退職日と社会保険料の関係|月の途中と月末との違いや徴収の有無を解説

社会保険料は、月の途中や月末など、退職したタイミングによって徴収の有無などが変わってきます。

退職日によって、いつまでの社会保険料を給与から差し引くのか、必要な手続など把握しておかなければ後々の処理が面倒になる恐れもあります。

特に給与計算において、月の途中で退職したときと月末とでは社会保険料の控除方法などが変わるため、しっかり理解しておくことが必要です。

そこで、退職日と社会保険料の関係について、月の途中と月末との違いや控除の有無を解説します。

月の途中の退職における社会保険料の扱い

社会保険料のアイコン

従業員が月の途中で退職した場合は、退職する日までの社会保険料を日割りで差し引くべきなのか、その際の計算方法はどうすればよいのか迷いがちです。

しかし月の途中で従業員が退職しても、社会保険料の徴収ルールは、月単位で前月分を当月給与から差し引くこととされています。

社会保険料の納付を必要とする期間は、被保険者となった月から被保険者が資格喪失した月の前月までです。

退職日の翌日が属する月の前月までを徴収する必要があるため、退職月である当月分の社会保険料は給与から差し引かないように注意しましょう。

たとえば11月20日付で退職した場合、10月分の社会保険料は11月の給与から徴収する
ものの、11月分の社会保険料は差し引く必要はありません。

まとめて2か月分の社会保険料を徴収しないようにしてください。

退職日と社会保険料の関係

社会保険とは、主に以下の5つの保険に対する保険料です。

健康保険 従業員とその扶養家族のケガや病気、出産で必要な医療費を補償する健康保険制度
介護保険 要支援認定や要介護認定を受けた方が介護サービスを利用できる介護保険制度
厚生年金保険 老後の生活を補償する年金制度
雇用保険 労働者の雇用や生活の安定を補償するための雇用保険制度
労災保険 就業中の事故によるケガや病気を対象とした労働災害保険制度

会社員などが勤務先から給与を受け取るとき、社会保険料は事業者と労働者が以下の割合で負担します。

健康保険料 事業者と労働者で折半
介護保険料 事業者と労働者で折半
厚生年金保険料 事業者と労働者で折半
雇用保険料 事業者と労働者がそれぞれ負担(事業者の負担割合のほうが大きい)
労災保険料 全額事業者の負担

社会保険は退職日まで有効であるため、資格喪失日は退職日翌日です。

社会保険料は日割りではなく月割りによる計算となるため、社会保険加入による資格取得日の月から、退職日翌日の資格喪失日の月の前月までを給与から差し引きます。

退職日が月の途中であれば、当月の社会保険料の支払いはなく、前月分を当月給与から天引きされて支払います。

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退職するタイミングごとの社会保険料徴収の有無

健康保険証

社会保険料は、被保険者の資格喪失日の属する月の前月までを従業員の給与から差し引きます。

また、社会保険の資格喪失日は退職日ではなく、「退職日の翌日」です。

上記を踏まえた上で、以下の退職するタイミングごとの社会保険料徴収の有無について説明します。

  1. 月の途中の退職
  2. 月末1日前の退職
  3. 月末の退職

月の途中の退職

月の途中で退職した場合は、社会保険の資格喪失日の前月分までの社会保険料を給与から徴収します。

そのため退職日の属する当月分の社会保険料は差し引く必要はありません。

たとえば退職日が11月15日であれば、資格喪失日は11月16日です。

この場合、11月分の社会保険料は徴収せず、10月分までを給与から差し引きます。

月末1日前の退職

月末1日前の退職の場合、退職日の属する当月分の社会保険料の徴収はありません。

差し引くのは前月分までの社会保険料です。

たとえば11月29日が退職日であれば、資格喪失日は11月30日のため、資格喪失月となる11月分の保険料は発生しません。

10月分までの社会保険料を従業員の給与から徴収します。

月末の退職

月末の退職の場合、資格喪失日の属する当月分の社会保険料を従業員の給与から徴収します。

たとえば10月31日に退職すると、翌日11月1日に社会保険の被保険者としての資格を失います。

資格喪失日の属する月は社会保険料の負担がないため、11月分の社会保険料は控除する必要はありません。

しかし、退職日を含む10月分の社会保険料は徴収が必要です。

社会保険料は一般的に当月分を翌月給与から差し引くため、月末退職の場合において給与支払いのタイミングでは2か月分の社会保険料を給与から差し引くことになります。

退職日を含む月と前月分を退職月の給与から差し引くため、「月末締め翌月10日払い」の給与で、10月分の給与が11月に支払われるときには10月分の社会保険料を11月支払いの給与から徴収します。

しかし「月末締め当月25日払い」の場合は、締日と支払いの月が同じであるため、11月に支払う給与は発生せず、9月分と10月分の2か月分の社会保険料を退職月の10月支払いの給与から徴収することになります。

退職と社会保険料徴収に関する注意点

社会保障制度

従業員の退職における社会保険料の徴収について、以下の5つに注意しましょう。

  1. 月割で計算する
  2. 月の途中は損をする場合がある
  3. 扶養に入るなら月の途中のほうが得
  4. 賞与も徴収対象となる
  5. 入社月の退職も徴収対象となる

それぞれ説明します。

月割で計算する

社会保険料は、日割りではなく月割りで計算します。

被保険者になった月から、被保険者でなくなった月の前月までの社会保険料を従業員の給与から徴収するため、月の途中で退職しても退職日を含む月の社会保険料は差し引きません。

月の途中は損をする場合がある

月の途中で退職した場合、社会保険料の負担が増えてしまう恐れがあります。

退職した後で国民健康保険や国民年金へ加入するとき、自身で負担する保険料と勤務先から徴収される保険料のどちらが高いのか比較してみましょう。

退職後の健康保険を任意継続する場合、月の途中で退職すると前月分の半分は勤務先が負担します。

しかし退職すれば勤務先が半分を負担する必要はなくなるため、当月分から全額自己負担することが必要です。

月末に退職すれば勤務先が半分は負担するため、月の途中よりも月末に退職したほうが負担は軽減されます。

  • 11月末退職の場合は、10月分と11月分の社会保険料を勤務先と本人が半分ずつ負担する
  • 11月の途中で退職の場合は、10月分は勤務先と本人が半分ずつ負担し、11月分は全額自己負担する

また、月の途中で退職すると、厚生年金の積み上げが1か月分少なくなるため、将来受け取る年金も減ってしまう可能性があることは留意しておきましょう。

扶養に入るなら月の途中のほうが得

退職後に、家族の扶養へ入るケースもあるといえますが、この場合は健康保険の負担はなくなります。

たとえば配偶者が第3号被保険者になった場合、国民年金の支払い義務もありません。

退職日が月末または月の途中など月末以外に関係なく、扶養に入ったときから保険料負担はなくなるため、月末以外の月の途中などで退職したほうが負担額を抑えられるでしょう。

  • 11月末に退職した場合は、10月分と11月分を勤務先と本人が半分ずつ負担する
  • 11月の途中で退職した場合は、10月分は勤務先と本人が半分ずつ負担し、11月分は負担なし

月の途中で退職すると11月分の社会保険料の負担がなくなるため、11月末退職よりも納める社会保険料は少なくなります。

賞与も徴収対象となる

社会保険料は、賞与も徴収の対象です。

ただし賞与を受け取った月の月末から前に退職したときには、社会保険料の控除はありません。

たとえば6月15日に賞与が支給され、6月20日に退職するときには、社会保険料の徴収は不要です。

しかし6月末に退職するときには、賞与から社会保険料を徴収します。

退職月に賞与を受け取っていたときも資格喪失日(退職日の翌日)を基準として徴収の有無を判断するため、賞与を支払い日除くする月の途中で退職したのなら、退職月の社会保険料は発生しません。

月末に退職すると資格喪失日は退職日翌日(翌月の1日)であるため、賞与から社会保険料を差し引くことが必要です。

賞与も社会保険料の対象?計算方法や差し引かないケースをわかりやすく解説

入社月の退職も徴収対象となる

入社月に退職した場合でも、給与から健康保険と厚生年金保険を差し引きます。

仮に入社月に退職し、同じ月に新しく厚生年金や国民年金に加入すれば、二重に年金保険料を負担しなければなりません。

新たに加入した年金保険の適応により、退職した勤務先の厚生年金保険料の負担は不要となるため、給与から徴収した厚生年金保険料は元従業員に返還することが必要になります。

退職日以降に加入する保険の種類

勤務先を離れ、新たな職場で働くときには、次の勤務先で社会保険に加入することになるでしょう。

月の途中や月末など、退職したタイミングに関係なく加入できます。

たとえば11月15日に退職し、次の日11月16日から次の勤務先で働くときには、10月分の社会保険料は前勤務先で支払い、11月分は新しい勤務先で支払われる給与から徴収されます。

しかし11月16日以降、次に働く転職先が決まっていないときは、国民健康保険や国民年金保険へ加入して11月分を自己負担することが必要です。

そのため転職先の決まっていない中で前勤務先を退職したときには、以下の2つの手続を退職者自身で行います。

  1. 健康保険
  2. 年金

それぞれ説明します。

健康保険

退職した後に、新たな勤務先が決まっていなければ、以下のいずれかの健康保険に本人で加入することが必要です。

任意継続 退職後は最大2年間に渡り、退職前に加入していた勤務先の健康保険の被保険者として継続できる
国民健康保険 他の医療保険制度(被用者保険・後期高齢者医療制度)に加入されていない全ての住民の方を対象とした医療保険制度へ加入する
被扶養者 家族の扶養に入り被扶養者になる

年金

退職した後に、新たな勤務先が決まっていなければ、国民年金へ加入することが必要です。

国民年金は、基礎年金ともいわれており、国民皆年金制度によって20歳以上60歳未満の人が加入しなければならない公的年金とされています。

会社員など雇用されている方や、公務員、被扶養者以外の20歳以上60歳未満であれば、市区町村や年金事務所で本人が手続し加入しなければなりません。

社会保険の切り替え期限(労働者)

社会保険被保険者資格喪失届

退職した後に次の勤務先で働くまでの空白期間がある場合や、個人事業主で会社勤めではなくなるときは、保険を切り替えることが必要です。

保険の切り替えは本人が手続することになるものの、以下の期限が設定されているため注意してください。

任意継続保険 退職日の翌日から20日以内
国民健康保険 資格喪失日から14日以内
国民年金保険 資格喪失日から14日以内

期限を過ぎると延滞金などが発生する恐れがあるため、すみやかに加入手続を行いましょう。

なお、加入する保険により負担する保険料は異なり、収入・家族構成・住んでいる地域などで負担する保険料は変動します。

前もってどのくらいの保険料を負担する必要があるのか、健康保険を任意継続するべきか国民健康保険へ加入したほうがよいのか確認しておきましょう。

なお、具体的な保険料は住まいの市区町村の公式サイトに計算方法など掲載されていることが多いため、負担する保険料を試算しておくと選びやすいといえます。

退職後の社会保険の資格喪失手続(事業者)

従業員が退職したときは、退職日翌日から5日以内に事業所管轄の年金事務所で、社会保険の資格喪失手続を行います。

年金事務所では、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出しますが、たとえば協会けんぽでは本人から回収した「健康保険被保険者証」を添付します。

また、「高齢受給者証」や「健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証」などの交付がある場合も添付が必要です。

健康保険証を紛失しているなどの理由で添付できないときは、「健康保険被保険者証回収不能届」を提出してください。

「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出すると、後日「健康保険被保険者資格喪失確認通知書」が届きます。

退職した従業員が次の勤務先が決まっていないときや、一旦は国民健康保険に加入するときには、届いた「健康保険資格喪失証明書」が必要です。

「健康保険資格喪失証明書」は会社が任意の書式で作成する証明書であるため、退職した従業員に発行して渡すようにしてください。

協会けんぽでは、国民健康保険加入における資格喪失日の証明書類として、退職者本人が「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認請求書」を提出して「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認通知書」の交付してもらうこともできます。

日本年金機構の公式ホームページ内にある「国民健康保険等に加入するため、健康保険の資格喪失証明等が必要になったとき」を参考にしてください。

また、日本年金機構の公式ホームページ内、「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」にも詳しい記載があるため参考にすることをおすすめします。

まとめ

従業員が月の途中で退職したとき、社会保険料は退職した日の属する月分は発生しません。

退職日の属する月の前月分の社会保険料は、給与から徴収されます。

しかし月末に退職したときは、資格喪失日が翌月1日になるため社会保険料の徴収が必要になります。

月末に退職する場合は、給与の締日と支払日により2か月分まとめて社会保険料を支払わなければならない恐れもあるため注意してください。

社会保険料の徴収額などを間違えてしまうと、後日元従業員に返還することが必要になることもあるため、退職日と社会保険料の関係などを理解しておくことが必要です。

退職した後で次の勤務先への転職が決まっているのか、家族の扶養に入るのかなどによって国民健康保険などへの切り替えの必要性も異なるため、適切な処理を行うようにしてください。