契約書の作成は、雛形があればスムーズに作りやすいといえます。
口約束でも契約は成立するものの、取引の円滑化やトラブル防止のために作成したほうがよいといえますが、雛形などを参考にしたほうが安心です。
そこで、契約書の作成方法について、雛形を使った書き方のコツわかりやすく解説します。
目次
契約書とは
「契約書」とは、取引において当事者間で結んだ契約内容を書面化した文書です。
契約内容や条項などの精査やコンプライアンス意識の向上においても、契約書を作成しておくことは大切といえます。
また、法令遵守や取引の透明性をアピールできるため、顧客や取引先からの信用獲得にもつながります。
契約書とは?法的な効力や流れ・書き方とポイントをわかりやすく解説
契約の方法
契約とは、当事者間で合意で法的な権利・義務関係を発生させる行為です。
そのため法的効力を有する文書でなければなりませんが、「典型契約」と「非典型契約」の2つに分けることができます。
典型契約は民法で規定されている次の13種類の契約です。
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契約書で定められた事柄以外に、民法の規定も適用される契約が典型契約であり、民法で定義されていない契約形態を「非典型契約」といいます。
契約書を作成しなくても、口頭だけでも成立する契約は多くあります。
そのため契約の方法として、以下の2つを理解しておきましょう。
- 口頭契約
- 電子契約
それぞれ説明します。
口頭契約
「口頭契約」とは、契約書などの書面は使わずに、言葉のみの口約束といえます。
民法では当事者の意思表示が合致すれば、書面がなくても契約は成立するとされており、以下の2つの契約の種類に分けることができます。
諾成契約 | 口約束のみで成立する契約 |
要式契約 | 一定の要式が必要とされる契約 |
当事者間で合意を得なえければ契約は成立しないため、どのような取り決めをしたのか、内容を書面へ落とし込んだ契約書を作成したほうが後々のトラブルを防げます。
なお保証契約の場合は、民法で書面でなければ効力は発生しないと規定されているため、契約書を作成することが必要です。
電子契約
「電子契約」とは、電子データや電子ファイルに対し、電子署名やタイムスタンプを付与して契約書を作成・送信し、合意を電子上で完結する契約方法です。
当事者が直接対面せずに、郵送する必要もないため、手間やコストをかけずに遠隔地にいても契約ができます。
契約書の必要性
契約は上記で説明したとおり口頭でも成立しますが、契約書を作成する必要性として以下の3つが挙げられます。
- 取引の円滑化
- トラブル防止
- コンプライアンス遵守
それぞれ説明します。
取引の円滑化
契約書は、取引を円滑化するためにも必要です。
ルールや約束事を細かく取り決めている場合でも、口頭のみの役職で書面化していなければ、後で確認ができません。
契約内容に基づいた契約書があれば、記載された内容を遂行するだけで取引ができます。
トラブル防止
契約書は、当事者間のトラブルを防ぐためにも必要です。
必ず作成が必要になるわけではないものの、何らかの問題が発生したときに契約内容が確認できる文書がなければ、トラブルが拡大する恐れがあります。
双方の意見や認識に食い違いを生じさせないためにも、書面として残しておくことが必要です。
コンプライアンス遵守
契約書は、コンプライアンスを遵守する上でも必要です。
条項を取り決めておくと、社内コンプライアンス意識を高めることができます。
近年ではコンプライアンスを遵守するクリーンな企業のアピールが重要視されているため、ステークホルダーへのアピールにもつながります。
覚書・誓約書との違い
「覚書」とは、契約書を作成する前段階で合意した内容を取りまとめたり既存内容を補足したりするための文書です。
契約書に近い性質の文書であるため、「覚書」の表題だったとしても内容次第で契約書とみなされることもあります。
「誓約書」とは、一方から他方へと差し入れる文書であり、双方の合意を示すわけではありません。
そのため当事者間の合意がある上で作成する契約書とは性質が異なり、一方から他方へ署名・押印のもと差し出す文書といえます。
個人契約書と法人契約書の違い
「個人契約書」とは、個人が当事者で契約を結ぶ契約書です。
名称が似た契約書に「個別契約書」がありますが、これは具体的な取引内容への約束ごとを取り決めた契約書です。
新たに契約を結ぶとき、最初に作成する「基本契約書」を補完する関係にある文書といえますが、発注書や注文書などが例として挙げられます。
継続する取引に関する共通ルールを基本契約書で取り決めて、個別案件の取引に関することは個別契約書を作成します。
そのため個人契約書と個別契約書は名称こそは似ているものの、異なる契約書です。
また、「法人契約書」は法人が当事者の契約書であり、個人契約書と同様に書面・口頭・電子などの方式で締結します。
法人と個人との間で契約を締結する場合は、消費者保護を目的とする消費者契約法などの法令規制が適用されることもあるため、契約書は作成しておきましょう。
契約書の種類
契約書にはいくつか種類があり、それぞれ使用する雛形は異なります。
当事者間の契約における認識や解釈の違いなどで、トラブルが起こってしまうことを回避するためにも、契約の内容を文書化した契約書を取り交わすべきといえます。
ビジネスにおいて使われる契約書として、以下の種類が挙げられます。
売買契約書 | 売主と買主で商品やサービスの売買取引で作成する契約文書 |
請負契約書 | 仕事を外部に委託するときに発注者と請負者間で取り交わす契約文書 |
委任契約書 | 特定の業務を外部の企業や個人に依頼して任せるときの契約文書 |
秘密保持契約書 | 開示される秘密情報や個人情報などを第三者へ開示しない取り決めの契約文書 |
賃貸借契約書 | 賃貸物件の貸し借りで貸主と借主の間で締結する契約文書 |
雇用契約書 | 使用者と労働者間で雇用契約の内容を明確化し合意を証明する契約文書 |
労働者派遣契約書 | 人材派遣会社と派遣先企業など、契約当事者の一方が相手に対し労働者を派遣することを約束する契約文書 |
保証契約書 | 債権者と保証人など、金銭の支払債務者が支払わないときに保証人が代わりに支払うことを約束する契約文書 |
ライセンス契約書 | 特許権・著作権・商標権などの知的財産権の他社使用を認める契約文書 |
なお一部の契約書の雛形は、経済産業省の「契約フォーマット」でも公開されているため参考にするとよいでしょう。
業務委託契約書とは?種類や記載事項・注意点をわかりやすく解説
契約書の雛形による書き方のコツ
契約書の作成は、雛形やテンプレートがあればわかりやすいといえます。
当事者間で取引する内容を書面に落とし込むために、まずは文書の構成を決めることが必要です。
構成は主に表題・前文・本文・後文などのことですが、以下の業務委託契約書の雛形を参考に、①~⑥の項目に関する原案を作成していきましょう。
【契約書の書き方】構成と具体例をテンプレートでわかりやすく解説
①業務委託契約書 ②株式会社○○(以下「甲」という。)と○○(以下「乙」という。)は、以下のとおり○○契約(以下「本契約」という。)を締結する。 ③ 第 1 条(業務委託の内容) 第 3 条(業務委託料) ④本契約締結の証として本書 2 通を作成し、記名押印のうえ甲・乙各 1 通を保有 ⑤令和〇年○○月○○日 ⑥甲 株式会社○○ |
文書内の以下の項目をそれぞれ説明します。
- タイトル
- 前文
- 本文
- 後文
- 契約日
- 署名・捺印
①タイトル
何の契約書か、表題を決めることが必要であるため、契約内容を端的に表現しましょう。
「売買契約書」「業務委託契約書」「賃貸借契約書」「雇用契約書」など |
複数契約を含む場合は、主となる契約を表題として末尾に「等」と記します。
「業務委託契約書等」など |
②前文
締結する契約について、誰が権利・義務の発生する当事者で、何の契約を結ぶのか「前文」に記載します。
株式会社○○(以下「甲」という。)と○○(以下「乙」という。)は、以下のとおり○○契約(以下「本契約」という。)を締結する。 |
当事者はそれぞれ「甲」または「乙」と定義しますが、3名以上の当事者が存在する契約においては「丙」「丁」などを使います。
③本文
具体的な契約内容を「本文」に記載します。
第 1 条(業務委託の内容) 第 3 条(業務委託料) |
複数の規定を設けるときには、「条」ごとに内容を括弧書きで記載します。
「項」や「号」を使ってさらに細かく分けて内容を記しましょう。
④後文
作成する契約書の通数と、所持する者を「後文」に記載します。
本契約締結の証として本書 2 通を作成し、記名押印のうえ甲・乙各 1 通を保有するものとする。 |
後文は法的な効果に影響するわけではないものの、原本を誰が所持しているのか、作成した通数が記載されるため、偽造を防ぐことはできます。
⑤契約日
契約書を作成し契約を結んだ「契約日」を記載します。
令和〇年○○月○○日 |
契約は口頭のみでも成立するため、口約束した日と契約書作成の日が同じとは言い切れないものの、同日で記すことが一般的です。
⑥署名・捺印
契約における当事者間の署名・捺印をします。
甲 株式会社○○ 代表取締役○○ (印) 乙 株式会社○○ 代表取締役○○ (印) |
当事者が法人の場合は、代表者や委任者の署名・捺印が必要です。
委任者の場合や、連帯保証人・媒介業者・立会人など複数人の当事者が関与するときには、それぞれの立場を記載します。
契約書作成のルール
誰とどのような内容・形式で契約を締結するか、契約締結の否かは契約当事者の自由とされています。
契約書の作成においても、契約そのものが口頭でも成立するため、契約成立要件ではなく書き方のルールは法律上ありません。
ただし以下のことを理解した上で、作成するようにしましょう。
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当事者間で合意していればどのような内容の契約書面でも問題はないといえるものの、取引上のトラブルを防ぐために、紹介した雛形を参考に作成しましょう。
契約書作成における収入印紙の扱い
「収入印紙」とは、租税や手数料、収納金などを微収するための政府発行の証票です。
印紙税や手数料を徴収するために国が発行する証票であり、契約書や領収書など、一定要件を満たす文書に課されます。
契約書では、作成者が収入印紙を購入し、貼り付けて割印をして印紙税を納めます。
印紙税はどのような文書でも貼り付けなければならないわけではなく、印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の課税事項に該当する文書に対して課税されます。
課税文書でも契約書記載の金額によっては、非課税となるケースもあるため必ずしも収入印紙が必要とは限りません。
一般的に収入印紙が必要とされるのは以下の種類の契約書です。
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印紙税額など、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
契約書に貼る収入印紙の金額はいくら?課税文書の種類と貼り忘れの罰則を解説
収入印紙が必要な契約書とは?種類や金額・貼る上でのルールを解説
まとめ
契約書の作成は、雛形やテンプレートを参考にするとわかりやすいといえます。
ただし契約ごとに取り決めは異なるため、雛形をそのまま流用するのではなく、必要な項目などを正確に記載することが必要です。
契約書は当事者間で契約が結ばれたことを文書化した書面です。
一部を除いて作成が必ずしも義務付けられているわけではなく、たとえ口約束のみでも契約は成立します。
しかし契約書を作成しなかった場合、当事者間で契約内容を巡るトラブルが起こっても、どのような内容で取り決めを行ったのか確認できません。
ルールや決まりごとの多い契約は、抜けや漏れを防ぐため曖昧な表現や省略などはせずに、法的効力の認められる契約書を作成しておきましょう。