社会保険料控除とは、1年間で支払われた社会保険料を所得から差し引くことができる制度です。
所得税や住民税を抑えることができる所得控除の1つであり、社会保険料控除で差し引かれる額が多いほど、税負担は軽減されます。
ただし社会保険料控除の適用においては、会社員などは勤務先の年末調整で、個人事業主は確定申告で手続が必要です。
そこで、社会保険料控除について、年末調整と確定申告における手続と注意点を解説していきます。
目次
社会保険料控除とは
「社会保険料控除」とは、毎年1月1日から12月31日までに支払った社会保険料に対する控除であり、所得額から一定金額を差し引く所得控除の1つです。
所得税や住民税を計算するもととなる所得金額から、社会保険料として支払った金額が差し引かれるため、税負担を抑えることができます。
社会保険には、健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険があります。
この中で健康保険・厚生年金保険・介護保険の3つは社会保険、雇用保険と労災保険を労働保険と呼ぶことがありますが、社会保険は事業者と労働者の労使折半で保険料を負担します。
そのため社会保険のうち、社会保険料向控除の対象となるのは、事業者が労使折半で支払った分は含まず労働者本人が負担した分です。
また、本人の社会保険料以外にも、生計を一にする配偶者や親族の社会保険料のうち、代わりに支払った分も控除の対象になります。
「生計を一にする」とは、同居や別居を問わず、家計における費用を共有しているケースです。
別居中の子でも、学生であるため生活費を仕送りしているという場合は、生計を一にしているため代わりに支払った社会保険料が控除の対象になります。
そのため高齢の親の国民健康保険料や、20歳を超えた子の国民年金などを代わりに支払っていれば、社会保険料控除の対象とすることができます。
社会保険料控除が適用される社会保険
社会保険料控除の対象となる社会保険は、国税庁のホームページ内「No.1130 社会保険料控除」で以下とされています。
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先にも説明したとおり、労使折半で負担した社会保険料については、本人が自己負担した分のみが社会保険料控除の対象です。
国民年金保険料は2年分の前納が可能であるものの、社会保険料控除においては納めた年に全額控除するか、もしくは2年に分けて控除するか選択できます。
なお、民間の生命保険会社が保険商品として提供している任意の介護保険は、社会保険料控除ではなく生命保険料控除で差し引くことができるため、間違わないように注意してください。
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社会保険料控除の対象者
社会保険料控除の対象となるのは、社会保険料を支払っている被保険者です。
そのため給与から社会保険料が天引きされている正社員だけでなく、パートやアルバイトなどの雇用形態で働く方や、派遣社員なども対象となります。
また、雇用されておらず自らで事業を運営している個人事業主も、国民健康保険料や国民年金保険料を支払っていれば対象です。
社会保険料控除を受ける方法
社会保険料控除は、会社員など雇用されている立場なのか、それとも個人事業主として事業を営んでいるかによって適用方法が以下の2つに分かれます。
- 年末調整
- 確定申告
それぞれの方法について説明します。
年末調整
会社などに雇用されて従業員として働いている場合には、勤務先で年末調整を受けるときに社会保険料控除を適用させます。
年末調整とは、源泉徴収された税額の年間の合計額と年税額を一致させ、所得税の過不足を精算するための手続です。
従業員の社会保険料は企業が把握しているため、年末調整書類への記入は必要ありません。
ただし生計を一にする配偶者や親族などの社会保険料を代わりに負担している場合は、別途申告が必要となります。
年末調整で「給与所得者の保険料控除申告書」と「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に必要事項を記入し、「社会保険料控除証明書」を添付して提出してもらうことが必要です。
確定申告
個人で事業を運営している個人事業主の場合、確定申告で社会保険料控除を適用させます。
確定申告とは、1年間の所得に対する納税額を計算・申告・納税するための手続です。
確定申告では、以下の証明書を申告書に添付します。
- 支払った国民年金保険料を証明する書類
- 支払った年金基金の保険料を証明する書類
なお、生計を一にする配偶者や親族などの社会保険料を代わりに負担している会社員で、年末調整は受けたものの家族などの社会保険料控除の申告が漏れていたという場合は、確定申告で控除することができます。
社会保険料控除のポイント
社会保険料控除は、会社員などの場合は年末調整で対応するため、特に難しい手続はないといえます。
しかし個人事業主の場合、本人が確定申告で社会保険料控除を適用させるため、漏れのない正しい手続が必要です。
ポイントとして、以下の3つを押さえておくとよいでしょう。
- 前納分は適用時期を選べる
- 過去の年金保険料は支払い年度の控除対象
- 家族の後期高齢者医療保険料も対象
それぞれ説明します。
前納分は適用時期を選べる
個人事業主は国民健康保険料と国民年金保険料が社会保険料控除の対象となります。
ただし2年分の国民年金保険料を前納しているときには、まとめて支払った年度に全額控除するか、2年に分けて控除するか選ぶことができます。
所得が増えた年度などは、2年分をまとめて控除対象とし、差し引くことで税負担を軽減させることもできます。
また、国民年金保険料についても、毎月払い以外に1年分または2年分をまとめて支払うことが可能です。
前納すると支払わなければならない保険料の額を抑えることができるため、社会保険料の節約にもつながります。
過去の年金保険料は支払い年度の控除対象
国民年金保険料を払い忘れている場合、過去にさかのぼって支払うことになりますが、支払った年度の社会保険料控除の対象にできます。
払い忘れていた国民年金保険料は、納付期限から2年以内であれば支払いが可能です。
収入が少ないなどの諸事情で支払いを免除されている場合でも、10年前までさかのぼって追納できます。
経済的に難しかったため年金保険料の支払いは免除されていたものの、状況が改善したため追納した場合には、追加で支払った分も社会保険料控除の対象に含まれます。
家族の後期高齢者医療保険料も対象
家族の後期高齢者医療制度の保険料を代わりに負担した場合も、社会保険料控除の対象とすることができます。
ただし家族の年金から後期高齢者医療保険料が控除されている場合は、本人が年金から保険料を支払ったことになるため、社会保険料控除の対象に含めることはできません。
年末調整における社会保険料控除の注意点
会社員などは年末調整で社会保険料控除を適用させます。
生計を一にする配偶者や親族の国民年金保険料を代わりに支払っており、社会保険料控除の対象にしたい場合には、対象者(配偶者または親族など)の社会保険料控除証明書が必要です。
社会保険料控除証明書は、対象年度の1月1日から12月31日までに支払った国民年金保険料の納付額証明であり、被保険者に発行されます。
一方、国民健康保険や介護保険など健康保険は、控除証明書を添付する必要はありません。
また、転職などで年度の中途で勤務先に採用された方は、「給与所得者の保険料控除申告書」に離職期間中に支払った保険料を記入し、控除証明書と以前の勤務先が発行した源泉徴収票を添付して提出します。
確定申告における社会保険料控除の注意点
確定申告で社会保険料控除を適用させるには、確定申告書の「社会保険料控除」の欄への記載が必要です。
「所得税及び復興特別所得税の確定申告書」の第一表の左下の「所得から差し引かれる金額」に、社会保険料控除の額を記載する欄があるため、1年間で支払った社会保険料を記載しましょう。
第二表で、支払った社会保険料の種類や金額などの内訳を記しますが、「うち年末調整等以外」の欄には社会保険料の金額をそのまま記載します。
確定申告による社会保険料控除の適用においては、国民健康保険料と年金保険料の支払い額が確認できる納付証明書を添付します。
納付証明書とは、1月1日から12月31日までに支払われた国民健康保険料などの納付額を証明する内容の文書であり、毎年1月中旬から下旬までに届きます。
手元に届いたら紛失しないように保管し、確定申告書に忘れず添付するようにしましょう。
まとめ
社会保険料控除は、1年間に支払った社会保険料を、所得金額から控除する制度です。
会社員であれば毎月勤務先が社会保険料を天引きしているため、年末調整で対応できます。
しかし個人事業主の場合、確定申告で控除することが必要であるため、忘れず手続しましょう。
また、会社員の方などが生計を一にする配偶者や親族などの社会保険料を負担している場合、申告が必要です。
社会保険料控除が適用されれば、所得税や住民税の税負担の軽減につながるため、忘れず申告するようにしましょう。