電子記録債権とは、手形や売掛債権などの問題を克服した金銭債権です。
紙媒体の手形を振り出す場合、面倒な事務手続を経て印紙税や搬送代などの費用も発生します。
しかし電子記録債権はペーパーレス化されるため、事務手続を軽減させるだけでなくコストも節約できます。
そこで、電子記録債権について、手形との違いやメリット・デメリットを徹底解説していきます。
目次
電子記録債権とは
「電子記録債権」とは、電子債権記録機関に電子記録することにより、発生・譲渡などの効力が発生する金銭債権です。
電子債権記録機関とは、利用者の請求に基づき、電子記録や権利内容を開示することなどを業務とする電子記録債権における「登記所」のような存在といえます。
ただし、一般的な法務局で管理されている不動産登記簿や商業登記簿とは違い、開示権限者は利害関係者と金融機関のみと決められています。
そのため取引内容を第三者に知られることはありません。
手形債権との違い
「手形債権」とは、債務者(振出人)が債権者(受取人)に紙媒体の手形を振り出し、交付することで発生する債権です。
手形取引では、債務者(振出人)と債権者(受取人)の間で手形を使った支払いに対する合意のもと、手形券面作成などの振出行為は債務者の単独行為として行われます。
手形をペーパーレス化したものが電子記録債権です。
でんさいネットとは
「でんさい」とは、株式会社全銀電子債権ネットワークの運営する電子記録債権の通称です。
「でんさいネット」とは、インターネットなどから金融機関システムを通じて取り扱うでんさいを記録・管理するネットワークです。
全国の金融機関が参加する電子記録債権で取引する決済インフラといえるでしょう。
でんさいネットの特徴は以下のとおりです。
手形的利用 | 中小企業の資金調達円滑化に資する現行の手形と同様の利用方法を採用。また、手形の取引停止処分制度との類似制度を整備。 |
全銀行参加型 | 銀行の信頼・安心ネットワークのもと全銀行参加型を採用。既存の銀行間の決済システム利用で確実に資金回収が可能。 |
間接アクセス方式 | 金融機関を経由しアクセスする方式で、現在利用している取引金融機関をそのまま利用でき、安心したサービス利用が可能。金融機関の創意工夫により、ニーズにあったサービスの提供。 |
電子記録債権の流れ
電子記録債権を利用する流れは、主に次の2つです。
- 支払業者Aが、納入業者Bへでんさいで支払うケース
- 支払業者Bが、Aから受け取ったでんさい譲渡により納入業者Cへ支払うケース
それぞれ説明します。
支払業者Aが、納入業者Bへでんさいで支払うケース
支払業者Aが、納入業者Bへ商品代金をでんさいで支払う流れは以下のとおりです。
- 支払業者Aが自社取引金融機関を通じ、でんさいの発生記録請求
- でんさいネットの記録原簿への発生記録
- 納入業者Bの取引金融機関を通じ、納入業者Bへでんさいの発生記録通知
- 支払期日に支払業者Aの口座から自動送金
また、納入業者BがAから受取ったでんさいを割引し、期日前に現金化する流れは以下のとおりです。
- 納入業者Bが支払業者Aから受け取ったでんさいをBの取引金融機関へ割引申込
- 取引金融機関が割引実行しB社へ入金
支払業者Bが、Aから受け取ったでんさい譲渡により納入業者Cへ支払うケース
支払業者Bが、Aから受け取ったでんさいを納入業者Cへ譲渡し、支払う流れは以下のとおりです。
- 支払業者B社の取引金融機関を通じ、でんさいの譲渡記録請求
- でんさいネットの記録原簿への譲渡記録
- 納入業者Cの取引金融機関を通じ、Cにでんさいの譲渡記録を通知
- 支払期日にAの口座から自動送金
なお、でんさいは分割による譲渡も可能であり、譲渡記録には手形裏書同様の遡及権があります。
電子記録債権のメリット
電子記録債権を利用するメリットは、次の2つの立場によって異なります。
- 債務者(支払業者)
- 債権者(納入業者)
それぞれ説明します。
債務者(支払業者)
支払業者は、商品などの発注先である納入業者へ、代金を支払うことが必要である立場といえます。
そのため支払業者は債務者の立場となり、納入業者は債権者です。
電子記録債権(でんさい)では、手形取引における振出人が債務者であり、受取人が債権者なります。
上記を踏まえた上で、債務者(支払業者)が電記録債権を利用するメリットは次の2つといえます。
- 事務負担が軽減される
- 税負担を抑えられる
それぞれのメリットについて説明します。
事務負担が軽減される
電子記録債権を利用すれば、手形の発行・振込における準備や、支払いに関する面倒な手続や手形搬送などもなくなります。
振込・一括決済などの手続が一本化されるため、事務的な業務を効率化できるでしょう。
複数の決済手段をでんさいに切り替えることで、決済すべてをオンライン上で完結させることができ、業務フロー効率化につながります。
税負担を抑えられる
電子記録債権を利用すれば、印紙税は課税されません。
取引先への郵送の手間やコストも削減できるため、税負担だけでなく費用負担も抑えることができます。
債権者(納入業者)
電子記録債権(でんさい)の受取人が債権者(納入業者)であり、取引におけるメリットは次の6つです。
- 事務負担が軽減される
- 管理コストを削減できる
- 盗難リスクを抑えられる
- 分割譲渡できる
- 二重譲渡を防げる
- 資金繰りが円滑化される
それぞれのメリットについて簡単に説明します。
事務負担が軽減される
電子記録債権を利用することで、事務負担を軽減させることができます。
支払期日には取引銀行の口座に自動入金されるため、面倒な取立てなど不要であり、入金当日から資金を利用することが可能です。
管理コストを削減できる
電子記録債権を利用することで、手形取引における管理コストを削減できます。
紙媒体からペーパーレス化されることで紛失や盗難のリスクはなくなるため、厳重な保管や管理の必要もなくなり、管理コストも削減されます。
盗難リスクを抑えられる
電子記録債権を利用することで、現物の手形を扱わないため、盗難や紛失のリスクを抑えることができます。
紙媒体では、厳重に管理・保管しなければ紛失や盗難する心配があります。
しかし電子記録債権はペーパーレス化されるため、紛失や盗難の心配はありません。
分割譲渡できる
電子記録債権を利用することで、必要分のみ分けて譲渡・割引などに活用することができます。
紙媒体の手形では分割譲渡することはできないのため、でんさい特有の大きなメリットともいえるでしょう。
二重譲渡を防げる
電子記録債権を利用することで、債権の二重譲渡を防ぐことができます。
売掛債権では、債権譲渡登記など活用しなければ、架空債権売却や売却済みの債権を二重譲渡されるリスクがあります。
しかし電子記録債権では二重譲渡などのリスクを避けることができます。
資金繰りが円滑化される
電子記録債権を利用することで、支払期日に自動入金されるため、資金繰りを円滑化させることができます。
支払期日に自動的に入金されるため、当日に割引活用することや、手形のように裏書譲渡することも可能です。
必要な分だけ分割譲渡もできるため、活用により資金繰りが円滑されることが期待できます。
電子記録債権のデメリット
電子記録債権は、紙媒体の手形と異なり、現物による扱いがないため紛失や盗難のリスクがありません。
震災などにおける物流停滞などの影響を受けないため、地震や豪雨など自然災害の多く発生する日本では、今後さらに安全性や確実性の高さから注目されることになるでしょう。
ただし電子記録債権の利用においては、次の4つのデメリットに留意しておく必要があります。
- 双方が利用者でなければならない
- 審査のハードルが高い
- 手数料が発生する
- 不渡りで買い戻さなければならない
それぞれのデメリットについて説明します。
双方が利用者でなければならない
電子記録債権を利用する場合、債務者と債権者のどちらもでんさいネットに加盟し、利用者でなければなりません。
いずれか一方のみが利用登録していても取引できないため、電子記録債権を使いたい旨を取引相手に説明し、登録してもらうことが必要です。
しかし中小企業の経営者などは高齢化が進んでいるため、インターネットによる取引を避けがちであり、快く応じてくれない場合もあると考えられます。
審査のハードルが高い
電子記録債権を利用する場合、難易度の高い審査をクリアすることが必要です。
利用における審査は、債権の信用力だけでなく、利用者の財務状況や経営状態なども対象となります。
そのため信用力が低下している状態では審査に通らず、利用できない可能性があると考えられます。
手数料が発生する
電子記録債権を利用する場合、1.5~5%程度が相場の手数料がかかります。
また、保有する債権すべてをでんさいに切り替えずに、一部のみ利用とした場合は、支払手段が複数化するため管理コストを増やすことになりかねません。
不渡りで買戻さなければならない
電子記録債権を利用する場合、万一不渡りとなり決済されなかったときには、手形を買い戻さなければなりません。
売掛債権を使うファクタリングなら、売掛先が倒産し売掛金を回収できなかったとしても、その責任を利用者が負う必要はないといえます。
しかし電子記録債権は、不渡りでの責任を負うことになるため、実際に決済されるまで安心できない取引になると留意しておく必要があります。
ファクタリングと電子記録債権の違いとは?メリット・デメリットを徹底解説
まとめ
電子記録債権は、紙媒体の手形と違い、電子債権記録機関に電子記録することで発生・譲渡できる金銭債権です。
でんさいネットで利用できる電子記録債権がでんさいであり、事務負担やコスト、紛失や盗難のリスクなど軽減できるメリットもあります。
しかし債務者と債権者のどちらも利用登録していなければ活用できないことや、貸し倒れリスクは回避できないことはデメリットです。
メリットとデメリットを踏まえた上で、導入するべきか判断しましょう。