契約書の甲乙とは?読み方や意味・優劣の有無などわかりやすく解説

契約書の甲乙とは、契約書面上で使用する当事者の呼び名・略称です。

甲乙のうち、甲は立場が上の当事者で、乙は立場が下の場合が多いといえますが、どちらが契約書を作成したかなどでも使い分けは異なります。

そのため契約書の甲乙の使い分けはケースバイケースといえますが、読み方や意味、優劣の有無などをわかりやすく解説していきます。

契約書の「甲乙」とは

契約書と重要事項説明書

契約書の「甲乙」とは、契約書面上のおける当事者の呼び名または略称であり、読み方は「甲(こう)」と「乙(おつ)」です。

甲乙は古代中国の思想をルーツとした「十干(じっかん)」であり、10日を一区切りに1日ずつ数字に近い概念の名称をつけられています。

契約書の甲乙について、以下を説明します。

  1. 目的
  2. 優劣の有無
  3. 法律上のルール

目的

契約書の当事者を「甲」や「乙」と表記する目的は、長い名称を省略するためです。

たとえば正式名称が「医療法人○○会○○病院」や「○○○○ホールディングス株式会社」の場合、契約書に記すたびに長い文章になってしまいます。

そこで、

「医療法人○○会○○病院(以下「甲」とする)は○○○○ホールディングス株式会社(以下「乙とする」)と□□契約を締結する。乙は甲に△△を履行し……」

とすることで、本文は簡潔になります。

ただし契約書に甲乙を使う目的を果たすために、以下の2つには注意しましょう。

  1. 表記の当事者
  2. 当事者が3人以上の場合

それぞれ説明します。

表記の当事者

契約書面上の甲と乙の振り分けは、業界の慣例などで決まることもあります。

たとえば売買契約では、売主が甲、買主を乙とすることが多いといえます。

ただしあくまでも慣例であり、会社によっては振り分けが反対の場合もあるため、法的な縛りは特にありません。

また、民法の条文の規定に沿い、先に記載されている当事者は甲・後の記載の当事者を乙に振り分けることもあれば、立場が上の当事者を甲・もう一方を乙にする場合もあります。

契約書のドラフト作成者が敬意をあらわすために、相手を甲とし、作成者は乙にすることもあるため、ケースバイケースと認識しておきましょう。

当事者が3人以上の場合

契約書の当事者が3人以上の場合、十干の順番ごとで略称を追加することが多いといえます。

たとえば3人いる場合には、甲乙に続いて丙を使います。

さらに人数が多ければ、丁・戊・己・庚・辛・壬・癸を順番に使用します。

優劣の有無

契約書に「甲」や「乙」を使う場合、当事者がどちらに振り分けられるかによって優劣が決まるわけではありません。

ただし十干の甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の順番の通り、甲は「第一」乙を「第二」とする意味も含め、優位な立場の当事者を甲にすることもあります

法的な決まりはないものの、十干の順番や古い成績表などで使用されていた経緯もあるため、甲乙に優劣を感じる方もいることを踏まえて相手方を甲にしたほうが無難ともいえます。

法律上のルール

契約書における甲と乙の振り分けや使用方法に関する法律上のルールはありません。

そのため当事者のどちらが「甲」で、一方の当事者が「乙」になるかは、契約ごとに異なります。

甲乙の使い分けに明確な定義はないものの、相手方の認識が不安なときには相手を甲にしたほうがよいでしょう。

契約書で甲乙を使わないケース

契約書類

契約書を作成するときに、甲乙を使わず、別の表記を使用するケースもあります。

甲乙以外を用いるケースは、主に以下の3つです。

  1. 当事者の略称を使用する
  2. 英文契約書を作成する
  3. 立場で表記する

それぞれ説明します。

当事者の略称を使用する

契約書に甲乙を使わないケースとして、会社の略称を用いる場合が挙げられます。

たとえば「株式会社〇〇商事(以下、〇〇商事とする)」などの文言を記載し、その後の文章は正式名称ではなく略称を使うといったケースです。

略称を主語にすることで、全体の内容を理解しやすくなります。

英文契約書を作成する

契約書に甲乙を使わないケースとして、英文契約書を作成する場合が挙げられます。

英文契約書の場合、当事者の名前を記載することが必要となるため、甲乙などの表記は使いません。

契約内容により、以下の立場を表記することはあります。

  • Buyer(買い手)
  • Seller(売り手)
  • Lessor(貸し手)
  • Lessee(借り手)
  • employer(雇用主)
  • Employee(被雇用者)

また、「Company A」「Company B」などの記号を使用することはあるものの一般的ではなく、特殊な事情がなければ当事者の記載は正式名称で行います。

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立場で表記する

契約書に甲乙を使わないケースとして、立場で表記する場合が挙げられます。

たとえば甲乙以外に立場で表記するケースには、売主・買主などがあります。

契約や利用規約の種類ごとで、以下の表記を行うことが多いといえるでしょう。

売買契約書 ○○株式会社(以下「売主」という。)と○○株式会社(以下「買主」という。)は、以下のとおり売買契約を締結する。
業務委託契約書 ○○株式会社(以下「委託者」という。)と○○株式会社(以下「受託者」という。)は、以下のとおり業務委託契約を締結する。
金銭消費貸借契約書 ○○株式会社(以下「貸主」という。)と○○株式会社(以下「借主」という。)は、以下のとおり金銭消費貸借契約を締結する。
※「貸付人」「借入人」を用いるケースあり
賃貸借契約書 ○○株式会社(以下「賃貸人」という。)と○○株式会社(以下「賃借人」という。)は、以下のとおり売買契約を締結する。
※「貸主」「借主」を用いるケースあり
雇用契約書 ○○株式会社(以下「使用者」という。)と○○(以下「労働者」という。)は、以下のとおり雇用契約を締結する。
サービス利用規約 本利用規約は、○○株式会社(以下「当社」といいます。)の提供する○○のサービスをご利用になる全ての方(以下「お客さま」といいます。)に共通して適用されます。

甲乙の使用は法律で定められているわけではありません。

また、「A」「B」などのアルファベット記号を使っても問題はないといえます。

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契約書に甲乙を使うメリット

メリットにチェック

契約書に甲乙の表記を使うメリットとして、以下の3つが挙げられます。

  1. 表記を短縮できる
  2. 作成しやすい
  3. 読みやすい

それぞれ説明します。

表記を短縮できる

契約書に甲乙の表記を使うことで、表記を短縮できることはメリットです。

たとえば「○○株式会社」などの正式名称を記載することを避けるため冒頭に、

「○○株式会社(以下「甲」とする)」「□□有限会社(以下「乙」とする)」

と記しておけば、正式名称を都度記載する必要はありません。

作成しやすい

契約書に甲乙の表記を使うことで、書面を作成しやすくなるのはメリットです。

また、同じ契約を別会社と結ぶときなどは、冒頭に記載した「○○株式会社(以下「甲」とする)」などを別会社の名称に変更すれば、フォーマットとして使えるため効率的です。

読みやすい

契約書に甲乙の表記を使うことで、読みやすさが増して内容も伝わりやすくなることはメリットです。

全体をシンプルにまとめることができるため、契約書の作成が容易になり、相手も読みやすさを感じることでしょう。

契約書における甲乙は一般的に浸透しているため、法務などに従事する専門家や契約書に関わる方の場合、認識しやすさなどのメリットが高いといえます。

契約書に甲乙を使うデメリット

デメリットにチェック

契約書で甲乙を使う場合、次の2つのデメリットには注意してください。

  1. 内容を理解しにくい
  2. 当事者の認識を間違いやすい

それぞれ説明します。

内容を理解しにくい

契約書で甲乙を使う場合、読み慣れていないと内容が理解しにくくなる場合もあります。

甲乙の表記を使った契約書を使う場合、法務関係者など見慣れている方にとっては一般的といえます。

しかし甲乙を使った契約書を読み慣れていない場合、内容がわかりにくいと感じてしまう恐れがあります。

契約の誤認や認識不足などにより、トラブルに発展する場合もあるため、懸念があるときには甲乙以外の表記で作成したほうがよいでしょう。

当事者の認識を間違いやすい

契約書で甲乙を使う場合、当事者の認識を誤りやすいことはデメリットです。

主語を取り違えるミスが発生したとき、意図とは真反対の効果を生む契約書になりかねません。

この認識違いを防ぐためには、契約書の文中に甲乙以外の明確な略称を使うことをおすすめします。

契約内容に適した明確な表現で作成することで、甲乙の取違いによるミスを防ぐことができます。

まとめ

契約書に記載される甲乙は、普段から見慣れている当事者は問題なく内容を理解でき、作成においても使ったほうが便利です。

しかし甲乙表記に慣れていない場合、認識や取り違いによるトラブルが起こらないともいえません。

記載の手間や内容が長文になるなど、デメリットはあるものの認識違いによる問題が起こるリスクは大幅に低減できます。

ただし契約書の当事者が複数存在する場合、甲と乙以外にも丙や丁なども使用することになり、読み慣れている方でない限り理解しにくくなります。

契約書はそれぞれの当事者が内容を理解できなければならないため、わかりやすい表記を心がけましょう。