自社の経営状態を確認するとき、指標のひとつとなるのが売上高経常利益です。経営分析で売上高経常利益を把握すれば、自社がどの程度の収益性をもっているのか分かります。
経営を安定化させるためには、現在の収益性が適切か知ることが大切です。単純に売上の増減のみならず、売上原価や販売費の変化も考慮して分析しなくてはなりません。売上高経常利益は、効率的に収益化できているかどうかを知りたいときに役立ちます。
この記事では、他の売上高利益率との違いにも触れつつ、売上高経常利益の詳しい計算方法や業種ごとの目安を紹介します。改善方法についても解説するので、参考にしてみてください。
目次
「売上高経常利益率」と「経常利益」
会社の経営状態を知りたいときは、経営指標があらわす数値をまず把握する必要があります。経営指標は「収益性分析」「安全性分析」「成長性分析」「生産性分析」の4つの区分に分かれており、売上高経常利益率は収益性分析に該当します。
売上高経常利益率は、売上高のうち、経常利益がどの程度の割合で占めているのかをあらわす数値です。売上高には、経常利益の他に売上原価や販売費、一般管理費、営業外損益が含まれています。
売上高に対する経常利益の割合を算出し、売上高経常利益率を把握すると、自社の収益力が分かります。
経常利益は、会計上の5つの利益のひとつです。会計上の利益は、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」と5つの段階に分けられています。
経常利益はちょうど中間の位置にあり、正しく把握するためには前段階の売上総利益と営業利益を理解しなくてはなりません。
5つの会計上の利益については、下記のページで詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
財務分析の指標となる「売上高経常利益率」でただしく収益力を測る方法
「売上高経常利益率」からわかるのはこの2つ
会社全体の収益力を見るときに用いる指標が「売上高経常利益率」です。
これまでの損益計算表と比較して売上高経常利益率がどのような推移をたどっているか見たときに、売上高計上利益率が高くなっていれば次のことが背景にあると考えられます。
- 売上高が伸びている
- 売上原価や販売費を効率化できている
そのため売上高経常利益率を分析に用いることで、次の2つを確認することができます。
- 売上高に対する経常利益の割合は一過性のものか継続的なものか判断できる
- 自社の収益性を他社比較できる
それぞれ詳しく説明していきます。
売上高に対する経常利益の割合は一過性のものか継続的なものか判断できる
本業だけで得た利益「営業利益」と、本業以外も含めた利益「経常利益」を比較することにより、どのように利益を上げたのか可視化することが可能です。
その指標の1つといえるのが、売上高に対する経常利益の割合である「売上高経常利益率」といえます。
本業以外の利益や費用を含めた利益率といえる「売上高経常利益率」であらわす数値が、当期だけのものか、継続して影響するものか分析すれば、次期以降の経営に生かすこともできるでしょう。
自社の収益性を他社比較できる
経常利益と売上高経常利益率はどちらも「財務諸表」で表示される数値のため、競合他社との比較で自社の収益性を知ることもできます。
理想といえる経営は、高い水準を保つことのできている「営業収益」に、資産運用などで得た「営業外収益」が加わることです。
反対に注意が必要なのは、営業利益が非常に低い状態で、経常利益の「営業外収益」が占める割合が大きいときといえるでしょう。
売上高経常利益率の「計算方法」
売上高経常利益率の「計算方法」は、
経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用
売上高経常利益率=経常利益/売上高×100
となります。
数値が高いほど利益幅が大きいことを意味しますが、営業外収益と営業外費用を加減した「経常利益」を用いた指標であるため、取引先などの「売上高経常利益率」の分析では以下の2つにも留意した上で行いましょう。
2つの留意点
売上高経常利益率を算出するときは、下記の点に留意すべきです。
- 雑収入の有無
- 支払金利率の高さ
「雑収入」は、他の勘定科目に計上できないものや、改めて独立科目を作るほどでもない収入のことです。雑収入の中に他の勘定科目へ計上するべき収入が誤って含まれていないかを確認しましょう。
固定資産売却などで多額の雑収入を得ているとき、「経常利益」の数値も比例して大きくなります。
「支払金利率」は、借入金の返済時に支払う利息における利率のことです。通常の「銀行貸出金利率」に比べて支払金利率が大幅に高い場合は、高利の資金を借り入れていないかの確認も必要です。
業界によって異なる売上高経常利益率の目安
売上高経常利益率は業界ごとに異なりますが、業種によって「原価」や「人件費」の水準に違いがあるからといえます。
たとえば卸売業や小売業の場合には、扱う商品が他社と同じなら価格競争に巻き込まれやすくなるため、「薄利多売」となる傾向がみられます。
しかし専門・技術サービス業などの場合、商品そのものの価格ではなく技術やサービスで他社と差別化しやすいため、高い「経常利益率」を保ちやすいといえるでしょう。
売上高経常利益率は、業種によって多少の違いはありつつも、おおむね1~5%に収まるケースがほとんどです。
中小企業庁が発表した2020年度時点の資料によると、産業別の売上高経常利益率の目安は下記のとおりです。
業種 |
売上高経常利益率 |
建設業 |
4.64% |
製造業 |
3.85% |
情報通信業 |
5.99% |
運輸業、郵便業 |
1.26% |
卸売業 |
1.89% |
小売業 |
1.90% |
不動産業、物品賃貸業 |
8.36% |
学術研究、専門・技術サービス業 |
8.01% |
宿泊業、飲食サービス業 |
-4.16% |
生活関連サービス業、娯楽業 |
-0.01% |
サービス業(他に分類されないもの) |
5.11% |
(引用:中小企業庁「中小企業(法人企業)の経営指標(2020年度)」)
宿泊業や飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業は減少を見せる一方で、不動産業などのように目安の5%よりも大きな売上高経常利益率となった業種も複数あります。
他の売上高利益率との違い
収益性を分析するときに用いられるのが「売上高利益率」ですが、そのうち「売上高経常利益率」は5つの利益の中で経常利益が売上高に占める割合を知ることができる指標です。
ただ、売上高経常利益率以外にも「経営分析」に用いることができる「指標」は次のようにたくさんあります。
- 売上高総利益率
- 売上高営業利益率
- 売上高当期純利益率
- 総資本回転率
- 自己資本利益率(ROE)
- 流動比率
- 固定比率
- 自己資本比率
- 売上高伸び率
- 労働生産性
- 労働分配率
ここでは、上記のうち一部について、売上高経常利益率との違いも含めて解説します。
売上高総利益率
売上高に対する売上総利益の割合が「売上高総利益率」です。
「粗利率」と呼ばれることがある馴染みのある指標ですが、数値が高いほど提供している商品やサービス自体の「競争力」や「製造効率」などが高いことを示します。
売上高総利益率=売上総利益/売上高×100
売上高経常利益率は、経常利益の割合から企業全体の収益力を見るための指標です。一方、売上総利益率は、商品やサービスの価値、競争力を見るための指標であり、売上高経常利益率とは用いる場面が異なります。
売上高営業利益率
「売上高」に対する「営業利益」の割合が「売上高営業利益率」です。
数値が大きいほど、販売する商品やサービス、販売・営業活動などの「競争力」が高いことを示します。そのため低下しているときには、本業が不調で問題を抱えている可能性が高いといえるでしょう。
売上高総利益率=売上総利益/売上高×100
売上高営業利益率と売上高経常利益率との違いは、企業の収益力を見る範囲にあります。売上高営業利益率は、本業に限定した事業の収益力を見るのに対して、売上高経常利益率は、企業全体の収益力を算出した数値です。よって売上高経常利益率には、財務活動なども含まれています。
売上高営業利益率と売上高経常利益率を比較して、会社の状態を分析することもあります。
■売上高営業利益率<売上高経常利益率の場合
たとえば売上高経常利益率のほうが高い場合は、営業外損益がプラスの状態です。売上高営業利益率と売上高経常利益率の両方がプラス状態であれば、とくに問題はありません。
ただし、売上高営業利益率がマイナスであり売上高経常利益率のみプラスとなっている場合は、本業の収益力に課題があると見るべきです。営業外利益を活用して、本業の利益率を伸ばすように模索しましょう。
■売上高営業利益率>売上高経常利益率の場合
反対に、売上高営業利益率よりも売上高経常利益率のほうが低い場合は、営業外損益が低い状態です。営業外損益の数値が低くなる原因として、支払利息や開発費などの負担が大きい可能性があげられます。
開業費の負担も含まれるため、事業立ち上げから間もない場合は営業損益が低くても大きな問題にはなりません。しかし開業からある程度の年数が経っているのであれば、負担を軽減できないか課題の洗い出し・解決をはかる必要があります。
売上高当期純利益率
売上高に対する当期純利益の割合が「売上高当期純利益率」であり、株主にとっては重視される指標です。
数値が高いほど、長期的・平均的に見た収益力が高いことを示します。
売上高総利益率=当期純利益/売上高×100
売上高当期純利益率と売上高経常利益率は、性質がまったく異なる数値である点を理解しておきましょう。売上高当期純利益率はすべての計算を加味した、最終的な数値であるのに対して、売上高経常利益率は経常的収益力をあらわす数値です。
税引前当期純利益率
税引前当期純利益率は、事業年度の収益力を把握するための数値です。売上高経常利益率は、全体的な企業の収益力を把握したいときに利用します。
現在の事業年度における収益力に焦点をあてたいときは、税引前当期純利益率を計算しましょう。
税引前当期純利益率=税引前当期純利益/売上高×100
税引前当期純利益率は、上記の計算式で算出します。経営利益の金額に特別利益を加算し、さらに特別損失を減算して求めます。
売上高経常利益率による「財務分析」
自社の財務分析を行うためには、まず売上高経常利益率を正しく算出する必要があります。売上高経常利益率を使った「財務分析」は主に次の4つです。
- 当期分析
- 予実比較
- 期間比較
- 業界比較
それぞれ説明していきます。
当期分析
当期の損益計算書を中心として分析する「当期分析」では、売上高経常利益率を上げるために「売上高」を伸ばすべきか、「費用」を減少させるべきかのどちらに着目するべきか分析できます。
売上高や各種費用の内訳を分析し、売上高総利益率など他の利益率について確認することで、どの利益率に問題があるのか明確化できるでしょう。
なお、
- 売上高経常利益率だけではない!その他3つの売上高利益率
- 売上高経常利益率を改善させるための2つの方法
については後述します。
予実比較
当期の損益計画と比較する方法が「予実比較」です。
予算と実績を比較するときには部門・細目ごとに分析することになり、売上経常利益率による予算比較で「差異」が発生したときには次の予算を策定するときのヒントにすることができます。
期間比較
昨年度の業績との比較が「期間比較」です。
単に昨年度との差異を求めればよいのではなく、それぞれの値を比べながら変動した部分を分解し、年度単位だけでなく半期や四半期などの分析を行って期間ごとの傾向を確認しましょう。
業界比較
自社と業界の平均を比較するのが「業界比較」ですが、それにより自社を客観視した分析ができます。
売上高経常利益率を経営に生かすための分析方法
経営に売上高経常利益率による分析をするのなら、比較対象により確認できることは違ってくることを理解しておきましょう。
その上で、売上高経常利益率を経営に生かす分析方法は次の4つです。
- 損益計算書の他項目と比較する方法
- 損益計画と比較する方法
- 前年度の業績と比較する方法
- 同業他社と比較する方法
それぞれどのような方法か説明していきます。
損益計算書の他項目と比較する方法
当期の「損益計算書」を使って、他項目と比較する方法です。
「売上高」や「費用」と比較・照合しながら分析を行いますが、「売上高営業利益率」と比較することもこの方法に含まれます。
売上高営業利益率と売上高経常利益率を比べることにより、本業で得た「利益率」や全体の「収益性」の比較ができます。
他の項目との比較では、どの利益を多く生むことができたか確認でき、経営戦略を立てたり改善させたりといったことにつなげることが可能です。
損益計画と比較する方法
当期の「損益計画」と比べる方法であり、予算と実際の数字を比較すれば、利益の問題部分の洗い出しもできます。
売上高経常利益率やその他利益率も算出しておけば、比較・分析をスムーズに行うことができるでしょう。
前年度の業績と比較する方法
「前年度」の「業績」と比較する方法では、「推移」など確認することで変動理由について細かく分析ができます。
1年という大きなくくりではなく、たとえば半期や四半期など、期間ごとに詳細を比較していけば推移をたどりやすくなります。
同業他社と比較する方法
売上高経常利益率は同業他社の比較をすれば、自社の「収益率」がどの程度か確認できます。
売上高経常利益率は「財務諸表」で確認できるため、競合他社の財務諸表から売上高経常利益率やその他利益率を確認し、自社の数値と比較して「経営戦略」を立てていくとよいでしょう。
経常利益を使った企業分析のメリット・デメリット
企業分析に「経常利益」を使うことで、次のようなメリットとデメリットがあると考えられます。
企業分析に「経常利益」を使うメリット
「経常利益」は、非定常的な項目を考慮しない利益といえますが、当期に「偶発的」に発生した利益や損失は含みません。
そのため次年度の当期純利益を予想するときの基礎的な「値」として活用が可能です。
企業活動の成果として確認できるため、役員や従業員に「意識付け」するときの値としても活用できるでしょう。
総合的な「収益力」を示すものなので、まさに経営の「通信簿」とすることもできます。
また、他社の経常利益を確認すれば、動向判断や投資判断の材料として使うこともできるでしょう。
他にも利益がバランス良く成長できているか、業績を伸ばすことができているか確認できる指標として使うことができるのもメリット可能です。
企業分析に「経常利益」を使うデメリット
経常利益は、本業と本業以外の事業など、「全体」の利益を示します。
不動産投資や資金運用など、財務活動も含んだ利益のため、本業では利益を上げることができていたとしても、借入金の返済負担が大きければ数値は低くなります。
内情を把握できている管理部門の担当者以外は、納得し難い数値として扱われることがデメリットといえるでしょう。
売上高経常利益率を改善させるための2つの方法
売上高経常利益率のもとになるともいえる「経常利益」は、営業利益に営業外収益を合わせ、営業外費用を差し引いて計算します。
そのため売上高経常利益率を向上させたいのなら、
- 売上高を向上させる
- 経費を削減する
のいずれかの方法を実践することが必要となるでしょう。
そこで、売上高経常利益率など利益率を確認・分析し、競合他社と比較で「改善点」を洗い出すことが必要です。
そして売上高を増やすことや、販売費及び一般管理費など経費を削減して営業利益を増やすだけでなく次の2つも合わせて実践することが必要といえます。
- 営業外収益を増加させる
- 営業外費用を減少させる
それぞれについて説明していきます。
営業外収益を増加させる
経常利益を高めるため、「営業利益」を高めて「営業外収益」を増やすことが必要です。
できる限り「余剰資金」で業績良好な株式に投資するなど、有利な運用で「財務力」を強化させることなど検討しましょう。
利益が蓄積されている会社の場合は、営業利益以上に経常利益を計上するケースもあります。
営業外費用を減少させる
財政状態が脆弱なのに、借入金に対する利息負担が大きい場合など、営業利益の多くが「営業外費用」に消えるため経常利益を残すことができなくなります。
さらに運転資金や投資資金が足らなくなるといったリスクも抱えることになるため、本業で生み出す余剰資金の範囲で返済資金を捻出できるように、低金利融資への借り換えや繰り上げ返済などの対策が必要です。
良好な財政状態の場合には、お金を集めるためにかかる費用を削減し、営業外費用の負担を抑えることができるでしょう。
売上高経常利益率の改善についてはPMGまでご相談ください
経営判断を行うにあたり、営業利益率や経常利益率などの財務数値を正しく把握することは何よりも重要です。正確に算出、分析することはもちろん、データを参考に適切な改善を行う必要もあります。
売上高経常利益率の改善をはじめ、経営課題のご相談はPMGにお任せください。ピーエムジーは、経営ノウハウと多彩な専門知識を有する、プロフェッショナル集団です。
課題の洗い出しから改善策のご提案まで、クライアントに寄り添ったアドバイス及びサポートを提供します。
まとめ
売上高経常利益率は経営指標の1つであり、その他各種の利益率と連動することが特徴です。
売上高経常利益率が一時的に低迷する時期だとしても、計画段階ですでに予想されているときや、いつ頃回復できるか見込みや見当があるときには大きな改革をする必要ないと考えられます。
しかし売上高経常利益率は営業外損益を含むため、仮に売上高経常利益率が前期と同じだった場合でも、他の利益率は大きく変動していることもあると留意しておいてください。
経営分析のとき、売上高経常利益率のみに頼るのではなく、必ず他の指標も確認するようにしましょう。
そして各種売上高利益率を高めるためには、費用はできる限り低く抑えることと、売上をできるだけ増やすということが必要です。
受注残を適切に管理し、不良在庫は売却など整理すること、さらに固定資産の管理強化といったことも必要となります。
会社全体で地道な改善を努力し繰り返すことで、有効な経営指標をフィードバックできるようになり、売上高経常利益率の改善につながると考えられます。