法人成りとは、個人事業主が法人化することであり、会社を設立して経営することです。
個人で事業を営んでいたものの、事業拡大のタイミングで法人成りを検討するケースもあるといえますが、節税などのメリットがある反面で個人事業主のままの方が良い場合もあります。
そこで、法人成りとはどのような手続なのか、個人事業主から法人化によるタイミングや、メリット・デメリットをわかりやすく解説していきます。
目次
法人成りとは
「法人成り」とは、個人事業主が合同会社や株式会社などの会社を設立し、法人として事業を営むことです。
個人事業主で開業した後に法人化することですが、以下の2つを説明します。
- 法人成りと会社設立との違い
- 法人と個人事業主の違い
法人成りと会社設立との違い
法人成りと会社設立の違いは、主に以下の2つです。
法人成り | 個人事業主から法人になること |
会社設立 | 新たに法人になること |
どちらも会社を立ち上げて法人になることは共通していますが、法人成りは個人事業主から法人になることです。
そのため法人成りでは、個人事業主として事業を営んでいたときの事業やノウハウ、資産や負債などを会社が引き継ぎます。
一方の会社設立においては新たに法人を立ち上げるため、資本金のみを引き継ぐことになります。
法人と個人事業主の違い
法人と個人事業主は、事業開始におけるコストに違いがあります。
まず法人は会社を設立する費用など初期費用がかかりますが、個人事業主は税務署に開業届を提出して事業を開始できます。
ただし法人は初期費用をかけて事業をスタートするため、事業運営における本気度などが高いと判断されるため、社会的な信用は得やすいといえます。
そのため法人のほうが、新規の契約や資金調達、人材雇用などでも個人事業主より有利です。
法人成りの流れ
法人成りにおいては、合同会社や株式会社を設立することからスタートしますが、以下の流れで手続を進めます。
- 会社を設立する
- 資産・負債の移行
- 個人事業の廃業
- 許認可等の名義変更
それぞれの流れを説明します。
会社を設立する
法人成りにおいては、合同会社や株式会社などの法人形態で会社を設立します。
合同会社は定款認証の必要はないため、登録免許税で6万円程度が設立費用となります。
株式会社では、定款認証に3万円程度、登録免許税で15万円程度の設立費用が必要となるため、合同会社よりもコストがかかります。
会社設立における流れは以下のとおりです。
- 概要決定
- 実印作成
- 定款認証
- 払い込み
- 設立登記
それぞれ説明します。
1.概要決定
会社設立の基本事項などの概要を決めることが必要ですが、項目としては以下のとおりです。
- 会社名
- 所在地
- 資本金(出資金)
- 設立日
- 会計年度
- 事業目的
- 株主の構成
- 役員の構成
2.実印作成
法人実印も作成しておくことが必要です。
作成した印鑑は、法務局で会社設立登記と同時に実印として登録しますが、実印以外にも認印と銀行印を作成しておくとよいでしょう。
3.定款認証
会社の運営ルールをまとめた定款を作成し、公証人役場で認証してもらいます。
合同会社では定款認証不要ですが、株式会社の場合は公証役場に定款を提出し、認証してもらうことが必要です。
4.払い込み
資本金の払い込みが必要ですが、この時点では法人名義口座は開設できないため、発起人の口座へ入金します。
会社設立における資本金は、下限がないため準備する資金は1円でも問題はありません。
しかし商業登記簿は誰でも閲覧可能な情報であるため、資本金が1円であることを取引先などに知られてしまうと、資金のない会社であると勘繰られたりペーパーカンパニーと疑われたりします。
資本金は会社運営の資金であるため、運転資金として必要となる3か月分程度は準備しておきましょう。
5.設立登記
会社設立の準備ができたら、法務局で法人を立ち上げる商業登記を行います。
登記の専門家である司法書士などに依頼した場合は、手続は代行してもらえますが報酬の支払いが必要であるため、別途準備が必要です。
不備がなければ申請後、1週間から10日程度で登記完了となり、登録された実印を銀行に持参して会社名義の口座を開設します。
資産・負債の移行
法人成りにおいては、個人事業主で事業を営んでいたときの資産や負債を法人へ移行します。
新設法人へ事業の資産や負債を引き継ぐ方法は以下の4つです。
- 譲渡
- 賃貸
- 現物出資
- 贈与
なお、事業資産や営業許可証が個人事業主名義であれば、そのままの状態で法人へ引き継ぐことはできません。
法人へ引き継ぐ場合には、どちらも個人から法人の名義へ変更しておくことが必要です。
個人事業の廃業
法人成りにおいては、会社を設立した後で、税務署に個人事業の「廃業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出することが必要です。
確定申告を青色申告で手続していた場合は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出します。
また、従業員を雇い入れていたときは「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書」も提出しておきましょう。
法人成り初年度は個人事業主の所得以外に、会社役員で得た役員報酬の申告も必要となるため注意してください。
許認可等の名義変更
法人成りにおいては、許認可の名義変更も必要です。
先に述べたとおり、許認可が必要な事業では、個人事業主の許認可を引き継ぐことはできません。
そのため法人名義で新たに許認可を取得することが必要になります。
個人事業主の法人成りのタイミング
個人事業主の法人成りは、以下の4つのタイミングで行うことをおすすめします。
- 2年前の課税売上高が1,000万円を超える
- 前年の前半6か月の売上が1,000万円を超える
- 所得が800万円超える
- 事業拡大を予定している
それぞれのタイミングを説明します。
2年前の課税売上高が1,000万円を超える
個人事業主の法人成りは、2年前の課税売上高が1,000万円を超えるときをタイミングの目安としましょう。
2年前の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、消費税の納税義務者である課税事業者になります。
法人成りで新たに設立する会社は、個人とは別人格の扱いとなり、個人事業主で得た売上は影響しません。
会社を設立した後も、最大2年間は消費税の納税が免除されます。
前年の前半6か月の売上が1,000万円を超える
個人事業主の法人成りは、前年の前半6か月の売上が1,000万円を超えるときをタイミングの目安としましょう。
2年前の売上が1,000万円を超えない場合でも、前年の前半6か月の売上が1,000万円を超え、役員報酬を含む人件費が1,000万円を超えるときは消費税の課税事業者になります。
そのため2年前の売上だけでなく、前年の前半の売上も確認しておくことが必要です。
所得が800万円超える
個人事業主の法人成りは、所得が800万円を超えたときをタイミングの目安としましょう。
所得が増えれば税率も高くなる累進課税で計算される所得税と異なり、法人税の税率は所得800万円以下であれば15%で固定されています。(所得800万円超の税率は23.20%)
そのため所得が800万円を超えるタイミングで法人成りすれば、税負担を軽減できます。
事業拡大を予定している
個人事業主の法人成りは、事業拡大などの予定の有無をタイミングの目安としましょう。
新規で取引先を増やしたいときは、優秀な人材を雇用したいときには社会的な信頼性が低い個人事業主のままでは不利です。
銀行融資や補助金などにおいても、審査では個人事業主より法人が有利と考えられることや、株式会社なら増資による資金調達も可能であるなど資金調達手段も増やせます。
法人成りのメリット
法人成りには、以下の5つのメリットがあるといえます。
- 信頼性が高まる
- 節税対策につながる
- 有限責任になる
- 事業承継対策になる
- 決算月を自由に決定できる
それぞれ説明します。
信頼性が高まる
法人成りは、社会的な信頼性が高まることメリットです。
個人事業主と異なる、会社として事業を運営する場合は、設立登記や準備などで手間や費用がかかります。
さらに個人事業主では事業実態が見えにくいのに対し、法人であれば法務局で登記情報を確認できるため、信用力も上がるといえます。
信頼性が高まるため、販路拡大や人材確保でも有利になるでしょう。
節税対策につながる
法人成りは、個人事業主とは異なる以下の5つの扱いにより、節税対策につながることがメリットです。
- 法人税
- 役員報酬
- 退職金
- 繰越欠損金
- 消費税
それぞれ説明します。
法人税
先にも説明したとおり、法人税は資本金1億円以下の所得800万円超の法人の税率は23.2%で、所得800万円以下なら15%で固定されます。
そのため所得が多いときは個人事業主よりも、法人成りで会社として事業を運営したほうが節税につながります。
なお、法人税の税率に関しては、国税庁の「法人税の税率」を参考にしてください。
役員報酬
個人では事業者の報酬を経費計上できないのに対し、会社経営では役員報酬を計上できます。
さらに給与所得控除は最低65万円・最高220万円が適用されるため、会社経営のほうが経費として計上できる金額が増え、節税につながります。
役員報酬とは?給与との違いや決め方・注意点をわかりやすく解説
退職金
法人成り後は、退職金も適正額なら損金として扱えます。
経営者も役員退職金を受け取ることが可能となりますが、功績倍率と勤続年数に基づいた計算による額でなければならないことは留意しておきましょう。
繰越欠損金
法人成りにより、赤字決算で発生した欠損金を10年間繰り越せます。
翌年以降に繰り越した欠損金は翌年以降の事業所得と相殺可能とされているものの、個人事業主では翌年以降3年間までの繰り越しです。
法人であれば事業年度によって10年間の繰り越しできるため、黒字になった後も節税対策につなげることができます。
消費税
個人事業主の法人成りは、最大2年間、以下の要件を満たすことで消費税が免除されます。
- 資本金1,000万円未満の会社であること
- 設立1年目の前半6か月に売上1,000万円を超えていないこと
有限責任になる
法人成りは、出資金の範囲で有限責任になることがメリットです。
個人事業主は無限責任であるため、事業を運営している個人が事業上におけるすべての責任を負います。
会社経営においては、出資金の範囲での有限責任となるため、経営者が事業上のすべての責任を負う必要はありません。
ただし法人で銀行から融資を受けるとき、経営者が保証人となった場合は、会社倒産と同時に個人も破産手続が必要になることがほとんどであるため注意しましょう。
事業承継対策になる
法人成りは、事業承継対策になることがメリットです。
個人事業主で親から子へ事業を引き継ぐケースなどは、再度、開業届が必要になったり許可を取得しなおしたりすることが必要となります。
法人成りによる会社経営なら、社長交代で親から子へ事業を承継できるためスムーズです。
決算月を自由に決定できる
法人成りは、決算月を自由に決定できることがメリットです。
個人事業主は、毎年1月1日から12月31日までを1事業年度とします。
翌年の3月15日までに確定申告が必要であるため、年末年始の多忙な時期であっても準備しなければなりません。
これに対し法人成りによる会社経営であれば、決算月は自由に決めることができるため、繁忙期を避けることもできます。
法人成りのデメリット
法人成りはいろいろなメリットがあるといえますが、次の6つのデメリットには留意が必要です。
- コストがかかる
- 一定額の役員報酬になる
- 社会保険へ加入する必要がある
- 事務手続が煩雑になる
- 損金計上できる交際費に限度がある
- 法人住民税の均等割りの納税義務が発生する
それぞれ説明します。
コストがかかる
法人成りは、会社設立の費用などコストがかかることがデメリットです。
合同会社では6~10万円程度、株式会社なら20~25万円程度の会社設立資金を準備することになります。
登記の専門家である司法書士などに手続を依頼すれば、別途、報酬を支払うことも必要です。
税務署に開業届を提出すれば事業をスタートできる個人事業主と異なり、法人成りはコストがかかることを理解しておきましょう。
法人登記とは?個人事業主の法人化するメリットをわかりやすく解説
一定額の役員報酬になる
法人成りは、経営者の受け取るできるお金が、一定額の役員報酬になることがデメリットです。
会社と経営者のお金は明確に分離されるため、個人事業主のように自由にお金を使うことはできません。
役員報酬として支払われた分が自由に使えるお金であるものの、定期同額給与であるため1年間は同じ額を受け取ることになります。
社会保険へ加入する必要がある
法人成りは、社会保険へ加入する必要があることがデメリットです。
保険料は労使折半であるため、人を多く雇用すると会社が負担する保険料も増えます。
経営者のみの会社においても、国民健康保険と国民年金の合算よりも高額の保険料を支払うことになるため、法人としての負担は増えるでしょう。
事務手続が煩雑になる
法人成りは、事務手続が煩雑になることがデメリットです。
個人事業主で確定申告を青色申告で手続する場合でも、会計処理や事務手続はそれほど複雑とはいえません。
しかし法人成りで会社を設立した場合、会計処理や保険手続などの事務作業や、決算申告などにおける準備も煩雑になります。
損金計上できる交際費に限度がある
法人成りは、損金計上できる交際費に限度があることがデメリットです。
個人事業主なら交際費に上限はないものの、会社経営の交際費は経費として計上できる交際費が制限されています。
まず飲食費は50%を経費として扱えますが、資本金1億円以下の会社は年間800万円までです。
接待などが多い事業者は、法人成りで会社経営に変更すると、計上できる交際費が少なくなってしまいます。
接待交際費とは?経費計上の範囲や該当費用と上限・仕訳方法を解説
法人住民税の均等割りの納税義務が発生する
法人成りは、たとえ赤字でも法人住民税の均等割りの納税義務が発生することがデメリットです。
個人事業主では、確定申告が赤字なら所得税と住民税の納税義務はありません。
しかし会社経営においては、たとえ決算で赤字になっても、法人住民税の均等割は納めなければならないとされています。
法人税割と均等割を合わせた額を納めますが、赤字であれば法人税割はゼロになります。
これに対し均等割は資本金や従業員数で納税額が決まるため、納税義務を免れることはできないと留意しておきましょう。
法人成りの注意点
法人成りをするときは、以下の5つに注意が必要です。
- 資産の移行を試算しておく
- 廃業後の確定申告を手続する
- 廃業後の事業税を申告・納税する
- 法人成りから個人成りは難しい
- インボイス制度の影響に注意する
それぞれ説明します。
資産の移行を試算しておく
法人成りでは、資産の移行を資産しておくことが必要です。
資産の移行方法として、以下の4つが挙げられます。
- 譲渡
- 賃貸
- 現物出資
- 贈与
この中で譲渡であれば、会社が個人事業主の事業を買い取ることになるため、売買契約書を交わすのみで手続できますが、税金は発生します。
賃貸は個人の所有する資産を、法人に貸し出す形となるため、個人の確定申告が必要です。
現物出資においては、法人の資本金が増やせるものの500万円を超えるときは裁判所が選任した検査役の調査を受ける必要があります。
また、現物出資できる資産も不動産や債券、設備機器などに限られます。
贈与は個人から会社に無償で資産を譲るため、資産を時価で譲渡したみなし譲渡となり、個人には所得税・法人は受贈益が発生します。
移行方法によって税金の扱いや手続が異なることを踏まえて、適した方法を選択しましょう。
廃業後の確定申告を手続する
法人成りでは、個人事業主を廃業した後に最後の確定申告をすることが必要です。
廃業した年度の個人の確定申告についても、たとえば資産移行で譲渡所得などが発生していればその分も踏まえて手続が必要となります。
廃業後の事業税を申告・納税する
法人成りでは、廃業後1か月以内に事業税を申告・納税することが必要です。
事業税は、確定申告後の8月頃、手元に通知が届きます。
個人事業主としての事業を廃業した後で納める税金であるため、経費として事業税を計上することはできません。
ただし廃業する年度の所得税の確定申告において、事業税の見込額を経費として計上できる特例を活用できるため、税務署などに確認してみることをおすすめします。
法人成りから個人成りは難しい
法人成りから、再び個人事業へ戻ることは手間や費用がかかるため、難しいと留意してください。
一旦会社を設立し、法人化した後で再度、個人事業主に戻りたくても手続は困難です。
株式会社の場合は、株式総会を開催して解散決議を行い、解散申告で事業停止する手続などが必要となります。
また、法人格の取り消しや資産の処分、残りの純資産を株主に返金するなどの手続も必要です。
廃業においての清算申告や、官報公告へ掲載する廃業広告にも費用がかかり、費用面での負担もかかってしまいます。
インボイス制度の影響に注意する
法人成りでは、2023年10月1日より開始したインボイス制度の影響にも注意しましょう。
インボイスとは、販売先に税率と税額を正確に伝えるため、従来の区分記載請求書に必要事項が追記された請求書です。
消費税の課税事業者でなければ発行できないため、インボイスを発行したければ売上高に関係なく消費税を納める義務が生じます。
課税事業者に登録すれば免税ルールは適用されず、売上高が1,000万円を超えていなくても消費税を納めなければならないため、売上にも響く恐れがあることを踏まえた慎重な判断が必要です。
まとめ
法人成りとは、個人事業主から法人化することですが、社会的な信頼性が高まるなどのメリットがあります。
新規の取引先が増えたり雇用につながりやすくなったり、銀行融資や補助金などで資金を調達する上でも有利です。
ただし制約が多少増えることや、手続が煩雑化するなど、デメリットも踏まえた上での判断が必要といえます。
法人成りのタイミングや適性などで不安があるときは、コンサルタントに相談することで最善策を発見できることも少なくありません。
PMGではファクタリングのみならず、経営に関するサポートも行っております。お気軽にご相談ください。