差し押さえとは?原因や流れ・対象財産と回避方法をわかりやすく解説

差し押さえとは、借金の返済を遅延したまま支払わなかった場合、債務者が資産を処分することを禁止して最終的に回収するための手続です。

裁判所から差し押さえに関する命令があったときには、たとえ本人の財産であっても、債務者は自由に売ったり処分したりすることができません。

民事執行による強制執行の手続で、一定の流れを経た後に実施されるため、差し押さえられる前の適切な対処が求められます。

そこで、差し押さえとはどのような手続か、原因や流れ、対象となる財産や回避方法についてわかりやすく解説していきます。

差し押さえとは

担保に入れられた家

「差し押さえ」とは、債務者の財産を拘束し、勝手に処分することを禁止するための手続です。

裁判所への申立てに基づいて行われる手続であり、競売など強制執行の前段階として実施されます。

差し押さえについて、以下の2つを説明します。

  1. 目的
  2. 原因

目的

差し押さえの「目的」は、未払いが続いている借金や税金などを回収することです。

債務者が仮に現金は手元に保有していなくても、売って換金すれば支払いに充てることができる財産は所有していることもあります。

そのため債務者本人が所有する財産を勝手に売却したり譲渡したりする前に、強制的に処分するため差し押さえます。

原因

差し押さえの「原因」は、期日を迎えて本来支払うべき以下の支払いが滞っていることです。

  1. ローンなどを滞納している
  2. 税金を滞納している
  3. 養育費や婚姻費用に未払いがある

それぞれ説明します。

ローンなどを滞納している

財産を差し押さえられるのは、借金返済が遅れたまま、未払いの状態が続いているからです。

カードローンを滞納している場合、督促で請求が続き、放置すれば訴訟に発展します。

住宅ローンであれば、3か月以上返済しない状態が続くと担保にしている持ち家が競売にかけられますが、一般的には6~8か月経過したあたりに裁判所から競売開始決定通知書が届きます。

税金を滞納している

財産を差し押さえられるのは、所得税・住民税・固定資産税・自動車税などの税金を滞納しているからです。

税金滞納における差し押さえに関しては、裁判所の手続なしの職務権限で実行できます。

そのため督促が届いたのに支払わず、無視し続ければ滞納処分による強制執行が実行される恐れがあるため、早急に対応が必要です。

税金滞納したらどうなる?払えない場合に差押えを回避する方法を解説

養育費や婚姻費用の未払いがある

財産を差し押さえられるのは、養育費や婚姻費用の未払いがあるからです。

養育費・婚姻費用は、調停や審判などを経た上での差し押さえ手続が必要になります。

ただし事前に公証役場で強制執行認諾文言付き公正証書を作成しているのであれば、調停や裁判などを介すことなく財産を差し押さえできます。

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差し押さえの要件

財産の差し押さえは、債権者であれば誰でも裁判所に申立てできるわけではなく、次の「要件」を満たすことが必要です。

  1. 債務名義がある
  2. 債務名義が送達されている
  3. 執行文が付与されている

それぞれの要件を説明します。

債務名義がある

財産の差し押さえを申立てるためには、「債務名義」と認められる書類があることが必要です。

「債務名義」とは、強制的に支払わせるための強制執行の前提として、公的機関が作成した文書であり、民事執行法などで以下のとおり決められています。

  • 確定判決(民事執行法第22条)
  • 仮執行宣言の付いた判決(民事執行法第22条)
  • 仮執行宣言付き支払督促(民事執行法第22条)
  • 強制執行認諾文言付き公正証書(執行証書ともいいます。)(民事執行法第22条)
  • 確定判決と同一の効力を有するもの(和解調書、調停調書、破産債権者表など)(民事執行法第22条)
  • 家事審判(家事事件手続法第75条)
  • 家事調停調書(家事事件手続法第268条)

債務名義が送達されている

財産の差し押さえは、債務名義となる裁判の正本または謄本が事前に、もしくは同時に債務者へ送達されていることが必要です。

そのため裁判所への申立ての際には、債務名義が送達された証明である「送達証明書」を申請し、入手しておきましょう。

執行文が付与されている

財産の差し押さえは、執行文の付与された債務名義の正本に基づいた実施が必要です。

強制執行認諾文言付き公正証書(執行証書)の場合、原本を保存する公証人に付与してもらいますが、それ以外の場合には事件記録のある裁判所に申立て、付与してもらいます。

なお、家事審判と家事調停調書などの一部の債務名義に関しては、執行文の付与は不要です。

差し押さえ対象の財産

担保となった自動車と人

差し押さえ対象となる財産として、まず思い浮かぶのは持ち家などの不動産が多いといえますが、主に次の財産が対象です。

  1. 給与
  2. 預貯金
  3. 債権
  4. 生命保険金
  5. 不動産
  6. 動産

それぞれの財産について

給与

財産の差し押さえで、もっとも対象になりやすいのは「給与」です。

給与が差し押さえられる場合、次の3つの原因によって対象の範囲が異なります。

  1. ローンなどを滞納している
  2. 税金を滞納している
  3. 養育費や婚姻費用に未払いがある

それぞれ説明します。

ローンなどを滞納している

ローンなどを滞納している場合の給与差し押さえにおいては、所得税・住民税・社会保険料等を控除した手取り額の4分の1までが上限とされています。

ただし手取り額の4分の3が33万円を超える場合は、33万円超の部分を差し押さえ対象とします。

差し押さえは1度で終わりではなく、債務弁済が完了するまで続き、賞与や退職金も対象となります。

税金を滞納している

税金を滞納している場合の給与差し押さえにおいては、以下の4つの合計額を額面給料から差し引いた額です。

  1. 所得税・住民税・社会保険料等
  2. 10万円
  3. 同一生計の配偶者や子などがいる場合は一人あたり45,000円
  4. 上記3つを控除した額の20%

養育費や婚姻費用に未払いがある

養育費や婚姻費用に未払いがある場合の給与差し押さえにおいては、所得税・住民税・社会保険料などを控除した手取り額の2分の1までを上限とします。

手取り額の2分の1が33万円を超える場合は、33万円超の部分が対象です。

なお、養育費は未払い分だけでなく、将来受け取りが可能である部分も差し押さえできます

預貯金

財産の差し押さえは、「預貯金」も対象になりやすいといえます。

債権者は債務者の口座や勤務先情報を把握できるため、仮に伝えていなかったとしても残債が完済するまで差し押さえられます。

また、給与と違って上限はありませんが、差し押さえられるのは債権差押命令が届いた時点の残高分であるため、差し押さえが実行された後に入金された分は対象に含まれません

そのため一度の差し押さえで債務が完済できなかった場合、手続が繰り返される恐れはあります

債権

財産の差し押さえにおいて、金銭に換価できる「債権」も対象に含まれます。

売掛金など売掛債権なども、金銭評価できる債権であるため差し押さえの対象です。

生命保険金

財産の差し押さえは、債務者が加入中の生命保険の「生命保険金」も対象です。

積み立てタイプの終身保険・養老保険・個人年金などの生命保険に加入している場合、解約したときに受け取ることができる解約返戻金や、満期返戻金、生命保険金請求権も含まれます

不動産

財産の差し押さえは、土地や建物などの不動産も対象です。

債務者が価値の高い土地や建物などを所有している場合、回収に充てる資金を確保しやすいといえます。

ただし差し押さえ後、競売で入札・落札など、実際に換価するまで手間や時間がかかります。

住宅ローンでは持ち家に抵当権が設定されており、第一順位の債権者が優先されるため、下位では回収に至らないケースも考えられます。

動産

財産の差し押さえは、自動車・貴金属・高級ブランド品など、高い価値が見込まれる動産も対象です。

ただし、自動車を1台のみ所有している場合で、車がなければ生活できない事情などがあれば、差し押さえ対象から外される場合もあります。

所有する財産の価値や生活や仕事に対する影響の大きさなどで、裁判所の判断は変わると理解しておきましょう。

差し押さえ対象外の財産

差し押さえは、所有するすべての財産を対象とするわけではありません。

債務者が生活を送ったり仕事をしたりするために、最低限は必要とされる財産は処分されず、手元に残すことができます。

また、債務者本人の所有ではない家族の財産なども、差し押さえの対象にはなりません

差し押さえの対象とならない財産は以下のとおりです。

差押禁止動産 生活に欠くことができない衣服・寝具・家具・台所用具・畳・建具
債務者等の1か月間の生活で必要な食料・燃料
現金66万円まで(生活費2か月分として政令で定められた金額)
債務者の職業に応じて業務に欠くことのできない器具や物(農業従事者等の農器具など)
実印その他の印で職業または生活に必要なもの
仏像・位牌・礼拝・祭祀に必要な物
債務者に必要な系譜・日記・商業帳簿など
債務者やその親族が受けた勲章その他名誉を表章する物
債務者などの学校等における学習に必要な書類・器具
発明または著作に係る物で未公表のもの
債務者等に必要な義手・義足・身体補足に供する物
建物その他の工作物について災害防止または保安のため法令の規定で設備しなければならない消防用機械・器具・避難器具・その他の備品
差押禁止債権 給与・俸給・退職年金・賞与・退職金など(給与債権であれば4分の3相当が差押禁止・手取り額33万円超の場合は超える部分の差し押さえが可能・差し押さえ原因となった債権が養育費や婚姻費用などの場合は2分の1が差押禁止)
国民年金・厚生年金などの各種年金の受給権
生活保護受給権
児童手当受給権

差し押さえの流れ

ポストにいられた差押通知書

差し押さえは、未払いである対象が借金なのか、それとも税金かによって手続の「流れ」が異なります。

  1. 税金滞納の場合
  2. 税金以外の滞納の場合

それぞれの流れを説明します。

差し押さえとは?強制執行の流れや対象となる財産をわかりやすく解説

税金滞納の場合

税金滞納による財産の差し押さえは、税金以外の滞納よりも手続がはやく進みます。

納付期限を過ぎて20~30日以内に督促状が届き、10日経過すると給料の差し押さえが可能となります。

税金は、債務名義を取得しなくても実行できるため、突然財産を差し押さえられてしまう恐れがあると留意しておきましょう。

税金以外の滞納の場合

税金の場合は、債務名義の取得は不要とされているため、財産を差し押さえられるまでの時間は短めです。

対する税金以外の借金や養育費は、差し押さえまで以下の流れで手続が進みます。

  1. 債務名義の取得
  2. 執行文の付与
  3. 送達証明書の取得
  4. 差し押さえ命令の申立て
  5. 差し押さえ命令の発令

それぞれ説明します。

1.債務名義の取得

税金以外の差し押さえについては、債務名義が必ず必要です。

借金滞納で債権者が債務者に訴訟を提起した場合、通常であれば債権者の勝訴となるため、勝訴判決が確定すれば確定判決となり債務名義として認められます

養育費の場合は、離婚調停などで養育費の支払いに関することが調停調書に記載されていた場合、訴訟を起こさず債務名義とすることができます。

訴訟を起こした場合でも、仮執行宣言が付いていれば債務名義として認められます。

2.執行文の付与

税金以外の差し押さえについては、執行文の付与が必要です。

執行文とは、債務名義に強制執行できる効力が認められることを公的に証明する文書であり、債務名義の末尾に付記されます。

仮に裁判に勝訴しても、執行文がなければ差し押さえはできないため、確定判決の場合は裁判所書記官に執行文を付与してもらうことが必要です。

3.送達証明書の取得

税金以外の差し押さえについては、送達証明書を取得することが必要になります。

送達証明書とは、強制執行の前に債務者へ債務名義が送達されたことを証明する文書です。

差し押さえでは、前もって債務者に債務の内容を知らせて反論の機会を与えることが必要になるため、送達されたことの証明として必要とされています。

4.差し押さえ命令の申立て

税金以外の差し押さえについては、債務者の住所を管轄する裁判所に、差し押さえ命令の申立てが必要です。

債務名義・執行文・送達証明書を提出し、差し押さえ命令の申立てを行います。

5.差し押さえ命令の発令

税金以外の差し押さえについては、裁判所から債務者と、第三債務者に差し押さえ命令が発令されます。

たとえば給与の差し押さえで第三債務者に該当するのは、賃金を支払う義務のある勤務先です。

差し押さえ命令の発令により、債務者の勤務先である会社などは、差し押さえられた額の給与を債務者である従業員に支払うことはできなくなります。

差し押さえを回避する方法

家を競売に掛けようとする人と相談する人

財産を差し押さえられてしまうと、最低限の財産は手元に残すことができるとはいえ、生活を大きく変化させます。

差し押さえ前なら、債権者に交渉をして返済に関する合意を得ることで、回避できる可能性もあるでしょう。

支払わずに逃げ続けるのではなく、借りたお金は返す姿勢を見せ、誠実に対応することが必要です。

そのため財産の差し押さえを回避するのなら、以下の4つを検討しましょう。

  1. 債権者に相談する
  2. 一括返済する
  3. 差押禁止債権の範囲変更を申立てる
  4. 法的整理を申立てる

それぞれ説明します。

債権者に相談する

財産の差し押さえを回避するためにも、債権者にまずは返済について「相談」しましょう。

何らかの事情があり借金を返済できてはいないものの、返す意思があることを債権者に伝え、その後の返済について相談することが必要です。

税金の場合も、失業や病気などで納付できないなど、やむを得ない事情があれば原則1年以内の期間に限って猶予してもらえる可能性もあります。

1年以内の期間を設けて財産の換価を猶予してもらえる場合もあるため、放置するのではなくまずは相談しましょう。

一括返済する

財産の差し押さえを回避するためにも、たとえば借金返済の滞納が原因なら「一括返済」することが必要です。

返済期日を過ぎたことで、期限到来まで返済しなくてもよいとする「期限の利益」は喪失します。

そのため債権者に一括返済を求められることになりますが、残債の一部返済では差し押さえを止めることはできません。

支払うお金がないため差し押さえを迫られている状況であれば、現実的には厳しいと考えられるものの、一括返済すれば差し押さえは阻止できます。

差押禁止債権の範囲変更を申立てる

財産の差し押さえを回避するためにも、差押禁止債権の範囲変更を申立てましょう。

債務者と債権者の双方の生活状況などを考慮し、差し押さえが債務者に酷であると認められたときには、差押命令の全部または一部が取り消されます

法的整理を申立てる

財産の差し押さえを回避するためにも、法律に定められた手続に従って「法的整理」を申立てましょう。

債務の減額や免除、返済スケジュールの猶予などを法的に手続する方法であり、「再生型」と「清算型」の2種類に分けることができます。

再生型とは、会社を存続させて債務を整理し、経営を立て直す方法で、民事再生と会社更生が該当します。

清算型とは、債務を整理して最終的に会社の法人格を消滅させる手続で、破産と特別清算が該当します。

最終手段ともいえる手続となるため、会社を消滅させることのないように、手元の資金は枯渇させない体制をつくっておくことが必要です。

まとめ

差し押さえとは、借金の返済や税金の納付がない状態が続いたとき、債務者が本人の財産を勝手に処分できないようにする手続です。

強制的に財産を回収するため、競売の前段階の手続として実施されます。

財産を差し押さえられた場合、最低限の財産は手元に残すことはできても、その後の生活や事業には大きな影響を及ぼします。

売掛債権が差し押さえられた場合は、取引先の信用をなくし、再度事業を行う場合などにも取引に応じてもらえなくなる恐れがあります。

そのため財産を差し押さえられてしまう前に、支払条件の交渉やファクタリングなどを活用して手元の資金を増やし、回避できる状態をつくっておきましょう。