業務改善助成金は、生産性を向上させる目的で機械設備やコンサルティングの導入や人材育成・教育訓練などを実施し、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げたときに設備投資などでかかった費用の一部を助成する制度です。
物価高の影響で働き手が流出してしまい、現場の人員が不足しているケースはめずらしくありません。
その結果、地域によっては国の示す最低賃金も大幅に引き上がったといえます。
しかし最低賃金の引き上げは事業者にとって大きな負担となるため、賃金引き上げに関連して業務改善助成金で生産性向上を支援しています。
そこで、令和7年度の「業務改善助成金」について、令和6年度の内容から、手続の流れや注意点を徹底解説します。
中小企業経営者向け!

業務改善助成金とは
「業務改善助成金」とは、生産性向上に資する設備投資を行った上で事業場内最低賃金を一定額以上引き上げたとき、設備投資などにかかった費用の一部を助成する制度です。
設備投資計画と事業場内最低賃金の引き上げ計画を立てて申請し、交付が決定した後に計画に沿って事業を進め、その結果を報告することで助成金として支給されます。
中小企業や小規模事業者の生産性を向上させるための制度です。
機械設備導入・コンサルティング導入・人材育成実施・教育訓練実施などを行い、事業場内最低賃金を50円以上引き上げたとき、設備投資等にかかった費用の一部が助成されます。
上記を踏まえて、以下の2つの意味を補足で説明します。
- 事業場
- 事業場内最低賃金
事業場
同じ場所にあれば1つの事業場としてみなしますが、労働状態の異なる事業場の場合は別々の事業場とみなします。
たとえば同じ工場内でも、部品の組み立てなどの生産を担当する従業員と、食堂で食事を作る従業員は業態が異なるため、それぞれの事業場とされます。
その一方で、本社と営業所は離れた場所にある場合でも、営業所には営業担当者の社員が1人のみ常駐しており、管理的な業務を一切行わないというケースにおいては本社と営業所は同じ事業場とする場合もあります。
事業場内最低賃金
事業場内最低賃金とは、雇用から3か月経過後の労働者が受け取る事業場内で最も低い時間給のことです。
月給制などの場合は時給に換算した額で判断します。
また、地域別最低賃金は補助事業実施場所が所在する都道府県に適用される最低賃金です。
業務改善助成金の助成額
業務改善助成金で助成される額は、生産性向上に役立てるための設備投資等にかかった費用の一部です。
かかった費用に一定の助成率をかけ、助成上限額と比較したときに低い金額が支給されます。
助成上限額は、賃上げする金額で30~90円までのコースと、引き上げ対象となる労働者数で決まります。
詳しくは、厚生労働省の「業務改善助成金」で確認できます。
なお、申請する事業場の引き上げ前の事業場内最低賃金によって助成率も変わるため注意しましょう。
申請事業場の事業場内最低賃金額が900円未満または900円以上950円未満であれば、4分の3よりも高い助成率が適用されます。
業務改善助成金で対象となる経費
業務改善助成金における助成の対象は、生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資等でかかった経費です。
業種により、いろいろな設備投資が対象になると考えられますが、ポイントとしては設備・機器・コンサルなどの導入で行われる業務改善と可能となる最低労働賃金の引き上げです。
たとえば、以下のケースにおいて業務改善助成金の支給対象となっています。
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他にも受注管理や顧客管理のシステム、インクジェットプリンタやインターネット受注機能などの導入における生産性向上でも支給対象となるケースも見られます。
具体的な例を挙げると、飲食店で行う食器の洗浄は手作業では効率が悪く、人員が少ないとすぐ洗えなかったり時間がかかったりします。
この場合、食洗機を導入することで作業時間の大幅な短縮や、作業効率向上が図れます。
飲食業以外にも、配達飲食サービス業・ホテル業・医療・福祉の現場などでも導入すれば、生産性向上につながります。
さらに特例事業者が物価高騰等要件に該当する場合、通常では助成対象経費に含まれない以下の費用も経費の対象として認められます。
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なお、特例事業者の要件については後述します。
業務改善助成金の対象要件
業務改善助成金は、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内である中小企業・小規模事業者が対象です。
また、解雇や賃金引き下げなど、不交付事由に該当しないことも必要となります。
中小企業・小規模事業者は、以下の要件を満たす事業者です。
業種 | 資本金または出資金額 | 常時使用する労働者 |
小売業(小売業・飲食店など) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業(物品賃貸業・宿泊業・医療福祉・総合サービス事業など | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業(卸売業) | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種(農業・林業・漁業・建設業・製造業・運輸業・金融業など) | 3億円以下 | 300人以下 |
対象に含まれるかについては、業種ごとに定められた資本金額または常時使用する労働者の数で判断されます。
工場や事務所など、それぞれの事業場ごとで申請することが必要です。
要件をすべて満たした上で、工場や事務所など、それぞれの事業場ごとで申請します。
過去に業務改善助成金を受給していても対象となるため、再度申請するとよいでしょう。
業務改善助成金の支給要件
業務改善助成金の支給要件は、以下のとおりです。
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上記「3」については、単なる経費削減や職場環境改善の経費の支払い、通常の事業活動に伴う経費などは含まれません。
なお、以下の2つを満たす場合は特例事業者として認定され、一定のパソコンや自動車などの新規導入が認められます。
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業務改善助成金の変更点
令和6年度からは、業務改善助成金の内容が以下のとおり一部変更されています。
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特例事業者要件と経費の特例のうち、新型コロナウイルスの影響を受けた事業者向けの生産量要件は終了していますが、賃金要件と物価高騰等要件は継続しました。
生産量要件または物価高騰等要件の事業者に許可されていた「関連する経費の支援」も、車やパソコンなどの導入以外は終了としています。
なお、令和7年度に関しても助成内容が変更される可能性もあるため、最新の情報に注意しましょう。
業務改善助成金の申請手続の流れ
業務改善助成金は、都道府県労働局へ申請することが必要ですが、手続の流れは以下のとおりです。
- 申請
- 生産性向上
- 最低賃金引き上げ
- 報告書提出
- 入金
それぞれ説明します。
事業計画書の作り方とは?作成のタイミングやメリット・注意点を解説
申請
業務改善助成金の申請は、事業改善計画と賃金引き上げ計画を記載した交付申請書(様式第1号)を、都道府県労働局に提出します。
適正な内容と認められれば、業務改善助成金の交付決定通知が手元に届きます。
郵送での申請は必着となるため注意しましょう。
助成金は予算の範囲内での交付となるため、申請期間内であっても募集が終わる場合もあります。
生産性向上
業務改善助成金を申請し、交付決定通知が届いた後は、生産性向上と労働能率増進を図るための設備投資などを行い、業務の効率化を目指します。
最低賃金引き上げ
計画を立てたとおり、事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げます。
なお、実施期間中に事業計画を変更または中止、延期するというケースにおいては、それぞれの状況に応じた書類の提出が必要です。
報告書提出
以下を記載した事業実績報告書(様式第9号)を労働局に提出します。
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入金
都道府県労働局が実績報告書の内容を審査し、適切な内容が適正と認められれば助成金額確定と支給決定の通知が届きます。
申請から交付決定までは1か月ほどかかりますが、確定通知を受けたら支払請求書(様式第13号)を提出することで助成金が振り込まれます。
業務改善助成金の注意点
業務改善助成金を申請する場合、以下の注意点を前もって理解しておきましょう。
- 募集期間
- 助成の対象
- 賃金引き上げのタイミング
それぞれ説明します。
募集期間
令業務改善助成金は募集期間内に申請が必要です。
郵送での申請は当日必着となるため、遅れないように申請してください。
なお、助成金は予算の範囲での運用となるため、申請・交付の件数により期限まで時間がある場合でも、募集が停止されることがあると注意しましょう。
助成の対象
業務改善助成金は、交付決定後の経費です。
そのため交付申請書を都道府県労働局に提出する前に行った設備投資等や、事業場内最低賃金の引き上げに関しては対象に含まれません。
決定前は全て対象外となるため、注意してください。
賃金引き上げのタイミング
事業場内最低賃金の引き上げは、交付申請書を提出後から事業完了期日までの間であればいつ実施しても問題ありません。
ただし、設備投資等に関しては、交付決定通知後に行うことが必要です。
まとめ
業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者の生産性向上をサポートする制度であるため、要件に合致する場合には申請することをおすすめします。
生産性向上を図るための設備投資等と、事業場内最低賃金を引き上げたときには助成対象です。
生産性向上や業務効率化にかかる費用の一部が助成されるため、設備投資等の負担を低減できるだけでなく、賃金の引き上げで現場のモチベーションもアップできます。
人員不足が深刻化する中小企業や小規模事業者にとって、離職率を引き下げると同時に、定着率向上につなげられるでしょう。
中小企業経営者向け!

