手形決算とは、手形を利用して代金の支払いや受取りを行うことです。
手元に現金がなくても代金の支払いを先送りでき、支払期日を3か月や6か月先まで延ばすことができます。
資金繰りで便利な決済方法といえるものの、活用においては注意しなければ倒産リスクを高めます。
そこで、手形決済のメリット・デメリットや、手形で決済するときの注意点を解説します。
手形決済とは
「手形決算」とは、将来の特定日に特定額を支払う約束をした有価証券(手形)を利用した代金の支払いや受取りです。
近年、手形決済による代金の支払いは少なくなってはいるものの、業界の慣習で根強く残っているケースも見られます。
実際に手形を受け取っ側は、手形記載の期日まで現金化できません。
会計処理においては、以下の勘定科目を使用します。
支払手形 | 商品・製品の販売やサービス購入の対価として手形を振り出したとき |
受取手形 | 商品・製品の販売やサービス販売の対価として手形を受け取ったとき |
手形の種類
代金の支払いを現金で行わず、記載された期日に支払うことを約束するために手形を振り出します。
手形には次の2つの種類があります。
- 約束手形
- 為替手形
それぞれの手形を説明します。
約束手形
手形専用用紙に、自身の名前と金額などを記載し、取引相手に渡すことを手形の「振出し」と言います。
手形を作成した振出人は、手形を受け取った受取人に対し、一定の期日に代金を支払うことを約束する手形が「約束手形」です。
商品を購入した側と売った側の2者で資金をやり取りするための手形であり、振出人は受取人に対し記載されている期日に金額を支払うことを約束します。
約束手形を振り出す場合、手形代金を支払う義務が発生するため、会計処理においては「支払手形」の勘定科目を使います。
反対に約束手形を受け取った場合、後日手形代金を受け取る権利を獲得するため、会計処理においては「受取手形」の勘定科目で処理をします。
手形期日に受取人が銀行に約束手形を持ち込むと、振出人の口座から手形記載金額が引き落とされ、受取人は代金を受け取ることができます。
為替手形
「為替手形」とは、振出人が第三者の支払人に対し、手形の受取人に一定金額を支払うことを依頼するための手形です。
商品の購入側が振出人、販売側が受取人、そして代金を支払う名宛人の3者で資金をやり取りします。
振出人に代わり、第三者が代金を支払うことが特徴といえます。
売掛金のある取引先(名宛人)に、仕入先(受取人)に対する代金を支払うように依頼するときなどに使用される手形です。
そのため実務で利用されることは少ないものの、たとえば外国貿易の決済などで利用されることはあります。
手形決済と掛け取引の違い
後日代金を支払うことを約束する取引では、手形を使った決済に限りません。
たとえば「掛け取引」も、後払いによる信用取引です。
手形決済と掛け取引の主な違いは、次の2つといえます。
- 代金の支払方法
- 代金の支払い期日
それぞれの違いを説明します。
代金の支払方法
手形を受け取った受取人が銀行に持ち込むことにより、振出人の口座から代金が引き落とされます。
しかし掛け取引においては、買い手側が売り手側の口座に現金を振り込んだり集金の際に支払ったりといった方法が取られます。
代金の支払い期日
手形には期日が記載されますが、掛け取引でも請求書に期日が記載されます。
ただし支払いまでの期日は、手形のほうが長めです。
手形決済の流れ
手形を使って決済する場合、取引の流れは次のとおりです。
- 振出人が商品代金に対する支払手形を振り出す
- 手形に記載された期日に受取人が取引銀行に手形を持ち込む
- 振出人の口座から手形記載の金額が引き落としされる
- 受取人の口座に代金が入金される
そのため振出人は、手形に記載された期日に口座預金残高が不足しないように注意が必要です。
手形決済の会計処理方法
手形を使った決済が行われた場合、手形の振出人と受取人はそれぞれ適切に会計処理することが必要です。
主な会計処理方法は以下の通りとなります。
振出人が手形を振り出したときの会計処理 | |
A社から仕入れた商品代金5万円の決済に手形を振り出した | |
借方:仕入 10万円 | 貸方:支払手形 10万円 |
受取人が手形を受け取ったときの会計処理 | |
B社に納品した商品10万円分の代金を手形で受け取った | |
借方:受取手形 10万円 |
貸方:売上 10万円 |
振出人の口座から手形決済代金を支払ったときの会計処理方法 | |
A社に振り出した手形期日到来により、銀行から支払済通知を受け取った | |
借方:支払手形 10万円 | 貸方:当座預金 10万円 |
受取人が手形代金を受取ったときの会計処理方法 | |
B社から受け取った手形の期日到来により、銀行から入金済通知を受け取った | |
借方:当座預金 10万円 | 貸方:受取手形 10万円 |
手形で決済するメリット
手形決済は、現金決済とは違ったいろいろなメリットがあるからこそ利用されています。
手形で決済するメリットは、主に次の4つです。
- 資金繰りを調整できる
- 支払いを延長できる
- 受取手形による決済・現金化ができる
- 信用力の高さをアピールできる
それぞれのメリットを説明します。
資金繰りを調整できる
手形を振り出すことで、支払期日を延ばせるため、資金繰りを調整できるのはメリットです。
支払いを延長できる
手形なら、利息を発生させずに支払いを先延ばしできます。
受取人の同意は必要であるものの、支払期日までに現金を準備すればよいため、支払いに猶予が与えられます。
受取手形による決済・現金化ができる
手形を受け取った場合、「裏書き」することで第三者に譲渡し、債務の支払いに使えます。
また、「手形割引」を活用することで、期日よりも前倒しで現金化も可能です。
信用力の高さをアピールできる
手形を使った取引は、当座預金口座の開設が必要です。
当座預金の開設は、銀行の審査で信用力を認められることが必要であり、厳しい審査に通らなければなりません。
そのため手形決済が可能であることは、現金以外の信用決済取引ができることの証明といえます。
銀行から一定水準の信用が与えられている信用力の高さのアピールにつながります。
手形で決済するデメリット
手形による決済は、便利である反面リスクも抱える取引ともいえます。
主に手形で決済するデメリットとして、次の5つが挙げられます。
- 不渡りによる倒産リスクを抱える
- 連鎖倒産のリスクを抱える
- 未回収となるリスクを抱える
- 印紙税が課税される
- 業界によっては利用できない
それぞれのデメリットを説明します。
不渡りによる倒産リスクを抱える
特に注意したいのは、当座預金残高が不足して支払期日に手形の額面金額通りの支払いができなければ、不渡りという扱いになります。
この不渡りは一度発生すると不渡り処分を受け、すべての金融機関にその通知が行われます。
もし6か月以内に2度不渡りが発生した場合、銀行取引は停止となるため、当座預金での取引や融資は2年間利用できません。
銀行取引停止は、事実上、倒産したとみなされ、社会的信用を失うことになります。
当日に当座預金残高が不足している場合などは、銀行から連絡が入り不足しているためすぐに入金するように伝えられます。
それでも手元に資金がなく、当座預金に入金できなければ手形の支払いができる不渡りとなってしまいます。
連鎖倒産のリスクを抱える
受け取った手形を裏書譲渡すると、支払いに充てることが可能です。
振出人が期日に支払いを履行できなければ、裏書人に支払義務が発生してします。
手形の所持人は、振出人、裏書人全員、振出人と裏書人全員の3通りから回収可能です。
しかし不渡りの場合は振出人から回収することは難しいため、一般的には裏書人が請求されます。
支払いができなければ、振出人の倒産に連鎖する形で、連鎖倒産してしまうリスクを高めます。
未回収となるリスクを抱える
決済代金として手形を受け取った場合、振出人が期日に支払履行できなければ、代金を回収できなくなる恐れが高くなります。
業績不振や資金繰り悪化などを理由に、支払ってもらえない可能性もあることは留意しておくべきといえます。
印紙税が課税される
手形の振り出しには、額面金額によって印紙税が課税されます。
手形の枚数が多いときや額面金額が高いときは、支払う印紙税も増えると理解しておいてください。
業界によっては利用できない
手形による取引は、一部の業界で行われていることが多いものの、対象とする業界以外では受け付けていないことがほとんどです。
優良企業でも当座口座を開設していないケースもあるため、業界によって手形決済は不可であると理解しておきましょう。
ただし手形決済の慣習が残っている業界では、当座口座を開設していない会社とは新規取引をしないこともあるため注意してください。
まとめ
手形決済は、現金ではなく手形を使った決済方法であり、支払いを先送りできることがメリットです。
手元に現金がなくても、手形を振り出すことで決済代金として使うことができます。
しかし手形に記載された期日にその代金を支払いできなければ、不渡りとなり倒産リスクを高めます。
決済代金として手形を受け取った場合も、期日に確実に回収できるとは限りません。
手形は便利な反面、リスクもある決済方法のため、適切に管理を行い利用することをおすすめします。
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