業務委託契約書とは?種類や記載事項・注意点をわかりやすく解説

業務委託契約書とは、仕事を外部に委託するとき、業務内容や契約における条件などを記載した文書です。

法律上、業務委託契約を締結するとき、業務委託契約書の作成は義務付けられているわけではありません。

しかし誰にどのような仕事を委託したのか、業務範囲・報酬・納期などを明確に記した業務委託契約書があれば、双方の捉え方などに違いがあったときでも未然にトラブルを防ぐことができます。

そこで、業務委託契約書について、種類や記載事項、注意点などをわかりやすく解説していきます。

業務委託契約書とは

下請け

「業務委託契約書」とは、企業などの委託者が、自社の業務の一部または全部を他社や個人事業者などの外部に委託するときに締結した契約内容を記した文書です。

業務委託の際には、どのような業務を任せるのか、その内容や報酬の支払方法などの諸条件を取り決めます。

取り決めた内容を書面化した文書が業務委託契約書であり、作成の際には仕事を委託する側と請け負う側の双方が署名捺印し、それぞれ1通ずつ保管することになります。

業務委託契約書について、以下の2つを説明します。

  1. 目的
  2. 雇用契約の違い

契約書とは?法的な効力や流れ・書き方とポイントをわかりやすく解説

目的

業務委託契約書を作成する「目的」は、契約を結ぶ上での諸条件を明記した書面を作成することで、法律関係を明確にすることです。

業務の内容や報酬が発生する条件、トラブルが発生したときの責任の所在などを書面化しておかなければ、万一問題が起こったときに対応できなくなります。

口頭で業務委託契約を結ぶことも可能ではあるものの、双方の認識の違いでトラブル発生時に水掛け論になる恐れもあるといえます。

また、訴訟になったときには契約内容を示す証拠が必要となるため、業務委託契約書は必ず作成しておきましょう。

雇用契約の違い

業務委託契約書は、業務を委託する上で結ぶ契約を書面化した文書であるため、「雇用契約」とは異なる契約に関する書類です。

雇用契約は、事業者から仕事に従事した労働者に対し、報酬を支払うことを約束する契約です。

事業者から指示された労務を行うことで労働者は報酬を得ることができます。

雇用契約書では、賃金・就業場所・時間・業務内容、その他にも昇給や退職などに関する労働条件を事業者と雇用される従業員が取り決めて書面化し契約を結びます。

一方で業務委託契約は、発注者と受注者の立場がそれぞれ独立しているため、関係は対等といえます。

受注者は発注者の指示によらず、自己の裁量で業務を行うことができるといった違いがあります。

業務委託契約に該当する契約

契約書を確認する人

業務委託契約に該当する契約は、主に次の3つです。

  1. 請負契約
  2. 委任契約
  3. 準委任契約

それぞれの契約について説明します。

請負契約

「請負契約」とは、注文者が受注者に仕事の完成を依頼し、完成後に報酬を支払うことを約束する契約です。

受注者は仕事を完成しなければ報酬を受け取ることはできず、納品物や成果物が決まっているため、期日通りに完成させることが必要となります。

成果や期日などの基準を満たしていない場合には修正し、再度納品などを経て完成させることで、報酬が発生します。

委任契約

「委任契約」とは、発注側が委託した業務を受注者に委任する契約です。

当事者の一方が法律行為をする相手へ委託し、承諾してもらうことで効力を生ずる契約といえます。

仕事の完成や成果物の納品ではなく、委託された業務(法律行為)を遂行することを委任する契約であるため、契約期間に指定された業務を行うこと報酬が発生します。

準委任契約

「準委任契約」とは、業務の内容が法律行為に該当しない契約です。

委任契約と同様に、委託した業務の遂行で報酬が発生しますが、業務内容が法律行為に該当しないといった違いがあります。

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業務委託契約書の種類

お金に流れをあらわすアイキャッチ

業務委託契約書は、報酬の支払い方法によって次の5つの種類に分けることができます。

  1. 定額報酬型
  2. 時給計算型
  3. 成果報酬型
  4. 単発業務型
  5. 成功報酬型

それぞれ説明します。

定額報酬型

「定額報酬型」とは、毎月、一定の金額を報酬として支払う業務委託契約です。

継続した業務を任せるときに結ぶことが多い業務委託契約といえます。

たとえば税務や会計の専門家がいない企業などが、外部の税理士などの専門家に毎月顧問料を支払い、会計処理や税務相談などをのサービスを受けるケースなどが該当します。

時給計算型

「時給計算型」とは、受託業務に費やした稼働時間数に対し、時給単価をかけた報酬が支払われる業務委託契約です。

仮に業務が十分な成果に結びつかない場合でも、作業に時間をかけた分が報酬として発生します。

時間ベースで報酬が計算されるため、派遣との線引きが不明確になりやすく、派遣法の適用を逃れるための偽装請負と指摘されないように注意が必要です。

発注側が受注側に、作業に関する指示を直接行うと、偽装請負と判断されてしまう恐れがあります。

成果報酬型

「成果報酬型」とは、業務による成果で報酬が変動する業務委託契約です。

たとえば製造を依頼された製品を完成させ、引き渡すことにより報酬が発生します。

他にも完成させた成果物の量によって、報酬額が決定するケースもあります。

単発業務型

「単発業務型」とは、一度きりの業務を委託する業務委託契約書です。

継続しない業務を委託する取引であるため、たとえば税理士に年に一度の確定申告のみを依頼するケースなどが該当します。

成功報酬型

「成功報酬型」とは、業務が成功したときに報酬を支払う業務委託契約です。

たとえば弁護士に訴訟手続を依頼し、勝訴になったときに成功報酬が発生するケースなどが該当します。

どのような状況であれば報酬が発生するのか、発生条件を業務委託契約書に明確に定めておくことで、トラブルを防ぎやすくなるでしょう。

業務委託契約書の記載事項

複数の契約書

業務委託契約書を作成する際に、記載しておくべき事項は以下のとおりです。

  1. 業務内容
  2. 委託料
  3. 契約期間
  4. 支払条件・時期
  5. 経費
  6. 成果物
  7. 再委託
  8. 秘密保持
  9. 納品期限
  10. 反社会的勢力
  11. 禁止事項
  12. 契約解除
  13. 損害賠償
  14. 知的財産権
  15. 契約不適合責任
  16. 有効期限
  17. 中途解約
  18. 管轄裁判所

それぞれの項目について説明します。

業務内容

業務委託契約書に記載すべき「業務内容」とは、どのような仕事をどのような形で任せるのかなどです。

業務の範囲や内容を具体的に特定して記載せず、あいまいな状態で契約を結んでしまうと、認識の違いなどによるトラブルが発生するため注意してください。

委託料

業務委託契約書に記載すべき「委託料」とは、報酬として支払う金額や時期、方法などです。

どのような業務をどのくらいの範囲で任せるのか、職種や業種によっても差があるといえますが、たとえば週数日の稼働であれば月20万円から30万円が相場です。

難易度の高い業務なら、見積額は上振れすると考えられます。

契約期間

業務委託契約書に記載すべき「契約期間」とは、業務を委託する期間です。

案件や作業に必要な期間によって期間は異なるといえますが、たとえばデザイナーに広告制作を依頼するケースであれば、ポスター完成まで1週間から1か月程度かかると考えらえます。

企業のシステム開発など規模の大きな案件なら、1年以上というケースもあるため一概にはいえません。

継続した業務委託においては、1年間の契約期間を設定し、自動更新条項を設けることが一般的といえます。

支払条件・時期

業務委託契約書に記載すべき「支払条件・時期」とは、報酬の支払いにおいて満たすべき条件と、支払いを行うタイミングのことです。

報酬が発生する条件と支払時期、支払い方法や着手金の有無などの条件を取り決めて記載します。

たとえば大規模なシステム開発においては、以下の項目を取り決めておくとよいでしょう。

  • 着手金の有無
  • 支払のタイミング(分割または納品後一括のどちらか)
  • 支払時期

フリーランス新法では、特定受託事業者に業務委託する場合、業務完了・納品から60日以内に報酬の支払期日を設定し、支払うことが義務付けられています。

ただし業務委託契約書の支払時期は、引き渡しと同時または後払いが原則と定められているものの、強行規定ではありません。

経費

業務委託契約書に記載すべき「経費」とは、受注者が業務を行う上で支払った費用のうち、経費計上を可能とする範囲のことです。

業務を行う上で発生した交通費や通信費などの経費が該当します。

成果物

業務委託契約書に記載すべき「成果物」とは、受注者が委託された業務を完成させた結果として生じる目的物です。

業務の性質によって異なるものの、たとえば建築工事の業務であれば、完成した建物などが成果物となります。

なお、業務成果物が知的財産権を有するときには、権利が発注者と受注者のどちらに帰属するか必ず記載しておきましょう。

再委託

業務委託契約書に記載すべき「再委託」とは、発注者から委託された業務を第三者に再び委託することです。

A社がB社に委託した業務について、B社からC社へと委託するケースが該当します。

建設業で規模の大きな工事を請け負ったとき、一次下請けから二次下請けへ、さらに二次下請けから三次下請けへと仕事が発注されるケースなどです。

すべての業務ではなく、一部の業務を第三者に再委託することにより、仕事を効率的に進めることができることもあります。

ただし再委託は、重要事項や機密事項の情報が漏えいするなどのリスクを伴います。

再委託先が同じ品質と信頼性を保持したまま業務を遂行できるとも限りません。

そのためどこまで再委託を認めるかなど、あらかじめ業務委託契約書に記載しておいたほうがよいでしょう。

秘密保持

業務委託契約書に記載すべき「秘密保持」では、秘密保持契約書を締結することで、秘密情報を予定している用途以外で使用したり他者に開示したりすることを禁止します。

秘密保持契約書には、以下のルールを記載します。

  • 秘密情報の管理方法
  • 第三者へ提供の可否
  • 第三者へ提供する場合の方法
  • 契約終了後の取り扱い

仕事を依頼する際に秘密情報の開示が必要になるときに締結する契約であり、利益を守るためには欠かせません。

秘密情報が流出すると回収は不可能となるため、情報開示を受ける者には厳格な情報管理を求めることが必要です。

納品期限

業務委託契約書に記載すべき「納品期限」とは、いつまでに業務遂行による成果物を納品するべきか、その期限です。

契約段階で無理のないスケジュールを立てることが必要といえます。

しかし何らかの事情で間に合わなかった場合には、遅延理由を通知することと、新たな納入予定日に関する指示を受けることも記載しておきましょう。

受注側は、悪質な発注者が報酬の支払いを遅らせるために検収をしないトラブルに巻き込まれないためにも、検収期間が過ぎても連絡がなければ自動的に報酬の請求が可能となる契約を取り交わしておくと安心です。

反社会的勢力

業務委託契約書に記載すべき「反社会的勢力」とは、暴力団を始めその組織の実態を隠し運営する企業や関係企業、活動実態のない政治団体を装う新興団体などです。

契約の当事者の一方が反社会的勢力に属する場合、他方当事者は契約を解約できる旨を記載しておきましょう。

暴力団排除条例が施行されてからは、ほぼすべての契約書に盛り込まれている内容です。

禁止事項

業務委託契約書に記載すべき「禁止事項」とは、発注者が受注者に対し、業務を行う上で禁止する事柄です。

たとえば秘密保持契約では、顧客情報やノウハウなどの秘密情報を、開示者の承諾なしに開示・漏えいすることは禁止されます。

契約解除

業務委託契約書に記載すべき「契約解除」とは、どのようなケースに一方から他方に契約の解除を申し出ることができるかを指しています。

契約解除により、秘密保持義務が消滅すると、情報が漏えいするリスクは高まります。

そのため契約期間の終了後も、相当期間は秘密保持義務に関する条項を存続させる条項を規定しておきましょう。

賠償責任にも関わる重要規定であるため、無条件解除を可能とする期間・条件などを記載しておくことも必要です。

損害賠償

業務委託契約書に記載すべき「損害賠償」とは、契約解除・契約違反・債務不履行などがあったときの損害賠償責任やその額です。

万一、損害が絡むトラブルが発生したときに備えた項目であり、責任の所在・範囲・期間・金額などを具体的に設定しておくと、無制限に賠償を請求されるリスクは回避できます。

知的財産権

業務委託契約書に記載すべき「知的財産権」とは、業務の成果物について著作者の持つ民法上の所有権にあたる独占権です。

著作権・特許権・実用新案権・意匠権・商標権・育成者権・半導体回路配置利用権などが知的財産権に該当します。

成果物が納品されたときに発注者へ権利が譲渡されることが一般的ですが、契約終了により秘密情報が記録された書面・複製物を返還・廃棄することなど規定しておきましょう。

契約不適合責任

業務委託契約書に記載すべき「契約不適合責任」とは、2020年4月の民法改正前の「瑕疵担保責任」のことです。

契約不適合責任では、発注者から受注者に対し、成果物の修正や不足分の納品、報酬の減額要求、損害賠償請求などを求めることができます。

受注側にとっては、契約不適合期間は短いほど安全といえますが、通常は1か月程度で設定されます。

有効期限

業務委託契約書に記載すべき「有効期限」とは、契約が有効とされるタイミングまでの期間です。

提供する情報の性質により変動するといえますが、重要な事柄は無期限で設定されるケースもあります。

長期的で継続した業務の委託においては、自動更新などに関する内容も盛り込んでおくと安心です。

中途解約

業務委託契約書に記載すべき「中途解約」とは、契約の途中で解除できるルールに関することです。

当事者双方の合意または一方の解約権や解除権の行使により、契約期間の途中であっても契約を終了させることが中途解約といえます。

たとえば発注側は、損害の賠償と引き換えにいつでも契約解除ができます。

損害の賠償とは本来の業務委託料を受注者に支払うことを意味するため、受注者が発注者に支払う賠償金ではありません。

受注者からの中途解約については、発注者が破産開始手続の開始決定を受けたときに限定されています。

そのため受注者側から自由に解除できる契約にしたいときには、その内容を規定として設けることが必要です。

委任契約は当事者のどちらからでも中途解約は可能とされています。

管轄裁判所

業務委託契約書に記載すべき「管轄裁判所」とは、トラブルが発生し裁判になったときに裁判を行う裁判所です。

第一審の裁判所をどこにするのか記載します。

裁判になると、何度も裁判所に出向かなければならないため、受注者と発注者の所在などに合わせた場所か確認した上で決めるようにしましょう。

業務委託契約書の注意点

業務委託契約書を作成するときには、記載する内容を前もって確認しておきましょう。

内容に盛り込んだ内容を確認せず、契約を締結してしまうと、発注者と受注者のどちらにも不利な条件で契約を結ぶことになりかねません。

業務委託契約書を作成せず業務を委託すれば、発注者と受注者間で認識に違いがあったことを理由に、トラブルや賠償請求問題に発展する恐れもあります。

未然にトラブルを防ぐためにも、互いに取り決めた契約内容を再度確認し、書面化した上で契約を締結することが必要です。

また、作成した業務委託契約書は、いずれか一方のみが保管するのではなく、発注者と受注者がそれぞれ1通ずつ保管するようにしてください。

まとめ

仕事の一部または全部を外部に発注するときには、業務委託契約書を作成した上で契約を結びましょう。

どのような業務委託契約書の種類があるのか知っておくと、どの文書を作成するべきか判断しやすくなります。

業務委託契約書の内容として記載する必要のある項目や、それぞれの書き方についても理解しておき、必要な項目を選んで盛り込んでおきましょう。

委託内容に関する明確な記載がなければ、業務を遂行していく上でトラブルになる恐れもあるため注意してください。