です。

間違ったフローで事業承継を進めてしまうと、スムーズな引き継ぎができなくなるだけでなく、場合によっては失敗に終わり廃業しなければならなくなる可能性もあります。

そのため事業承継計画を立て、スムーズな流れで後継者に引き継ぎできるよう、しっかりとフローを検討していきましょう。

なお、事業承継では資金を準備しておくことも必要ですが、その際、ファクタリングなどを資金調達の方法として検討することもあるでしょう。

当社のようなファクタリング会社では、事業承継などの相談についても対応しているため、資金調達の悩みだけでなく事業承継についても気軽にご相談ください。