契約書と印鑑ルールとは?必要性や種類・タイミングをわかりやすく解説

契約書に印鑑を使用する理由は、当事者それぞれの意思で契約を結んだことを示すためです。

口頭のみでも契約は成立するものの、後で条件や内容を確認するためには契約書を作成し、双方の意思で書面を交わしたことを表示する印鑑も必要といえます。

ただ、すべての契約書に印鑑が必要であるわけではないため、どのような場面で必要なのか把握しておきましょう。

そこで、契約書と印鑑のルールについて、必要性や種類、押すタイミングなどをわかりやすく解説します。

契約書とは

契約書と印鑑

「契約書」とは、取引における当事者で契約を締結したことを証明する書面です。

当事者双方が確認した上で書面化した文書が契約書といえるため、たとえ口頭のみで契約成立するとしても、条件や内容などの精査やコンプライアンス意識向上を目的に必要といえます。

また、契約書を作成しておけば透明性や法令遵守に対する意識の高さもアピールでき、取引先など利害関係者から信頼を獲得しやすくなります。

当事者それぞれの認識や解釈が異なることにより、契約内容を巡るトラブルが起こってしまわないためにも、たとえば以下のビジネスの場面ではそれぞれの契約書を取り交わしておきましょう。

すべきといえます。

契約書の種類 使用する場面
売買契約書 商品やサービスの売買取引において売主と買主で交わす契約文書
請負契約書 仕事を外部へ委託する際の発注者と請負者間で交わす契約文書
委任契約書 特定業務を外部へ依頼し任せるときの契約文書
秘密保持契約書 秘密情報や個人情報などを第三者へ開示しない旨を取り決める契約文書
賃貸借契約書 賃貸物件の貸し借りで貸主と借主間で交わす契約文書
雇用契約書 使用者と労働者間で雇用契約内容を明確にする契約文書
労働者派遣契約書 人材派遣会社と派遣先企業など契約当事者のいずれかが相手に労働者を派遣するための契約文書
保証契約書 金銭の支払債務者が債務履行しない場合に保証人が代わって支払うことを約束する契約文書
ライセンス契約書 特許権・著作権・商標権などの知的財産権を他社が使用することを認める契約文書

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契約書に対する印鑑の必要性

契約書に印鑑を用いるのは、契約当事者が書面の内容について同意したことを、証拠として残すためといえます。

誰が書面の内容で契約を結んだのか明らかにならなければ、契約書を作成しても意味がありません。

ビジネスにおける契約書で、たとえば当事者欄に会社の名称などを記しておけば、誰と誰に契約か特定はできます。

しかし手書きによる記載や印字された社名のみでは、本当に記載された会社の同意があったのか証明することはできないといえます。

このようなトラブルを防ぐため、当事者である会社独自の印鑑を契約書に用いることで、同意したことを証明することができます。

契約書の作成方法とは?雛形を使った書き方のコツわかりやすく解説

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契約書の印鑑の種類

契約書と朱肉と印鑑

契約書に使用する印鑑は、主に以下のとおりです。

  1. 実印
  2. 代表者印
  3. 認印
  4. 角印
  5. 銀行印

実印と代表者印、認印と角印は同じ印鑑を使用することが多いといえますが、それぞれ分けて説明します。

実印

「実印」とは、印鑑登録した印鑑です。

個人は役所に自身の印鑑を登録し、ローン契約や相続などの重要や契約や取引において使用します。

法人は、会社設立の登記の際に法務局で代表者印を登録し、公的に認められた印鑑という位置付けでビジネスにおいて使用されます。

なお、同じ印鑑を存在させないためにも、複雑な字体でつくられることが多いといえるでしょう。

代表者印

「代表者印」とは、会社を代表する者が対外的に会社の意思を証明するため使用する印鑑です。

会社の代表者である旨と会社名の掘られた印鑑であり、印影の形が丸いため「丸印」と呼ばれることもあります。

会社設立の際に法務局で登録する印鑑であり、先に説明した実印として使用されます。

法務局で登録する印鑑であるため信用性が高く、代表者が決裁した証として、契約締結や法的手続の場面で使用します。

認印

「認印」とは、印鑑登録されていない印鑑であり、簡易的な字体によるものが多いといえます。

実印は重要な契約で用いる一方で、認印は少額の契約などに使われるなど、使い分けるケースがほとんどです。

ただし認印は当事者の印鑑であることが証明できないため、金額の大きな契約では実印を使用します。

角印

「角印」は、社印とも呼ばれる印鑑であり、会社名が刻印されています。

四角い形であるため角印と呼ばれることが多く、法務局で印鑑登録はしないため、「認印」として使用する印鑑といえます。

たとえば少額の契約や、見積書・請求書・領収書などのビジネスにおける文書で使用します。

銀行印

「銀行印」とは、銀行に届出した印鑑です。

口座開設や入出金において必要な印鑑であり、代表者印や実印とは分けて使用します。

ATMやネットバンキングが主流になったため、銀行印を使う機会は減ったといえるものの、銀行窓口での手続においては必要です。

銀行印と通帳があれば窓口で現金を引き出すことができるため、盗難や紛失には注意してください。

契約書に印鑑を押す方法

契約書に印鑑を使用する方法は、主に以下の7つです。

  1. 押印
  2. 割印
  3. 契印
  4. 捨印
  5. 消印
  6. 捺印
  7. 止印

それぞれの印鑑の使い方を説明します。

押印

「押印」とは、契約締結に向けて当事者の意思をあらわすことであり、記名押印を省略した意味としても使われます。

記名押印と署名捺印のどちらの方式の場合でも、名称または氏名の右側部分に印鑑を押すことが一般的です。

割印

「割印」とは、複数作成した契約書などの文書が同じ内容であることを証明するため、すべての契約書にまたがって印鑑を押すことです。

一方の書類のみを見れば印影の一部分のみが押された状態となるものの、またいだ他の書類の印影と合わせれば1つの印影を作るため、つながりがある文書であることが証明できます。

不正や改ざんを防ぐために、契約書を複数作成したときには割印が必要です。

契約書の割印とは?ルールや適した印章の種類・訂正したいときの対処法を紹介

契印

「契印」とは、ページ数が多い契約書などが1つの文書であることを証明するために、ページ間や袋とじ部分へ印鑑を押すことです。

抜き取りや差し替えなどの改ざんを防ぐためにも、ページ数の多い契約書は契印を押しておきましょう。

捨印

「捨印」とは、訂正しなければならない箇所が生じたときを鑑み、前もって訂正印として使える印鑑を欄外に押しておくことです。

訂正箇所ごとに二重線を引き、訂正印を押せば修正はできるものの、都度訂正印を押す手間を省くために欄外に捨印を押しておくと便利といえます。

ただし捨印は文書の内容ではなく、誤字・脱字などの軽微な誤記でなければ使用できません。

消印

「消印」とは、利用済であることを証明するため、たとえば収入印紙と台紙にまたがって印鑑を押すことです。

収入印紙は、流用や再使用を防ぐことが目的であり、消印を押すことで印紙税を納めたことになります。

契約書に貼る収入印紙の割印とは?目的やルール・注意点を解説

捺印

「捺印」とは、自筆による署名に加えて印鑑を押すことであり、「署名捺印」を省略した言葉としても使われます。

印鑑を押す行為であり、署名を求めない押印よりも法的証明力は高いと考えられるため、契約書の他にも銀行書類・稟議書・決裁書などの文書で使われています。

止印

「止印」とは、文書の終わりに余白が生じたとき、文書の末尾に印鑑を押して内容の終了を示すことです。

文書の終わりを示すため、不正に書き足されることを防ぐことができます。

ただし止印を押さなくても、手書きで「以下余白」と記載すれば問題はありません。

契約書に印鑑を押すタイミング

契約書に印鑑を押すタイミングは、記載された内容をすべて確認し、締結してもよいと納得できたタイミングです。

文書として作成するフローにおける最終段階で印鑑を押します。

印鑑を押すタイミングや順番が変更された場合でも、契約自体が無効になるわけではありません。

しかし契約内容を確認していない状態で署名したり押印したりすると、不利な条項を認めたことになり想定していなかったトラブルやリスクが発生する恐れもあるため注意が必要です。

以上により、必ず印鑑を押すタイミングは、契約締結の最終段階で行うようにしてください。

書面契約における印鑑の扱い

 

業務委託契約書

書面契約は紙媒体で契約書を交わすため、電子データを使う電子契約とは形式面で大きな違いがあります。

当事者の意思を示す方法として、書面契約は印鑑を使い、電子契約では電子署名などを用います。

紙媒体の書面契約では、主に以下の3つで契約を締結しますが、印鑑が必要なのは記名押印と署名捺印です。

  1. 記名押印
  2. 署名捺印
  3. サイン方式

それぞれの書面契約における印鑑の扱いについて説明します。

記名押印

「記名押印」とは、パソコンで入力した印字など、署名以外の方法で当事者情報を記載し、印鑑を押すことです。

「記名」は自署以外の方法で氏名などを記載することであるため、入力方式による印字やスタンプなどを使います。

「押印」は自署以外の方法で記した氏名に印鑑を押すことです。

法人の契約締結においては記名押印による方式が多く用いられ、パソコンで作成した契約書案に印字した当事者の所在・名称・代表者名の横に押印するケースが多いといえます。

署名捺印

「署名捺印」とは、自署で当事者情報を記載し、印鑑を押すことです。

「署名」は氏名を自筆で書くことであり、「捺印」は自筆の署名に加えて印鑑を押すことを示します。

慣習上、記名は「押印」、署名では「捺印」と使い分けられることが多いものの、意味は同じです。

署名捺印では、以下の効果が発生します。

署名の部分 文書の真正な成立を推定させる効果
押印の部分 二段の推定の効果

押印だけでなく署名の効果もプラスされる方式のため、確実に契約を成立させたいときの締結方式と言えます。

サイン方式

「サイン方式」は、記名押印や署名捺印以外の契約締結の方式です。

海外では日本のように、印鑑を使用する文化や制度は存在しません。

そのため海外企業が当事者の場合、サイン方式による契約が使われます。

当事者が自署で契約書へサインすることで真正な成立が推定されますが、自署による別途確認の必要があるためサイン証明書などを前もってやり取りすることも多いようです。

電子契約における印鑑の扱い

契約を結ぶ方法は、紙媒体の書面契約以外にも電子データを使った「電子契約」があります。

昨今ではインターネットが普及したこともあり、契約書も電子化する企業や業界が増えてきたといえます。

電子契約においては、紙媒体で使用する印鑑は使いません。

「電子印鑑」を用いることがあり、その役割は物理的な印鑑と同じです。

たとえば本人のみが使用できるタイムスタンプ情報などを電子印鑑に使用することで、契約における当事者の意思で契約締結に至ったことを証明できます。

なお、物理的な印鑑と電子印鑑は、どちらも契約締結において必須とされる要素ではありません。

契約書に印鑑を押すことは商慣習において一般的ではあるものの、法律上、必ず必要とされているわけではなく、当事者合意が成立していれば印鑑なしでも契約は成立します。

契約の有効性に影響することはないといえるものの、契約成立と内容確認を尊重し、仮に裁判になったときの合意証明においても必要であると理解しておきましょう。

契約書の印鑑を押し間違ったときの対処法

契約書確認

契約書に印鑑を押し間違ってしまったときには、修正が必要です。

その際、訂正前の内容が確認できること、契約当事者が承認した証を残すことが必要となります。

修正した内容が改ざんでないことを証するためには、契約の際に使った印鑑を使います。

契約書を訂正するときの流れは以下の4つです。

  1. 修正箇所に二重線を引く
  2. 正しい文字を記載する
  3. 加減した文字数を記載する
  4. 訂正印を押す

それぞれのフローを説明します。

1.修正箇所に二重線を引く

契約書の修正箇所は、塗りつぶすのではなく二重線を引き、もともと記載されていた内容を確認できるように残してください。

書き直したい文字が単語のうちの1文字の場合も、1文字のみではな単語ごとに二重線を引いて修正しましょう。

2.正しい文字を記載する

二重で消した部分の内容を書き直すときは、横書文書なら訂正箇所の上側、縦書文書は右側に正しい文書を書き加えます。

余白などがない場合は、修正付近の空いている部分に記載しても問題ありません。

また、文字の追加は「✓」を記載した上に記入します。

3.加減した文字数を記載する

訂正部分の欄外や上段欄外に、加減した行数や文字を以下のとおり記載します。

「訂正した行、削除した字数、書き加えた字数」→「○行目、△字削除、□字加入」

たとえば算用数字であれば「5行目、2字削除、3字加入」と記載しますが、多角漢数字では「伍行目、弐字削除、参字加入」と記します。

これは修正の改ざんを防ぐためといえますが、算用数字でも問題はありません。

漢数字である「一」「二」「三」は簡単に改ざんできるため使わないようにしましょう。

4.訂正印を押す

欄外に加減した字数や行数を記載し、横または下へ契約当事者が署名・押印で使った印鑑を押します。

なお、上記の流れは、契約書の部数に応じてすべてに行うことが必要です。

契約書の訂正印とは?使用する印鑑や訂正方法・注意点をわかりやすく解説

契約書と印鑑の法的な問題

契約は、双方が承諾した時点で成立するため、例外を除くと書面作成の必要はないといえます。

そのため契約書と印鑑は必ず必要というわけではなく、法令に特別の定めがある場合を除いて、書面作成その他の方式を具備することは要しません。

口約束でも成立するため、通常の契約で印鑑の押印がなかったとしても、法律違反には該当しないといえます。

ただし後のトラブルを防ぐためにも、契約書は作成し、互いが内容を理解して合意したことを示す印鑑を使用しましょう。

まとめ

契約書で印鑑を使用することは、法律で義務付けられているわけではありません。

しかし後でトラブルが起こった場合、契約の条件や内容を示すものが何もなければ、より問題は悪化する恐れがあります。

そのため契約書を作成し、当事者による契約締結を示す印鑑を押しておきましょう。

印鑑を使った契約は商習慣や文化として根強く残っているものの、近年では電子データを使った電子契約も増えています。

押印の代わりに電子印鑑などを使用する電子契約を使えば、スムーズな対応が可能です。

契約の金額の規模や内容に応じて、紙媒体で印鑑を押す書面契約と、電子契約の使い分けをするとよいでしょう。