破産宣告とは?自己破産の流れやメリット・デメリットをわかりやすく解説

「破産宣告」とは、自己破産手続の開始を裁判所が認め、宣言することです。

借金などが返済できなくなったことにより、裁判所に自己破産を申立てたとき、その内容に問題がなければ破産手続開始決定が出されます。

申立人が破産条件に合っているのか審査し、合致していると認められれば破産手続開始を決定するという流れです。

以前はこの流れを「破産宣告」と言いましたが、現行法では「破産手続開始決定」という名称に変更されています。

そこで、破産宣告や自己破産の流れ、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。

破産宣告とは

「破産宣告」とは、自己破産の申立てに対し、裁判所が出す破産手続開始決定のことです。

自己破産の手続が開始されたことを、裁判所が決定・宣言します。

破産手続開始決定がなければ、自己破産を申立てたとしても、手続は進みません。

2005年に破産法が改正されたことで、従来まで「破産宣告」と呼ばれていた手続は、「破産手続開始決定」という呼び方に変わっています。

なお破産手続開始決定はあくまでも手続を始めることの宣言であるため、破産宣告があれば借金返済が免除されるわけではありません。

借金返済が免除されるためには、支払い義務を免除することを認める「免責」を許可してもらうことが必要です。

免責許可決定を受けてはじめて、債務から解放されます。

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破産宣告による破産手続開始決定の要件

裁判所に自己破産を申立て、破産宣言による破産手続開始決定に至るためには、以下の4つの「要件」を満たすことが必要です。

  1. 支払不能と認められる
  2. 借金が非免責債権だけではない
  3. 免責不許可事由に該当しない
  4. 破産障害事由に該当しない

それぞれどのような要件を満たす必要があるのか説明します。

支払不能と認められる

破産宣言による破産手続開始決定に至るためには、借金返済が継続できない「支払不能」と認められることが必要です。

借金を多く抱えていても、返済できる収入や財産があれば、破産宣告はされません。

客観的事実に基づき、裁判所が支払不能か判断するため、たとえば収入が一時的に減少している場合でも、収入が増える見込みがあるときや資産価値の高い財産を持っているときは認められないこともあります。

なお、法人は一定の収益が認められる場合でも、資産をすべて売っても負債を返済しきれない「債務超過」に陥っている状況において、破産宣告がされることはあります。

借金が非免責債権だけではない

破産宣言による破産手続開始決定に至るためには、支払不能となっている借金が「非免責債権」だけではないことが必要です。

非免責債権とは自己破産しても返済を免除してもらえない借金であるため、支払いが行き詰まっている借金が以下の非免責債権のみの場合、自己破産をしても意味がないといえます。

  • 税金
  • 国民健康保険料
  • 婚姻費用・養育費
  • 交通事故による人身損害賠償請求権(飲酒運転によるものなど)
  • 罰金
  • 従業員に対する給与(個人事業者の場合)
  • 裁判所に申告しなかった借金

免責不許可事由に該当しない

破産宣言による破産手続開始決定に至るためには、「免責不許可事由」に該当しないことも必要です。

免責不許可事由とは、裁判所が借金返済を免除することを認めない要件であり、以下のケースが該当します。

  • 債務者の財産を不当に減少させる(債権者への分配資金を減少させるなど)
  • 不当な債務負担(破産宣告を遅らせるためのヤミ金融からの借入れやクレジット現金化など)
  • 特定の債権者に利益がある支払い(特定の債権者を優先して借金を返済するなど)
  • 浪費やギャンブル目的の借入れ(博打や投資で多額の借金をするなど)
  • 詐術による信用取引(収入に見合わない借金をした数か月後に自己破産するなど)
  • 帳簿の隠蔽または偽造(業務や財産状況に関する帳簿などの隠蔽・偽造・変造など)
  • 債権者名簿の隠蔽(意図的に特定の債権者を載せないなど)
  • 裁判所への説明拒絶や虚偽の説明(裁判所の実施する調査で説明を拒んだり嘘の説明をしたりなど)
  • 管財業務の妨害行為(管財人を脅迫するなど不正な手段で職務を妨害するなど)
  • 過去7年以内の免責決定(過去7年以内に自己破産で免責を受けている場合)
  • 破産法上の義務違反(説明義務・重要財産開示義務・免責調査協力義務などへの違反行為)

上記の免責不許可事由に該当すると自己破産が認められないわけではないものの、免責許可が下りない恐れのある行動は慎むことが重要です。

破産障害事由に該当しない

破産宣言による破産手続開始決定に至るためには、手続を進めなくなってしまう「破産障害事由」に該当しないことが必要です。

破産障害事由とは、たとえば以下に該当する行為とされています。

  • 予納金の未払い
  • 自己破産の権利濫用
  • 自己破産以外の手続開始

破産宣告までの流れ

裁判所に自己破産を申立てて、破産宣告(破産手続開始決定)が出されるまでの流れは、主に以下の3つです。

  1. 自己破産の申立て
  2. 破産宣告による破産手続開始決定
  3. 免責許可による返済免除

それぞれの流れについて説明します。

1.自己破産の申立て

破産宣告(破産手続開始決定)が出されるまでの流れとして、まず裁判所に自己破産を「申立て」ることが必要です。

必要書類の収集・作成したら裁判所へ申立てを行います。

申立ての内容を裁判所が審査し、同時廃止と管財事件のどちらで手続を進めるのか決定されます。

2.破産宣告による破産手続開始決定

破産宣告(破産手続開始決定)が出されるまでの流れの2つ目は、自己破産申立ての内容に問題がない場合、「破産宣告(破産手続開始決定)」が出されることです。

破産開始決定後、同時廃止で手続を進める場合には、裁判官と免責審尋で面接を行います。

管財事件で手続を進める場合は、裁判所の選任した破産管財人が財産の管理・処分を行い、債権者集会などへ参加します。

自己破産は、以下の2つの手続で構成されています。

破産手続 破産者の財産を処分し債権者に分配する手続(債権者の権利保護を目的に行う)
免責手続 破産手続で残った債務の返済義務を免除する手続(債務者の救済措置を目的に行う)

3.免責許可による返済免除

破産宣告(破産手続開始決定)が出されるまでの流れの最後に、これまでの手続に不備や不正などがない場合は、「免責許可」により返済が免除されます。

免責許可により、多額の借金を抱えていたとしても返済義務はなくなります

なお、債務者が換価できる財産を所有していない場合、破産宣告(破産手続の開始決定)と同時に破産手続廃止(終了)となり、免責手続へとすぐに移行する「同時廃止」で処理されます。

破産宣告によるメリット

自己破産の申立てにより、破産宣告(破産手続開始決定)が出されることにより、以下の2つのメリットがあると考えられます。

  1. 督促・取り立ての停止
  2. 免責許可決定による返済免除

どのようなメリットがあるのかそれぞれ説明します。

督促・取り立ての停止

破産宣告によるメリットは、債権者からの督促や取り立てが「停止」することです。

手続を司法書士や弁護士に依頼した場合、債権者に「受任通知」が発送されます。

受任通知を受け取った債権者は、その後、債務者に直接返済請求できなくなるため、取り立てが一時的に止まります

また、債務者の財産管理は破産管財人が行うことになるため、督促や取り立てができなくなるともいえます。

免責許可決定による返済免除

破産宣告によるメリットは、免責許可が決定することにより、借金返済が「免除」されることです。

自己破産の最大のメリットともいえますが、破産宣告後、免責許可が認められれば抱えている借金の返済義務はなくなります

ただし、非免責債権など支払義務が免除されない債権については、支払いを続けることが必要です。

破産宣言によるデメリット

自己破産の申立てにより、破産宣告(破産手続開始決定)を受け、免責許可決定が出されれば最終的に借金返済が免除されることが最大のメリットです。

しかしデメリットとして、以下の8つには留意しておくことが必要といえます。

  1. 手続に費用がかかる財産
  2. 財産が処分される
  3. 保証人に迷惑をかける
  4. 引っ越しや旅行などの移動制限を受ける
  5. 郵便物を破産管財人に管理される
  6. 一部の資格や職業が制限される
  7. 官報に住所・氏名が掲載される
  8. 信用情報機関に事故情報が登録される

どのようなデメリットがあるのかそれぞれ説明します。

手続に費用がかかる

自己破産の申立てをする場合、手続を進めるにおいて以下の費用がかかります。

収入印紙
  • 1,500円(免責許可の申立てをしない場合は1,000円)
郵便切手
  • 管財事案:約6,000円(ただし債権者数または債務者数が20人を越える場合は追加が必要)
  • 同時廃止事案: 約5,000円(債権者数によって増減あり)
予納金
  • 管財事案:40万円以上(事案の内容によって増減あり)
  • 同時廃止事案: 約12,000円

なお、詳細は裁判所の破産受付係(TEL 052-205-1235)までお問い合わせしてみるとよいでしょう。

財産が処分される

破産宣言によるデメリットとして、所有する財産が「処分」されることが挙げられます。

裁判所の選んだ破産管財人により、財産は換価され債権者へ分配されるからです。

破産管財人が財産を管理するため、勝手に売却や譲渡できなくなりますが、99万円以下の現金や家具家電など生活に必要な最低限の財産は手元に残すことができます

保証人に迷惑をかける

破産宣言によるデメリットとして、「保証人」や連帯保証人に迷惑をかけることが挙げられます。

保証人や連帯保証人付きの借金がある状態で自己破産すると、債務者の代わりに保証人や連帯保証人が借金を返済する義務を負います

自己破産前に、保証人や連帯保証人に事情を説明しておくことも必要となるでしょう。

引っ越しや旅行などの移動制限を受ける

破産宣言によるデメリットとして、引っ越しや旅行などによる「移動」の制限を受けることが挙げられます。

管財事件で手続が進む場合、破産宣告から免責許可までは、裁判所の出頭命令にいつでも応じることが求められるため、許可なく居住地から離れることはできません。

やむを得ない事情であれば認められる可能性はあるとしても、娯楽の旅行や不要な引っ越しは許可してもらえないと考えられます。

郵便物を破産管財人に管理される

破産宣言によるデメリットとして、「郵便物」を破産管財人に管理されることが挙げられます。

管財事件で手続が進む場合、破産宣告から免責許可までに届いた郵便物は破産管財人へ転送されるため、自身で管理できません。

財産状況の確認や、財産隠しなどを防ぐことを目的として、破産管財人が転送された郵便物を開封・確認するためです。

なお、管理の対象は郵便物のみであり、宅配便などの荷物は対象に含まれません。

一部の資格や職業が制限される

破産宣言によるデメリットとして、破産宣告から免責許可までは一部の資格や職業が「制限」されることが挙げられます。

以下の資格や職業の場合、破産宣告(破産手続の開始決定)で一時的に資格を失うため、資格を活かした仕事はできなくなります

弁護士
司法書士
税理士
公認会計士
宅地建物取引士
不動産鑑定士
公証人
生命保険外交員(募集人)
警備員
など

ただし免責許可が決定すれば、制限は解除されるため通常通り業務が可能です。

以下の仕事については、自己破産で失職や罷免になることも理解しておきましょう。

会社役員
団体理事
人事官
教育委員会の委員
公安審査委員会の委員
公正取引委員会の委員
など

官報に住所・氏名が掲載される

破産宣言によるデメリットとして、「官報」に住所や氏名が掲載されることが挙げられます。

官報とは、政府や各府省の発表する公文・公告を掲載する国の機関紙です。

免責許可が決定したときにも、再度、官報に掲載されます。

一般の方が官報を確認することはなく、主に以下の団体や仕事関係の方が閲覧することが多いといえるでしょう。

  • 士業(弁護士や司法書士など)
  • 金融業者・貸金業者
  • 保険会社
  • 信用情報機関の関係者
  • 市区町村の税務担当者
  • 警備会社
  • 名簿業者
    など

信用情報機関に事故情報が登録される

破産宣言によるデメリットとして、信用情報機関に「事故情報」が登録されることが挙げられます。

「ブラックリスト」と呼ばれる状態となるため、7年程度はクレジットカードの使用・作成や、ローンの利用などはできなくなります

ただ、破産宣告前でも借金返済を滞納している時点で、すでにブラックリストに載っていると考えられるでしょう。

破産宣告のポイント

自己破産を申立て、破産宣告に至るためには、次のポイントを押さえた上で手続をしましょう。

  • 偏頗弁済に該当することをしない
  • 財産を勝手に処分しない
  • 手続によるデメリットを理解しておく
  • 早めに専門家に相談する

自己破産の手続完了まで、何度目の自己破産なのか、所有する財産の状況などによって異なるものの、かかる期間の目安は以下のとおりです。

専門家へ相談し裁判所に申立てるまでの期間 約2~3か月
破産宣告(破産手続開始決定)から免責許可決定までの期間 約3か月~1年

自己破産はすぐに裁判所に申立てできるわけではなく、必要書類を揃えるなど準備に時間がかかります。

また、手続も複雑であるため、できる限り専門家に相談して進めがほうがよいでしょう。

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まとめ

借金を返済できなくなったとき、裁判所に自己破産を申立てた後、破産宣告から本格的な手続がスタートします。

ただし破産宣告はあくまでも破産手続が開始されることの宣言であるため、免責許可が決定しなければ返済は免除されません。

なお、法人の破産手続において、代表者の人的保証付きの借入れがあれば、返済義務は代表者へ移行されます。

そのため法人と代表者が同時に破産手続を開始するケースが多いといえるため、借金返済が困難となるよりも前に資金繰りを改善することなどが重要です。

早期に経営コンサルタントに相談するなど、資金繰りを改善できる方法はないか検討することをおすすめします。