、起業や開業に向けて計画を立てたいけれど、資金がないときに頼りたいのが「エンジェル投資家」です。
エンジェル投資家とは起業家を資金面などで応援してくれるまさに「天使」のような存在といえます。
ただし、返済不要の資金を出資してもらうことになるため、メリットだけでなくデメリットも踏まえて頼ることが必要です。
そこで、エンジェル投資家とはどのような人なのか、出資してもらうことによるメリットやデメリット、さらにどのように出会えばよいのかについて解説していきます。
目次
エンジェル投資家とは
「エンジェル投資家」とは、創業間もない企業に対して資本を投じてくれる個人投資家です。
資金提供した企業が、上場後に株式を売却するイグジットにより、キャピタルインを得ることを目的としています。
企業の将来性に賭けているため、イグジットすると見込まれる企業へ投資することが一般的であり、スタートアップ企業の成長性や可能性が重要な要素となります。
主にエンジェル投資家として活動しているのは元経営者が大半を占めているものの、他にも学者やスポーツ選手などであるケースも見られます。
実績や業績がない起業家が、事業に必要とする資金を調達したくても、銀行など金融機関から断られてしまうことは少なくありません。
将来が期待できるスタートアップ企業やベンチャー企業である場合でも、必要な資金を調達できなければ事業を始めることも続けることも難しくなります。
そのようなスタートアップ企業やベンチャー企業に対し、資金面で救いの手を差し伸べるまさに「天使」のような存在である個人投資家が「エンジェル投資家」です。
欧米には数多くのエンジェル投資家がいるのに対し、日本ではまだ数が足りていないといえますが、だんだんとスタートアップ企業やベンチャー企業に出資する投資家も増えてきました。
また、日本ではエンジェル投資家の企業に対する出資を促進するため、実際に出資した個人投資家に対し「税制」の優遇措置である「エンジェル税制」などが設けられています。
エンジェル投資家の目的
そもそもなぜ、特に深い関わりのない個人がスタートアップ企業やベンチャー企業に出資するのか疑問に感じることもあるでしょう。
エンジェル投資家がスタートアップ企業やベンチャー企業に出資する目的として、次の3つが挙げられます。
- 売却益を得たい
- 起業家を応援したい
- 業界に名前を残したい
それぞれの目的について簡単に解説します。
売却益を得たい
エンジェル投資家がスタートアップ企業やベンチャー企業に出資する目的として、投資先である企業が上場し、新規公開株による売却益を得ることが挙げられます。
起業家を応援したい
エンジェル投資家がスタートアップ企業やベンチャー企業に出資する目的として、若手野起業家を応援したいことが挙げられます。
未来のある若手起業家や、将来性が高い事業などを単に応援・支援したいと考えて投資をするエンジェル投資家も少なくありません。
また、かつては自身が起業家として資金調達に悩んだこともある経営者がエンジェル投資家であることも少なくないため、経験や経営ノウハウ、広い人脈などで困難を抱えている若手起業家を救いたいと考える傾向も強いようです。
業界に名前を残したい
エンジェル投資家がスタートアップ企業やベンチャー企業に出資する目的として、業界に名前を残したいと考えていることが挙げられます。
創業初期に投資した企業が成功することで、自身の名前も業界に残すことができます。
エンジェル投資家とベンチャーキャピタルの違い
企業に対し出資する投資家には、エンジェル投資家だけでなく「ベンチャーキャピタル」もあります。
ベンチャーキャピタルとは、未上場のスタートアップ企業やベンチャー企業に対し出資する投資会社のことで、資金を投じてくれる面ではエンジェル投資家と共通しています。
ただ、ベンチャーキャピタルの目的は、未上場の企業が上場した後に、保有する株式を売って株価の差分であるキャピタルゲインを得ることです。
エンジェル投資家の場合、様々な目的で出資するのに対し、ベンチャーキャピタルは売却益を得ること一択ともいえます。
また、エンジェル投資家の投資額は100万円から2,000万円程度であるのに対し、ベンチャーキャピタルの出資額は1,000万円から数億円などかなり金額が大きいという違いもあります。
未上場の企業を上場(IPO)させるまで育てなければならないため、その分、出資する金額も大きくなるといえます。
エンジェル投資家とストックオプションの違い
ストックオプションは、会社が従業員・役員・入社予定者・社外技術アドバイザーなどに付与する権利であり、株価上昇の際に利益を得ることのできる報酬制度です。
企業法務・資金調達・エンジェル投資家からの投資に関連する重要な手法であり、従業員や経営陣に将来、会社の株式を特定価格で購入する権利を与えます。
そのため従業員や経営陣には、会社の将来の成長に参加する機会を提供できるため、パフォーマンスと利益の関連性を高めることにつながります。
一方のエンジェル投資家は、企業の創業時から投資を行う個人投資家であり、ストックオプションに関連する資金調達の方法の1つといえます。
エンジェル投資家から出資を受けるメリット
スタートアップ企業やベンチャー企業が、エンジェル投資家に出資してもらうメリットとして次の4つが挙げられます。
- 短期で資金を調達できる
- 返済義務のない資金を調達できる
- 経営アドバイスを受けることができる
- 人脈を広げることができる
それぞれのメリットについて説明します。
短期で資金を調達できる
エンジェル投資家に出資してもらうメリットとして、短期で資金を調達できることが挙げられます。
銀行など金融機関から融資を受けたりベンチャーキャピタルを頼ったりなど、いずれも資金を調達するまで時間がかかります。
しかしエンジェル投資家は個人投資家であるため、出資の判断も単独で決めることができ、すばやい資金調達が可能になるといえるでしょう。
返済義務のない資金を調達できる
エンジェル投資家に出資してもらうメリットとして、返済義務のない資金を調達できることが挙げられます。
銀行など金融機関から融資を受けて資金調達した場合、元本と利息を返済することが必要です。
しかしエンジェル投資家から受けた出資金は返済義務のないお金であり、短期の資金繰りにゆとりをもたらすことができます。
経営アドバイスを受けることができる
エンジェル投資家に出資してもらうメリットとして、エンジェル投資家から経営アドバイスを受けることができる点が挙げられます。
自らが経営者だった経験のあるエンジェル投資家なら、起業や経営に関する苦労や問題解決方法など、様々なノウハウを身につけているため、今後の経営に役立つ知識などをアドバイスしてもらえます。
人脈を広げることができる
エンジェル投資家に出資してもらうメリットとして、人脈を広げることができることが挙げられます。
会社を立ち上げ成長させていくためには人脈を広げることが欠かせませんが、エンジェル投資家自らのネットワークを活かし、ビジネスパートナーになる存在や業界のキーマンなどを積極的に紹介してもらえることもあります。
エンジェル投資家から出資を受けるデメリット
エンジェル投資家からの出資を受けることはいろいろなメリットがある一方で、次の3つのデメリットには留意しておく必要があります。
- 多額の資金調達は期待できない
- 経営に関与される場合がある
- 経営権を脅かされるリスクがある
それぞれのデメリットについて解説します。
多額の資金調達は期待できない
エンジェル投資家に出資してもらうデメリットとして、多額の資金調達は期待できないことが挙げられます。
ベンチャーキャピタルと比較すると、エンジェル投資家は個人であるため、出資できる金額は限られるからです。
高額な出資を必要とする場合は、銀行など金融機関から融資を受けることやベンチャーキャピタルに出資してもらうことの検討が必要になるでしょう。
経営に関与される場合がある
エンジェル投資家に出資してもらうデメリットとして、経営に関与される場合があることが挙げられます。
単に起業家を応援したいという気持ちではなく、キャピタルゲインを目的としたエンジェル投資家の場合、見返りといえるリターンを求めてきます。
そのため積極的に助言やアドバイスをしてくれるだけでなく、過度に経営に関与してくる場合もないとはいえません。
経営権を脅かされるリスクがある
エンジェル投資家に出資してもらうデメリットとして、経営権を脅かされるリスクがあることが挙げられます。
発行する株式の保有割合によって、エンジェル投資家が保有する株式が多くなってしまうと、創業者の持分比率が減ります。
エンジェル投資家の株式保有比率が高まれば、経営の実権を握られてしまうリスクが高くなることは留意しておきましょう。
エンジェル投資家側のメリット
エンジェル投資家は、「エンジェル税制」を活用して、税制上の優遇措置を受けることができます。
エンジェル税制とは、ベンチャー企業への投資促進のために、ベンチャー企業へ投資した個人投資家に税制上の優遇措置を行う制度です。
投資することで節税対策につながるといえますが、個人投資家は投資時点と株式売却時点のそれぞれで税制上の優遇措置を受けることが可能です。
詳しくは、経済産業省の「エンジェル税制」を参考にしてください。
エンジェル投資家の探し方
返済不要の資金を投じてくれる個人投資家がいれば、事業の開始・運営がスムーズに進むことが期待できますが、エンジェル投資家に出会えなければ意味がありません。
そこで、エンジェル投資家の探し方として次の4つが挙げられます。
- 交流会やセミナーに参加する
- ピッチコンテストに参加する
- マッチングサイトを利用する
- SNSのダイレクトメールなどを活用する
それぞれどのような探し方か説明していきます。
交流会やセミナーに参加する
エンジェル投資家の探し方として、交流会やセミナーに参加することが挙げられます。
起業家の集う交流会やセミナーには、エンジェル投資家も多く参加しています。
ピッチコンテストに参加する
エンジェル投資家の探し方として、ピッチコンテストに参加することが挙げられます。
ビッチコンテストとはビジネスコンテストとも呼ばれており、アクセラレーターや投資家などの審査員に対し、事業プレゼンテーションを行うイベントです。
審査員にエンジェル投資家がいれば、事業をアピールする最大のチャンスになるといえるでしょう。
将来性を評価してもらえれば、出資してもらえる可能性も高くなります。
会社の認知度向上にも繋がるため、可能性をかけて参加してみるとよいでしょう。
マッチングサイトを利用する
エンジェル投資家の探し方として、マッチングサイトを利用することが挙げられます。
マッチングサイトとは起業家とエンジェル投資家を結ぶ専用のプラットフォームであり、多くの投資家から自分に合う個人投資家を見つけることができます。
SNSのダイレクトメールなどを活用する
エンジェル投資家の探し方として、SNSにダイレクトメールなど活用することが挙げられます。
元起業家や元経営者のエンジェル投資家に、メールやツイッターのダイレクトメールを使い、出資してもらえないか交渉してみましょう。
エンジェル投資家の選び方
エンジェル投資家と出会ったものの、本当に信用してよいか不安になることもめずらしくありません。
中にはエンジェル投資家を装った詐欺行為で、起業家を騙そうとする悪質な人も存在します。
そこで、信頼できるエンジェル投資家か選ぶときには、次の6つのポイントを押さえておきましょう。
- 不利益な契約を押し付けてこない
- 程よい距離感を保ってくれる
- 経営に介入してこない
- 相性がよい
- 時間をかけてくれる
- 新たな投資家を紹介してくれる
それぞれのポイントについて説明します。
不利益な契約を押し付けてこない
信頼できるエンジェル投資家か選ぶときには、不利益な契約を押し付けてこないか確認しましょう。
エンジェル投資家は出資する代わりに株式を取得することになるものの、株式の持分割合は議決権行使に直結するため、支配権に影響します。
経営者よりもエンジェル投資家のほうが持ち株の保有比率が多い場合、会社の支配権が強まるため経営権を失うリスクが高くなります。
起業家が何も知らないことに付け入るように、騙して経営決定権を奪おうとするケースも中にはあります。
エンジェル投資家と契約するとっきには株式を渡し過ぎないように注意し、不利益な契約を押し付けてくるときには契約を中断しましょう。
程よい距離感を保ってくれる
信頼できるエンジェル投資家か選ぶときには、程よい距離感を保ってくれるか確認しましょう。
エンジェル投資家は資金面で支援をしてくれる個人投資家であり、他にも経営ノウハウや過去の経験などを活かしたサポートもしてくれます。
ただ、過剰なサポートで経営に支障をきたすリスクも高まるため、起業家とは程よい距離感を保ってくれるエンジェル投資家が理想といえるでしょう。
経営に介入してこない
信頼できるエンジェル投資家か選ぶときには、経営に介入してこないか確認しましょう。
エンジェル投資家は資金面の援助の代わりに会社の株式を取得します。
積極的に経営アドバイスしてくれたり意見を述べたりすることもあるでしょう。
しかし過度に経営に口を出されてしまうと、自由な経営ができなくなってしまいます。
経営に関与してこないエンジェル投資家が理想であるため、事前にどのような個人投資家か情報を入手しておくようにしてください。
相性がよい
信頼できるエンジェル投資家か選ぶときには、相性がよいか確認しましょう。
個人の投資家であるエンジェル投資家は、起業家との付き合いも1対1の関係となるため、距離が近くなりがちです。
事業に対する方向性や価値観が同じで話が合えば、エンジェル投資家との関係もうまくいくことになるでしょう。
しかし相性の悪いエンジェル投資家の場合、経営に協力してもらうことが苦痛になる可能性もあります。
元起業家や元経営者だったエンジェル投資家が、忙しい日々の限られた時間の中で、起業家に寄り添い一緒に経営について考えてくれるのならまさに理想的といえます。
時間をかけてくれる
信頼できるエンジェル投資家か選ぶときには、起動にのるまで時間をかけてくれるか確認しましょう。
すべてのエンジェル投資家が経営アドバイスや助言などしてくれるわけではありません。
中には出資のみで、経営ノウハウやアドバイスなどしてくれないケースもあります。
何のアドバイスもないまま、キャピタルゲインを狙うことを理由に、早く結果を出すように急せかされてしまっては思うような経営ができなくなってしまうでしょう。
サポートもアドバイスもないエンジェル投資家や、早急に結果を求めるエンジェル投資家は避けたほうがよいといえます。
新たな投資家を紹介してくれる
信頼できるエンジェル投資家か選ぶときには、新たな投資家を紹介してくれるか確認しましょう。
エンジェル投資家から100万円から2,000万円を出資してもらった後、会社の成長によりさらに資金が必要になることもあります。
その場合、エンジェル投資家の広い人脈を活用し、他の投資家やベンチャーキャピタルを紹介してくれるなら安心です。
成長段階に応じて、より多く出資してくれる先への架け橋を作ってくれるエンジェル投資家が理想といえるでしょう。
まとめ
エンジェル投資家とはスタートアップ企業やベンチャー企業に出資してくれるとてもありがたい存在であるものの、詐欺行為で騙そうとするエンジェル投資家を名乗る悪質な存在にも注意が必要です。
本当に信頼できると感じるエンジェル投資家に出会ったときには、出資してもらえるようにビジネスプランの魅力やそれに対する熱量を最大限に伝え、資金を投じたいと感じてもらえるように説得力のある説明をしましょう。
また、エンジェル投資家に認めてもらえるように、事前に事業計画や資金調達計画など詳しく掘り下げつつ整理しておくことが必要です。
その上でこれから始める事業や立ち上げる会社の魅力や、起業家の熱意も伝えることが大切であり、エンジェル投資家から支援や応援したいと感じてもらえるように意識しましょう。