減資とは、株主から集めた資本金を減少させることです。
財務状況を改善させるために行う手続といえますが、減資することによるデメリットには注意が必要です。
たとえば利益が十分の会社なら、利益剰余金から株主への配当金を支払うことができます。
しかし赤字続きの会社では、利益剰余金がマイナスの財務状況であるため、配当に充てる財源を捻出するために減資が行われます。
近年では、事業規模に資本が見合うように減資することもありますが、具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょう。
そこで、減資とはどのような手続なのか、有償・無償の違いやメリット・デメリットについてわかりやすく解説していきます。
目次
減資とは
「減資」とは資本金を減少させる手続です。
「資本金」とは、出資者から払い込まれた返済義務を負わないお金であり、企業の安定性や信頼性をあらわす指標でもあります。
会社は株主から資金を集め、運用して経済活動を行います。
会社設立や事業運営で資金が必要な場合、金融機関など外部から資金を調達しますが、その中で株主から集めた資金が「資本金」です。
減資では資本金を減少させるものの、あくまでも帳簿上の動きであるため、実際に発行済株式数を減少させるわけではありません。
減資の流れ
減資は、効力が発生する2か月前を目安に、手続をはじめます。
ただし、株主全員から同意を得ることができない場合や書面または電磁的方法での行使ができるなど、株主総会の収集手続の省略ができない場合は、さらにはやいタイミングから準備が必要です。
その上で、減資は次の4つの流れで手続を進めていきます。
- 株主総会(特別決議)
- 債権者保護手続
- 効力の発生
- 登記の申請
流れごとの手続について説明していきます。
①株主総会(特別決議)
減資は資本金を減少させる手続であるため、原則。株主総会の特別決議を必要とします。
発行済み株式総数の過半数を有している株主が株主総会に出席し、議決権の3分の2以上の賛成により決定されます。
株主総会では、以下の事項を決議します。
- 減少する資本金の額
- 減額する資本金の額の全部または一部を資本準備金とする場合のその旨と準備金する額
- 減資の効力発生日
ただし、定時株主総会で減資を決議し、減資する額が欠損金額を超えない場合は、普通決議の承認で問題ないとされています。
②債権者保護手続
減資では、債権者保護手続も必要とされています。
債権者保護手続とは、会社の債権者の利益を守ることを目的として、異議を述べる機会を与えることです。
具体的には、次の2つを行います。
- 官報への公告
- 債権者に対する個別の催告
それぞれ説明していきます。
官報への公告
官報には、会社の債権者が資本金の額が減少することに対して異議を申し出ることができるように、1か月以上の異議申出期間を定めて次の3つの事項を公告することが必要です。
- 資本金等の額が減少する内容
- 会社の計算書類に関する事項
- 債権者が一定期間内に異議を申し出ることを可能とする旨
債権者に対する個別の催告
知れたる債権者に対する個別の催告は、官報への公告とは別途行います。
この「知れたる債権者」とは、金額の大小にかかわらず、会社に対するすべての債権者です。
ただし実務上は、日常生活による通信費や光熱費など、軽微なものは個別催告の必要はないとも考えられますが、ケースバイケースで判断が必要といえます。
実務上は少額の債権者には個別催告しないことが多いといえますが、どのくらいの額であれば少額と判断するのかについては、会社がある程度自由に判断して決定します。
また、給料債権や賃料債権なども、特に支払いを遅滞しているといった特別な事情がなければ債権者には含みません。
③効力の発生
減資の効力は、株主総会で定められた「効力」発生日までに債権者保護手続を完成させなければ発生しません。
債権者保護手続期間中に異議を申し出た債権者がいなかった場合、株主総会で定めた効力発生日に減資の効力が発生することになります。
なお、債権者保護手続が完了しなかった場合、株主総会で定められた効力発生日前であれば、効力発生日を変更できます。
④登記の申請
減資の効力発生日から2週間以内に、法務局で資本金の額を変更する「登記」を行います。
登記申請で必要となる書類は以下のとおりです。
- 株主総会議事録(株主総会で決議した場合)
- 取締役会議事録(取締役会で決議した場合)
- 株主リスト(株主の氏名または名称・住所・議決権数などを証する書面)
- 一定の欠損額が存在することを証する書面(定時株主総会で普通決議した場合)
- 公告したことを証する書面
- 個別催告したことを証する書面(債権者に個別催告した場合)
- 公告したことを証する書面(官報の他、電子公告や日刊新聞への掲載した場合)
ただし異議を申し出た債権者がいた場合には、債権者の異議申立書及び弁済金受領証書・担保提供書または信託証書で、以下の書面の代替えとします。
- 弁済したことを証する書面
- 担保権を設定したことを証する書面
- 信託したことを証する書面
- 異議を述べた債権者に損害をあたえるおそれがないことを証する書面
異議を述べた債権者がいなければ、登記申請書に「異議を述べた債権者はない」と記載しましょう。
登記手続は、申請書を提出して1週間から10日程度で完了します。
有償減資とは
減資には、次の2つの種類があります。
- 有償減資
- 無償減資
このうち、「有償減資」は実際に資金が減少する減資です。
純財産の一部を株主へ返還し、会社の資本金を減額させる手続であるため、そもそも株主に財産を払い戻す目的で実施されます。
上場企業でない場合には、「節税」目的で行う場合もあり、手続により生じた剰余金を株主へ支払います。
有償減資について、次の2つをそれぞれ説明していきます。
- 有償減資のメリット
- 有償減資のデメリット
有償減資のメリット
有償減資のメリットは、利益が出ていなくても、利益剰余金を捻出することによって株主に配当できることです。
株主が出資するのは、会社の成長に期待しているからといえます。
配当という形で還元されるからこそ、利益が出ていることを確認でき、さらに会社の成長に向けて出資を検討します。
しかし利益が出ずに無配当だった場合、株主との関係に不穏な空気が流れる可能性も否定できません。
利益が出ておらず、本来であれば支払うことのできない配当も、減資による剰余金からであれば可能です。
有償減資のデメリット
有償減資のデメリットは、資本を減少させる手続のため、財産が減ってしまうことです。
会社は株主の出資したお金で経済活動や資産購入など、収益を生み出すための投資を行います。
しかし財産が減ってしまうと、経済活動や将来に向けた投資に充てるお金が減少することなります。
会社の成長スピードが遅くなることや、収益を生み出せなくなる可能性があることはデメリットといえるでしょう。
無償減資とは
「無償減資」とは、有償減資と異なり、資金が減少しない減資です。
資本金を取り崩して欠損金の補填に充てるため、主に欠損補填による経営の立て直しと、節税を目的として実施します。
無償減資について、次の2つをそれぞれ説明していきます。
- 無償減資のメリット
- 無償減資のデメリット
無償減資のメリット
無償減資のメリットは、経営の立て直しと節税が可能であることです。
赤字経営が続いた場合、財務諸表上には欠損金が溜まってしまいます。
欠損金があれば銀行融資の審査に通らなくなる可能性が高いといえますが、黒字化して解消するか資本金の取り崩しで補填するしか消す方法はありません。
このような場合でも、無償減資により、実際の資産状況は変わらないままで欠損金を減らすことができます。
また、法人の場合、資本金の額などによって、利益は同じでも納める税額が変わります。
資本金が少ない方が税制面で優遇措置を受けやすくなるといえるため、減資により資本金を減らすことで、節税につながる可能性があるといえます。
無償減資のデメリット
無償減資のデメリットは、資本金が減少することで信用力が低下するおそれがあることです。
会社経営において、資本金の額が大きい方が、社会的な信用力は高くなります。
現在、資本金1円でも会社を設立することはできます。
しかし少ない資本金の会社は、形式上のみのペーパーカンパニーと懸念される傾向も高くなり、資本金の多さは信用力につながります。
そのため無償減資で資本金を減少させれば、信用力低下により、銀行融資を受けることができなくなったり条件が厳しくなったりなど、デメリットが出てくるでしょう。
また、新規取引先との契約においても、与信管理で厳しい目を向けられる可能性があります。
特に中小企業では、資本金の額が大きいほど信用が高まる傾向にあるため、無償減資で資本金を減少させ過ぎないようにしてください。
100%減資とは
「100%減資」とは、財務的困難に陥った企業が無償減資するとき、発行済み株式すべてを消却することです。
会社法が施行されるまでは、株式を株主の手元に置いたままで消去する「強制消却」で、すべての発行済み株式を消却することによって減資していました。
しかし現在は、強制消却ではなく「株式の消却」と「資本の減少」の個別手続へ区分されています。
そのため、100%減資のためには、発行済み株式すべてを全部取得条項付種類株式へ変更した上で無償により取得する手続が行われています。
100%減資について、次の2つをそれぞれ説明していきます。
- 100%減資のメリット
- 100%減資のデメリット
100%減資のメリット
100%減資は、第三者割当増資とセットで行うことで、企業再建の手段として使えることがメリットです。
会社更生手続や民事再生手続では、債務超過の会社を再建させるために、既存株主の保有している株式をすべてゼロにして、新たに株式を割り当てて出資してもらいます。
この100%減資で全部取得条項付種類株式を利用すれば、株主総会の特別決議により同様の効果を達成することができます。
100%減資のデメリット
100%減資は、一旦、既存株主の保有株式をゼロにして、地位を消滅させます。
企業の株式を引き続き保有していた場合、経営再建で優良企業になったときには、配当で利益を得ることができた可能性もあるでしょう。
しかし株主の権利や地位を奪うことで、利益を得る可能性や機会を消滅させてしまうことがデメリットといえます。
なお、「100%減資」という言葉自体、会社法制定後の現在では古い手法をあらわす言葉になっています。
ただ、株主の全面入れ替えを意味する言葉として、使われることが多いようです。
まとめ
減資とは、企業の資本金を減少させる手続です。
累積赤字の補てんや株主への配当、節税などを理由に行う手続であり、有償減資・無償減資・100%減資の3つの種類が存在します。
減資の目的によってどの種類の手続を行うか異なりますが、それぞれメリットやデメリット、活用されるシーンなども違いがあります。
減資は効力発生日の2か月前から手続に取りかかることが一般的といえるものの、株主総会の招集手続を省略できないときなどは、さらに早い段階での準備が求められます。