事業が一定規模を超えると、フリーランスや個人事業主よりも法人化したほうがメリットがあるといわれます。この記事では個人事業主から法人化したときのメリット・デメリット、法人化したほうがよいケース、やめたほうがよいケースについて解説しています。
現在、法人化を検討しているフリーランスや個人事業主の方に役立つ内容になっているため、ぜひ最後までお読みください。
目次
法人化(法人成り)とは
法人化(法人成り)とは、個人で行っていた事業者が株式会社等の法人を設立し、これまで営んでいた事業を引き継ぐことを指します。
これまでの事業を引き継ぐということは、事業だけでなく個人事業のときの預金・売掛金・貸付金・建物・車両・備品といった資産や、買掛金・未払金といった負債も引き継ぐことになります。
法人化も通常の会社設立も手続きに違いはありません。しかし法人化は新たに会社を設立した上で、個人事業のときの事業や資産・負債を引き継ぐプロセスがある点が、通常の会社設立とは異なります。
法人化は個人事業主のときの資産や負債、人脈なども活用して事業ができるため、新規で会社を設立するよりも有利にスタートできるでしょう。
個人事業主と法人の違い
個人事業主と法人は、経営形態、税制面での扱い、社会的信用という面で大きく異なります。どのような違いがあるのか、詳しく解説します。
経営形態の違い
法人は「会社」という形態で事業を行っているため、仮に社長が亡くなったとしても、法人は存続します。事業承継をする際に特別な手続きをする必要もありません。
一方、個人事業主は「人」が事業を行っているため、亡くなった場合は事業承継の手続きが必要です。
また法人が事業を廃止する場合は、法務局や税務署などさまざまな役所に廃業したことを通知する必要があります。廃業したときの主な手続き内容としては、次のようなものが挙げられます。
- 法務局で解散登記、清算人選任登記、清算完結登記を行う
- 税務署などに廃業届を提出
- 年金事務所に健康保険・厚生年金保険 適用事業所全喪届を提出
- ハローワークに雇用保険適用事業所廃止届を提出
一方、個人事業主は廃業届を税務署に出すだけで手続きが完了します。なお健康保険・更生年金保険適用事業所であれば年金事務所に全喪届を、雇用保険適用事業所であればハローワークに廃止届を、それぞれ提出します。
また開業する際も個人事業主は、事業開始の日から1ヶ月以内に「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」の届け出を提出します。一方、法人は「法人設立届出書」を提出します。期限は、法人設立の日以後2ヶ月以内です。開業届と法人設立届出書は、国税庁のウェブサイトのメニューからダウンロードすれば入手できます。
このように法人と個人事業主は経営形態が異なることから、社長に万が一のことがあったときや廃止するときなどの手続きに違いがあります。
税制面の違い
法人と個人事業主では課税される税金の仕組みが異なります。
【法人税と個人事業主の税金の違い】
個人事業主の税金 |
法人の税金 |
所得税 |
法人税 |
個人住民税 |
法人住民税 |
消費税 |
消費税 |
個人事業税 |
法人事業税 |
個人事業主は1月1日から12月31日までの収入から、必要経費や所得控除を引いて課税所得を計算して所得税を計算し、確定申告をします。所得税は超過累進税率が適用されるため、課税所得が増えるほど税率が段階的に高くなる仕組みです。
一方、法人税は資本金や所得で税率が変わり、税率は最大で23.3%です。決算月は個人事業主と異なり、任意で設定できます。
また個人事業主が赤字になった場合は所得税と住民税がかかりませんが、法人の場合、赤字でも法人住民税の均等割は納めなければなりません。
社会的信用度の違い
法人化すると、事業内容が変わらなくても個人事業主よりも社会的信用度が高まります。その理由として、以下の2点が挙げられます。
- 登記簿謄本に記載される
- 法人化すると組織として認識される
法人化で株式会社や合同会社を設立すると、法務局で会社の情報を登記しなければなりません。登記する内容は、法人の名称や所在地、事業目的、役員氏名など多岐にわたり、誰でも確認が可能です。つまり法人が登記されているということは、公的機関に法人の存在が認識されていることを表します。
一方、個人事業主の場合、実際に事業を行っていることを証明する書類はありません。
また法人は組織として認識されるため、個人事業主よりも商品やサービスの品質、アフターフォロー、トラブル対応、不正防止などの仕組みが整備されていると考えられます。
仮に社長が引退しても、後継者に引き継げば事業は存続する点も、商品やサービスを利用している方にとっては安心感につながるでしょう。
例えば保険代理店として活動している個人事業主から保険契約に加入しているような場合、担当者に万が一のことがあったら、自身の保険契約は今後どうなるのか、次は誰が担当してくれるのか、お客様は不安に感じるのではないでしょうか。
法人の保険代理店であれば、仮に担当者に万が一のことがあっても、別の担当者がフォローしてくれるため、保険契約者は安心感を得られるでしょう。
法人化するメリット
個人事業主から法人化をすると、さまざまな税制メリットが得られます。また法人のほうが社会的信用度が高いことから、取引先の選択肢が増えたり、資金調達や雇用確保がしやすくなったりするメリットもあります。法人化のメリットについて詳しく見ていきましょう。
節税効果
法人と個人事業主のいずれも、基本的に事業に関連する費用はすべて必要経費にできます。
しかし法人は自身への給与や賞与も経費として計上が可能です。一方、個人事業主は売上から必要経費や所得控除を引いた金額に当たる事業所得がすべて課税対象となり、本人の給与が経費になるという概念がありません。
さらに法人は、役員の退職金を費用にすることも可能です。
また個人事業主は、複式簿記で記帳するなどの要件を満たして青色申告をしていれば、65万円までの青色申告控除が利用できます。一方、法人の役員・従業員は給与所得控除が利用できます。なお個人事業主は、白色申告の場合、税制優遇はありません。
そのほか、法人は次のような税制メリットがあります。
- 赤字を10年繰り越せる
個人事業主でも青色申告をしていれば、損失を翌年以降3年にわたって繰り越して所得金額から控除できますが、法人は青色申告承認申請書を出せば、翌年以降10年にわたって繰り越しが可能です。
- 生命保険料を経費にできる
個人事業主が生命保険に加入した場合、生命保険料控除が受けられますが、あまり大きな控除は受けられません。一方、契約者と受取人を法人とした生命保険に加入すれば、保険料の一部を経費にできる商品もあります。生命保険が一部経費になる仕組みを使うことで、退職金を効率的に準備することも可能です。
なお節税効果については、あくまでも一般的な事例として紹介しています。実際に利用する際は、必ず税理士に相談をしてください。
信用力の向上
前述した通り法人化すると、公的機関に法人の存在が認識されるため、個人事業主よりも信用力が高まります。企業の中には、個人事業主とは取引しないところもあります。法人化により信用力が向上すれば、より取引先の選択肢が広がるでしょう。
人材確保や採用、雇用といった面でも個人事業主よりも法人のほうが有利に進められます。
ただし同じ法人でも、合同会社は公証役場で定款を認証してもらう手続きが不要、設立費用が安いといった理由から、株式会社より信用力が劣る傾向があります。
そのほか、株式会社は株式を発行し購入してもらうことで資金調達ができますが、合同会社は株式発行による資金調達ができません。
より信用力を高めたいときは、合同会社よりも株式会社での法人化を目指すとよいでしょう。
資金調達が容易
事業を継続していくと、運転資金や新たな設備投資などで、資金調達が必要になる場面があります。資金調達の選択肢は銀行融資、補助金や助成金、クラウドファンディングなどさまざまな方法がありますが、どれも審査に通らなければ利用できません。
個人事業主よりも法人のほうが信用力が高いため、審査でプラスに働いたり、より有利な条件で利用できたりする可能性があります。
資金調達がしやすい点、資金調達方法の選択肢が豊富な点も法人化のメリットといえるでしょう。
事業承継がしやすい
個人事業主よりも法人のほうが事業承継をしやすい点も、メリットといえます。
個人事業主は自身の給与や事業用の口座はどちらも個人名義の口座となります。そのため先代の個人事業主が亡くなると、先代名義の銀行口座は凍結され、名義が変更されるまでは口座からお金が引き出せません。
しかし法人は会社という別の人格を有しているため、法人口座(法人名義の口座)であれば、代表者が亡くなっても凍結されず、後継者を選任すれば事業活動を継続できます。
また法人の財産は経営者個人の持ち物ではないため、経営者が交代しても資産の引き継ぎをする必要がありません。
一方、個人事業主の場合は、事業承継の際に後継者に事業用資産を引き継ぐ準備が必要です。事業で引き継いだ資産は個人の所有物であり、相続税や贈与税の対象となるため、個別に評価をしなければなりません。
さらに法人は許認可なども引き継げるため、経営者が交代しても再取得をしなくて済みます。
法人化するデメリット
法人化をすると確定申告時に必要な書類が複雑になる、社会保険料の加入が必須になるといった理由から事務負担が増加します。また社会保険料の負担などでコストも増加するデメリットもあります。
法人化したときのデメリットには何があるか、確認しておきましょう。
事務負担の増加
法人化に伴い、法人税の確定申告のために税務署に提出する「法人税申告書」の作成が必要です。個人事業主も確定申告書を作成して税務署に提出しますが、個人事業主の確定申告は簿記の知識があれば、ある程度対応ができます。
しかし法人税申告書は個人事業主と会計方式が異なるため専門性が高く、社長自身が事業を運営しながら正確に作るのは難しいでしょう。
また個人事業主は常時雇用している従業員が5名未満であれば社会保険への加入は任意ですが、法人は役員や従業員の人数に関係なく、社会保険に加入しなければなりません。したがって社会保険加入手続きも必要になります。さらに従業員が増加すればその都度、手続きが必要です。
このように法人化に伴い、各種事務負担が増加する点は考慮しておきましょう。
コストの増加
法人化をするとさまざまなコストが発生します。
まず必要になるのは会社設立時にかかる費用です。株式会社は資本金1円から設立できますが、実際には公証人の手数料5万円程度と、登録免許税15万円(または資本金額×0.7%)が必要になります。資本金は自由に設定できるため、法人設立のためには少なくとも20万円程度のコストがかかることを考慮しておきましょう。なお合同会社であれば設立時にかかる費用は10万円程度に抑えられます。
また法人税申告書は専門性が高いため、税理士に依頼することになりますが、専門家に依頼すればコスト増加は避けられません。税理士報酬は法人の売上や規模で決まります。個人事業主のときから税理士に依頼していたとしても、法人化に伴って税理士報酬が増加してしまう可能性があります。
さらに法人は社会保険への加入が義務となっているため、社会保険料の負担が生じます。社会保険料は事業主と従業員で折半することになっていますが、例えば令和6年時点で東京都にある事業所で、40歳以上かつ給与月額30万円の従業員の場合、事業主は1人当たり約4万5,000円の負担が必要です。
経営の自由度の低下
法人化によって、株主や他の役員も経営に関与するようになるため、自身だけで意思決定をすることが難しくなります。例えば、会社にとって重要な決定をするときは、株主総会の承認や取締役会の合意が必要になり、自身の意向と異なる決定が下されたり、決定のスピードが落ちたりする可能性があります。
ただし合同会社の場合は定款で定めれば、比較的自由に意思決定をすることが可能です。
また他の役員との経営方針の違いから、役員の辞任・解任が起こる場合があります。そのほか、株主との経営方針の違いから関係が悪化すると、株主から出資金の返還を求められたり、株式買取請求を行使されたりすることも考えられます。
このように法人化により、さまざまな利害関係者の意見を組み入れた意思決定が必要になることから、経営の自由度が低下するリスクがある点も考慮しておきましょう。
資金調達できてもリスクが大きい
一般的に個人事業主に比べると法人のほうが事業の規模が大きいため、調達する資金も高額になる傾向があります。多額の融資を受ければ、それだけ返済額も大きくなるため注意が必要です。
また資金調達をする際、金融機関から担保の差し入れを求められることがあります。提供する担保は、法人なら法人の債権や不動産を担保としますが、個人事業主は自身の不動産を提供するケースが多いでしょう。
法人が破産しても代表者の個人資産まで差し押さえられるわけではないため(代表者が法人での借入の連帯保証をしていれば別)、返済できなくなったときのリスクは、個人事業主のほうが大きいと感じる人もいるかもしれません。
しかし個人事業主よりも法人のほうが利害関係者が多い傾向があるため、仮に資金繰りが厳しくなると、財産の差し押さえに入られるかもしれません。法人の所有する設備が差し押さえられると事業が立ち行かなくなり、従業員に大きな不安を与えるかもしれません。預貯金を差し押さえられると、支払いが滞るため自社の信用を大きく落としてしまうでしょう。
法人化と資金調達
法人は個人事業主に比べて信用力が高いことから、資金調達の選択肢が増えます。ここでは、法人化することで利用しやすくなる、あるいは法人化だからこそ利用できる資金調達方法を4つ紹介します。
銀行融資の可能性
銀行融資とはメガバンクや地方銀行、信用金庫、信用組合といった金融機関から融資を受ける方法です。融資は、事業者の返済能力や財務状況にもよりますが、一般的に他の資金調達方法に比べると低い金利で利用できるものの審査に時間がかかります。
また赤字決算や税金を滞納しているような場合は、融資を利用するのは難しい可能性があります。
金融機関から直接融資を受けることが難しい場合は、保証料を支払って信用保証協会に保証してもらうことで金融機関から融資が受けやすくなる「保証付き融資」を勧められる可能性が高いでしょう。
そのほか、政府系金融機関である「日本政策金融公庫の融資」、自治体と民間金融機関と信用保証協会の3機関が連携して実行する「自治体の融資制度」もあります。
社債の発行
社債とは会社が発行する債券のことです。債券とは国や企業といった発行体が、投資家から資金を借り入れるために発行する有価証券です。国が発行している債券は「国債」、公庫や公団、特殊法人などの政府系機関が発行する債券を「政府機関債」、企業が発行する債券を「社債」といいます。
債券を購入した投資家は、発行体から定期的に利息が受け取れるメリットがあります。
債券には満期があり、満期が到来したら投資家に資金を返済しなければなりません。また償還日(資金を返済する日)までに定期的に投資家に対して利息の支払いが必要です。
償還日に投資家に元本を返済できるか、どれくらいの金利を支払うか、発行する前に十分考慮する必要があります。
新株の発行
新たに株式を発行して、投資家から資金を調達する方法です。投資家に購入してもらうことで資金調達をするという点で債券と類似していますが、社債は償還日までに元本を返済する必要があるため企業の「負債」と見なされるのに対し、株式は投資家に返済する必要がないため法人の「資本」と見なすことができます。
負債が増えると金融機関の審査などでマイナス要素になりますが、資本が増えれば自己資本比率が上がるため財務が安定していると判断してもらえる可能性があります。
ただし株式を発行できるのは株式会社のみです。合同会社は株式の発行ができません。また非上場であれば資金を広く募る手段が限られています。
クレジットカードのキャッシング機能の活用
クレジットカードにはキャッシング機能が付いていて、キャッシング枠の範囲内であればお金を借りることができます。キャッシング機能が付いている法人カードはあまりありませんが、利用できるカードも存在します。
ファクタリングの活用
ファクタリングとは取引先の売掛債権をファクタリング業者に売却して、売掛金の支払期日より前に資金化する資金調達方法です。
保証料を支払って、売掛金の支払いをファクタリング業者が保証するタイプもあります。前者を買取型ファクタリング、後者を保証型ファクタリングといい、資金調達の際は前者の買取型ファクタリングを利用します。
買取型ファクタリングはさらに二社間ファクタリングと三社間ファクタリングに分かれます。
二社間ファクタリングとは、利用者とファクタリング業者の二社間でファクタリング契約を締結する方法です。
ファクタリングは資金調達方法の中でも手数料が高い部類に入る上、実際に調達できる資金は、ファクタリング業者の買取額から手数料が差し引かれた金額になります。
そのためファクタリングを利用していることが取引先に知られると、取引先がファクタリングを利用しなければならないほど資金繰りに厳しい会社というイメージを持たれることがあります。
二社間ファクタリングは原則、取引先に知られることはありませんが、その分手数料は高めです。ただし債権譲渡登記をした場合は、二社間ファクタリングでも取引先に知られる可能性があります。
一方、三社間ファクタリングは利用者とファクタリング業者、取引先の3社で契約をする方式です。三社間ファクタリングは、ファクタリング業者にとってリスクが低い仕組みのため、手数料が二社間ファクタリングに比べて安い傾向があります。ただし三社間ファクタリングでは、ファクタリングを利用している事実を取引先に秘密にすることはできません。
ファクタリングは、ファクタリング業者から早ければ即日資金が振り込まれるため、急ぎで資金調達が必要なときに有効です。また融資ではないため、利用しても負債が増えることがありません。今後銀行融資も検討しており良好な決算書を維持しておきたいときも、ファクタリングの利用を検討してみましょう。
個人事業主と法人のファクタリングの違い
ファクタリングも、ファクタリング業者の審査に通過しなければ利用できません。
しかしファクタリングは売掛債権を売却する資金調達方法なので、赤字決算や税金を滞納しているなど一般的な金融機関などの審査に通りにくい事業者でも、取引先の信頼性が高ければ利用できる可能性があります。
ただしファクタリングは、個人事業主では審査に通りにくい傾向があるため、事前に個人事業主も利用可能としているファクタリング業者か確認してから申し込みましょう。
また個人事業主が発行した請求書は、ほとんどの場合買い取ってもらえません。これは法人に比べて個人事業主の信頼性が低いためです。
個人事業主のファクタリング利用について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
個人事業主でもファクタリングは使える?利用時の7つのポイントを解説
法人化するべき場合
どのようなときに個人事業主から法人化を検討するべきなのでしょうか。主な事例を3つ紹介します。
売上が一定規模を超えている
個人事業主も法人も課税売上高が1,000万円を超えると、その2年後から消費税の納税が必要です。
しかし課税売上高が1,000万円を超え、2年後に消費税が発生するタイミングで個人事業主から法人化すると、さらに2年間消費税の納税が免除されます。
課税売上高が1,000万円を超えたら、法人化を検討してみるとよいでしょう。
また個人事業主で課税所得がおおよそ800万円を超えたときも、法人化を検討するタイミングといえます。なぜなら個人事業主が支払う所得税は課税所得が増えるほど高い税率が適用され、800万円を超えたあたりから、法人税の税率を適用したほうが税額が安くなる場合があるからです。
事業拡大を目指している
今後大きく自社の事業を拡大させていきたい方も、独立するタイミングで法人化を検討してみましょう。
法人は、個人事業主との取引を避けるケースがあります。これは、個人事業主は法人に比べて廃業のハードルが低く、すぐにサービスが止まってしまうかもしれないという不安を抱きやすいためです。
一方、法人は設立や維持に手間がかかるため、簡単にサービスが止まったり、廃業したりすることはないだろうと考えられ、安心して取引をしてもらえる可能性があります。
事業拡大を目指している方は、自身も法人化して信頼性を高めましょう。
また法人のほうが資金調達の選択肢が多く、金融機関からの信頼性も高いため大きな金額が調達できる傾向があります。
多額の資金調達ができれば、それを元手に大きく事業拡大ができるでしょう。
従業員を雇用する
個人事業主として経営をしていても、ある程度までは会社の規模を大きくすることは可能です。しかし事業が一定規模になると、相対的に業務量が増加するだけでなく、管理業務など業務の種類も増えるため、従業員を雇う必要性が生じるでしょう。
日本では慢性的に働き手が不足しており、さらに優秀な人材を集めるには会社の信頼性を高めておく必要があります。個人事業主よりも法人の方が信頼性が高く、人材を集めやすいものです。
従業員を雇用する必要性が生じたら、法人化のタイミングといえるでしょう。
法人化すべきでない場合
法人化はメリットもありますが、売上規模や仕事の状態によっては法人化しないほうがよいケースもあります。ここでは法人化すべきではないケースを2つ紹介します。
売上が少ない
個人事業主で、まだ売上が少ないうちは、法人化をするべきではありません。売上が少なければ利益額も少ない傾向があるため、あえて事務負担やコストを増やしてまで法人化する必要性は低いでしょう。
今後、売上規模が拡大して、新たに資金調達や従業員雇用の必要性が高まったら、改めて法人化を検討するとよいでしょう。
事業が安定していない
安定した取引先がない、業務の役割分担ができていない、退職者が多いなど、まだ事業が安定していない段階で無理に法人化をする必要はありません。
まずは事業を安定させることが最優先です。自社の問題点を洗い出し、改善するサイクルを地道に継続することで、徐々に事業が安定していくでしょう。
個人で完結する仕事
事業に関連する事務負担などの業務が、すべて個人で完結できるのであれば法人化する必要性は低いといえます。
ただし個人で完結する仕事であっても、課税所得が800万円を超えてきたら法人税の税額のほうが少なくなるため、法人化したほうがよいかもしれません。税額の比較だけでなく、法人設立費用や税理士顧問料などを踏まえた総合的な判断が必要になります。
法人化の手続き
法人化は必要書類を準備した上で、登記申請を行います。法人化するために必要な書類と、手続き方法について確認しておきましょう。
必要書類の準備
まずは必要書類を準備しましょう。法人化をするためには主に以下の書類が必要です。
【法人化に必要な書類】
書類 |
概要 |
登録申請書 |
法務局に提出する書類、会社名や所在地、登録免許税の金額、添付書類の一覧などを記載する |
登録免許税納付用台紙 |
登録免許税は収入印紙で納税する必要があるため、登録免許税納付用台紙に収入印紙を貼り付ける |
定款 |
会社設立時に発起人全員の同意をもとに定めた会社のルール |
発起人の決定書 |
発起人全員の合意によって、本店所在地が決定されたことを証明する書類 |
取締役の就任承諾書 |
役職名を記載し、取締役として就任を承諾したことを証明する書類 |
代表取締役の就任承諾書 |
設立時に代表取締役として就任することを承諾したことを証明する書類 |
設立時取締役の印鑑証明書 |
発起人と取締役の印鑑証明書がそれぞれ必要 |
資本金の払い込みを証明する書類 |
定款に記載された資本金が、所定の銀行口座に振り込まれたことを証明するための書類 |
印鑑届出書 |
会社が使用する印鑑を届け出るための書類 |
登記すべき事項を記載した書面やCD-R |
会社設立時に登記簿に登録するために提出する書類。CD-ROM、DVD-R、DVD-ROMでの提出も可能 |
登記申請の流れ
法人登記の申請は、法務局窓口での申請、郵送、オンラインの3つの方法があります。
- 法務局窓口での申請
管轄の法務局窓口に出向いて、必要書類一式を提出します。その場で提出書類をチェックしてもらえるため、手続きに不安な方におすすめです。登記はおおよそ申請から1週間から10日程度で完了します。特に登記完了の連絡はありませんが、仮に提出書類があれば法務局から連絡があり、修正の上、再提出します。
- 郵送で申請
管轄の法務局宛に必要書類を郵送する方法です。法務局に行く時間がない方や法務局まで遠い方におすすめです。提出してからの流れは、窓口で申請するケースと同じです。
- オンラインで申請
登記・供託オンライン申請システム 登記ねっと 供託ねっとからオンラインで申請も可能です。24時間自宅から申請できますが、専用ソフトのダウンロードや電子証明書の読み取りが必要になるため少し手間がかかります。
法人化後の注意点
法人登記が問題なく終わっても、すぐに安心してはいけません。法人化後に忘れがちな注意点を2つ紹介します。
税務申告の違い
法人化すると法人税の申告だけすればよいと思いがちですが、期中で法人化した場合、個人事業の会計と法人の会計が混在するため、個人事業主だった期間の事業所得の確定申告を忘れないようにしましょう。
個人事業主から法人化をすると、一旦事業を廃止して、新たに法人を設立したという扱いになります。そのため翌年の2月16日~3月15日までの間に、事業を廃止した年の1月1日から事業廃止までの期間の確定申告が必要です。同期間中に事業所得以外の所得のうち合算できるものがあれば、それも合算して所得税額を計算します。
社会保険の加入
個人事業主と法人では、加入する年金と健康保険制度も異なります。個人事業では多くの場合、国民年金と国民健康保険に加入しますが、法人の場合、事業主のみの場合も含め健康保険と厚生年金保険に加入しなければなりません。社会保険に加入する際は、以下の書類を年金事務所に提出します。
- 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
- 健康保険 被扶養者(異動)届
- 健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書
- その他(商業登記簿謄本、法人番号指定通知書のコピー、)
また労働保険の加入も必要です。労働保険は労働基準監督署とハローワークでそれぞれ手続きをします。必要書類は以下の通りです。
機関 |
保険の種類 |
必要書類 |
労働基準監督署 |
労働保険 |
保険関係成立届 |
概算保険料申告書 |
||
ハローワーク |
雇用保険 |
適用事業所設置届 |
被保険者資格取得届 |
まとめ
個人事業主と法人は、経営形態や税制面、社会的信用度などに違いがあり、法人化することで節税の効果が得られる、信用力がアップする、資金調達がしやすくなるといったメリットがあります。
しかし法人税申告書の作成や社会保険の加入が必要になり、それに伴って事務負担が増加したり、設立費用や社会保険料負担が増えたりするデメリットもあります。
法人化は現状の事業規模や仕事の状態、今後の方針を見極めて行うことが有効です。