ABLとは、不動産以外を担保として融資を受けることができる金融手法です。
土地や建物など不動産を所有していなくても、ABLなら売掛債権や在庫などを担保として差し入れることで、お金を借りることができます。
ただしABLを使った資金調達では、融資を受けることのできる金額の上限や、実際に借りた後に定期報告が必要になるなど、一般的な銀行融資とは異なる部分に注意も必要です。
そこで、ABLとはどのような資金調達方法なのか、売掛債権や動産を担保とする融資のメリット・デメリットについて解説していきます。
目次
ABLとは
「ABL」とは、「Asset Based Lending」の頭文字を省略した呼称であり、資産を基礎とした貸出を意味します。
中小企業が担保を差し入れてお金を借りるとき、土地や建物など不動産などを対象とすることが多いといえます。
しかしABLでは、在庫・機械設備・売掛債権など、担保としては活用されることのなかった動産や債権を使います。
売掛債権担保融資や動産担保融資と呼ばれる資金の貸し付けであり、担保として差し入れできるのは以下のものが挙げられます。
- 在庫(原材料・商品)
- 機械設備
- 売掛債権
- 未登録の自動車
- 金属材料
- 天然素材
- 穀物
在庫や売掛債権などは、企業努力によって量や質が変動するものであるため、生きている担保を差し入れる金融手法として注目されているのがABLであるといえます。
ABLで融資を受ける流れ
ABLとは、不動産以外の資産を担保にして融資を受けることができる手法です。
先に紹介したとおり、担保として差し入れることができる資産は幅広くありますが、その中でも売掛債権を使ったABL(売掛債権担保融資)の流れについて説明します。
ABL(売掛債権担保融資)では、主に次の4つの手続が必要です。
- ABLの申し込み
- 審査
- 債権譲渡登記
- 融資実行
それぞれの流れについて説明していきます。
①ABLの申し込み
ABL(売掛債権担保融資)でお金を借りる際には、まず金融機関に相談し、申し込むことが必要です。
申し込みの際には、金融機関の審査で必要な以下の資料提出を求められます。
- 会社概要を説明できる資料(組織図・店舗数・所在地など確認できる資料)
- 財務状態の確認できる資料(決算書・試算表など)
- 在庫や売掛債権の状況を確認できる資料(契約書・明細書・元帳など)
上記書類とともに、売掛先の情報や取引履歴、決算書などを含めた申し込み資料を提示します。
ABLを申し込む銀行などに、売掛金の入金があるのであればお金の流れも把握しやすいでしょう。
しかし申し込む銀行などに入金がない売掛先の債権については、申込先となる金融機関を入金口座に指定することを求められる場合もあるようです。
②審査
ABL(売掛債権担保融資)の申し込み後は、銀行が売掛先に関する調査を行います。
売掛債権は金融機関が直接評価することが多いのに対し、担保の対象が在庫や機械などの場合には、外部評価会社などを利用して調査が行われることが多いようです。
外部評価会社を利用する場合、評価に係る費用として請求されることがあり、調達コストが増えてしまう可能性があるため注意してください。
③債権譲渡登記
銀行側が担保について承認すると、金銭消費貸借契約を締結し、担保を差し入れることになります。
担保の差し入れについては、金融機関が法務局に「債権譲渡登記」を申請します。(動産を担保とする場合は動産譲渡登記)
債権譲渡登記は、法人の金銭債権譲渡や金銭債権を目的とした質権設定について、債務者以外の第三者への対抗要件を備えるための制度です。
簡単に説明すると、登記を行うことにより、売掛債権の権利は誰にあるのか証明することができます。
なお、登記は東京法務局でなければ手続できないため、交通費や登録免許税、司法書士への報酬などが別途必要となります。
④融資実行
債権譲渡登記を申請することで、誰が売掛債権の権利を持っているのか証明することができるため、融資が実行されます。
ただし、融資実行後の返済期間中は、3か月に1度のペースで、担保状況について金融機関に報告することが必要です。
担保状況の報告に加え、事業に関するアドバイスなどを受けることができれば、経営改善につなげることもできるでしょう。
ABLのメリット
ABLによる融資で資金調達するメリットとして、主に次の4つが挙げられます。
- 不動産以外を担保にできる
- 審査では将来性などが重視される
- スタートアップでも資金調達しやすい
- 内部管理体制を整備できる
どのようなメリットがあるのか説明していきます。
不動産以外を担保にできる
ABLは、不動産を所有していなくても動産を担保にして融資を受けることができます。
中小企業が銀行からお金を借りるときには、不動産を担保にすることを要求されがちであり、土地や建物を所有していないことで融資を受けられないケースも少なくありません。
しかしABLであれば、通常の営業活動で発生する在庫や売掛債権を担保とすることが可能です。
銀行が企業の商流を把握できるようになれば、信頼関係の構築にもつなげることができるでしょう。
審査では将来性などが重視される
ABLにおける審査では、企業が今後、継続して利益を出すことができるかなど将来性が重視されます。
在庫や売掛債権など、担保として差し入れる資産の価値というよりも、企業が今後も利益を生み続け返済資金を捻出できるかといった継続性が重要です。
土地や建物を担保とする不動産担保融資の場合、事業の将来性や継続性などは重視されないため、事業に関する技術や能力が高い企業だとしても、不動産を所有していなければ資金調達に活用できません。
しかしABLでは、在庫や売掛債権などの価値以外に、企業の技術力や将来性など事業を継続・拡大できる力についても重視されます。
スタートアップでも資金調達しやすい
新規立ち上げや起業して間もない段階で、資金調達の方法が限定されている場合でも、ABLであれば融資を受けやすいことがメリットです。
不動産などを所有していない自社資産の乏しい企業でも、事業運営により発生した在庫や売掛金などを担保にすることでお金を借りることができます。
また、無担保・無保証での借入れではないため、金利や返済期間なども好条件で契約できる可能性もあり、スタートアップでも安心して融資を受けやすいでしょう。
内部管理体制を整備できる
ABLで融資を受けることにより、内部管理体制が整備され、経営改善につなげることができます。
内部管理定性が整備される理由として、そもそもABLで担保とする在庫や売掛債権については、明細を作成して申し込む金融機関に提出しなければならないことが挙げられます。
作成した明細は、審査に使う以外にも、融資実行後に3か月1度行う定期報告の際に必要です。
明細や定期的な報告で経営状況などを把握しつつ、企業と金融機関が密接にコミュニケーションを取ることになります。
必要に応じて金融機関からアドバイスを受けることもできるため、経営改善にも役立ち、企業と銀行との信頼関係構築にも役立てることができるでしょう。
ABLのデメリット
ABLによる資金調達は、流動性の高い事業資産を担保として使える以外にもいろいろなメリットがあります。
しかし次の5つのデメリットについては、留意しておくことが必要です。
- 審査に時間がかかる
- 赤字決算では利用できない
- 過剰担保の可能性がある
- 多くの情報提供が必要
- 定期的な報告義務がある
それぞれのデメリットについて説明します。
審査に時間がかかる
ABLの審査では、担保として差し入れる資産を評価することが必要であるため、入金までは最低でも2週間程度かかります。
売掛債権を担保とする際には売掛先の信用力、在庫や機械などを担保とするのなら資産価値の評価が必要です。
評価には時間を要するため、最短でも2週間、多くの場合は申し込みから平均1か月程度かかります。
そのため、すぐにお金が必要という緊急資金としては活用しにくく、2週間から1か月程度前には申し込みなど済ませておくことが必要であることはデメリットといえます。
赤字決算では利用できない
ABLは、企業が今後も継続して利益を生みだすことができるかなど、将来性を重視した審査を行います。
そのため赤字決算の場合や、税金を滞納しているケースにおいては、審査に通らず利用できないと考えられます。
資金繰りのタイトさにより、税金や社会保険料などの支払いが厳しいという場合には、滞納する前にABLを計画的に活用し、支払いを遅れないようにすることが必要です。
過剰担保の可能性がある
金融機関によって、担保として差し入れる資産の価格評価は異なるため、状況によって過剰担保になる可能性があります。
ABLで担保として差し入れるのは、売掛債権などの債権以外に、在庫や機械などの動産です。
たとえば売掛債権を担保とする場合には、取引先への請求額が債権額となり、金額が確定しています。
しかし、動産の場合には評価する金融機関などによって評価額が異なるため、借入金額よりも多すぎる担保を差し入れた状態となる過剰担保のリスクがあります。
不動産を担保として差し入れる場合には担保価値の基準が決められているものの、ABLでは様々な資産を担保として扱うことができることで、過剰担保になる可能性が高いことがデメリットです。
多くの情報提供が必要
ABLでは、金融機関に多くの情報を提供しなければならないこともデメリットといえます。
多くの情報を提供することになれば、審査でもその情報を確認するだけの時間や手間が必要となります。
情報提供する面倒さもデメリットであるのと同時に、審査に時間がかかるため、緊急性の高い資金ニーズには対応できなこともデメリットといえます。
定期的な報告義務がある
ABLで融資を受けた場合、金融機関に3か月に1度以上、担保に関する報告が必要です。
たとえば売掛債権を担保として差し入れた場合、その後、取引先から入金されることになるでしょう。
在庫を担保とする場合でも、販売により売れるといった変化もあると考えられます。
そのためこれらの変動について、定期的に借入先となる金融機関に報告しなければなりません。
担保に関する報告を定期的に入れることにより、これまで通り事業が継続して運営されているかも確認されます。
定期的な報告義務は手間がかかることがデメリットであるものの、金融機関との密接なコミュニケーションで信頼関係を築くことができ、次の融資につながる可能性が期待できるなどのメリットもあります。
ABLがおすすめのケースとは
ABLによる資金調達がおすすめのケースとして、主に次の3つが挙げられます。
- 多額の資金が必要な場合
- 事業の将来性が認められる場合
- 資産を多く保有している場合
それぞれどのようなケースか説明します。
多額の資金が必要な場合
ABLでは、事業の継続性や将来性などが審査で重視されます。
もしも認められれば、多額の資金調達につながり、新規事業や設備投資での大口資金にも役立てることができる可能性もあります。
事業の将来性が認められる場合
ABLでは、事業の継続性や将来性が認められる場合、信用力の高さから金利も安く設定されることが期待できます。
資産を多く保有している場合
ABLは、土地や不動産を所有していない場合でも、売掛債権・在庫・機械・設備などの資産を担保として融資を受けることができる金融手法です。
そのため資産を多く保有している場合には、ABLを使ってお金を借りやすいといえます。
売掛債権はそれほど多くない場合でも、在庫や機械、設備などがある場合には、想定していたよりも多くお金を借りることができる場合もあります。
まとめ
ABLは、売掛債権担保融資や動産担保融資と呼ばれる金融手法で、売掛債権・在庫・機械・設備・原材料などを担保として差し入れることができる融資です。
中小企業などが銀行からお金を借りるときには、土地や建物などを担保として差し入れる不動産担保融資が主流といえます。
しかし、どの企業でも不動産を所有しているわけではありません。
土地や建物など持っていない企業でも、売掛債権や在庫などを担保に融資を受けることができるのがABLです。
たとえば売掛債権とは、製造業・建設業・運送業・卸売業などの売掛金、病院など医療機関の国保や健保に対する診療報酬債権なども含まれます。
もしも不動産は所有していないものの、売掛債権や動産であれば多く保有しているという場合において、融資を受けて資金を調達したいのなら、ABLの活用を検討してみるとよいでしょう。