標準報酬月額とは、社会保険料の基準となる数字であり、労務管理において必ず押さえておくことが必要です。
厚生年金保険料や健康保険料など社会保険料を決めるだけでなく、傷病手当金や出産手当金などを算出する根拠にもなります。
そこで、標準報酬月額について、社会保険料の計算方法や決定・変更のタイミングを解説します。
目次
標準報酬月額とは
「標準報酬月額」とは、給与などを一定の幅で区分した等級にあてはめて決定する金額であり、社会保険料を決定するときの基準額です。
被保険者(労働者)の給与1か月分の報酬を一定範囲ごとに等級で区分し、健康保険50・厚生年金保険32の分類へ段階的に割り当てて決定します。
政令により、健康保険では標準報酬月額の上限該当者が3月31日時点で全被保険者の1.5%を超えた場合、その年の9月1日から一定範囲で標準報酬月額の上限を改定できるとされてます。
標準報酬の対象となる報酬
標準報酬の対象となるのは、基本給や手当など、労働の対償として現金または現物で支給される報酬です。
基本給および諸手当には適用されるものの、一時的な収入は対象ではありません。
標準報酬月額の対象となる賃金と対象外の賃金は以下のとおりです。
標準報酬月額の対象となる賃金 |
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標準報酬月額の対象外の賃金 |
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標準賞与額に含まれる賞与
標準賞与額に含まれる「賞与」は、いかなる名称であるかは問わずに、被保険者が労働の対償として受け取る年3回以下の支給のものです。
年4回以上の支給の場合は、標準報酬月額の対象になるため注意しましょう。
また、労働の対償ではない結婚祝金などは対象になりません。
被保険者期間中、税引前の賞与総額から千円未満を切り捨てた額を標準賞与額とし、賞与が支給される月ごとに決定します。
標準賞与額の上限は、以下のとおりです。
健康保険 | 年間累計額573万円(毎年4月1日から翌年3月31日までの累計額) |
厚生年金保険 | 1か月あたり150万円 |
育児休業等で保険料免除期間に支払われた賞与も標準賞与額として決定し、年間累計額に含まれることになります。
年度途中に被保険者資格の取得・喪失があったときの標準賞与額の累計は、保険者単位とします。
そのため同一の年度内で複数の被保険者期間がある場合、同一の保険者である期間に支払われた標準賞与額は累計することが必要です。
標準賞与額の累計が年度内で既に573万円に達している後に賞与が支払われた場合は、それ以降の標準賞与額は0円で保険者が決定することになります。
社会保険料の計算方法
標準報酬月額は、社会保険料の根拠となる額です。
社会保険料には以下の5つの種類があり、健康保険・介護保険・厚生年金保険は事業者と労働者が労使折半で保険料を支払います。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 介護保険料
- 雇用保険料
- 労災保険料
そこで、それぞれの社会保険料の計算方法を説明します。
社会保険料とは?種類や計算方法・免除されるケースをわかりやすく解説
社会保険料の計算方法は?負担割合や控除・ボーナスにおける対応を解説
健康保険料
「健康保険料」とは、従業員とその扶養家族のケガ・病気・出産などで必要な医療費を補償する制度に対する保険料です。
事業者と労働者で折半する保険料であり、以下の計算式で算出できます。
健康保険料(給与) = 標準報酬月額 × 健康保険料率 健康保険料(賞与) = 標準賞与額 × 健康保険料率 |
計算式の「健康保険料率」は健康保険組合で異なることになり、たとえば協会けんぽの東京支部であれば2024年3月から9.98%です。
「標準賞与額」は、たとえば健康保険では毎年4月1日から翌年3月31日までの累計額573万円までを上限としています。
全国健康保険協会のホームページ「都道府県毎の保険料額表」を参考にしてください。
厚生年金保険料
「厚生年金保険料」とは、年金制度に対する保険料です。
事業者と労働者で折半して支払う保険料であり、以下の計算式で算出できます。
厚生年金保険料(給与) = 標準報酬月額 × 厚生年金保険料率 厚生年金保険料(賞与) = 標準賞与額 × 厚生年金保険料率 |
「厚生年金保険料率」は現在18.3%で、健康保険料と同じく「標準賞与額」には上限があります。
厚生年金保険では、1か月あたりの支給額(同月2回以上支給した場合は合算額)150万円までが上限です。
介護保険料
「介護保険料」とは、要支援または要介護認定を受けた方が介護サービスを利用するための制度の保険料です。
事業者と労働者で折半により支払う保険料であり、以下の計算式で算出できます。
介護保険料(給与) = 標準報酬月額 × 介護保険料率 介護保険料(賞与) = 標準賞与額 × 介護保険料率 |
「介護保険料率」は、事業所の所在地や健康保険組合によって異なります。
たとえば協会けんぽの2024年3月からの介護保険料率は1.60%で、第2号被保険者(40~64歳)は給与から健康保険料とともに差し引かれ、第1号被保険者(65歳以上)は天引きされません。
そのため65歳になった月からは、市町村へ支払うことが必要です。
雇用保険料
「雇用保険料」とは、雇用や生活を補償するための制度に対する保険料です。
事業者と労働者がそれぞれ支払うことが必要であり、以下の計算式で算出できます。
雇用保険料(給与) = 毎月の給与支給額 × 雇用保険料率 雇用保険料(賞与) = 賞与支給額 × 雇用保険料率 |
「雇用保険料率」は事業の種類で異なり、たとえば一般の事業であれば2024年4月から2025年3月は事業主負担1000分の9.5・従業員負担1000分の6となっています。
厚生労働省のホームページ「令和6年度の雇用保険料率について」でも確認できます。
労災保険料
「労災保険料」とは、就業中のケガや病気に対する補償制度の保険料です。
全額事業者が支払う保険料であり、以下の計算式で算出できます。
労災保険料 = 全従業員の1年分の賃金総額 × 労災保険料率 |
「労災保険料率」は、事業の種類で1000分の2.5から1000分の88までの範囲で分類されます。
なお、厚生労働省のホームページ「令和6年度の労災保険率について」でも確認できます。
標準報酬月額を決定するタイミング
標準報酬月額を決定するタイミングは、主に以下の2つです。
- 資格取得時決定
- 定時決定
それぞれのタイミングについて説明します。
資格取得時決定
「資格取得時決定」とは、新規に雇用したときに標準報酬月額を決定することです。
新規に被保険者の資格を取得した労働者の標準報酬月額は、次の方法で決定されます。
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入社時の標準報酬月額を決定するときの前提金額であり、入社時点で合理的に見積もった1か月あたりの報酬の支給見込額となるため、入社日時点の報酬を月額換算した額を基準とします。
資格取得時決定による標準月額報酬は、以下の期間で適用されます。
1~5月末までの資格取得 | その年の8月まで |
6~12月末までの資格取得 | 翌年8月まで |
上記期間を過ぎた後は、定時決定で見直しが行われます。
定時決定
「定時決定」とは、毎年7月1日時点で在籍している被保険者(労働者)の4~6月分の給与をもとに、同年9月からの標準報酬月額を決定することです。
7月1日現在の被保険者の4月・5月・6月の報酬の平均額を、標準報酬月額等級区分にあてはめて同年の9月から翌年8月までの標準報酬月額とします。
支払基礎日数が17日未満の月は、標準報酬月額の計算から省きます。
ただし、以下のいずれかに該当する場合は定時決定を行います。
- 6月1日から7月1日までに被保険者となった方
- 7月から9月までのいずれかの月に随時改定または育児休業等を終了したことの改定を行う方
短時間就労者の標準報酬月額の算定方法
短時間就労者の定時決定時の標準報酬月額を算定する場合、以下のいずれかの方法で決めます。
- 4・5・6月の3か月で、支払基礎日数が17日以上の月がある場合、17日以上ある月の報酬月額の平均で算定した額
- 4・5・6月の3か月間で、支払基礎日数がいずれも17日未満の場合、3か月のうち支払基礎日数が15日以上17日未満の月の報酬月額の平均で算定した額
- 4・5・6月の3か月で、支払基礎日数がいずれの月も15日未満の場合、従前の標準報酬月額
支払基礎日数 | 標準報酬月額の決定方法 |
3か月とも17日以上である | 3か月の報酬月額の平均額で決定 |
1か月でも17日以上がある | 17日以上の月の報酬月額の平均額で決定 |
3か月とも15日以上17日未満である | 3か月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
1か月または2か月は15日以上17日未満である (1か月でも17日以上の場合は除く) |
15日以上17日未満の月の報酬月額の平均額で決定 |
3か月とも15日未満である | 従前の標準報酬月額で決定 |
短時間就労者の随時改定時における標準報酬月額は、継続した3か月のいずれの月で報酬の支払基礎日数が17日以上必要です。
標準報酬月額を変更するタイミング
標準報酬月額を変更するタイミングは、主に以下の3つです。
- 随時改定
- 産前産後・育児休業終了時
- 特例改定
それぞれのタイミングについて説明します。
随時改定
「随時改定」とは、昇給や降給などで固定的賃金が変動し、基本給や各種手当などが大きく変更されたときに標準報酬額を改定することです。
本来、被保険者の標準報酬月額は次の定時決定まで変更しないものの、報酬額に著しい変動があったときには、実際に受け取る報酬額と標準報酬月額に大きな差が生じます。
そこで、実際に受け取る報酬額に著しい変動が認められた場合は、標準報酬月額を随時改定で見直しできます。
改定された標準報酬月額は、次の定時決定までの標準報酬月額です。
随時改定は、以下の3つすべてに該当する場合に、固定的賃金が変動した月から4か月目に行われます。
- 昇(降)給などで固定的賃金が変動したとき
- 固定的賃金の変動月以後継続した3か月の間で支払われた報酬の平均月額を標準報酬月額等級区分にあてはめ、現在の標準報酬月額と2等級以上の差が生じたとき
- 3か月とも報酬の支払基礎日数が17日以上のとき
なお、固定的賃金とは基本給・家族手当・役付手当・通勤手当・住宅手当など、稼働や能率の実績に左右されずに月単位などで一定額を継続して支払う報酬です。
産前産後・育児休業終了時
「産前産後・育児休業終了時」の改定は、労働者が育児休業から復職したときの標準報酬月額の見直しです。
育児休業等を終了した(育児休業等終了日に3歳に満たない子を養育する場合のみ)後、育児等を理由に報酬が下がったときでも随時改定の事由に該当しない場合、次の定時決定までは実際に受け取る報酬額と標準報酬月額に大きな差が生じます。
そこで、変動後の報酬に対応した標準報酬月額へ見直すために、育児休業等の終了の際に被保険者が事業主経由で保険者へ申出たとき、標準報酬月額を改定できます。
事業主は申出にあわせて、「健康保険・厚生年金保険育児休業等終了時報酬月額変更届」を保険者へ届出します。
「産前産後・育児休業終了時」の改定の対象者は、以下の2つです。
- 1歳に満たない子または1歳から1歳6か月に達するまでの子を養育するための育児休業を終了した被保険者
- 1歳から3歳に達するまでの子を養育するための育児休業制度に準ずる措置による休業を終了した被保険者
育児休業等終了月(終了した日が月末の場合はその翌月)以後3か月間に受けた報酬の平均月額を標準報酬月額等級区分にあてはめ、現在の標準報酬月額と1等級以上の差が生じたときに改定します。
育児休業等終了日の翌日から起算して2月を経過する月の翌月から、標準報酬月額が改定となります。
改定された標準報酬月額は次の定時決定までの標準報酬月額です。
特例改定
「特例改定」とは、通常の随時改定によらず、報酬が著しく下がった月の翌月から改定できる特例措置です。
たとえば令和2年4月から令和4年12月の間で、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う休業などで報酬が著しく下がったときに特例改定が行われました。
事業主からの届出により、健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額を、通常の随時改定(4か月目改定)によらずに、報酬が著しく下がった月の翌月から改定できる特例措置でした。
まとめ
標準報酬月額は、社会保険料を簡便に計算するための額です。
正確に社会保険料を計算するために、標準報酬月額の仕組みを理解しておくことが必要といえます。
標準報酬月額を決定・変更するときは、速やかに事務センターまたは年金事務所へ届出を行うことが必要です。