一括支払信託とファクタリングは、どちらも売掛債権を現金化することで資金を調達できるサービスです。
売掛債権を活用した債権流動化による資金調達方法には、一括支払信託・売掛債権担保融資・ファクタリングなど種類があります。
この中でも一括支払信託とファクタリングは、違いがわかりにくいと感じる経営者も少なくないようです。
そこで、一括支払信託とファクタリングの違いと、どのような使い分け方が望ましいのか簡単に解説します。
一括支払信託とは
「一括支払信託」とは、企業が保有している売掛債権を銀行の仲介により現金化するサービスで、「債務引受一括決済サービス」と呼ばれることもあります。
取引に関与するのは、以下の3者です。
- 銀行
- 利用者(債権者)
- 売掛先(債務者)
銀行と利用者が連携し、売掛先から資金を調達します。
企業間取引では商品やサービスを納入した後、すぐに代金を受け取らず後日請求し、回収する「掛取引」が一般的です。
回収までの間は、「売掛金」を保有します。
期日にならなければ売掛先から売掛金を回収できず、どれだけ多く売掛債権を保有していても、手元の現金は増えません。
売上も順調で売掛債権も多く保有していた場合でも、売掛先から支払われる期日まで手元のお金が不足する恐れはあります。
しかし、銀行の仲介による一括支払信託を利用すれば、入金までに1か月~2か月程度かかる売掛金も、支払期日よりも前に現金化できます。
ただし一括支払信託では、取引に関与する3者が一括支払信託契約に同意が必要です。
銀行の売掛先に対する信用情報照会や、印鑑証明の準備や書類に記載・押印が必要など、売掛先も負担が生じる手続となります。
同意・協力を得ることができなければ成立しません。
そのため、一括支払信託では、利用者と売掛先の間で信頼が構築されていることが必要です。
ファクタリングとは
「ファクタリング」とは、個人事業主や中小企業などが保有する売掛債権をファクタリング会社に売却し現金化するサービスです。
一括支払信託と似た仕組みであるものの、銀行を仲介する必要はなく、利用者の判断で売掛金を売却できます。
また、ファクタリングには次の2つの契約形態があります。
- 2社間ファクタリング
- 3社間ファクタリング
このうち、3社間ファクタリングでは、次の3者が契約に関与します。
- 利用者
- ファクタリング会社
- 売掛先
売掛金の支払いは、売掛先からファクタリング会社に直接行われるため、一括支払信託と同様に売掛先の同意・協力は不可欠です。
しかし2社間ファクタリングの場合、関与するのは次の2者となります。
- 利用者
- ファクタリング会社
売掛先を関与させず取引を完結できるため、利用者独自の判断で売掛債権を現金化するか決めることができ、売掛先に売掛金を譲渡したことを知られません。
一般的な事業者向けファクタリングと呼ばれる「買取ファクタリング」のうち、2社間ファクタリングのメリットは次の6つです。
- 最短即日で資金調達可能
- 審査のハードルが低い
- 赤字や税金滞納でも利用可能
- 信用情報に影響しない
- 担保・保証人は不要
- 未回収リスクを負わない
なお、次の2つのデメリットを留意した上での利用の検討が必要です。
- 売買手数料が割高
- 調達額が売掛債権額に留まる
一括支払信託とファクタリングの違い
一括支払信託とファクタリングは、どちらも保有する売掛債権を期日より前に現金化できることは共通しています。
その反面、次の5つが違いとして挙げられます。
- 売却する権利の違い
- 審査の難易度の違い
- 契約に関わる当事者数の違い
- 入金までのスピードの違い
- 弁済責任の違い
それぞれの違いを説明します。
①売却する権利の違い
一括支払信託とファクタリングの違いとして、売却する権利が異なることが挙げられます。
一括支払信託の場合、売掛債権を「信託財産」として扱うことにより得た「受益権」が売却対象です。
対するファクタリングは、売掛債権そのものを売却し、買取代金を受け取る仕組みという違いがあります。
②審査の難易度の違い
一括支払信託とファクタリングの違いとして、審査の難易度が挙げられます。
一括支払信託の場合、信用力の高い上場企業や大企業などでなければ、審査に通らない可能性があります。
しかしファクタリングは、中小企業などの売掛債権でも、信用力が認められれば買取対象です。
売掛先の信用力を重視した審査であるため、ハードルは低めといえます。
③契約に関わる当事者数の違い
一括支払信託とファクタリングの違いとして、契約に関わる当事者数が挙げられます。
一括支払信託契約は、銀行・利用者・売掛先の3者で契約を結ぶことが必要であり、売掛先の同意・協力が欠かせません。
しかしファクタリングの場合、2社間ファクタリングと3社間ファクタリングのいずれかを選べます。
2社間ファクタリングであれば利用者とファクタリング会社のみで契約を完結できるため、売掛先が関与しない分、手続を簡素化できます。
④入金までのスピードの違い
一括支払信託とファクタリングの違いとして、入金までのスピードが挙げられます。
一括支払信託の場合、銀行が仲介するため、即日入金は困難です。
対するファクタリング(2社間ファクタリング)は、売掛先を挟まないため最短即日で入金されます。
⑤弁済責任の違い
一括支払信託とファクタリングの違いとして、弁済責任が異なることが挙げられます。
一括支払信託の場合、債権譲渡後に売掛先が倒産し、債権を回収できなくなった場合、利用者が弁済責任を負います。
対するファクタリングは、債権が回収不能になっても利用者が責任を負う必要はありません。
一括支払信託のメリット
一括支払信託とファクタリングに違いはいろいろあります。
その上で一括支払信託を利用するメリットとして、債権者側と債務者側それぞれ次のことが挙げられます。
- 素早く資金調達できる(債権者側)
- コスト削減が可能(債務者側)
それぞれのメリットを説明します。
素早く資金調達できる(債権者側)
債権者である利用者が一括支払信託を利用するメリットは、素早く資金調達できることです。
一括支払信託を利用すれば、本来の期日までまたずに売掛債権を現金化できるため、手元の現金が不足しがちなときにも対応できます。
また、手形割引の場合、一部のみの現金化はできないものの、一括支払信託なら一部のみ現金化が可能です。
売掛先も取引に関与するため、売掛金の支払いも売掛先から銀行へ直接行われることになり、コストを低く抑えられます。
コスト削減が可能(債務者側)
債務者である売掛先が一括支払信託を利用するメリットは、コスト削減が可能であることです。
手形を利用した場合、手形用紙の交付のたびに、1冊11,000円の費用がかかります。
また、印紙を貼付しなければならず、発行するたびに費用がかさみます。
その一方、一括支払信託は電子決済であるため印紙は不要です。
手形取引が多い場合は、コスト削減効果を得られます。
一括支払信託のデメリット
一括支払信託を利用するメリットを理解した上で、次の4つのデメリットには注意が必要です。
- 資金調達まで時間がかかる
- 売掛先との関係や取引に影響が及ぶ
- 回収不能の際に弁済負担を負う
- 利用できるとは限らない
それぞれのデメリットを説明します。
資金調達まで時間がかかる
一括支払信託を利用するデメリットは、資金調達まで時間がかかることです。
一括支払い信託の場合、契約に関与するのは銀行・利用者・売掛先の3者で、売掛先に一括支払信託の利用に関する承諾を得ることが必須です。
承諾を得る説明が必要な以外にも、契約書類の準備や信託銀行に債務データを提出してもらうなどの手続も必要になります。
利用者のみが準備や手続をスピーディに進めたとしても、売掛先が準備や手続を怠った場合や、不備で時間がかかれば資金調達まで時間がかかってしまいます。
契約数が多いほど、手続も複雑になるため、資金調達まで時間もかかりがちと理解しておいてください。
売掛先との関係や取引に影響が及ぶ
一括支払信託を利用するデメリットは、売掛先との関係や取引に影響が及ぶ可能性があることです。
一括支払信託では、売掛先の同意や協力が不可欠となります。
承諾を得る説明している段階で、一般的といえない一括支払信託を利用しなければならないほど資金繰りが危うい会社と懸念される恐れも否定できません。
不安感を与えれば、その後の取引や契約に何らかの悪影響が及ばないとも限らず、取引の打ち切りや取引量の削減などを提案される恐れもあります。
承諾を得られた場合でも、信用を失えばやはり取引や関係性に影響が及ぶと考えらえるのは、デメリットといえます。
回収不能の際に弁済負担を負う
一括支払信託を利用するデメリットは、回収不能の際に弁済責任を負うことです。
一括支払信託では「償還請求権」の付いた契約を結びます。
償還請求権ありの契約は、万一売掛先が倒産して売掛金が回収不能になった場合、受託者である信託銀行が委託者へ買い戻し請求できます。
手形割引を利用した場合も、利用後に手形が不渡りになり決済されなかった場合、手形の買い戻しを請求されます。
一括支払信託も同様に、売掛金が回収できない責任は銀行ではなく利用者が負うことになるため、安心して利用できないことがデメリットです。
利用できるとは限らない
一括支払信託を利用するデメリットとして、利用できるとは限らないことが挙げられます。
実際、一括支払信託は必ず利用できるとは限らず、特に売掛先が承諾しなければ契約は成立しません。
下請などの立場で取引している場合には、売掛先よりも立場が劣ることも少なくないため、一括支払信託に同意してもらえない恐れもあります。
売掛先も信託銀行から調査・審査されるため、余計な審査でマイナス評価を受け、その後の融資に影響を及ぼすことを負担に感じる可能性もあるといえます。
同意を得た場合でも、売掛先の信用力が低く契約できない場合もあります。
一括支払信託では、信託銀行が債権の管理や取り立てを受託することになるため、売掛先の信用力や経営状態などの審査を行います。
もしも売掛先の信用力に問題があると判断された場合、債権の管理や取り立てに支障をきたすリスクから、一括支払信託を拒否されることになるでしょう。
一括支払信託の流れ
一括支払信託には、次の2つの方式があり、それぞれ流れが異なります。
- 包括申し込み方式
- 随時申し込み方式
包括申し込み方式は、支払可能な債権が生じた場合に、自動的にお金が支払われるため申し込みの手間を省くことができます。
随時申し込み方式は、資金を調達したいときに銀行に申し込みを行い、支払ってもらう方式です。
そのため申し込みしなかったときや一部の債権のみ受け取ったときには、通常どおり支払期日に支払いを受けます。
一般的に一括支払信託は、次の流れで現金の支払いが行われます。
- 銀行・利用者・売掛先で一括支払信託基本契約を締結
- 銀行に売掛債権の信託を行う
- 利用者が信託受益権を得る
- 売掛先から銀行に債務データを引き渡す
- 銀行から利用者に支払金額の通知が届く
- 利用者から銀行に信託受益権が譲渡される
- 譲渡した信託受益権の対価として利用者が譲渡代金を得る
- 売掛先から銀行に売掛金が支払われる
売掛金の支払い相手が利用者から銀行に代わっただけに感じるかもしれません。
しかし売掛先には、契約手続や債務データの引き渡し、支払い先変更などで、様々な負担を負わせることになります。
一括支払信託とファクタリングの使い分け方
一括支払信託とファクタリングは、どちらも売掛債権を前倒しで現金化できるサービスです。
売掛先の協力なしでは成立せず、仮に同意を得たとしても利用を知られることで、その後の取引や契約に影響が及ばない保証はありません。
ファクタリングであれば、2社間ファクタリングと3社間ファクタリングを選ぶことができ、2社間ファクタリングなら売掛先に知られず資金調達できます。
ただし2社間ファクタリングは売買手数料が割高に設定されるため、コストを抑えて資金を調達したいなら一括支払信託のほうが安心です。
売掛債権の管理を銀行に委託できるため、業務効率化にもつながり、契約相手が銀行であることにより安心して契約を結べます。
注意したいのは、一括支払信託は手形取引と類似したサービスであり、万一債権回収不能となった場合の弁済責任は利用者が負うことです。
ファクタリングはあくまでも売掛債権の売買による契約を結ぶため、売掛金がファクタリング会社に譲渡された時点で、未回収リスクも移転されます。
債権を回収できなくなるリスクは、いつ、どのように発生するかわからない状態です。
未回収になったときのリスクも踏まえた上で、一括支払信託とファクタリングを使い分けましょう。
まとめ
一括支払信託とファクタリングは、どちらも売掛債権を現金化することで資金を調達できるサービスです。
また、一括支払信託の場合には売掛先を関与させることが必須となるため、快く協力に応じてもらえなければ利用できません。
一括支払信託は契約相手が銀行である安心感はあるものの、償還請求権ありに結ぶため、債権が回収不能状態になったときには利用者が責任を負います。
ファクタリングを利用する場合でも、信頼できるファクタリング会社と契約すれば、安心して契約を結び資金調達できます。
それぞれのメリットやデメリットを含めた違いを理解した上で、どちらで資金調達するか選ぶとよいでしょう。